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 大嫌いだった秋の、大好きだった思い出(リライト企画 1234をリライトしました)

作者: いかすみこ

しいな ここみ様『リライト企画』参加作品。


本羽 香那様の『秋なんて大嫌い (1234)』をリライトさせていただきました。

https://ncode.syosetu.com/n8789il/

拙著のまえにぜひお読みください。


原作のヒロインの可愛いツンデレっぷりを再現出来ていたら本望です。

素敵な企画と原作ありがとうございます。

 私は秋は嫌い。冬の訪れを想起させる肌寒さが、老境の自分の人生の終わりを思い起こさせるから。

 私は秋は嫌い。かつての好物も、一口か二口食べればもう嫌になる。食欲の秋などという言葉は空しいだけ。

 かつては心躍らせた小説も、老眼で文字を追う気力が無くなり、ほこりをかぶりながら積みあがっている。

 絵も音楽も、年老いた私の枯れた感性を揺さぶることは難しい。


 せめて、大好きな花を見て心を慰めようと家人が持ってきてくれた花瓶に目を向ける。春の華やかな色彩と違い、秋の花々はどこか侘しさを感じさせた。

 


 私は秋は嫌い。季節の変わり目のせいで体調を崩すから。

 横たわったベッドの上で溜息をつく。

 病室の窓からは大きな広葉樹が見える。紅に染まった葉がハラハラと舞い落ちる。


『葉っぱが全部落ちるころ、きっと私は天に召されるの』


 大昔に読んだ、古い海外小説のフレーズを思いだす。



 私は秋は嫌い。

 『寒いのか?ならこれでも着るか?』とウインドブレーカーを貸してくれた彼に、ずっとお礼を言えなかった悔いを思い出すから。

 あの時のあなたの優しさに恋に落ちた、と最後まで告げることが出来なかったズルい自分に泣きたくなるから。





「お祖母ちゃん、調子はどう?」


 病室の扉を開ける音とともに聞こえたのは孫の声だった。頻繁に高校からの帰り途中に見舞いに来てくれる優しい孫。


 本当にあの人にそっくり。初めて恋に落ちた頃のあの人に。姿も優しさも……


 顔を声がした方に向けようとするが上手くいかない。……何故か声も出ない……


「お祖母ちゃん?、お祖母ちゃん!?看護師さん!祖母の様子がおかしいです!!!」

 

 バタバタと騒がしくなり、医師と看護師達が次々と部屋を出入りする。





 私は秋は嫌い。

 大好きな彼が天に召されてしまった季節だから。


 病室で迎えた銀婚式。


『旅行に行く約束だったのに』


 とふてくされる私に謝る彼。


『……ごめん……治ったら……約束果たすよ……だから泣かないで……』


 優しい言葉と微笑みを残し、ひとりで天国へ旅立っていった彼の最期が頭から離れないから。

 永遠の別れの時にまで、素直になれなかった自分に泣きたくなるから。


 私は秋が嫌い。私は秋が一番……大っ嫌い……







 でも、これからは好きになれる気がする。

 だってようやく大好きな彼の元に行けそうだから。


 待ち望んだ再会の時になら、『風が強かった秋の日に、あなたに初めての恋をした』と素直に気持ちを伝えられそうだから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 元ストーリーの主人公の遠い未来の物語としてすんなり読めました。 [一言] ……うん、よかったね  (´;ω;`)
[良い点] ここまで話の展開を進めてくださり、本当に嬉しいです。 拙作では、秋が嫌いな理由が彼であることは始まりにすぎませんが、本作では彼が大きな理由としてあげられているところが素敵だと思いました。 …
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