15. お祈りメール
ジルベルト君が去ったあと、僕たちの視線は彼が置いていった1通の封書に集まった。第二王子殿下から封書に書いてある名前の人物に届けて欲しいと依頼されたものだ。今は団長が表書きを調べている。
「――プリシラ嬢宛てだな」
それを聞いて、一斉に顔を見合わせる僕たち。アーネストさんの片眉がクイッと上がる。
「その封書が、グーフィーの刺される理由なのかもしれませんね。先ほどまで私が話していた事を覚えていますか?『新しい動き』があるかもしれないと話したのですが……」
ジルベルト君が来るまで僕達で話してたんだけど、それで分かったのは、未来で僕を刺し殺すのはプリシラ様だってことなんだ。
でも、大きな疑問もあって、なぜプリシラ様が僕を刺すのかということ。遠くからですらプリシラ様のことを見たことない僕には、刺される理由がないもんね。
アーネストさんは、現状ではまだ僕が刺される理由はないけれど、これからなにか『新しい動き』があって、それが刺される理由になるのかもしれないと言ってたんだ。
ジルベルト君がもたらした第二王子殿下からの封書は、その『新しい動き』ってヤツになるのかもしれない。ということはだよ、この封書に僕が刺される理由が書かれているってことなのかな。
「よし!アーネスト、このプリシラ嬢宛の封書を今すぐ開封しろ!」
「承知しました!」
「アーネスト、ここでやるのだろう?では私が机の上を片付けよう」
「ロボスト、お願いします。私は準備がありますので……」
団長の命令に従ってキャピキャピと動き出すアーネストさんとロボスト副団長。
ええー!?三人ともちょっと待って!配達を頼まれた封書を勝手に開封するとか犯罪だよ?しかも依頼主は第二王子殿下で、配達先はスピナー侯爵家だ。バレたら大変なことになるって!
あわあわする僕を見て、団長は実に楽しそうにカカカと笑った。性格わるーい……。団長たちのことが心配で、あわあわしてるのにさ!
「グーフィー、そんなに心配しなくても大丈夫だぞ。ほら、見てみろ!この封書は家紋印で封はされてるが、封印魔法までは施されていない。と言うことはだぞ、誰でも開けて見ていいってことなんだよ。常識だよ、常識!」
いや、そんな常識初めて聞きましたけど!?封印魔法がかけられてなくても、家紋印を押されていたら開けちゃ駄目なヤツだからね!
だいたい後から無理やり開けたら、重ね合わせてる部分に押した家紋印がズレちゃって、見ただけで開けたって分分かっちゃうよ!?
「グーフィー、私の腕を信じていないのですか?ちょっと傷つきました」
「アーネストなら上手くやる。私が保証しよう。よくやっていることだしな。目をつぶっていても出来るはずだ」
ロボスト副団長のアーネストさんへの凄まじい信頼、そして常習犯……。王宮騎士団なのに、やることが犯罪組織っぽい!いや正真正銘の犯罪だった……。
僕が唖然としている間に、アーネストさんは複数の魔法を手早く使って封書を綺麗に開封した。この技、なんか見覚えがある……毎朝、コーヒーいれてくれるときの魔法に似てるんですけど。
「グーフィー、お前がプリシラ嬢から刺される理由が分かったぞ!」
封書の中に入っていた書状を読んだ団長が、それをぴらぴらと振り回しながら、こちらに押し付けるように手渡してきたので僕も読んでみる。
心臓の音がバックンバックンとうるさい。僕の刺される理由がとうとう分かる!
