27. 裏切り者は誰だ?
なにもない乾いた荒野を、おしゃべりもせずに黙って歩いている。
団長、アーネストさん、ロボスト副団長、そして僕。王都から避難してきた辺境から更に逃げるために、この四人で隣国との国境を目指しているところだよ。
いつもはなんだかんだとおしゃべりする四人なのに今日は誰も口を開かず、それぞれ思い思いに歩いている。
今から生まれ育った国を一時的とはいえ離れようとしているんだ。そりゃあ多少は感傷的にもなって口数も少なくなるよね。
それに僕は感傷的な気分のせいだけじゃなくて、他の事でも衝撃を受けていて、とても誰かと話すような気分になれなかったんだ。
「どうやら俺達の中に裏切り者がいるみたいなんだよ……。笑えるよな?」
さっき、そう団長は言った。それを聞いたの僕だけ。アーネストさんたちがちょうど偵察任務から帰ってきたところだったから、その先は聞けてない。
――団長は誰が裏切り者だと思ってるんだろう……。
そんなことばかりが、頭の中をぐるぐるして他のことを考えられないよ。
――裏切ったのはアーネストさん?ロボスト副団長?それとも僕だと思われてる?
――まさか団長自身が裏切り者?いやいや、流石にそれはないか。ないよね?団長ならありえそうだけど。
黙って歩いて数時間ほど経った頃、先頭を歩いていたアーネストさんが初めて口を開いたんだ。
「ふぅ。やっと着きましたね。ほら、あそこに隣国の国境警備の建物が見えますよ」
ようやく隣国との国境線にたどりついたみたい。このあたりは大きな岩がたくさん転がっていて、乾燥した荒れた土地が広がってる。アーネストさんが指差す先には、元からあった大きな岩を利用した、小さな砦のような建物があった。
あの国境警備の建物の中に検問所もあって、隣国に正式なルートで入るには、どうしてもそこを通らないといけない。検問所を正式に通らないと、身分証に検問所を通ったという印がつかないので、入国後に色々と不都合なんだって。
特に僕達は隣国に入国した後、さらにその隣の国へと行くことも考えられるので、このあたりはキチンとしておいたほうがいいだろうという判断らしいよ。
なので、どうしても検問所を通らないといけないんだ。
野宿続きで僕もちょっと疲れちゃってるけど、でもまだまだ気は許せない。第八騎士団の団長補佐官としての僕の仕事はとっくに終わってる。もう第八騎士団は解散してしまったからね。
団長だって、本当はもう団長じゃないんだよね。んー、元団長かな?今までの習慣で団長って呼んでるけど、指揮する騎士団を持たない騎士団長っていうのもね。いつか、この慣れ親しんだ呼び名も変えないといけないんだろうね。
でも今はまだ団長は団長で、僕は団長の補佐官でいたい。団長を無事に隣国まで送り届けるのが補佐官としての僕の最後の仕事だと思ってる。頑張らないといけないね。
「それじゃあ、各自の身元を示す身分証を今から渡しますね。私が商人で、私以外の三人、団長、ロボスト、グーフィーは私に雇われた護衛ということになってますので」
アーネストさんがそういいながら、肩に背負っていたリュックから書類を取り出して皆に渡そうとする。さっき団長は自前の新しい身分証を見せてくれたけど、アーネストさんはそれとは別に皆んなの分を作ってくれたみたいだ。
でも僕は事前にそんな話はまったく聞いてないんだよね。身分証を事前に作る話も、辺境騎士団の力を借りる話も知らなかった。団長から裏切り者がいるって聞いたから、それで変に思ってしまうのかもしれない。
いつもなら、さすがアーネストさん、手配するのが素早い!とか思って称賛してそうなのに、今の僕はアーネストさんを疑ってしまっている。だから僕は質問する。
「アーネストさん、 その身分証はどういうヤツ?」
アーネストさんは僕を疑ってもいないんだろうね。いつもと同じように、あっさりと教えてくれたよ。
「ああ、これは辺境騎士団の騎士団長が手配してくれたものですよ。今回急に隣国へ出ることになったので身分証をつくる時間がなかったので助かりましたよ」
