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06. 聖女を継ぐ者

 僕が報告した教会所属の騎士たちの動き――王宮の庭園に立っている小さな礼拝堂の周囲を警備しているという話に団長は反応した。

 


 「たぶん王宮側から教会に連絡して来てもらったんだろう――ん?これってもしかして、ロボストが言ってた聖女誕生の話と、なにか関係があるのか?」



 普通はマナー違反だとされている午前中の訪問。そこを押して王宮に来て、なぜか小さな礼拝堂を警備している教会所属の騎士たち。


 そして、ロボスト副団長が王宮騎士団の全体会議で聞いてきた、聖女が昨夜誕生したという話。しかも教会関係者が既に王宮に来て調査して、聖女は本物だと認定してるっていうじゃない。


 このふたつの情報から、団長は教会所属の騎士たちが聖女のことで王宮に来ているのではないかと考えたみたいだね。


 ロボスト副団長は疑問があるのか首を傾げている。



 「団長の言うように、聖女様のことで教会の騎士たちは招集されたんだろう。でもなぜ、あんな古くて小さな礼拝堂を警備する必要があるんだろう?私も存在は知っていましたが、礼拝堂だとは知りませんでしたよ」



 そうなんだよね。僕も見に行ったんだけど普通に古い石造りの建物で、庭師の休憩場かなって思ったくらい。


 王宮内にはいくつか礼拝堂があるんだけど、今、話題になっている礼拝堂は庭園の中にある小さな建物だ。石造りなんだけど、大きさは掘っ立て小屋程度なんだよね。


 たぶん王宮で働いている人でも、この礼拝堂の存在を知らない人は多いんじゃないかな。


 さて、ここで僕はさらに新情報を投入してみるよ?これはけっこうインパクトある。

 


 「その礼拝堂についてなんだけど、僕の知り合いに噂好きな女官がいてさ、宿舎が礼拝堂から近いんだ。だから、もしかしたら何か知ってるかもと思って話を聞きに行ってみたんだ。そしたらさ、深夜に礼拝堂で騒ぎが起こってたって言うんだよ」


 「礼拝堂で騒ぎ?」

 「夜中に王宮で騒ぎとは、警備担当の騎士たちはなにをしていたんだ」

 「警備担当騎士は、後でお説教ですね」



 ロボスト副団長とアーネストさんは真面目だから、警備担当の騎士に怒ってるみたいだけど、今は僕の話を続けさせてもらおう。まだまだこの話には続きがあるんだから。

 


 「昨夜、その女官は遅番の上にパーティがあったもんだから、いつもより仕事が終わるのが遅くなっちゃったんだって。それでね、いつもより遅い時間に部屋に帰ろうと王宮内を歩いていたら、複数の人が走る足音が聞こえたんだ。不思議に思った女官は足音が去って行った方角、つまり礼拝堂の方へとわざわざ確認に行ったらしいんだよ」


 「さすが、グーフィーに噂好きと言われるだけのことはありますね」

 「なかなか根性のある女官だな」



 団長たちはちょっと笑ってるけど、さすが噂好きで名を轟かせている女官だけのことはあるよね。まさか深夜で真っ暗なのに自分の目で確認しようとするとは勇気あるよね。でも今回はグッジョブだ。



 「その女官が言うには、礼拝堂から少し離れた低木の茂みから様子を伺っていたら、礼拝堂の中から、なにかに興奮したように話す男の声が聞こえて来たんだって。その後、ひとりの令嬢らしき女性が、数人の男に護衛されるように礼拝堂から出てきたらしいです」


 「礼拝堂から令嬢が出てきたのか?」


 「うん。礼拝堂にいた男たちが持つ灯りしかなかったので、暗くてはっきりとは見えなかったので断言はできないけど、シルエットがドレスを着た令嬢に見えたって言ってたよ」

 

 「それってもしかして……」


 「それでね、男の内のひとりは第一王子殿下みたいだったって女官が言ってた。王宮内の仕事で第一王子殿下の姿は近くで見ることが多いんだって。だから、こっちは間違いないと思うって言ってたよ」


