05. 王宮の夜はおかしな事ばかり
これまでの調査で、パーティで第二王子殿下に婚約破棄をされたアマンダ・スピナー侯爵令嬢はパーティ会場から追放されたことが分かった。
会場から叩き出された後、アマンダ様がどこへ行ったのか分かっていない。侯爵家から冷遇されているアマンダ様には、付き人も護衛もいなかったことが分かっているので、たった一人で王宮を彷徨ったんだと思う。
争い事の多い王宮内で働く奴らは目ざとい。流行遅れの古いドレスを着て、ちゃんとした宝飾品もつけていない令嬢に、親切に接したとは思えない。なにか訳アリの令嬢だと踏んで、関わり合いを避けたはずなんだ。
なのでアマンダ様はひとりで王宮内を彷徨ったんだと思う。馬車の乗り降りに使われる玄関口まで、王宮を知らない令嬢が一人でたどり着けたとは思えないからね。
そして今朝、第一王子殿下から緊急依頼で、アマンダ様を自邸までお送りするようにとの連絡が来た。アマンダ様は今、この王宮にきっといるんだ。
ということは――昨夜、アマンダ様はこの王宮のどこかで過ごしたはずだ。
公衆の面前で大っぴらに婚約破棄され、その上、パーティー会場からも追い出されて、その後、彼女はどこで何をしていたんだろう?
――彼女はどこにいたんだろう?
――彼女は何をしていたんだろう?
僕の頭の中でアマンダ様の謎と、色々な情報が重なりあう。色々な情報の中には、僕が自分で調べてきた情報も入ってる。
始まりは、僕が見知らぬ令嬢に刺されて死ぬっていう未来を団長が視たことだった。団長が視た未来で、僕は護衛依頼を受けた時に着る防御力の高い専用の騎士服を着ていた。
だから、僕が未来で刺されたとき、護衛の仕事をしていた可能性が高い。
それで僕の今日のスケジュールを確認してみると、第一王子殿下からの護衛依頼を僕が担当することになってた。日常的な仕事の割り振りは、補佐官である僕が担当している。だから僕は自分で自分を、死地へ送り込んだってわけ。……泣ける。
これはスピナー侯爵令嬢を護衛していった先で、僕が刺されるんで決まりだな!とか言ってたら、ロボスト副団長が新しい情報をもたらしてくれた。
昨夜、ロボスト副団長が警備を担当していた王宮内のパーティで、第二王子殿下がスピナー侯爵令嬢との婚約を破棄して、パーティ会場からも追放したんだそうだ。
しかも第二王子殿下は、婚約破棄したその場で新しい婚約者を発表。それはアマンダ様の妹のプリシラ・スピナー侯爵令嬢だったってわけ。婚約者を姉から妹に乗り換えたことになるね。
酷いことするね、なんてアマンダ様に同情してたけど、もしかしてアマンダ様が僕を刺し殺す令嬢かもしれないよね。これは、もっと情報が必要だなって皆で更に情報を集めた結果――昨夜から今朝にかけて、王宮ではおかしな事ばかり起こってることが分かったんだ。
まずひとつ、聖女誕生。
伝説上の存在とされてきた聖女様が昨夜、生まれたらしい。誕生と言っても聖女様は赤ちゃんじゃないらしい。だから聖女誕生というより聖女覚醒ってことなんだと思う。
深夜にも関わらず教会関係者が王宮に来て、その存在が確かに聖女であると認めたというから本物なんだろう。
ふたつ、第二王子殿下の婚約破棄と新しい婚約。
第二王子殿下はパーティでアマンダ様に婚約破棄を宣言して、すぐに妹のプリシラ様を次の婚約者とした。まあ、あの第二王子殿下ならやりかねない暴挙だね。
みっつ、彷徨える侯爵令嬢。
アマンダ様のことだね。パーティ会場を追放されてからの行方が分かっていない。でも今朝、第八騎士団へ第一王子殿下から緊急護衛依頼が来てるから、今は王宮内、それも第一王子殿下のところにいるはず。
僕の頭の中で情報が溶け合っていく。
聖女、教会……。
婚約破棄、婚約、第二王子……。
スピナー侯爵家、姉と妹……。
第一王子、護衛依頼……。
団長の未来を視る力、今日死ぬ運命の僕……。
そして僕の中で、それぞれの情報が落ち着ける居場所をみつけて、上手く納まり合う。最後のピースが空いた場所へ溶け込んだ時、僕の頭の中で小さな音がした気がした。
――カチッ!
「ああ……もしかしてそういうこと?」
昨夜、王宮でなにがあったのか、僕の中でひとつの絵が浮かんできた。僕が手に入れた情報を報告がてら、そのへん団長たちに話してみようかな。
※ ※ ※
ロボスト副団長、事務官のアーネストさんの報告は終わってるから、残るは僕のみ。結構、興味持ってもらえる内容だと思う。
「じゃあ最後は、僕からの報告ですね。えっとまず、これは僕が直接この目で確認した事なんですけど、第一王子殿下の周辺警備が半端なく強化されてました」
僕のこの報告に、団長は不思議そうな顔をする。
「兄上が厳重に護衛されるのは、第一王子として当たり前のことじゃないのか?俺みたいに下手に生き残ってる、なんちゃって王子じゃあるまいし」
あー。この人、自分でなんちゃって王子とか言ってるよ。
確かに団長に王子としての警備なんてついてないしね。まぁ、騎士団長だし?必要ないかな。
団長と違って第一王子殿下には、ちゃんとした警備が必要だけど、さっき僕が実際に見てきた警備体制は凄いもんだったよ。
「いやそれが、いつも以上に警備が厳しかったんです。なにごと?って感じで第一王子殿下の周辺は、ガッチガチに警備されてました」
たぶん、いつも以上に警備が必要な状態だったんだろうね。王宮にとって、昨夜は特別な夜だったってことだよね。他にも警備が厳しかった場所が実はあって……。
「後は――王宮の庭園にある小さな礼拝堂に、なぜか教会所属の騎士たちが大勢来てて、警備してましたね」
僕のもたらした新たな情報に、団長たちは顔を見合わせる。
「――聖堂ってあれか。小さな小屋くらいの古びたやつ」
「そう、それです」
「教会の騎士?なぜ奴らが王宮に?管轄違いだろ」
「教会の偉い人でも来ていたのですかね?でも午前中に訪問とは、おかしいですね」
さっきも言ったけど、貴族は午前中は動かない。
夜遅くまで社交に勤しんで、昼間まで寝るのが貴族だ。活動は昼からなのだ。なので午前中の訪問は、無作法とされている。
もちろん教会みたいな所は早朝から活動してるけど、無作法になるから貴族の邸、特に王宮には朝っぱらから訪問したりはしない。ということは――。
「たぶん王宮側から教会に連絡して来てもらったんだろう――ん?これってもしかして、ロボストが言ってた聖女誕生の話と、なにか関係があるのか?」
ふっふーん。さすが団長だ。話の核心に近づいてきたじゃない。




