34. 僕の秘密
王宮で僕に情報をくれていた顔見知りの女官が、第一王子派の実働部隊の取りまとめ役だったとか団長が言い始めた!
まさかだよねぇ……。だって、女官っていっても家の爵位も低かったはずだし、働いている内容も掃除や衣類の管理なんかの下働きみたいなものだったよ。
そんな低位の仕事をしている、女官の中でも位の低い人が、第一王子派の実働部隊の取りまとめ役なんて重要な役を任されるはずがないじゃないの!
「グーフィー、お前がいい奴なのは知っているが、そのせいか世の中が見えてない。あの女は低位貴族出身を装っているが、本当のところは第一王子派に属する某侯爵家の庶子だ。某侯爵家に務めていた伯爵家の令嬢と某侯爵との間に出来た子供だ」
第一王子派の某侯爵家の娘!?仕草も礼儀もとても高位貴族の令嬢には見えなかったよ?単なる噂好きの元気なお姉さんにしか見えなかったけど……。
「お前は本当にお人好しだな。当然、高位貴族の令嬢としての教育を受けているが、そういった教育を受けていないふりをしてるんだよ。雑用をこなす下っ端の女官の立場を使って、情報を探ったり連絡を取り合ったりしていたわけだ」
まさか、あの人懐っこいお姉さんが?そんな役目を負ってたなんて思いもよらなかったな。僕はずっと騙されてたの?
「お前に第一王子の情報を漏らしたのは、聖女は既に第一王子の手の内にあると俺に伝えたかったからだろ。聖女に手を出すなってことさ」
僕はいい情報が手に入ったと思ってたけど、単なる連絡役に使われてたってことか……。やられたー。
「まあそれはいい。終わった話だ。問題はだ、そんな危ない女官が、なぜお前の周りをうろちょろしているのか。お前に気が付かれないように見張っていたとしか思えん。――心当たり、あるだろ?」
もう僕の目に青空は写っていない。息を詰めて自分の靴先を見るばかりだ。
団長にバレてる。僕が思った以上に団長は知ってるぞ。でもまさか、全部を知ってはいないはずだ。
「お前がだんまりとは珍しいな」
「――心当たりなんて、ないよ。なんのことさ?」
団長が何をどこまで知っているのか分からない。僕は団長の視る未来に僕のやっていることが変に映らないように気をつけて行動してきた。だから全部は知られていないはず。
僕だけの問題じゃない。ここは慎重にいかないと。
「ふーん、白を切るなんてグーフィーも成長したもんだな。いいだろう、俺が何を訝しく思っていたのか教えてやろう。始まりはそうだな……お前が第三騎士団に入ったことだ」
第三騎士団!そんな始めから、僕の事をおかしいと思っていたってこと?僕は奥歯をギュッと噛みしめる。予想に反して最初っから全部バレてるかもしれない!
「お前も知っての通り、第三騎士団は特殊な部隊だ。貴族連中が自分の出来の悪い子供を箔付けのために入れる場所だからな。所属しているのは貴族の中でも高位の奴らがほとんどで、選り抜きのろくでなし共だ」
そう、第三騎士団は不良の集まりみたいな所だった。大した仕事は割り振られない。ちょっとした見栄えのする仕事をたまにするだけだったよ。
それでも実務をする人が必要だからね。成績の良い下級貴族の子息が、裏方仕事をして騎士団を回してたんだ。
「通常は下級貴族で学校の成績のよい奴が実務担当として配属される。バカばっかりじゃ簡単な仕事もこなせないからな。だが、お前の騎士爵家という家格は、第三騎士団には低すぎるんだよ。つまり……お前には強力なコネがあるってことだ」
そこかー。そこでおかしいと思われたのか。
確かにそうなんだよ。第三騎士団の事務方は、僕以外は全員、伯爵家以上の爵位の人間だったからね。男爵ですらいなかった。それもあって僕が目をつけられて、裏でいじめられていたっていうのはあるよ。
「他の部隊なら全然あり得るんだ。騎士爵出で出世してる奴なんていくらでもいる。でも第三騎士団ではありえない。だから俺は密かに調べたんだよ。お前は俺に色々と隠しているつもりだったようだが、そんなものは最初から把握してた」
……最初からバレてたとはね。
第三騎士団で暴力をふるわれてボロボロになっていた僕を救ってくれたときから、団長は分かっていたのかもしれない。
僕は王都から遠く離れた田舎に領地のある貧乏な騎士爵家の三男だ。これって、もう平民みたいなもん。そんな僕が高位貴族の子弟だけが入れる第三騎士団に所属していたこと事態が、団長が言うように異例なことなんだ。
「騎士爵家の三男坊が普通なら入れるはずのない第三騎士団に強力なコネで無理やり入って、そこで連日のように暴力を振るわれても耐えている。おかしいだろ?なぜコネをつかった奴はお前を守らない?そうなると、ある答えが浮かび上がってくる。お前はその誰かさんから第三騎士団にいることを強要されてるんだ。たぶん情報収集とかそんなことのためにな」
――ビクッ!
