10. ぼっち王子の悲しい告白
「さて、大体ですが何が昨夜起こったのか、分かってきたように思いますね」
アーネストさんの言葉に、皆がうなずく。
「その反面、まだ分かっていないこともありますよね」
えっと、何だっけ?まだなにか分かっていないことがあった?――あれ、もしかして?
「団長が視たとおっしゃる、グーフィーの未来についてです」
あー。それね。朝から急な展開でバタバタしちゃって、当事者の僕自身、まだ十分に聞けてないんだよね。
僕が聞いてるのは――護衛任務用の騎士服を着た僕は、どこかの貴族の邸宅のような場所で、短剣のようなもので刺されて倒れ、口から血を吐きながら死ぬらしいんだ……。
口から血を吐くのは、短剣に毒が塗ってあったせいなんじゃないかって団長が言ってたよ。まったく、嫌な死に方!
「確かに団長が視たグーフィーの未来については、分からないことが多い。これまでの調査で、グーフィーが刺される時にいる場所は、アマンダ様を護衛する任務で訪れたスピナー侯爵家だと考えられるが……」
ロボスト副団長が僕の方をちらっと見てから口を濁す。そうなんだよね。一番、分からない点が残ってる。それは――。
「グーフィーを刺した令嬢はアマンダ様なのか、それともプリシラ様なのか、あるいはまったく別の令嬢なのか分かっていない……」
「そうなんですよ。ロボストのいうとおり、いままでの団長の話だとグーフィーを刺したのが誰なのか分かりませんよね」
「あー、それな。グーフィーの未来は視たが、グーフィーを刺した令嬢の顔がよく視えない位置から視たんだよ。だから俺にも誰だか分からん」
ええー。団長に聞いたら分かると思ってたのに……。僕のがっかり感が伝わったんだろう、団長はちょっと焦ったように両手を広げて、大げさなジェスチャーをしながら言い訳を始めた。
「お、お前らも知ってるだろう?俺はパーティーを避けてるんだよ。着飾って、調子こいてパーティーに出たらチャッチャと暗殺されました……なんて笑えないじゃないか!俺に令嬢の知り合いなんかいないんだよ!だから顔をちゃんと視たとしても、グーフィーを刺した令嬢の身元は分からねー」
団長からなんか重い告白が来た。いやー、ぶっちゃけましたね。アーネストさんがコホンとわざとらしく咳をする。ロボスト副団長?固まってるよ。
「コホン……団長の交友関係を安全に広げる件は、後ほどじっくり話し合いましょう。今のお話からいくと、つまりグーフィーを刺した令嬢が、どなたなのか分からないということですね?」
「まあ、そういうこと」
団長は元々は王家の末っ子、第十三王子だったんだよね。でも激しい王位継承権争いで、上の兄王子たちがどんどん消えていって、結果として第三王子に成り上がり。そんな経緯があるので安全確保のため、団長が表舞台に立つ場面は限られてた場面だけに抑えられてる。
例えば、王宮騎士団の全体会議にもロボスト副団長がいつも代理で出席しているし、他の貴族たちと接触する機会が増える護衛任務なんかも、その地位で場を賑やかす必要があるときだけ出動するんだ。
例えば他国の王族が来た時なんかに、第三王子が自ら護衛すると特別感あるでしょ。そういう時だけ団長がキラッキラな騎士団長服を着て先頭に立つわけ。みんな大喜びだよ。王子に護衛してもらえるって。
そんなわけで、令嬢の知り合いがほとんどいない団長としては、僕を刺した令嬢の顔を視ていたとしても、どこの令嬢だか分からなかった可能性は高い。
「団長、ちょっと踏み込んだ質問をさせてもらいますが、アマンダ様とご面識はありますか?」
アーネストさんが団長に細かく質問し始めた。それに速攻で返事を返す団長。考える必要すらない団長の交友関係……。
「ない。見かけたことすらない……と思う」
アマンダ様は第二王子殿下からもスピナー侯爵家からも冷遇されてたって、ロボスト副団長は言ってた。団長もパーティーとかは避けてたし、出席した場合でも国王陛下に挨拶をしたら、すぐに帰ってたみたいなんで会う機会自体がないよね。
「では、プリシラ様を見かけたことは?」
「ない。今朝まで存在自体知らなかった」
これは僕も同じ。今朝、ロボスト副団長から第二王子殿下の婚約破棄の話を聞いて、初めてプリシラ様のことを知ったからね。今じゃ、僕を刺殺す犯人の筆頭候補の一人だよ。
「それではスピナー侯爵家に縁のある御令嬢の、どなたかとお知り合いではありませんか?」
「スピナー侯爵とは話したことがある。俺が辺境からこっちに戻ってきて、第三王子になったときの任命式で会った。出席者がホントに少なかったから、他に話す相手もいなくて、けっこう侯爵とは話したぞ。何考えてるか分からないおっさんだったな」
「その時点でスピナー侯爵の未来を視たりはしなかったのですか?」
「もちろん視たさ。有力な大貴族なんて危険過ぎる代物だ。念の為、視てみたが、特段変わった未来ではなかった」
団長が辺境から王都へ戻ってきて、第三王子という地位に正式についたのが、今から三年前の話。団長が第八騎士団の団長になってから三年経ってるから、そのへんの計算は簡単。
「――ということはさ、三年前の段階では僕が死ぬ未来はなかったってこと?だって自分の娘が王宮騎士を刺し殺す未来が決まってるなら、三年前の時点でだってスピナー侯爵の未来に反映されてたはずだよね?」
正直、僕は地位も家格も低いからね、侯爵家の令嬢に刺殺されてもスピナー侯爵家側はなんとも思わないかもしれない。あの人達の中では、「おや、虫を踏み潰しちゃったな」程度の事件で終わるんだと思う。
でもね、今の僕は第八騎士団のフォーキャス団長の正式な補佐官なんだ。団長もあれで第三王子殿下だし。僕の死を、そうそう簡単にもみ消すことはできないと思うんだ。
「グーフィー、いいところに目をつけましたね。なぜ団長が視たグーフィー刺殺事件が関係者であろうスピナー侯爵の未来に反映されていないのか……私にはちょっと心当たりがあるのですよ」
アーネストさんが団長に向き合う。え?俺?なんかやっちゃいました?的な表情で焦る団長。
「団長、あなたは同じ人の未来を短期間に何度も視ることがありますよね?偶然ではなく、意図的に視ることが……」
「あ、ああ。そういうことは確かにあるな。未来が大きく変わる事件とか出会いとか、そんなもんがあるんだよ、この世の中にはな。なのでコトが動きそうなときは、重要な人物の未来は丹念に何度も確認して……あっ、そういうことか!」
アーネストさんが僕の方をくるりと振り返ってみると、銀縁メガネをクイッとさせた。
「聞きましたか?グーフィー。そういうことなんですよ、きっと。この三年でスピナー侯爵の未来が変わるような大きな変化があったんですよ。そして、その大きな変化というのは――ロボスト、あなたなら分かるでしょう?」
ロボスト副団長がうなずく。
「アーネストの言いたいことは分かった。確かに私が答えられる質問のようだ。スピナー侯爵は約三年前、再婚した。再婚相手には連れ子がいて若い令嬢だった。その令嬢は二年ほど前から王宮のパーティーに頻繁に出席している。つまり、警護責任者として現場に出る私が目にすることが多い」
えっと、もしかして、その令嬢って……。
「その令嬢の名前は、プリシラ・スピナー侯爵令嬢という」
ああー、なんてこった。スピナー侯爵の未来を変えるなんて、プリシラ様からヤバい匂いしかしないんだけど!




