12. 傲慢な文官は煽り耐性ゼロ
「えっと僕の単なる想像なんだけど、もしかしてプリシラ様って自分が婚約破棄されたこと、まだ知らないのかも……ね?」
「「「あー」」」
《プリシラ様は自分が婚約破棄されたことを知らない説》を僕が披露してみたわけだけど、団長含め、みんな「それだ!」といった雰囲気。いや、まだ推測の域を出てないんですけど?なんかすっかり確定事項になってる。
「時間的に見て、グーフィーの言う通りにしか思えん。アマンダ嬢が礼拝堂で聖女に覚醒したのは、パーティーが終わった後の深夜だ。グーフィーの知り合いの女官が、パーティーの仕事でいつもより帰りが遅くなったと証言していたしな」
「確かに団長のいうとおりでしょうね。プリシラ様がもし、王宮を去る前に第二王子殿下から婚約破棄されたことを知っていたら、大人しく邸に帰っていないでしょう。大揉めになって、噂が私の耳にも入ってくるはずですよ」
「私がパーティー会場から玄関口まで見送りをしたときは、プリシラ様もスピナー侯爵夫妻もご機嫌だった。だから、あの時点では婚約破棄について知らなかったんだろう。あるいは、婚約破棄がまだされていないかだな」
ロボスト副団長が言うように、王宮を出るときはご機嫌だったのだとすれば、新しい疑問が出てきちゃうよね。僕と同じ疑問に団長も行き当たったみたい。
「それならプリシラ嬢は、いつ自分が兄上から婚約破棄されたことを知ったんだ?」
それなんだよね。きっと自分が婚約破棄されたことを知ったプリシラ様は、とっても危険な令嬢状態になったと思うんだよ。
「プリシラ様が自分の婚約破棄を知ったとしたら、それは私が彼女を見た最後の瞬間、つまりパーティー後に王宮を出た時点からグーフィーがアマンダ嬢を護衛してスピナー侯爵邸を訪れるまでの間でしょうね」
「時間帯はロボストが言うとおりでしょう。でもどうやってプリシラ様は婚約破棄を知ったのでしょう?侯爵的の子飼いのスパイが知らせに来たのでしょうか?もしかしてグーフィーが知らせたのかもしれませんよ?」
アーネストさん、異議ありです!なんで僕が見ず知らずの御令嬢に、婚約破棄をお伝えするんです?おかしいでしょ!
「アーネストさん、ちょっと待って!期待されてるとこ悪いけど、僕は第一王子殿下から依頼を受けて、アマンダ様を邸まで護衛するだけなんだからね?」
第一王子殿下からの依頼には、護衛任務の他に情報を伝えるだとか手紙を渡すなんて依頼は含まれていない。
アマンダ様を護衛して自邸まで送り届ける。それだけなんだ。でもまあ、その仕事中に、ちょっと刺されるみたいなんだけどさ。それ以外は普通のありきたりな護衛任務だよ。
「――ということは、今から何か新しい動きがあるのかもしれませんね……」
「新しい動き?」
僕はアーネストさんの言う、新しい動きが何のことか分からず、怪訝な顔をしてしまう。騎士団長室のドアがノックされたのは、そんなときだった。
――トントン!
「入れ!」
団長が許可すると、ひとりの文官が入室してきた。年齢は30歳ちょっと手前くらいだろうか。アーネストさんと同じくらいの年齢にみえる。
そして見るからに高慢そう。部屋に入ってくるなり、こちらを蔑むような冷笑を浮かべて、団長に対して礼もとらないんだ。
いやほら、団長って第三王子な上に騎士団長じゃない?だから仕事で騎士団長室に来た人は、内心、団長のことをどう思っていようと、胸に片手を当てて頭を軽く下げる略式の礼をする人は多いんだよ。毎回、王子殿下への礼儀作法を守った正式な挨拶なんかしてると面倒だもんね。
でもさ、まったくなんにも挨拶しないって人は今ままで見なかったなあ。その上、この高慢そうな文官の目には団長への嘲りがあって、それを隠そうともしていないんだ。
耐え切れずに文官に対してなにかを言おうとしたアーネストさん。それを団長が軽く目線で抑える。好きにさせろってことかな。しょうがない、団長がそういうなら。
高慢そうな文官は、そんな僕たちの様子を鼻で笑ってから話を切り出した。
「第二王子殿下よりの御命令だ。心して聞け!本日、昼過ぎより、お前たちに護衛任務が下されているはずだ。その任務内容をすべて報告せよ!」
んん?昼からの護衛任務?それって、第一王子殿下より依頼されたアマンダ・スピナー侯爵令嬢を自邸まで送るってやつだよね。なんでそんな事を第二王子殿下が知りたがるの?
