26. この世はパターンで出来ている
「だから、エイリアス・フォルスって俺なのよ。ちょっと笑えるだろ?」
クスクスクスと本当に楽しそうに笑う団長。いえ、全然笑えないです。
僕が一生懸命、団長の仕事を代わりに片付けていた頃、団長は他のことをしてたんですね?
「エイリアス・フォルス卿は、軍事についての論文を出して評判になっているってアーネストさんとロボスト副団長が話してたけど、その論文も団長が実際に書いたの?」
「まあな。信じられないと思うが俺が書いた。ほら、これまでずっと未来を視る力で生き延びてきただろ?特に俺が、この辺境の地で駆け出し騎士をやっていた頃は、かなり隣国との紛争が多かった……だから自分の力に助けられたよ」
団長は自分で摘んできた松葉の葉を一本つまんで噛みながら、遠くを見つめている。目を細めてないから未来を視ているわけではなさそう。
「本当に色んなことで簡単に命が危うくなるんだ。敵の攻撃はもちろんだが、自然災害、味方の自滅なんてものも起こる。そういうのを未来を視ることで避けていたわけだが、そのうちな、ある種のパターンみたいなのがあるのが分かってきたんだ」
「パターン……?」
「パターンというのは、繰り返し現れる同じような形のことだな。例えばロボストは王都の南に仕事で行くときは、必ず、気に入ってる酒蔵に寄って、そこで酒を飲みながら昼飯を食う。西に行ったときは牧場に寄ってチーズを買う。これがあいつのパターンだな。襲撃や毒殺が簡単なライフスタイルとも言う」
ええー。お酒やチーズを楽しみに仕事をしているロボスト副団長の小さな幸せを、『襲撃や毒殺が簡単なライフスタイル』とか言ってあげないでくださいよ!
「まあとにかくだ、俺はそういうパターンを体感することになり、これは他にも応用できるのではないかと考えたわけだ。それを論文としてまとめ上げ、俺の名前で出すわけにはいかんから、王領でこそっと作った身分で発表してたわけだ。ぶはは!」
ぶはは!じゃないよ、ほんと。
でも、団長の言い分を信じるとすれば、今回、独立騎士団のアドバイザーとして使ったエイリアス・フォルスという身分は、かなり前から用意していたことになるよね。
未来が視えるから、そうなるのか分からないけど、団長の行動は時間を超えてロングパス過ぎて、意味不明なことが多いよ。もっと分かりやすい行動して欲しい。
今、思えば王宮の自室に帰らずに騎士団長室で寝泊まりしていたのも、軍事研究家フォルス卿としての活動をしていたからかもしれないね。帰るのが面倒で団長室に入り浸っているだけかと思ってた。
僕は、なんにも団長のこと知らなかったんだね……。
ずっと一緒に仕事をしてたから、団長のことならなんでも知ってると思ってたけど違ってた。
かなりガックリきてる僕には気がついていないのか、団長は噛んでいた松葉を上品に吐き出すと普通に話を始めた。
「俺達がこの辺境に来るまでに、もうエイリアス・フォルスは若手の軍事研究家として多少は知られる存在になっていたんだよ。だから《ザ・エイト》のアドバイザーに、フォルスの名前があるのを辺境伯たちが気がついても、俺が頼み込んでアドバイザーに就任してもらったとでも言えば疑われない。特に俺のことだとは思わないだろう。だってフォルスは、前から活動している研究家なんだからな」
あー、確かにそれはある。僕もまさかアーネストさんたちが話していた研究者が団長だとは思わなかったよ。あれ?っていうことは、アーネストさんたちも団長がエイリアス・フォルス卿として活動してたことを知らない……なんてことはないよね。
「あー、この件はアーネストたちも知らないから、まだ黙っててくれ。無事に隣国に出国できたら話そうと思ってたんだ。グーフィーと話してたら、なんだか話す流れになったんで話したがな」
えー!アーネストさんたちにも話してないの?僕にも第八騎士団を解散したこと話してくれてなかったし!団長、秘密が多すぎるよ!
