23. 裏切りとドナドナ
「よし、じゃあそろそろ行くか!」
そう団長が声をかけてきたので、急いで身の回りの片付けをする。
「国境までゆっくり歩いても二時間くらいですね」
「明日の夜は久しぶりに柔らかいベッドで寝れるな」
アーネストさんとロボスト副団長も、疲れてはいるだろうにいつになく楽しげだ。
これから僕達は四人で隣国へと移動する予定なんだ。
はっきり言っちゃうと、こっそり亡命する形になる。公式な亡命をすると色々面倒くさいし、かえって危険度が上がるので、名前も変えて別人として隣国に入るつもり。
アーネストさんとロボスト副団長は、野営地の周囲を軽く見回ってくるというので、僕と団長とで野営地の片付けをすることになった。
火の後始末をしたり、荷物をまとめたり、色々やることは多いんだよね。僕と団長はそんな仕事をこなしながら、色々と話してて、なんとなくの流れを作りながら団長の本心を聞いてみた。
僕としては団長が本当は隣国に行くことをどう思っているのか、知っておきたかったんだ。
「――でも団長、本当に良かったんですか?」
「ん?なにがだ?」
「だって、隣国に行ったら、もうしばらくこの国には戻ってこないつもりですよね?それって国を捨てるってことじゃ……。いいんですか?一応、王子なのに……」
「一応っていうな、一応って。戻ってきたくなったら、いつだって戻ってこれるさ。一番大切なのは生き残ることだ。死んだら戻ってもこれないからな。そうだろ?」
それはそうなんだけどさ。でもガッツリ隣国へと行かなくても、この辺境の地で大人しく嵐が去るのを待ってもいいんじゃないかと思うんだよね。
危険だからできるだけ早く、この国を離れたいって団長は考えているんだと思うんだけど、その危険がどんなものだか見極めてからでも遅くないんじゃない?
僕としては団長の覚悟の決まり具合を確認しておきたい。
「せっかく辺境騎士団も歓待してくれてるし、もう少し様子をみてもいいと思うんですけど……」
団長に苦情を言ったりすることはあっても、自分の意見を言うことなんてなかった僕は、恐る恐るだけど隣国に行くより、この辺境の地で事態を見極めたほうがいいのではないかと進言してみた。
これでも僕、一応、団長の補佐官やってるしね。
団長は僕が自分の意見を言ったことに、少し驚いたみたいだった。それから僕が思ってもみなかったことを言い始めた。
「グーフィー、お前は辺境騎士団が俺達を快く迎え入れてくれていると言ったが、本当にそうだと思うか?」
「えっ!?違うんですか?」
僕から見ると辺境騎士団の騎士団長、それに騎士の皆さんは第八騎士団の来訪を、手放しで喜んでくれているようだった。
それというのも、この辺境の地は複数の国の国境が複雑に入り交じるせいで、小競り合いが絶えない土地柄だからなんだ。つまり慢性的に戦力不足で、少しでも人手が欲しいってこと。
「少しでも騎士団の規模を大きくしたいのでは?戦闘になったら、そのほうが有利でしょ。だから歓迎されてるっのかなって……」
団長は焦点が合ってないような目つきで、遠くを眺めている。これってもしかして……未来を視てる!?団長は僕に答える前に、もう一度未来を視て確認したようだった。
なんだろう?すごく大事な話をしてくれているのかもしれない。
「お前の言うとおりだ。辺境騎士団が数で優位に立てば、その分、戦いで有利になる。だがお前は、その戦いの相手を外部の勢力としか考えてないんじゃないか?」
「え?辺境騎士団は、外部の敵と戦う部隊ですよね?それ以外にいったい誰と戦う――あっ!もしかして……」
団長が言いたいことに気がついた僕は、慌てて団長の顔を見た。団長は今まで見たこともないくらい、真剣で少し苦しそうな表情をしている。
