31. 悪いことはしていない(嘘
「えっ?勝手に作ってきたけど?」
西の隣国の身分証を勝手に作ってきたという団長。この勝手に作ったというのは、僕達の了承なく作ったという意味ではなくて、もちろん西の隣国の許可なく不法に作ったという意味。
アーネストさんの眉がピクッと上がったよ。これ、マジギレだわ。怖い怖い……。
「団長、いつもお願いしておりますが、危険なことをした場合は私共に一言お願いします。あと、これも事あるごとにお願いしておりますが、不法行為をする場合は事前にご連絡ください」
温厚でいつも優しいアーネストさんが静かにキレているので、団長は視点をあちこちに動かして逃げ場を探すけど、もちろん逃げれるわけがないよね。大人しく吐いちゃいなさい。
「わ、分かった……悪かったよ、色々勝手にして……」
「結構です。では今後のこともありますので、西の隣国で不法に身分証を作った件について、詳細にご説明していただいてもよろしいですか?よろしいですね↓」
アーネストさんは「不法に」のとこだけ強く強調して、団長を責め立てる。なんか熟練のシープドッグの妙技を見ているみたいだよ。
「あ、ああ、もちろんだとも、アーネスト。……眉間にシワがよって、せっかくのイケメンが台無しだぞ」
「今は私の容貌の話をしている場合ではありません。お分かりですね?」
「はい……」
その後、こんな国境警備の施設に近い場所で長々と立ち話するのは不味いということになり、ちょっと場所を変えて話すことになった。目立つから火は起こせないけど、アーネストさんが熱々の美味しいコーヒーを魔法でお湯を沸かして入れてくれたので、それを飲みながら団長を詰めていくよ。
「お前らさ、大げさなんだよ。そんな悪いことしてないって!」
そう言い訳しながら話し始めた団長が西の隣国で犯した犯罪とは、そんな悪いことどころじゃなくて国交を危うくするくらいな重犯罪だったんだ。
「ほら、向こうの王宮で歓迎パーティーがあっただろ?そこに外務大臣を筆頭に、外務省の文官がけっこう参加しててな」
隣国から来た王子様をもてなすためのパーティーだからね。当然、外交関係の人がたくさん来るでしょうよ。どうせそこで碌でもないこと、したんでしょ?
「グーフィー、そんな目で俺を見るな……。お前は俺の過去が視れるのかと背筋が寒くなるだろーが。いや、だからな、そいつらと話してても社交辞令しか言わないわけよ。それでつまらなくてなあー。ちょーっと暇つぶしに奴らの未来を視たわけだ」
もうっ……外交関係は危ない情報たっぷりな地雷原だって、前に自分で言ってたじゃない。なんで暇だからって地雷原につっこむのよ。ほんと、信じられない。
「それがさ、あの国は特に問題もないらしくて、特別に変わった未来は視えなかったんだよ。普通に毎日の業務を淡々とこなしている未来が視えちゃってさ……」
まあ西の隣国はウチと違って国力もあるし、ちゃんとしたまともな国なんで問題も早々起こらないんでしょうよ。
「それで何人かの仕事を視ているうちに、身分証の管理を外務省がやってることが分かったんだ。ついでに身分証に使う紙類や国印の置き場所とかもな」
ああん?国印の置き場所?まさか、それって国王陛下の執務室とか言わないよね?忍び込んじゃった?ああ、もう!国王の執務室なんて、他国の王子が関わっちゃいけない場所ナンバーワンじゃん!
「いやグーフィー、違うんだ。アーネストもロボストも、そんな目で俺を見るな。忠誠を誓ったんじゃないのか」
「それとこれとは別です」
「団長、やり過ぎです」
「ぐっ!……だから違うんだって!お前たちは誤解してる。俺をどれだけ悪人だと思ってるんだよ。国王の執務室になんて忍び込んでないぞ?あの国はな身分証用の特別な国印があってだな、事務的な日常使いの国印っていうの?それを管理しているのが外務省の事務次官補なんだよ」
「あー、事務次官補ですか。それならまだ……」
「団長、肝が冷えましたよ」
いやいやいや、アーネストさんたち、そこで納得しちゃだめだからね?事務次官補って外務省のナンバー3だよ?外務大臣、事務次官、その次が事務次官補だから。二人とも団長に慣れすぎ!目を覚まして!
「それで必要な物のある場所と作り方が分かったから、ちょっとパーティーを抜け出して外務省に行って作ってきた。外務省って王宮のすぐ側なのな。歩いて10分もかからなかったわ」
外務省の門の前には衛兵が警備のために立ってるはずだけど、そういうのはどうしたんだろ?