あまりにも簡単に真実にたどり着かれて、おもわず体がビクッとしちゃったじゃないか。
団長が僕を第三騎士団から救ってくれた時、未来で僕が暴力を振るわれて足に大怪我を負い、まともに歩けなくなっていたと言っていたよね。そして、それを理由に僕は騎士団から追放されるって。
未来の僕が、体が壊れるまで我慢していたのには確かに理由がある。
その理由さえなければ、さっさと第三騎士団なんて適当な理由をでっち上げて辞めていたよ。
でも僕は辞めなかった。団長が僕の未来を視るまでもなく、自分自身が予感するくらいには自分のたどる不幸な未来を感じ取っていたのにね。
僕は第三騎士団を辞めるわけにはいかなかったんだ……。
団長が言う強力なコネ……。それはね、ちょっと違うんだ。コネじゃなくて、僕の動きを縛る鎖なんだよ。
僕の動きを縛る鎖。それは――。
――ああー、もうこうなったら、全部話すしかないだろう!例え、あとで困ったことになったとしても……。どうせもう僕は喉元まで、ずっぽりとはまり込んだ泥沼から抜け出せない。なら、最後に団長に謝って……。
「団長、実は僕は……」
僕の話を団長は遮った。
「まあ待て。俺の話を最後まで聞け。どうせお前はなにも分かってないんだから。これを機会に教えてやろう。お前は第三騎士団で執拗にいじめられていたな?仕事の妨害だけじゃなく、身体的な暴力まで振るわれていた。なぜだと思う?」
なぜって……。爵位の低い僕が気に入らなかったからじゃないの?僕をいじめてた奴らは皆そう言ってたし。
「ああ、グーフィー、お前のまぬけさは俺を心底ほっこりさせてくれるよ。お前が俺の立場だったら、もう随分前にあの世に行ってただろう。お前をいじめていた奴らは全員、第二王子派なんだよ」
え?第二王子派?もしかして、第三騎士団内で派閥争いが起こってたってこと?
「どうやら気がついていなかったようだな。まあ、そうだと思っていたが。第三騎士団は元々、第二王子派が主流だったんだが、そこへ第一王子派が手を出そうとした。本格的に制圧する前の尖兵として、数人が偵察と準備のために送り込まれたんだが……その中の一人がお前だったというわけだ」
今、団長の口から第一王子派の尖兵という言葉が出たよね?僕がそれだったって。僕はちょっと笑ってしまったよ。僕が団長のところに来た時点で、既にバレてたんだね。
僕が第一王子側の人間だってことが……。
本当にこの王子は……バッカじゃないの!?第一王子側の人間だって分かってるのに、なぜ助けた上に自分のところに置いたの?しかも団長補佐官なんて、団長につきっきりになる仕事じゃないの。
もう団長のことなんか、全部、第一王子に筒抜けだよ!
だらしない日々の生活ぶりとか、食べ物の好みとか、そんなことも全部僕からバラされてるからね!
「僕が第一王子側から送り込まれた人間だって知ってたなら、なんで自分の側に置いたりしたの!?団長こそ、甘すぎるよ!」
団長は僕が真剣な表情でにらみつけるのを、フンッと小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「おいおい、今まで生き延びてきた実績のある俺を甘く見すぎじゃないか?なぜ俺がお前を第一王子派の調査担当の人間だと知って側に置いていたと思う?」
そういうと、団長は自分の目尻のあたりをトントンと軽く指先で叩いた。
未来を視て判断したってことか……。
僕を側に置いたほうが、団長にとって有利な状況になると思ったんだね。
「まあ、もちろんそれだけじゃないがな。お前はいい奴だし、キツイ立場に置かれている奴に、俺は同情的になる悪い癖がある」
悪い癖か……。僕は団長にずっと同情されて、守ってもらっていたのかもしれない。人を信じず、常に最悪の事態を考えて行動している団長に、アーネストさんたちが忠誠を誓いたくなるのは、自分の利益だけで動かないからだよ。
「さて、お前も俺も、あまりここで時間を潰すのは得策じゃない。そうだろ?だから聞け。お前の妹ルピスは第一王子派の、とある貴族の家で侍女として働かされている。邸からは出られず、実質は監禁だな。単に監禁するだけだと金が出ていくだけだからな。働かせて元をとろうとか、やることが意地汚い」
なんで……、なんで団長がルピスのことを知っている!?




