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28. 裏切り者を炙り出せ!

 「団長、私とロボストのことを裏切り者ではないかと疑っているんですね?」



 アーネストさんは真面目な顔でそう言った。ロボスト副団長もその横で哀愁漂う表情を浮かべてこっちを見ている。


 それなのに、いつもは空気も読まずに、いらないことばかり話す団長は、なぜかなにも言わないんだよね。このまま無言だと、アーネストさんたちのことを裏切り者だと疑っていると告白しているようなもんだよ?


 早く、早く、否定してあげて!



 「ああ、そのとおりだ。お前たちが俺のことを裏切っているんじゃないかと疑っている」



 はああああい!?ちょっと、団長!なんてこと言うんですか!

 


 「――やはり、そうでしたか……」



 悲しげにうつむくアーネストさんとロボスト副団長。こんなときに限って乾いた風が吹き付けてきて、なんともいえない虚しさみたいなのを感じさせてくれるよ、まったく。


 そんな中、最初に口を開いたのはロボスト副団長だった。



 「団長、アーネストのことを疑って、用意した身分証をこの場で燃やせとだけおっしゃったんですよね?燃やす方法は、あえて指定しなかった……そうじゃないですか?」



 ロボスト副団長の言葉にハッとした僕は、勢いよくうつむかせていた顔を上げてしまった。アーネストさんと目が合う。そういうことだったのか……。


 辺境騎士団の団長が用意してくれた身分証には、恐らく魔法で何らかの工作がされている。もし、そのことをアーネストさんが知っていたら、アーネストさんが魔法を忍ばせた側の人間だとしたら、身分証を燃やすのは火付け道具を使って手作業で火をつけると思う。


 なぜかって?それはね、身分証にこっそり付けられてる魔法とアーネストさんの魔法が反応してしまうからなんだよ。この特性は騎士団ではよく知られていて、その反応を利用して捜査をすることもあるくらいなんだ。


 なので魔法がかかっている可能性がある物や場所に、新たに魔法をかけるときは一旦、既にかかっている魔法を解除してからでないと駄目なんだ。魔法によって違うんだけど、爆発したりする可能性がないわけじゃないからね。


 アーネストさんは当然、騎士団の一員だったから、その事も知ってる。

 

 コーヒーをいれるのにも魔法を便利に使っているアーネストさんなら、僕達が見ている眼の前で魔法を気軽に発動して身分証を燃やすのが自然だよね。


 団長はアーネストさんが誰かが送り込んだスパイなのか、それを見極めるために団長がそう言ったのだとしたら……。



「おかしいと思っていたんです。グーフィーには内緒で辺境伯や辺境騎士団と覚書(おぼえがき)を交わしたことも、辺境伯第八騎士団を解散して新しい独立騎士団を立ち上げたことも……」 



 知らず知らずのうちに、僕の手は自分の胸のあたりをギュッと掴んでいた。なんか胸が痛い。見ないようにしていた傷口が無理やり開かれた感じだよ。


 

 「だからロボストと話してたんです。団長はグーフィーのことを疑っているんじゃないかって……。でも今、分かりましたよ。私たちも疑われていたんですね……」


 

 悲しそうな顔をするアーネストさん。

 


 「確かにお前達のことを疑っていた。それで身分証の始末をどうつけるかでアーネストの立場を見てみようと思ったのは確かだ。もちろん、こんなことだけで全てが分かるはずはない。だがお前が身分証をどうやって燃やすのを知ることはできる。そのときに、ためらいを見せないかどうかもな」



 はあ、この王子様、さすが生き延びてきただけあって抜かりがないよ。



 「だが、その俺の目論見(もくろみ)も、ロボスト、お前のせいで瓦解(がかい)した」



 そうだよね、団長の言う通り、アーネストさんは逆に疑いを晴らす場面をロボスト副団長に潰されたとも言えるんだ。なぜロボスト副団長はそんなことを?


 アーネストさんが裏切ってないと思うんなら、放っておけばよかったのに……。



 ロボスト副団長は、場を正式なものに改めるような仕草でスッと背筋を伸ばし、団長を正面からまっすぐに見つめた。



「団長、いえフォーキャス第三王子殿下。私はあなたに命を救われた身です。あのまま、あなたに拾われなければ、私は辺境騎士団の中で、すり潰されて命を失っていたでしょう。グーフィー、お前にはその辺りのことは詳しく話してなかったな。俺はな、辺境騎士団で上官の嫉妬を買ってしまい、危険な任務ばかり押し付けられていたんだ」



 ええ!?こんなに温厚で優秀なロボスト副団長が不遇な扱いをされてたっていうの?



