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あいはおもい

作者: 伊燈秋良

 1人の男がおりました。男はヤンデレが大好きでした。愛した人の為なら全てを敵にする献身さと一途さと重さにトキめき、憧れたのです。しかし、男はモテないので、それはおとぎ話の他人事でした。ある日、女の子を助けました。それをキッカケに、2人は交際を始めました。コレが悲劇の始まりと知らずに。


 最初の悲劇は男こと彼に降り掛かりました。彼の秘蔵するヤンデレ作品が無くなってたのです。全年齢から成人向け。古今東西の重い愛の記録が全て紛失。原因は女の子こと彼女でした。理由は自分以外の女にデレデレするのが許せないとの事。彼は怒りましたが、彼女の言い分が正しいので抑えました。


 因みに処分方法がフリマらしく、その収入で2人は美味しいご飯を食べて仲直りしました。めでたし、めでたし。とならなかったのが次の悲劇です。翌日から、彼女は毎日弁当を作りました。家にいる時は全て彼女の手料理で、共に外食に行く事も、彼がする事も許さなくなったのです。


 彼氏は彼女に尋ねると、他人の作った料理を彼が食べて消化、吸収する事が許せなかったのです。大好きな彼に、他人の作った物が混ざる事が許せなかったのです。彼は美味しい外食が食べれない事に不満を抱きましたが、代わりに彼女の手料理が上達したので許しました。しかし、悲劇はまだ終わりません。


 今度の悲劇は、彼のスマホからソシャゲアプリが削除されていたのです。コレには彼も納得出来ません。何故ならアプリには、可愛いヤンデレが沢山いたのです。ヤンデレ目当てで始めたゲームも多く、そのどれもがプレイヤーたる彼に愛を向けて説いていたのです。


 しかし彼女も反論。ヤンデレ作品の様に自分だけを見て愛して欲しいと懇願するのです。一度ならず二度までも、流石に彼も黙るしかありません。が、それでもヤンデレ作品を失った喪失感は想像以上に堪えた彼は、ある提案を持ち掛けました。


「あのヤンデレキャラのコスプレして」


 彼女は反対しました。自分が他の女の代わりになるのが嫌だからです。当然の反応に彼は、


「コスプレした、普段と違う君を愛したい」


 と説得して了承させます。お店でカツラや飾りを買ってゲームキャラに扮した彼女に、彼は過去最高に興奮します。その日は2人共、熱帯夜の密林の如き一時を過ごしました。


 それでも悲劇は訪れます。彼は目覚めると、自宅で鎖に繋がれてました。鎖は壁に付けられた金具に繋がっており、家の中は動けど外には出れません。実行犯である彼女に訳を問うと、買い物の時に彼が不意に他の女を視線で追っていたに気付き、許せなかったのです。


 軟禁状態に陥った彼は、余りの出来事に言葉を失います。ヤンデレ作品ではお決まりのシチュエーションですが、現実で、自分で体験すると余りにも厳しい出来事だからです。彼は無気力になりますが、反比例して彼女は活き活きと万遍の笑みを浮かべる様になりました。彼が家にいる安心感からでした。


 そう、彼女は実はヤンデレだったのです。或いはヤンデレになったのか、真相は定かではありません。ただ1つ言えるのは、彼女に重い愛を、病的な愛を向けられている事。そう思うと、軟禁状態は別として男は気分が高揚するのでした。


 彼女も、過去最高に幸せそうに振る舞うので、彼も遂に観念。彼女と2人だけの世界に閉じ籠る事を決意。彼女も用意周到で、支払いはネットで。出入はいつの間にかしてた株。物品は配達と、完全に引き篭もる準備は万端。2人は自分達だけの世界で幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし…の筈でした。


 それから月日が経った時に悲劇は起こりました。生鮮食品の配達が来て、彼女がそれを受け取りに行きました。その際、配達員である「男の声」を、彼が聞いてしまったのです。彼は彼女に問い質します。


「自分を他者から離す為に軟禁してでも愛してた筈なのに、そっちは他人と関わるのか?」


 彼女も返しますが、彼には届きませんでした。彼は軟禁から彼女以外の人との交流を絶っている為、人との関わりを彼女に依存していたのです。ミイラ取りがミイラになる。他の女に彼を見られたくなかった彼女は、彼からも他の男に見られて欲しくなかったのです。


 軟禁生活で痩せ細ったのか、彼は鎖から脱して彼女を逆に鎖で繋ぎました。衣服を破いて更に縛り、立場は逆転。自由になった彼はその場から逃げず、逆に彼女抱き締めます。


「俺だけを見て」


 言われ続けた彼は彼女にそれを言うと、彼女も歓喜の笑顔を浮かべます。2人は両想いになった…筈でした。


 2人は昼夜を問わず愛し合いました。男は軟禁された反動か、激しく彼女を愛し、恋焦がれ、求めました。外側も内側も自分の痕跡を残してはまた残して。彼女への想いは湧いては出しても、空になって。また湧いては出しては空になってを繰り返します。


 空になった虚しさを、彼は彼女を抱き締めて満たします。まるで、腹の底に彼女を取り込まんばかりに強く、強く、抱き締めます。彼もそうである様に、彼女も彼を求めて愛し、求めました。…そして悲劇は訪れます。


 愛して愛されて、愛して愛して愛されて、愛して愛して愛して愛されて、愛して愛して愛して愛して愛されて愛して愛して愛して愛して愛して。


「…いや…」


 彼女は言葉と共に彼を押し退けます。彼が見たのは、全身痕だらけになって怯える彼女でした。彼の強過ぎる愛情表現に耐え切れず拒絶したのです。彼は突然の出来事で思考が停止します。身体が勝手に進むと、彼女は、


「来ないで!」


 と叫びます。ようやく頭が冷えて男は正気が戻り、罪悪感が一気に押し寄せました。愛だったその行為に、後悔と恥を知ったのです。男は台所に向かうと、包丁を持って彼女に詰め寄り、包丁を向けました。


 彼は包丁で彼女を縛る衣服を切りました。自由になった彼女に、彼は逃げる様に促します。彼女は適当に衣服を着て家を出ました。男は警察に通報されるのも覚悟しました。自身が求めた愛は人を傷付ける。生まれた事を後悔する程です。…彼は背後に気配を感じました。


 彼は覚悟して振り返ると、彼女が彼を抱き締めたのです。予想外の出来事に混乱する彼ですが、彼女は耳元で囁きます。


「大丈夫…一緒ですよ」


 彼女も初めは混乱したのでしょう。でも今は違います。彼女は、彼を受け入れ直したのです。最後の悲劇です。2人は仲直りし、元通りの生活を送るのでした。

性癖。

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