 「第一王子!?兄上が礼拝堂にいたというのか?」

 「ここで第一王子殿下が登場ですか……」

 


 僕の報告を受けて、団長にはなにか思い当たることがあったようだ。少しためらいながら話し始めた。

 


 「――これは、あまり知られていない話なんだが、あの古い礼拝堂は聖女に関係がある場所だと言われているんだ」


 「「「聖女!?」」」


 「ああ。俺はお前たちも知っての通り、末席の王子だった。だから冷遇されて、王子教育も帝王学もろくに学んでいない。だが乳母だった伯爵夫人が大変博識で優秀な人だったんだよ。その乳母から聞いたことがあるんだ」


 「あんな小さな礼拝堂が聖女に関係しているんですか?聖女を称えるために、王宮内に建立したとか?」


 「いや、そうじゃない。むしろその逆だ。この国を建国した時に聖女ゆかりの場所に王宮を建て、国の中心としたと乳母は言っていたな……」



 アーネストさんがひどく驚いている。彼は歴史好きっていうか、歴史オタクだからね。僕に早口で色々と歴史について話してくるほどなんだ。僕には全然分からないけどね。

 


 「――私も色々と歴史書は読み漁りましたが、それは初耳ですね。そんな歴史的事実があったとは……」


 「事実かどうかは分からんが、あの礼拝堂がこの王都で最も古い建造物のひとつであることは間違いない」



 確かにあの礼拝堂は古いもんね。趣きがあって僕は好きだけれども。



 「それにあの建物は、元々は礼拝堂ではなかったそうだ。あれは聖女が生まれた家だと聞いた。しかも聖女に聖なる力が発現した場所でもあったらしい……」


 「それはもはや伝説の場所なのでは……」

 「こんな身近に伝説的な建物があったとは感激だ……」



 アーネストさんもロボスト副団長も、それぞれ伝説の片鱗を感じて感動しているね。確かに自分が普通に生活している場所が実はスゴイ場所だったって分かるとグッとくるよね。

 

 皆と一緒に、感動を味わっていた僕は注意がちょっと散漫になっちゃって、ずっと頭の中にあった問題の核心だと思われるソレを口にしてしまう。



 「女官が見た礼拝堂から出てきた令嬢って、アマンダ様なのかもね?パーティー会場から放り出されたアマンダ様は、従者も連れずに一人で王宮を彷徨っていたわけで……。礼拝堂にたどり着いても不思議じゃないよね?」



 僕が独り言のように口にした言葉に、皆が動きを止める。最初に反応したのはアーネストさんだった。



 「あり得ますね……そして聖女ゆかりの場所で、アマンダ様自身が聖女の力を発現なさった。第一王子殿下はそれを何らかの方法で知った……」



 団長はアーネストさんの予測を聞いた後、僕に書類用の紙を一枚、持ってくるように言う。


 そして、その紙にペンでサラサラと配置図のような絵を描いた。



 「ちょっとこれを見てくれ。ここが礼拝堂。王宮の表玄関がここ。昨夜のパーティー会場はここだ」



 ロボスト副団長が配置図を指でなぞる。

 


 「なるほど、王宮内を避け、庭園を通って表門に行こうとすれば、途中で礼拝堂に突き当たりますよ」



 ロボスト副団長の説明で、僕にも団長が何を言いたいのか理解できた。昨夜のアマンダ様の足取りを推測してるんだね。


 アーネストさんも団長の話を受けて、頭の中で考えをまとめながら、さらに推測を付け加えていく。

 


 「きっとアマンダ様は、邸に帰ろうとして表門に向かったのでしょう。表玄関はパーティー参加者が馬車の乗り降りに使う場所ですからね」



 話を聞いていた僕は、ここでちょっとした謎にぶち当たった。



 「アマンダ様の昨夜の動きは分かったけどさ、第一王子殿下はどうして礼拝堂にいたんだろうね?真夜中だよ?礼拝堂のあたりは照明の光も届かないから真っ暗で、アマンダ様が歩いていたとしても見えないはずなのに……」



 第一王子殿下、あなたは夜中になにやってたのよ?

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