そうだよ、なんで僕は今まで気が付かなかったんだろう。騎士団の目は外にだけ向くものじゃない。時として内側の身内にだって向くものなんだ。
辺境の敵は外側だけじゃなく、内側にもいたなんて……。
「――お前もようやく気がついたようだな。なぜ俺達が辺境騎士団で歓迎されていたのかが。辺境騎士団の騎士団長なんか凄い歓待の仕方だったものな。ちなみにこの地域を治めている辺境伯も、俺達を大歓迎しているぞ」
「それって、もしかして……軍事行動とかするつもりじゃ」
「――お前に聞かれて改めて、このあたりの未来を視てみたが、辺境伯と辺境騎士団は力を合わせて挙兵するようだ。王国から独立して、ここに自分たちの国を建国するつもりのようだ」
「国を……作る。そんなことが……」
国王陛下の臣下として、この辺境の地を統治する辺境伯。
国王陛下の命により、国境を含む辺境の地を守る辺境騎士団。
この2つの大きな勢力が、陰で手を握っていたんだね。
「それじゃあ、僕達、第八騎士団は辺境伯閣下と辺境騎士団の挙兵に、協力を求められてたってこと?もしかして、それが交換条件で受け入れてくれたの?」
「いや、そこまで求められてはいないさ。辺境伯側にしてみれば、複数ある王宮騎士団の内のひとつが自分たちに味方しないまでも、敵対しないとしたら……どうだろう?」
「――それは挙兵する側からしたら、すごく助かりますよね」
「だろう?しかも身の危険を感じて王都から逃走してきた奴らだからな。少なくとも自分たちの敵、つまり王家と敵対する可能性がある戦闘集団だ。敵の敵は仲間ってことさ。今後、手を握って共闘する可能性も高い。だから辺境伯も辺境騎士団も、俺達を歓迎してるんだよ」
辺境伯閣下に僕達が歓迎されている、少なくとも敵とは見なされていないと分かって、僕はすごく安心したよ。でもそれなら、なぜ、第八騎士団を置いて、僕達だけで隣国へ移動するつもりなんだろう?
辺境伯閣下と友好関係を築けるなら、この辺境の地でゆっくりしていてもいいんじゃないの?
「団長はさ、なんで隣国に行こうとするの?」
さっきの少し遠くを見るような、目を細くする仕草。あれは団長が自らの意思で未来を見ているときにする仕草だ。だとしたら、もう団長は辺境伯閣下が挙兵した後のことも見えてるんじゃないのかな。
その未来に合わせて、動こうとしているんじゃ……。だとしたら、この辺境の地は内戦が勃発するエリアってこと?
団長はロボスト副団長やアーネストさん、それに僕を含む合計四人で隣国へ抜けようと考えている。もし、この辺境の地が戦場になるのであれば、第八騎士団の他の騎士たちはどうなるの。
仲間が安全じゃないって分かってのに、後に残していくなんて団長らしくないよ。
「グーフィー、また顔に出てるぞ?俺が自分の身の安全のために、第八騎士団を裏切ると思っているのか?」
そんなこと、思いたくない!でも、だって……。
「裏切るのは俺じゃない。辺境伯と辺境騎士団が俺達を裏切るんだ」
「――はぁ?」
思わず気の抜けた声が出ちゃったよ。え、僕達が裏切られるの?そのパターンは考えてなかったな……。
団長の人生が波乱万丈過ぎて、一般下級貴族の僕はついていけないよ。
「第八騎士団の他の連中は安全だから安心しろ。だが、俺達は安全じゃないんだな、これが」
「えっ?俺達っていうことは、安全じゃない中に僕も含まれてます?」
「入ってる入ってる。俺、お前、アーネスト、ロボスト。この四人は辺境伯が挙兵して独立国家を建国した後に、王国に売られるんだよ。建国記念とかいって盛大な飲み会を開いて、その場で酒に薬をしこまれて、気がついたら王都に逆戻りって寸法だ。それが俺の視た未来だ」
「ええー!?なんですか、それ!?」
ちょっと待って!僕の未来はいつドナドナになったのさ!?