んん?辺境騎士団の騎士団長が手配してくれた?それってヤバい物なんじゃ……。あ、でもアーネストさんたちは辺境伯と辺境騎士団が未来で僕達を裏切ることを知らないんだった。
アーネストさんは僕の質問に答え終わったのか、今度は団長に向けて説明し始めた。
「団長、事前にご説明してありますが、もう一度簡単に説明します。この四人で揃って国を出ることは、もちろん内緒にしています。これらの身分証は、一般騎士が通常の偵察や防衛任務に必要ということで作成してもらったものです。作成依頼の時期もズラして頼みましたし、十枚ほど作成依頼した中の四枚です」
アーネストさんは時間が限られた中で、最大限の注意を払って身分証を作ったと言いたいんだろうね。
僕はちらりと団長の方を見たくなったけど、ぐっとこらえた。ここで僕が団長を見ると、アーネストさんたちに僕がなにか知っていることがバレてしまうかもしれない。我慢、我慢。どちらにしろ団長が上手くやる……はずだよ。
「いや、その身分証は使わない。すまないな、アーネスト。それはお前がこの場で燃やしてくれないか?」
自分が用意した身分証を燃やせという団長に、アーネストさんは不思議そうな顔で首を傾げる。事前にちゃんと報告までしておいたのに、苦労して用意した物をここで燃やせなんて言われたら納得できないのが普通だよね。
「燃やすのは構いませんが……それでは身分証がなくなってしまいますよ?」
「大丈夫だ。身分証は、こっちのを使ってくれ」
そいうって団長は腰に巻いた小さめのポーチから新しい身分証を人数分、取り出した。
「――団長、それはご自分で用意されたものですか?非常によくできた物のように見えますが」
「ああ。これは俺が王都にいた頃に作らせた身分証だ。もちろん偽物だが、精巧に作られているのでまずバレない」
団長ってそんな前から、新しい身分証が必要になるかもって考えてたんだね。アーネストさんは表情を変えないけど、ロボスト副団長は少し悲しげな顔をしているよ。
ロボスト副団長は厳ついけど優しいからね。団長が王都から抜け出すために、辺境からの出動要請書を予め用意してあった件もそうだけど、今回もいざというときの身分証を事前に作っていたあたり、苦労が絶えないなって気の毒に思ってるのかもね。
しかも、ここから見る限り、団長はちゃんと4人分の新しい身分証を用意してくれてるみたいだし。自分たちのこともちゃんと考えてくれてたんだって、胸がいっぱいになってるのかもしれない。
とは言うものの、そのロボスト副団長が裏切り者かもしれないんだよね。
「団長は、辺境騎士団の団長が寄越した身分証では、身に危険が及ぶかもしれないとお考えなんですね?」
アーネストさんはあくまで冷静な表情で団長を見ている。
「いや、辺境騎士団の団長を信用していないわけじゃないさ。だがお前も知ってるだろう?俺がかなり慎重な方だってことを。下手に信用して、ギミックを仕掛けられるなんて最悪だからな」
ギミックっていうのは『仕掛け』とか『罠』っていう意味で使われている言葉かな。身分証になんらかの罠が仕掛けられてるかもしれないってことだね。
「確かに団長のおっしゃるとおり、なんらかの罠が仕掛けられてるかもしれませんね」
「まあ辺境を預かる騎士団長が用意してくれたモンだ。そこの検問所ですぐさま怪しまれて捕まるとは俺も思っていない。だが、この身分証を使って俺達の跡を追って監視しようとぐらいはするだろうな。俺なら間違いなくそうするし」
そう言いながらアーネストさんは、チラッとロボスト副団長を見やって素早くアイコンタクトを交わした。んん?なんだろう?この二人の態度は。なにか二人の間で、予め話し合ってある感じがするよ。
まさか、二人とも裏切り者なの!?
アーネストさんはロボスト副団長と軽くうなずきあった後、こう言い放ったんだ。
「団長、私とロボストのことを裏切り者ではないかと疑っているんですね?」
アーネストさん……もしかして未来を視る能力とか持ってません?




