09. スパイがいる
――第二王子殿下が実行した婚約と婚約破棄の繰り返しに、なんの意味があるのか?
これは僕が団長たちに投げかけた疑問だけど、第二王子殿下に関わりたくない団長は、うへーって顔して答える気はなさそう。アーネストさんの方を見ると、しょうがないですねって感じで教えてくれた。
「グーフィー、あなたが第一王子殿下の行動原理を理解しているのなら、第二王子殿下の婚約関連の動きも分かると思いますよ。基本、あの二人は同じ行動原理で動いていますから」
「アーネストの言う通りだな。難しく考える必要はないと思う」
ロボスト副団長もアーネストさんと同じ考えみたいだ。
「――第一王子と第二王子の行動原理が同じ……っていうことは、《王様になりたい!》ってこと?」
「そうですね。別の言葉でいうと《王位継承権争い》に勝ちたいと思ってるわけです」
アーネストさんの話に出てきた《王位継承権争い》に、団長がピクリと反応する。
「ふん!王位なんてロクでもない。気がついたら毒ごくり、首スパーっで、あの世行きだからな?」
はい、団長からお気持ち表明いただきました。さすが現役の王子。言うことに実感こもってるよね。そして言ってる内容が怖い。アーネストさんとロボスト副団長も苦笑気味だよ。
「まあまあ、フォーキャス第三王子殿下。あなた様はここまで生き残ってきたのですから十分凄いですよ。さすがです」
「その名で呼ぶなよ!団長って呼べ!あー、鳥肌立ったわ」
自分の体を手で抱きしめながら、大げさに震える団長を置いてアーネストさんは話をすすめる。
「第二王子殿下の最初の婚約破棄は、より良い婚約者を求めた結果ではないでしょうか?スピナー侯爵家は大変有力な大貴族ですが、先ほど、ロボストが言っていたように長女のアマンダ様は冷遇されています」
「第二王子殿下の婚約者であり、大貴族の御令嬢なのに毎回同じ型の古いドレス、俺にですら安物にしかみえないアクセサリー。髪もつやがなく、顔色も悪い。冷遇というより虐められているといったほうが近い気がする」
ロボスト副団長の話に、団長は皮肉っぽく肩をすくめてみせる。
「冷遇されている令嬢より、現当主に可愛がられている令嬢を妻に迎えたほうが、王位継承争いで必要な資金も手に入りやすいからな。アマンダ嬢には気の毒だが、まあ仕方ない」
第二王子殿下の一度目の婚約破棄。そしてプリシラ様との新たに婚約は理解できるよ?でもさ、婚約したばかりのプリシラ様との婚約破棄はどういうことなのさ。
まだ噂の段階だけど、アーネストさんが仕入れてきた情報によると、パーティー後の深夜にプリシラ様との婚約破棄は行われたって話だよね?
この僕の疑問に答えてくれたのはアーネストさんだった。
「グーフィー、二度目の婚約破棄はなぜ起きたのだろうと、疑問に思っているんでしょう?」
「そりゃアレだろ。間者だよ。スパイのことな!」
団長はスパイが絡んでいると、きっぱり言い切る。
「第一王子のところに入り込んでいる第二王子側のスパイが、聖女のことを報告したんだよ、間違いない」
「そうですね。第一王子殿下と第二王子殿下は、確実に互いにスパイを送りあっていますよ。この第八騎士団にもスパイがいるんじゃないですか?ハハハ」
ロボスト副団長が怖いことを笑いながら言い始めた。第八騎士団にスパイがいる!?ちょっと背中に汗かいちゃうよ。
「まあ、ウチにもスパイはいるでしょうが大丈夫ですよ。なんといってもトップの団長は未来が視えますからね。スパイがいても、すぐにバレます。誰かに報告している未来や、密かに情報を集めている未来を団長に視られて終わりです」
アーネストさんが「終わりです」のところで、立てた親指で首を切る仕草をした。怖い……。
「むふふ、まあな。任せておけ」
ちょっと得意そうな団長がいた。確かに第八騎士団は、色々と普通じゃない守られ方してるから安全かもね。団長は得意げなまま、自らの考えを披露してくれる。
「これは俺の推測だが……スピナー侯爵に可愛がられているプリシラ嬢と婚約したほうが、利益が大きいと第二王子は判断したんだろう。もちろんスピナー侯爵から了解を得た上での行動だな」
アマンダ様には申し訳ないけど、力の強いほうに流れるのは世の常だからね。この点で第二王子殿下は間違っちゃいない。むしろ王子として正しい行動だ。伊達に厳しい王位継承争いを勝ち残ってないよ。
「その後、第一王子サイドに忍び込ませておいたスパイから、聖女誕生の知らせを受けた。聖女を妻にできれば王位は自分のものになる――そう判断した第二王子は、プリシラ嬢との婚約をすぐさま破棄した――まあ、こんなところだろうさ」
第一王子殿下にも婚約者がいる。でもまだ、その婚約者との婚約を破棄したという話は聞こえてきていない。
ということは、第一王子殿下も今後、聖女となったアマンダ様と婚約するために、現在婚約中の令嬢との婚約を破棄する可能性が高いよね?
その第一王子殿下の動きを予測して、第二王子殿下は婚約したばかりだというのにプリシラ様との婚約を破棄したんだろう。第二王子殿下、思い切りだけはいいな。
どちらにしても現状でアマンダ様により近いのは、彼女を実際に保護した第一王子殿下だろう。アマンダ様も困った時に助けてもらったから、第一王子殿下のことを頼りにしているかもしれないよね。
一方の第二王子殿下のほうは、現状ではアマンダ様との関係は最悪だ。だってパーティーで婚約破棄をしたんだよ?みんなが見ている前で、まるでお芝居のワンシーンのように破棄を宣言したらしいし。
それだけならまだしも隣にプリシラ様を置いて、二人してアマンダ様を責め立てて、パーティー会場から追放するなんてことまでやらかしてるからね。もう婚約破棄の名を借りたイジメだよね。
自分のとこのスパイからアマンダ様が聖女になったって聞いたとき、第二王子殿下はどんな心持ちだったんだろう。きっと、ショックで血の気が引いたんじゃないかな。
イジメてた令嬢が聖女になって、自分の将来を揺るがす重要人物になったなんて、ウケる。笑えるよね。
だからこそ、第二王子殿下は兄王子より素早く婚約破棄をしたんだと思う。これは一種の贖罪なんだよ。
そんなことをしたら当然スピナー侯爵との関係に亀裂が入るだろうに、まったく気にしていないかのようなスピード感だ。よっぽど不味いと思ったんだろうね。
でもやっぱり第一王子殿下より、考えが浅いと思うんだよ。だって団長が言ってたけど、アマンダ様の帰属は婚約破棄のあと王家からスピナー侯爵家に戻ってるんでしょ?侯爵を怒らせないほうがいいと思うんだけどな。
どっちにしろ、これは王宮が荒れる予感……。