僕は団長たちと、そっと目を合わせて意思疎通する。
第二王子殿下が知りたがることと言えば――アマンダ・スピナー令嬢が昨夜、本当に聖女の力に目覚めたのかということだと思う。
第一王子殿下が緊急でアマンダ様の護衛を第八騎士団に依頼してきたのを知って、なにか情報がつかめるかもと、この嫌な感じの文官を送り込んできたんだろうね。
第二王子殿下は、せっかく婚約したプリシラ様と速攻で婚約破棄しているところを見ても、きっとアマンダ様が聖女として覚醒して、現在は第一王子殿下の庇護下にあることを知っているんだ。
そして出来るだけ早く、アマンダ様を自陣営に囲い込みたい。出来るなら再度アマンダ様と婚約したいといったところだろうね。あれだけ派手に婚約破棄したんだから、無理だと思うけどねー。
でも貴族って、利益があれば無理なことも可能にしちゃうからなぁ。どうだろうね?
僕が色々考えている間に、第二王子殿下のところから派遣されたらしい傲慢な文官がキレ始めていた。
「はやく知っていることを言わんか!隠すとお前らのためにならんぞ!」
すごいな、この兄ちゃん。我らが団長であり第三王子でもあるのフォーキャス殿下に向かって、こんなこと言うなんてさ。
団長は全然王子っぽくないし、命大事にで生きてるからなあ。侮られてもしょうがないんだけどね。でもこの侮られ具合、第二王子殿下からしたら団長なんて王位継承争いの相手ですらないんだろうね。
いつでも命を奪える弱い競争相手だとでも思っているんだろう。今まで王位継承争いから脱落した王子たちは確かにそうかもしれないけどさ、ウチの団長はだらしないけど弱くはないよ?
なんたって例の能力持ってるし!ほーら、団長の反撃が始まっちゃった。
「知っていることを言えと言われてもな、俺たちはなにも知らんぞ」
肩をひょいとすくめて、ちょっとおどけた表情で文官を煽る団長。相手が小物でも手を抜かずに、細かく煽っていくのが厭らしくて団長らしい。
煽り耐性がなさそうな文官さんは、灯りに飛び込む虫のように怒りを爆発させる。
「嘘をつけ!お前らの所に第一王子から、とある令嬢を護衛するようにと命令が来ているはずだ!知っていることは全て吐け!第二王子殿下のお役に立たんか!」
団長は失礼な文官に、実に楽しそうに微笑みかける。更に煽るつもりか……。団長は言葉より顔の表情とちょっとした仕草で煽るのが上手いんだよなあ。まるで火の勢いをつけるフイゴみたいだ。
「クスクスクス。へえ、この俺に兄上の役に立てと、お前はそう言うんだな?」
「第三王子など国王陛下のお情けで辺境から戻って来た能無しではないか!こういったときくらいでしか第二王子殿下の役に立つこともなかろう。無能だからな!」
「なるほどなぁ。ではお前の言う通りに、ひとつ兄上の役にたってみるとするか……」
団長のその言葉に、文官はニヤリと満足そうに笑ったけど、その笑みは長くは続かなかった。
「――へえ、お前は第二王子つまり俺の兄上の金を、けっこう使いこんでるんだな?」
うは!汚職きたー!




