25. 新進気鋭の研究者(嘘
団長はこう言う。辺境伯は自分と交わした覚書を守らずにはいられないって。本当だろうか?
団長が辺境の地から離れたら、速攻、覚書をなかったことにして、第八騎士団を好きなように扱うんじゃない?
「団長や僕達がいなくなったって分かったら、代わりに第八騎士団をまとめて国王に差し出したりするんじゃないの?団長が言ってた《和平の証》とやらでさ」
団長は荷物をまとめ終わったらしく、最後に残っていた金属製のコップをグイッとリュックの中に押し込んでいる。
「辺境伯が馬鹿じゃなければ、そんなことしないさ。敵側の兵士の数を増やしてどうする?」
「あっ、そっかー」
確かに第八騎士団の騎士たちを国王側に渡せば、自分たちが不利になるから渡さないか。いくら互いに戦いたくない状況であってもさ、戦端が開かれるってことはあると思うんだ。
でも、辺境伯や辺境騎士団のいいように扱われるんじゃない?最低限の賃金しか渡さないとか、食事も満足に与えないとか、居心地悪くして辺境から追い出すとか考えられるよね。
団長は考え込んでいた僕を置いて近くの木立に入っていき、松葉を数本とってきた。そして、そのうちの一本を僕に渡してくれた。
「ほら、これ噛むと口の中がスッキリするぞ。残してきた第八騎士団のことが心配なようだが、心配することはない。だいたい、もう第八騎士団なんて存在しないからな」
「はぃ?↑」
第八騎士団がもう存在しない?それってどういうこと?僕達四人でここに来るまでは、騎士団のみんなちゃんといたよ?
「あー、これはアーネストとロボストには言ってあるんだが、第八騎士団は解散した」
「えっ!?えっ!?解散?なんで、なんで、僕はなんにも聞いてないよ!」
「お前に言ってないしな」
知らないうちに仲間外れにされていた僕は、色々な思いが頭の中をうねって呆然としてしまった。
「悪い……お前にだけ言わなかったのはだな、お前はすぐに顔に出るだろ?通常の偵察業務やら視察だって建前で俺達は辺境騎士団の本部を抜け出てきたわけで、お前からバレると不味いってことになってな……すまん」
た、確かに、僕はすぐに考えが顔や態度に出るって言われてるから、団長にそう正面切って言われると何も反論できないし、恨み言すら言えないよ。
なんかショックだ。理由は分かるにしろ、僕だけ外されてたなんて……。
それに解散した第八騎士団の騎士たちはどうなるんだろう?辺境に慣れていない騎士たちだって多い。こんな知り合いもいない土地で開放されても困るだけなんじゃ……。
「お前の事を信じられなくて言わなかったんじゃない。それだけは信じてくれ。第八騎士団は解散し、所属していた騎士たちは新たな騎士団を作った」
「新たな騎士団?」
「そう、新生騎士団の名前は《ザ・エイト》。なかなかいい語感だろ?」
それって第八騎士団そのままじゃないですか……。いったい誰がそんな名前を――。
「名付け親は俺だ」
――やっぱりか。でも騎士団の名前を変えたからって、辺境伯がザ・エイトの面倒をみるなんて思えないよ。
「神聖騎士団のことは、旅立つ前に辺境伯と辺境騎士団の団長に会って話をまとめてきた。辺境についてすぐに交わした例の覚書を元にな」
ああ!さっき聞いたアレね。団長が今後三年間は中立の立場を守ることを条件に、もし団長が第八騎士団を率いることができなくなったら、騎士団の騎士たちの生活と身の安全を辺境伯閣下が保証するって内容の契約だよね。
でもそんなに上手くいくのかなぁ。
「おい、グーフィー、忘れてないか?辺境伯たちは既に挙兵して王国からの独立を考えているんだぞ。俺を敵に回したくはないんだよ。だから俺は奴らの心配事を解決してやったってわけだ」
辺境伯側が抱える心配事ってなんだろう。第八騎士団が突如として王家側に立って辺境で暴れまくるんじゃないかとか?
「俺だよ、俺の存在自体が心配事の種なんだよ。同時に安心の種でもあるところが辺境伯たちにとってはやっかいなところだ。だから俺は表舞台から消えることにすると辺境伯たちに持ちかけたんだよ。率いていた第八騎士団も解散。新しい騎士団にして代表者も違う奴にする。俺は新生騎士団のアドバイザーとしてだけ名前を出す」
確かにそうすれば団長の色は薄まって、第八騎士団は単なる騎士の塊になるよね。しかも覚書に決められた、団長が騎士団を率いることができない状況にもなっているので、自然と辺境伯が面倒をみないといけないことになる?