――ふむふむ、なるほど。そういうわけだったのか……。
最後まで書状を読んで分かったよ。僕はどうやら第二王子殿下にハメられたらしい。
「グーフィー、大丈夫ですか?」
「顔色が悪いぞ。ほら、ここに座れ」
自分が未来で殺される真相を知って、思考が停止してしまい棒立ちする僕の手から、アーネストさんはそっと手紙を奪い去り、ロボスト副団長は椅子に安全に座れるように誘導してくれた。
大人しく椅子に座った僕の横で、アーネストさんとロボスト副団長が、頭を寄せて一緒に書状を読んでいる。
「どうやらグーフィーは、第二王子殿下に生贄にされたようですね」
「ひどい話だな。第八騎士団の騎士であれば誰でもよかったんじゃないか……」
アーネストさんたちが憤慨してくれているけど、書状にはこう書かれていた。
――プリシラ・スピナー侯爵令嬢様。大変残念ですが、昨夜交わしたばかりの貴女との婚約を破棄しました。貴女との幸せな結婚生活を夢見ておりましたのに、こんなことになってしまい大変残念に思います。
――婚約破棄をした理由は、状況が変わったためとしか申せません。その辺りは、この手紙を届けた者にお聞きください。彼は第八騎士団の団長代理を務める騎士であると名乗るでしょうが、実は王家のために密かに動く《王家の影》と呼ばれる存在なのです。
――今回の一件について、彼はすべてを知っています。問いただせば、何も知らないと言うでしょうが信じてはいけません。彼の申し入れに従い、私は貴女との婚約を破棄するしかありませんでした。
――権力に翻弄される、力のない私のことをどうぞお許しください。貴女様のこれからの幸せを心から祈っております。
なんだ、このお祈り手紙は……。
僕は大きなため息をついた。僕が未来でプリシラ様に刺されるのも無理はないよ。手紙を届けた奴、つまり僕のせいで婚約破棄したってしっかり書いてあるじゃん……。
プリシラ様にしたら、姉のアマンダ様を蹴落として、ようやく自分が第二王子殿下の婚約者になったというのに、翌日には婚約破棄しましたっていうお知らせが突然に来たんだからね。
怒り狂ってもしょうがないよ。まさに天国から地獄に堕ちたような気分だろう。でも刺し殺すのはやりすぎでしょ……。
第二王子殿下も酷いことをするよねえ。たぶん直接プリシラ様に婚約破棄を伝えたくはなかったんだろう。もう修羅場決定な話だもんね。
第二王子殿下にしてみたら、もうプリシラ様とのことは終わった話で、これからは聖女として覚醒したアマンダ様を再び自分の婚約者にするために全力を注ぎたいところだろう。
なのでプリシラ様と必要以上に揉めたくない。時間も労力も使いたくない。それできっと、こう思いついたんだろう。
――そうだ!プリシラ様からのヘイトは、ぜーんぶ別の奴になすりつけちゃえ!
まったく!そのせいで僕は未来で、正確に言うと今日の昼過ぎには死んじゃう予定なんですけど!?ぷりぷりしている僕をチラ見しながら、団長は頬を人差し指でかいている。
「まあ、アレだ……グーフィー、災難だったな」
そんな団長に僕はキッと厳しい目を向ける。
「団長!災難じゃ済みませんよ!僕は今日の午後には死んじゃうんですからね!」
「だ、大丈夫だ。俺に任せておけ」
団長は任せろっていうけど、本当に大丈夫なんだろうか。団長のことは信頼はしてるけどさ、自分の命がかかった状態だとどうしても焦っちゃうんだよ……。
焦る僕の代わりにアーネストさんとロボスト副団長が、団長にこれからの事を色々聞いてくれた。
「団長、これから一体どうするつもりです?」
「このままグーフィーを護衛として派遣すれば、団長の視た未来と同じことが起きるのでは?」
団長はのんびりと伸びた無精髭を指でつまんでいる。考え頃をするときの団長のくせだね。
「王家は当然、聖女を取り込むつもりだ。兄上たちも聖女を自陣営に入れようと必死になるだろう。教会もこの機に勢力を伸ばそうとしてくる。周辺国家も手を突っ込んでくるはずだ」
「大事になりそうですね」
「そうだな。控えめに言って血で血を洗うようなことになるだろうな。だから――」
「「「――だから?」」」
「俺は事態をさらに泥沼化させ、敵も味方も分からないくらい泥まみれにしてやるさ」
んー。全然、解決策になってない。さよなら、僕の命。