「外務省の門?いや、俺、通ってねえし」
門を通ってないって!じゃあどっから入ったのよ?
「え?普通に窓から」
ああああああー。この人はそういう人だったね。生まれつきの性格と育った環境が、窓からの出入りを普通にナチュラルに強いてくるんだった。
「団長でしたら、その程度のことは簡単にできるだろう。敵地の砦に侵入するより簡単だろう」
ロボスト副団長が団長に、よくできましたの花丸印を与えてるよ。ていうか、ロボスト副団長は団長に甘すぎるんだよ。まったく。
「外務省の建物って、外に出なくても王宮内から行けるのな。便利だよな、直通の通路って」
それって秘密通路じゃないの?大臣クラスとか高級文官が利用するヤツでしょ。
「国王の未来を視たら使ってた」
やーっぱ、視ないわけないよね。国王クラスが目の前にいたら漏れなく視ちゃうよね。国の未来も視えちゃうからねー。
「秘密通路の入口が国王の執務室の前にあるんだよ。西の隣国は、かなり利便性を追求するとこあるぞ。俺は好きだな、そういうの」
結局、国王陛下の執務室の前までは行ってるのね。もう、どうやって外務次官補の部屋まで行ったのかとか、どうやって身分証を作ったのかは聞かないでおこう。いや聞きたくない。僕の心が持たないよ。
なぜか団長のいいかげんな説明で、すっかり納得してしまったアーネストさんとロボスト副団長は、さっそく今後の話を始めている。ロボスト副団長なんか打ち合わせをしながら、ちらちらと団長を称賛の目で見たりしてる。
まったく、《この王子にして、この臣下あり》だよ。
「それでは団長が用意してくださった身分証を使わせていただきますね」
「団長、お骨折りいただきありがとうございます」
僕達は団長が西の隣国で勝手に作ってきた身分証で、検問所を通ることにした。よくよく見ると、既に西の隣国からウチの王国に入国した手続きまでキチンと記入されている。
西の隣国から、これから僕達が行く予定の隣国へは直接行き来がしにくい地形なので、僕達がこの身分証を使っても変には思われないだろう。つまり安全ってこと。偽造でもない本物の身分証だしね。
団長が王領で作っておいた偽造身分証の方は、今回は出さないみたい。逃亡中の身としては、しっかりとした身分証がいくつもあるのは安心できる。そのうち必要なときが来たら、アーネストさんたちに渡すんだろう。
でもさ、軍事研究家エイリアス・フォルスの中の人が、実は団長だっていうのを黙ってるのはどうなの?
貴族籍を捨てて平民にまでなって団長についてきてくれてる二人に、あまりにも冷たい仕打ちじゃないかな。僕にだけ打ち明けてくれたのは嬉しいんだけどね。
気になったんで、アーネストさんたちに聞こえないように小声で聞いてみる。
「団長、いいの?フォルス卿のこと言わなくても。まあ、別に今言わなくてもいいんだけどさ」
「知るとあいつらが勝手に動くんだよ。予測不可能なことが多くなるから言わん」
団長が軍事研究家エイリアス・フォルスの中の人だと知ったら、アーネストさんたちが勝手に動く?
アーネストさんたちは団長の許可なしに動いたりしないと思うけどな。もし勝手に二人が動いたとしても、団長が動くな、なにもするなって命令を下せばいいだけなんじゃないの?意味わかんない。
僕は団長が言った言葉の意味が分からなくて、考えながら皆の後をついていった。もうすぐそこに国境警備の施設が見える。
そこまで来て、なぜか団長がピタリと歩みを止めたらしい。後ろからついて行っていた僕は、団長の背中にぶちあたって初めて気がついたよ。
そんな団長を訝しげに見るアーネストさん。
「団長?どうかされましたか?」
不思議そうな顔で聞いてくるアーネストさんに、団長はうなずいた。
「同じ検問所から4人が入るのはリスクが大きい。それに俺達が四人で移動していることを知っている者からすれば、跡をつけやすくなる。なんせ男4人のグループを探せばいいわけだからな。なので一旦、ここで二手に別れよう」
アーネストさんが、軽く目を見開く。ロボスト副団長の顔は表情をなくしたまま固まっている。
僕も固まってしまう。団長は、ここでアーネストさんたちと別れるつもりなんだ。だから「知るとあいつらが勝手に動く」って言ったのか。
これから団長はエイリアス・フォルスとして動くつもりで、それをアーネストさんたちが知っていると別れた後に心配してエイリアス・フォルスを探すかもしれないから、それを避けたいんだ。
はああああ。団長はまた危険なとこへ飛び込むつもりなのね。




