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ハッピーエンドな短編集

真実が見えるメガネでネットの男と口うるさい母親の本音を見た結果

作者: 宇佐野らび

 秋の涼しい風が通り抜ける教室で、カオリは憂鬱そうに窓の外の楓の葉を眺めていた。

 あと20分。あと10分、と時計をチラチラとみている。それに気付いた古文教師の伊藤はもう何も言う気にもなれなかった。


「私理系の大学受けるから国語とか勉強する意味ないんだー」

 と話しているところを見てしまってからは、カオリに対して注意する気にもなれない。


 だが、他の教師の話によると、どうも理系の科目も成績が悪いらしい。授業中もいつも上の空だとか。

 担任教師としては話を聞いた方がいいのか、と伊藤は思い悩んでいた。



「起立、礼」

 終業の合図と同時にカオリはすぐにスマホを見た。


 通知1件。レンからだった。

 通知を見るとカオリは嬉しそうな顔を他の生徒には見られないように口角が上がるのを堪えて、スマホを打つ。


『レン:授業いつもお疲れ様。終わったら連絡してね。』


「カオリ:今終わった!いつもレンの『お疲れ様』で癒されているよ。」



 レンとカオリは半年前からネットでやり取りをしている。

 チャットアプリでカオリが話しかけられて、共通の趣味で意気投合。


 連絡先を交換して今では毎日のようにやり取りをしていた。

 授業以外はレンとやり取り。授業中に上の空なのもそのせいだった。



「カオリ〜、今日みんなでカラオケ行かない?」友人のミサキが話しかけてきた。


『ごめん、今日はいいや。』スマホから目を離さずにカオリが答える。


「また例のネットの人とやり取りしてるの?

 やめた方が良くない?ネットではいくらでも嘘つけるしさ。」


 カオリはレンのことを否定されるのが一番嫌だった。


『顔も見せてもらったしやり取りで優しい人ってわかるもん。』


「イケメンな大学生でしょ?怪しいよ」


『もう、お母さんと同じようなこと言わないでよ。』


 カオリの母は我が子がスマホに依存しがちなのをとても気にしていた。

 昨日もそれで喧嘩になり、カオリはそのことをレンに話していた。


「カオリ:もう、お母さんがしつこくてスマホより勉強しろってうるさいんだ。」


『レン:そうなの?勉強の大変さは親にはわからないよね。

 そうだ!勉強教えてあげるよ。近いうち会わない?』


 半年間話していて、会いたいねって話すことはあったが、

 実際に会うことにはっきり誘われたのは初めてだった。


 カオリはとても嬉しかった。レンに会える。いつも優しくてかっこよくて少し年上な大学生の大人な彼に。

 もちろんokをして、1週間後の日曜に会う約束をしていた。


『昨日彼と会う約束もしたし、ミサキにはわからないと思うけど、レンはいい人なの!』


 カオリは語気を強めて言っていた。


「え、カオリ、それはやめた方がいいよ。危ないんじゃない?」


 ミサキは心配そうに言ったがカオリには届いていないようだった。


 ◇


 学校が終わって家に帰ると、カオリは1週間後にレンと会う時の服装を選んでいた。


 クローゼットから服を取り出して鏡の前で当ててみては首を傾げていた。

 その様子はとても嬉しそうだった。


 ふと、学校でミサキに言われた言葉を思い出す。『騙されているんじゃない?』『危ないよ』


 ミサキにはレンの写真を見せたことがある。レンが送ってきた写真だ。

 鼻筋が通っていて唇が薄くてどこかハーフっぽいとても整った顔立ち。


 それを見せたからミサキは嫉妬して邪魔しているんだ!