 「グーフィーもロボストの近くにいて感じるでしょう?彼は武に優れ、文にも優れています。オールマイティになんでも上手くこなせる貴重な戦力ですよ。そんな部下に、自分の地位が脅かされていると感じる無能な上司は多いのです」



 そうだったのか……。確かに、アーネストさんも優秀だけどロボスト副団長も優秀だもんね。


 文武に優れているってアーネストさんは言ってたけど、ロボスト副団長はなんていうのかな、こう、人を和ませるようなところがあるんだ。だからか部下や同僚から慕われやすいんだよね。現場指揮官として優秀なんだと思う。


 ロボスト副団長は、まっすぐ団長を見つめたまま話を続けた。



 「ですから私は一生、団長のために力を尽くしたいと思っていました。今も変わりなく思っています。なので――」



 ロボスト副団長の目から、ツーっと一粒の涙がこぼれた。



 「――なので、あなたに疑われるのは……死ぬほど辛い……」



 周囲から僕の耳に届く、全ての音がその力を弱め、今は、ロボスト副団長の押し殺した息遣いだけが聞こえる。その静寂を破ったのはアーネストさんだった。



 「団長、私からも言わせて下さい。私もロボストと同じく、あなたに命を救われた一人です。私は亡くなった実母に容姿がよく似ていることから、義母から疎まれていました。暴力も頻繁に振るわれ、食事も満足にさせてもらえない。それはもう酷いものでしたよ」



 アーネストさんは実家の侯爵家で酷い扱いを受けていたといのは聞いていたけど、そこまで酷かったんだね……。



 「外聞を気にして学校だけは出してもらえましたけど、卒業後は家で飼い殺し状態でした。そんな時ですよ、あなたに会ったのは。侯爵家で開かれたパーティーに出席していたはずのあなたは、なぜか私が閉じ込められていた部屋の前まで来ましたよね」



 そんな話があったんだ。閉じ込められていたアーネストさんを救い出すなんて、やることが王子様過ぎる!



 「あの時、あなたに言われた言葉は忘れていませんよ。いえ、忘れられません。あなたはこう言ったんです」



 ――お前さ、魔法使えるんじゃないの?なんで閉じ込められてるんだよ!自分でドア、ぶっこわして出てこい!



 あー、そういう感じか。アーネストさんをお姫様扱いしなかったのね。



 「あなたにそこまで言われても、長い間、義母の支配下にあった私は躊躇(ちゅうちょ)しました。ドアを壊す事を、ためらったんです。後でどんな酷い目に合うかと思うと動けませんでした……だから、あなたは私に命令を下した……」



 ――第三王子フォーキャスとして、ここに命じる。自らの力でドアを壊して外に出てこい!出てこないなら俺がお前を殺すぞ!



 「そこまで言われた私は初めて動くことができたんです。本当に今、考えれば恥ずかしい話ですし、どうかしてました。火の魔法を放ってドアを丸ごと焼き切った私を、あなたはすぐさま邸の外に連れ出し、そのまま第八騎士団へと連れて行ってくれました」



 ――お前、今日から俺の事務官やってくれよ。面倒な事務仕事は全部まかせた!侯爵家が許さない?心配すんなよ。あっちはもうお前どころじゃないからさ。



 あー、団長、また泥沼を作ったんですね。自分で泥沼を作っておいて、そこから助けるふりをして恩を売るのは団長の常套手段だもんね。



 「団長のおっしゃるとおり、私はなにも言われずにすんなりと侯爵家から籍を抜くことができ、あなたの知り合いの辺境近くに領地を持つ伯爵家に養子として入り、キッパリと侯爵家と縁を切ることができました。そんなあなたを裏切るなんてことはありません。できません」



 辺境伯と辺境騎士団が裏切る未来を団長が視たことを、アーネストさんとロボスト副団長には黙っておけといったのは、二人とも辺境という土地に家族がいるというのも大きいんだろうね。



 「――ですが、私やロボストがあなたを裏切るつもりはなくても、あなたから見れば裏切りに感じることもあるでしょう。ロボストは辺境の男爵家の出ですし、私は義理の関係とはいえ辺境近くの伯爵家の次期当主ですから」



 ここでアーネストさんとロボスト副団長は、互いを見合って軽く頷いた。そして――。



 「ですから家から籍を抜いてきました。私とロボストが互いに相談した結果、決めたことです。もう私たちは貴族ではありません。平民です」

 

 

 えええええええ!?僕に相談もなく、なにしてるのおおお!

 

 

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