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13. ざまあ!もう遅い。

「――へえ、お前は第二王子つまり俺の兄上の金を、けっこう使いこんでるんだな?」



 団長がそういったとたん、傲慢な文官の顔がギクリと固まる。



 「なっ、なにを言う……」



 「なにをって、お前の荒い金遣いについてだよ。これって兄上にバレたら不味いんじゃないか?えっと、ジャーク子爵だっけ?」



 文官は名前を呼ばれたとたんに顔色を青くした。まあ、そりゃそうだよね。名乗ってもないのに、いきなり相手から名前を呼ばれたら怖いもん。しかも相手は腐っても王子だし。


 それを見て団長は――面白そうに笑ってるよ。どうせジャーク子爵とやらの未来を勝手に見て、そこから知った情報をペラペラしゃべっているだけなんでしょ?団長あるあるだよ。でも、秘密をばらされる側からすれば、からくりが分からない分、恐怖倍増だよね。



 「な、なぜ私の名前を知っている!?」


 「まあ、そのへんはどうでもいいじゃないか。ジルベルト・ジャーク子爵――いや、子爵じゃないのか――ジャーク子爵令息だな。子爵家の三男坊。お前さ、偉そうにしてるけど、自分は爵位も持ってないのな」

 


 団長にズバズバ言い当てられて、冷や汗だらだらなジャーク子爵令息。なんだよ、子爵令息なら貴族の子供ってだけじゃないか。自分の爵位も持ってないみたいだし、小奇麗な平民みたいなもんじゃん。僕も同類だけどさ、ここは冷笑させてもらうよ。



 「――ふむふむ、ジルベルト・ジャーク子爵令息は王立学院で兄上と同級だったのか。それで学友を務めていたんだな。その流れで学院を卒業後は兄上の側近になったと……ご苦労なことだ。あんな《性格の歪み切った馬鹿》と、一緒にいないといけないとはなあ」



 団長が第二王子殿下のことを《性格の歪み切った馬鹿》と呼んだことで、さすがに頭に来たのかジャーク子爵令息が顔を真っ赤にして怒り始める。



 「貴様!第二王子殿下に向かって、なんたる不敬を!さっそく殿下にご報告申し上げて、貴様など地下牢送りにしてやる!」


 「ほぉ、俺を地下牢送りにねぇ。その前にお前の首が飛びそうだが?」


 「なんだと!?」


 「いや、だってさ、陰でこっそり《性格の歪み切った馬鹿》って俺の兄上を呼んでるのはお前だろ?調べればすぐ分かるぞ?これは俺のほうから兄上に報告しておいたほうがいいかもしれんな……」



 はいはい分かりました。未来を視てたらジャーク子爵令息が第二王子殿下のことを《性格の歪み切った馬鹿》とか呼んでたんでしょ?未来で呼んでるってことは、今も呼んでる可能性が高いわけで……。

 


 「わ、私はそのような不敬な呼び方などしていない!」



 ぷるぷるとほっぺを揺らしながら動揺するジャーク子爵令息。この焦りぶり!今現在も陰で第二王子殿下のことを《性格の歪み切った馬鹿》って呼んでる確率大だな。調べればすぐに証人が見つかるレベルのゆるゆるな反逆だったようだね。


 これはもう地下牢どころじゃ済まないよ!なんたってジャーク子爵令息の上司である第二王子殿下は《性格の歪み切った馬鹿》なんだから、地下牢どころじゃない罰を下すかもしれない。


 よく考えたら罰を下すなんて真っ当なことを第二王子殿下がするだろうか?いやしないだろー。サクッと毒殺か事故に見せかけて暗殺。見せしめでジャーク子爵家もろとも取り潰しなんてこともありうるぞ。


 ジャーク子爵令息も僕と同じような考えに至ったんだろうね。顔色が真っ白になって、額からは滝のような汗。今にも卒倒しそうな様子で一気に弱弱しくなった。ざまあ!



 「いや、待ってくれ!いえ、お待ちいただけないでしょうか?フォーキャス第三王子殿下」

 


 その場にシュタッと片膝をついて、いきなり正式な臣下の礼をとるジルベルト・ジャーク子爵令息。もうジルベルト君でいいかな。



 「なんで俺が待たないといけない?アーネスト、兄上にご機嫌伺いの手紙を書くので便箋を用意してくれ。兄上は上下の関係に厳しいお方だからな。粗相のないように最上級の紙にしてくれ」


 「かしこまりました」



 しれっとアーネストさんが立ち上がると、ジルベルト君の顔に絶望が浮かぶ。団長も真面目な顔して煽りまくってるけどさ、お兄様方にご機嫌伺いの手紙なんて一度も書いたことないんだよ、このひと。



 「なにとぞ、なにとぞ、私のこれまでの非礼をお許しください!」


 「いや、お前は非礼なんて働いていないぞ?俺はな、逆に感心してるんだよ。お前が兄上の金に手を出す、その鮮やかな手口にな」


 「ぐふっ!そ、それは……」


 「――そうか、学生時代から作り上げた集金システムなんだな。子爵家の三男坊じゃ、王子の学友として過ごすのは金銭的に辛かったんだろう?分かるわー。俺も金には苦労したからなあ」


 「ぐはっ……」

 


 いつの間にか、苦しそうに床に崩れ落ちているジルベルト君。

 


 「子爵家なら、どーせ兄上の側近の中でも1番下っ端なんだろ?むしろ兄上が子爵家出身のお前を側近に選んだことの方が不思議だわ。いや、待てよ――ああ、そういうことか。お前、側近というよりは使用人扱いされているんだろ?」



 はッ!と顔を上げて団長を凝視するジルベルト君の顔は固まっている。どうやら団長の言った通りだったようだね。



 「お前は自分のそういう待遇を逆に利用して、色んな商会やら貴族から金をぶんどってたんだな。兄上が受け取る請求書には、しっかりお前が受け取る金額も上乗せされているわけだ。そして、まだ誰も気が付いていない」

 


 ジルベルト君も上手いことやったもんだね。でももう彼の顔からは表情が抜け落ちて、死人のようだよ。その死人がかすれた声で、ささやくように問いかけてくる。

 


 「なにが……望みです?」

 


 そんなジルベルト君を団長が笑い飛ばす。

 


 「お前をどうこうしようなんて考えちゃあいないよ。下手に兄上に俺が有能なんじゃないかと疑われたりしたら不味いからな。分かるだろ?お前なら」



 こくこくとうなずくジルベルト君。


 団長が優秀じゃないかと兄王子たちに思われたら、今のうちに潰しておくか……となって命を狙われかねない。今まで団長が生き延びてこられたのは、大した事ない奴だと思われていたせいだからね。



 「お前は兄上の元に帰って、差し障りのない報告をしておけ。第一王子からの護衛依頼は緊急依頼だったため、第八騎士団でも詳細は把握していないようだ……とな」


 「フォーキャス第三王子殿下のおおせのままに……」



 再び、片膝をついて深々と臣下の礼をとるジルベルト君。最初からそういう態度でいれば、こんなことにはならなかったんだよ。すっかり団長のおもちゃにされちゃたね。


 しかも今後は団長の協力者にならざるを得ないからね、お気の毒様。



 「ああ、そうだ!ついでに兄上がつかんでいる情報を全部もらっておこうか。アマンダ・スピナー侯爵令嬢について、なにか知ってるんだろう?それからプリシラ・スピナー侯爵令嬢との婚約についても頼むわ」



 ほーらね。さっそく自分の駒として使い始めたよ。


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