 私がかっこいい彼と仲良くなるのが面白くないんだ、そうカオリは思っていた。


「騙されてる?レンが私を騙すわけないじゃん。」そう呟いていた。


 ピロン。スマホが鳴った。


 勢いよくスマホを手に取る。レンからのメッセージだと思ったからだ。


 しかしそれはレンからではなく、知らないアカウントからのDMだった。

『真実が見えるメガネ販売中です。』DMにはそう書かれていた。


「何これ絶対詐欺じゃん。うさんくさー」


 でも待てよ、これを使えばミサキが本当に思っていることがわかる。


 ミサキは絶対私とレンの関係に嫉妬して邪魔してきている。

 それを確かめるためにもこのメガネは必要なのじゃないか。


 偽物だとしてもダメもとだ。


 さっき閉じたスマホを開いてカオリはそのメガネを購入していた。

 これでミサキが腹黒い嫉妬女だとわかるぞ。


 カオリは届いた後のことを考えると楽しみで心臓の鼓動が速くなっていた。


 ◇


「カオリー、荷物が届いてるわよー」カオリの母がリビングで呼んでいる。


 メガネが届いたのは4日後の朝だった。


 部屋に届いた箱を持って行き開けると、そこには黒い額縁のメガネが入っていた。


『普通のメガネじゃん。やっぱり騙されたかな。ミサキの本音が見えるといいけど。』


 そう疑いつつも、せっかく買ったので今日一日メガネをかけてみることにした。

 メガネをかけて鏡を見ると意外にも似合っていた。


「あ、今日体育外で持久走じゃん。雨降らないかなー」


 そう言いながらスマホで天気予報を見る。


 スマホの画面には、今日一日晴れのマークがキラキラと並んでいた。

 しかし、雨のマークが重なって上に浮かんでいる。


 メガネを取って見ると晴れのマークしかない。

 雨が降るってこと?半信半疑だが傘も持って学校に行くことにした。


「カオリー、もう時間ないんじゃない?遅刻しちゃうわよー」母が部屋をノックしてきた。


『うるさいなー、わかってるよ。』


 いちいちわかっていることを言ってくるのが鬱陶しい、

 高校生になってからはそう思うことが増えていた。


「あら、届いた荷物はメガネだったの?似合ってるじゃない。

 勉強できそうな感じで。見た目通り勉強しなさいよー」


『いちいちうるさいな、もう学校行くから。』


 玄関で靴を履こうとした時、母の顔が見えた。


 そこには浮き出た文字で、


【将来苦労してほしくなくてつい口うるさく言ってしまう。】


【カオリのことが大切で大好きだから】


 と見えた。


 大切で大好き?そんなはずはない。

 いつもいつも口うるさくてしつこく言ってくるお母さんが私のことを思って言ってくれてるなんて。


 ほら、今日だって晴れてるし、このメガネは偽物なんだ。


 カオリは授業中も朝みた言葉を考えていた。そんなはずはない、と思いながら。


「今日は前から言ってた古語テストをするぞー」教師の伊藤がいう。


 げ、忘れてた。これで悪い点取ったらお母さんがうるさく言うんだよなー。

 でも、もし朝見たことが本当なら、うるさく言われるのも嬉しいかも、と少し思ってしまっていた。


 問題用紙が配られると、問題の横にまた浮かんだ文字が見えた。


 え、これ、答え?カオリは思わず書き写してしまっていた。

 テストが終わり、教科書で確認すると、みた文字は全て当たっていた。


 このメガネは本当に真実が見えるんだ。


 そうだ、ミサキと話してその真実も見てみよう。


 休み時間になると、すぐにミサキの元に行った。


「あれ、カオリメガネにしたの?」


『うん、前に買ったんだ。』


「そんなことより、カオリネットの人と会うの3日後だったよね?

 やっぱりやめた方がいいよ、危ないし。」


 お、言ってきた言ってきた。

 絶対嫉妬で言ってきてるんだ。


 ミサキの顔を見て目を凝らすと、文字が浮き上がってきた。


【むかつくむかつくむかつく】


 やっぱり!ミサキは邪魔しようとしてるんだ。

 カオリは予想が当たって内心笑っていた。嫉妬するなんて可哀想に。


 と、まだ文字が続いている。


【私の大事な親友のカオリが危ない目に会おうとしているのに止められない】


【無力な自分に、よくわからんネットの男にもむかつく】


「え」


『どうしたの?カオリ』


「いや、なんでもない」


 驚きだった。ミサキは自分のためを思って言っていた?

 お母さんもミサキも私のこと大切って・・


 その日は午後から雨が降り持久走は自習に変更された。

 秋の涼しさが増すような、爽やかな秋雨だった。


 ◇


 その日は一日お母さんとミサキのことを考えていた。

 私のことを思って言ってくれていて嬉しいような、疑ってしまって申しわけないような気持ち。


 レンに連絡を返していないと気付いたのは夕方だった。

 昨日の夜から返していない。


 3日後に会えるの楽しみだねーって話してから。


 お母さんもミサキも私のことを思って心配してくれている。

 こんな気持ちでレンと会っても楽しめないから、会うのはやめておこう。


 カオリはそう思いスマホを手に取りレンにメッセージを打った。


『カオリ:レン!ごめん、3日後に会うの無理になりそうなんだ』


 返信はすぐにきた。


「レン:どうしたの?なんかあった?」


 いつもの優しいレンの返信に心がホッとした。

 こんなに優しいのに、みんな心配しすぎだよ。


 レンの返信の横に文字が浮き出てきた。


【会いたい会いたい会いたい

 会いたい会いたい会いたい】


 そこでメガネをかけっぱなしだと言うことに気付いた。

 レンも同じ気持ちなんだと言うことがわかってカオリは嬉しかった。


【会って早く殺したい】


 その浮かんだ文字が目に入ってカオリは息を飲んだ。

 手が震えたがスマホから目が離せない。


「誰?これ・・」


 そこにはレンから送られてきた写真とは似ても似つかない40代過ぎくらいの男が写っていた。


【バカそうだから声かけたのに、会えないとかふざけんな】


【もう少しだったのに】


 その文字を見てカオリはやっと気付いた。


 私は騙されていたのだ、と。


 ◇


 数日後。カオリの母と父が話している。


「カオリ最近勉強頑張ってるみたいなのよー。

 あなた何かカオリに言った?


 前はスマホばっかりしてたのに全然スマホも見なくなって。

 友達のミサキちゃんとも最近よく勉強会してるみたい。


 驚いたのが、『お母さんいつもありがとう。お母さんのおかげで毎日過ごせて支えられてるよ』

 って言ってくれて涙が出そうなくらい嬉しかったわ。


 あの子がそんなこと思っているなんて。

 思っていることはちゃんと口に出さないと伝わらないわよね。


 口うるさく言ってしまうのはカオリのためを思って言ってる、

 大切で大好きな自慢の娘だって私もちゃんと口に出して伝えていこうと思うわ。」

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