「一応、アドバイザーの仕事として新生騎士団に辺境伯からの依頼を受けるようにアドバイスしておいた。既に三年間契約で辺境の国境の守護を担う契約を交わしておいた」
三年間!辺境伯と交わした覚書の条件、団長は三年間は中立の立場をとるっていう期限とちゃんと合わせたんだね。
「もう契約が取れてるなんて凄いじゃないですか!じゃあちゃんと皆んなにお給料も出るんですね?」
「もちろんだ。それにな、《ザ・エイト》は辺境伯に忠誠を誓っているわけじゃないんだ。単に仕事の依頼を受けているだけだ。だから他の仕事だって受けられるぞ」
それなら資金面は安心かもね。アーネストさんたちもいなくなるから、事務能力や統率面ではちょっと心配かな。でも団長がここまでお膳立てしているなら、みんな優秀な人たちだし、慣れない辺境の地でもなんとかなるよ、コレ。
色々と状況が分かって安心する僕に、団長はいたずらっぽく笑う。
「少しは安心できたか?第八騎士団の連中は大丈夫だろう。それには、実はこれは俺にとってもいい話なんだよ」
団長にとってもいい話?でも、もう団長は新しくできた《ザ・エイト》の団長じゃないし、単なるアドバイザーでしょ?恩恵なんてないと思うけどな。
「俺が辺境伯と交わした覚書の条件、覚えてるだろ?」
あー、はいはい。三年間は団長が中立の立場ってヤツでしょ?この条件が意味するのは、三年間は国王側につかないでってこと。辺境伯と辺境騎士団が挙兵して独立国家を立ち上げるから、それまでは大人しくしててねって言ってるんだよ。
この覚書の条件によって、団長はこれから三年間、表立っては動けなくなる。
「そうそれだ。俺はこれから三年間、中立の立場でいないといけない。フォーキャス第三王子であり、王宮第八騎士団の団長である俺はな。――だが、新生騎士団、他の権力から独立した存在だから独立騎士団とでも呼ぼうか。独立騎士団のアドバイザーは、そんな柵にとらわれない」
ん?それはおかしいよね。いくら表舞台から姿を消すとは言え、ちゃんとアドバイザーとして《ザ・エイト》の一員になってるわけだからね。いや、でも待って。あ!……団長、まさか名前を――。
「ああ、《ザ・エイト》のアドバイザーの名前はフォーキャストじゃない。まったく別の名前だ。名前は別だが、やってるのは俺だ。このことを辺境伯も辺境騎士団もまったく知らない。俺の知り合いの軍事専門家ということにしてある」
王都を出るのが決まったのは突然の話だったし、辺境についてからも団長は忙しかった。いったい、いつ新しい身分や身分証を作ったんだろう。新しい身分をつくるって大変なことだよ?手紙で問い合わせればすぐバレちゃうしね。
「ほら、見てみろ。俺の新しい身分証のうちのひとつ。《ザ・エイト》のアドバイザーをやってる軍事専門家のだぞ」
団長が胸ポケットから出して見せてくれた身分証を見る。一見、普通の身分証に見える。身分証は土地を治める領主や貴族が発行するものなんだけど、団長のは国王が直接治める直轄地が発行しているものだった。名前は――。
――エイリアス・フォルス。
――爵位は男爵。
――職業は軍事研究家。
エイリアス・フォルス……この名前どこかで見たことあるんだけどなあ、どこでだっけ……あ!思い出した。新進気鋭の学者さんの名前だ!アーネストさんとロボスト副団長も彼の出した論文について話してたの覚えてるよ。
「団長!このエイリアス・フォルスさんって、ここ数年、名声が高まってる新進気鋭の研究者さんの名前じゃないですか!駄目ですよ、勝手に実在の人物の名前を使っちゃ!」
「ん?ああー、いいのいいの、それ俺だから」
「はい?今なんて?」
「だから、エイリアス・フォルスって俺なのよ。ちょっと笑えるだろ?」
あんなに仕事をサボりまくっていた団長が、陰で軍事関係の研究者として研究したり論文書いたりしてたってことですか!?
ぜんっぜん、笑えない!論文書く前に団長の仕事してください!どれだけ僕が……ぶつぶつぶつ……。
許しませんよ?