「ちなみに辺境伯と辺境騎士団が未来で、独立のために挙兵して最終的には俺達を国王側に売り渡すというのも、あいつらにはまだ言ってない。お、戻ってきたようだな……」
団長が額に手をかざして日陰を作りながら遠くを見る。つられてそっちを見ると、アーネストさんたちが偵察から戻ってくるのが見えた。この辺境の気候のせいか、その姿が揺らめいて見える。
「じゃあ、アーネストさんには騎士団を解散したことしか言ってない?」
「辺境伯と辺境騎士団と俺の間で交わされた覚書のことは話してある。あと《ザ・サード》が辺境伯から仕事を請け負う契約を交わしたことも知ってる。このあたりはアーネストとロボストに手伝ってもらったからな」
じゃあ、団長が辺境伯たちに売られる未来は、まだ話してないわけだね。そういえば、団長の視た未来で国王側に売られるのは団長だけ?
僕はてっきり僕やアーネストさん、ロボスト副団長も一緒にドナドナされるんだと思ってた。
「辺境伯に売られるのは俺だけじゃなくて、お前らもついでに売られてたな。でも安心しろ!もし辺境に残って辺境伯に騙されたとしても、王都まで護送されても、そこで俺とはお別れだ。お前たちは命までは取られないみたいだぞ?」
お前たちは大丈夫っていうのなら、逆に団長は大丈夫じゃないってことだよね……?
「だから隣国に逃げるんだ。ここにいたら俺に未来はないからな。それにさっきも言ったが、逃げたほうが俺にとってもいい話なんだ。今まで隠れて使っていた身分を表立って使えるようになるからな。こそこそ活動するにも限界ってものがあるんだよ」
確かにエイリアス・フォルス卿として今後、活動したほうが動きやすいだろうし、身の安全を守りやすいかもしれない。
「エイリアス・フォルスとして、《ザ・エイト》を側面から援護もできるし、守ってもやれる。《ザ・エイト》の1番の弱点は頼る所がないことだ。そしてこれは強みにもなっている。独立独歩の路線を歩めるからな。まあ、金さえあればだがな……」
そこだよね、問題は!《ザ・エイト》が存続していく上では、資金が稼げるかどうかが重要になってくる。みんな、ご飯を食べないと死んじゃうよ。
これ言っちゃうと身も蓋もないけどさ、団長に《ザ・エイト》を丸抱えで養っていくような甲斐性はないと思うんだ。だって、ちょっとまで王宮住みの王子様だったんだよ?騎士団長やって、お給料ももらってたと思うけど、それ以外に資産なんて持ってなさそうだし。生活能力があるようには見えないんだよね。
軍事研究家も、それほど稼げる仕事とは思えないし、冒険者ギルドに入って冒険者になるか、傭兵ギルドに入るくらいじゃないの。
辺境で下積み騎士をしてた頃を除いては、騎士団長室に引きこもってたから、人脈があるとも思えないし……。
はあ……。団長、隣国に逃げても生活していけるんですか!?これって詰んでません?
僕のヤレヤレ目線に気がついた団長は、ちょっと不機嫌になった。いくら不機嫌になっても生活能力のない元王子様なんて、逃亡生活中は単なる足手まといですからね?
僕は近づいてきたアーネストさんたちに、大きく腕を振る。アーネストさんも軽く片手を挙げて答えてくれた。僕の隣まで来た団長も軽く手を挙げる。並んで立った団長は、逆光のせいで眩しそうに顔をしかめたまま、アーネストさんたちが歩いてくるのを見ている。
「グーフィー、辺境伯と辺境騎士団に裏切られる話、今はまだアーネストとロボストには言うなよ」
隣国との国境もすぐそこまで来てるし、もう言ってもいいと思うけどな。あんまり内緒にしてると、二人の信頼を無くしちゃうよ?でもまあ、団長の事を慕っている二人だから、隣国に行く理由なんて推測して正解に行き着いてるかもね。
「ロボストは辺境の出身だし、アーネストも知り合いも増えて大分馴染んてきてるだろ。辺境の人間に裏切られると知ったらショックを受けるじゃないか」
団長が「分かるだろ?」と言わんばかりに優しげに、目を細めて僕を見る。確かに二人ともショックを受けるでしょうけどね。でも団長がそんな優しさをみせるのが逆に怪しい。本心は別にあるんだろうけど、僕はあえて聞かないよ。
「それにな、ここが1番重要なとこなんだが、どうやら俺達の中に裏切り者がいるみたいなんだよ……。笑えるよな?」
だから僕は聞かないって言ってるのに、なんで最後にボロっと爆弾発言するかな。全然、笑えないよ……。




