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ねえちゃんとオレ

「早く起きなさい!」


 オレのあさはいっつもねえちゃんのこのこえからはじまる。


「ったくもう、一体いまなんじだとおもってるんだよー」

「6時50分よ、もう時計読めるでしょ!」

「それぐらいよめるよー、っていうかここからじゃとけいが見えないんだよー」「早くしないと遅刻するわよ!もう今度の四月から小学生なんだから、しっかりしないとダメでしょ!」


 オレのねえちゃんはいっつもおこってる、どうしたらわらうのかわかんない。


「ほら早く着替えて、ちゃんとパジャマを畳んで!ああもう、そうやって雑にやったらかえって面倒じゃない!」


 ああもう…ってすこしでもぐずぐずするともっとおこる。

 すこしはあったかくなったから大じょうぶでしょって、まだ2月なのにさー。

「今日の最低気温は6℃よ、もうそんなに寒くなんかないのになぁ……あーあもう嫌になっちゃう…………」

 で、さいごにそうぶつぶついいながらかいだんをおりるまでがいつものあさ。




「何をそんなにカリカリしてるの勝美、何か不安でもあるの」

「大ありよ、ったくどうして祐二はいつまでも赤ん坊のつもりなんだか……あんなんで四月から小学生が務まるの……?」

「もう勝美ったら……ああ祐二おはよう」

「ドタドタうるさいわよ、転んでけがをしたら大変でしょほら、もう母さんも悠長なんだから!」


 ママはやさしいのにねえちゃんはこれ。

 なんかママでさえねえちゃんのいうことにさからえないってかんじでさ。


「イライラしながら食べてもおいしくないわよ、はいパン焼けたわよ祐二」

「いただきます、あっ祐二ちゃんと座っていただきますを言いなさい!」




 あっねえふぁんオフェの目玉はひあいするお!




「いただきますを言わない上に口に物入れたまま喋るなんて、罰として目玉焼きは没収よ!」

「ちょっと勝美!」

「母さん!母さん、母さんは……」


 ああねえちゃんないちゃったよ!オレそんなにわるいことした!?


「ったくもう、勝美あなたちょっとは落ち着きなさい」

「だって、だって……わだじっ……!」

「もう、勝美はよく頑張ったから、だからちゃんと学校も受かったでしょ。受験勉強中ずっとイライラしてたのはわかるけど、もう終わったんだからちょっとぐらい心を広くして落ち着きなさいよ」

「うん…祐二…お願いね…頼むから…」

「あーはいはい、わかりましたごめんなさい。」


 ああもう、目玉やきはあげるから、いただきます。


 ったくもう、あさっぱらからぐだぐだしてるのはどっちなんだよ。







 ああ、オレの名まえはあねざきゆうじ、ようちえんのねんちょう。




 こんどの4月からねえちゃんがむかしかよってたあおば小学校ってとこにいくことになってるけど、一体どんなとこなんだろうな。


「ボクのねえさんもいってたとこだけど、たのしいとこらしいよ?たしか550にんぐらいいるって」


 ごひゃくごじゅうってどれぐらい大きなかずなんだろう、オレにはよくわかんない。テレビでやってるヒカレンジャーがよくごおくばいパワーとかっていいながらわるいやつらをやっつけてるんだけど、ごおくってごひゃくのひゃくまんばい?

 5の後ろにゼロが8つくっついてるかずだってねえちゃんはいってたけど…もうわけがわかんない。


 でもオレにもわかることがある、ねえちゃんみたいなひとばっかりだったらたのしくないだろうなーってこと。

 でもかおるのねえちゃんみたいのだったらそうでもないかも。


「ったくもう文香ったら、相変わらず頭が汚いわね」

「ったくもう勝美ったら、相変わらず頭が固いよねー」

 あっかおるってのはオレとおなじようちえんにかよってるオレのともだちで、ふみかってのはかおるのねえちゃんでオレのねえちゃんとおなじ年だって。


「ほら祐二、ちゃんと人様に迷惑をかけないようにしないとダメでしょ」

「勝美ー、そうやって怒鳴りまくって周囲の空気をとげとげしくするのってさー」

「ああごめんごめん、わかっちゃいるんだけど祐二を見ちゃうとつい」


 ったくもうねえちゃんったら、じぶんがそうやって一ばんめいわくをかけてるのにさー…それもオレのせいにするなんてひきょうってやつだよ。

 っていうか、ようちえんがおわったオレとまことをむかえにきたんじゃないのかよ、ねえちゃんはまことのねえちゃんともめるためにきたのかよ。


「あのね祐二…」

「勝美、もういい加減にしなよ」

「………うん」


 ねえちゃんはいっつもそう。

 オレと二人きりのときはあれをやれこれをしちゃだめだってずーっとちゅういしてきて、ママやらふみかねえちゃんやらみくねえちゃんやらにいわれるまでやめようとしない。

 それでオレのことをわがままとかいえるのかよ。

 っていうかここさいきんはとくにひどい。


「勝美は四月から高校生でしょ~。ヒラチュー卒業するついでに祐二くんの事になるとああだこうだって吠えかかるのも卒業したら~ねえ?」

「美紅もさ、その語尾をだらしなく伸ばすのを卒業したら?」

「勝美って本当口がうまいよね~、でももうあとひと月の付き合いなんだからさ~、もうちょっと楽しもうじゃないの~」


 みくねえちゃんってのはふみかねえちゃんとおなじねえちゃんのともだち。ねえちゃんとちがってのほほんとしててやさしいけれど、ねえちゃんはそのみくねえちゃんのことがきにいらないっぽい。


 あれ?ふみかねえちゃんもだれかおむかえにきたの?ふみかねえちゃんって一人っ子ってねえちゃんがいってたけど。


「祐二君知らなかったの~勝美と文香は今度の四月からちょっと遠くの高校に通う事になったからね~、一緒に過ごせるのももうちょっとだけだからって事でね~」

「美紅も寂しがりやね、たかが電車で二十分のとこに行くだけじゃない。人生の間に一体何人と何回別れると思ってるの?別に今生の別れじゃあるまいし」

「勝美、お寿司も食べた方がいいわよ」

「もちろんいろんな味を覚えて好き嫌いを極力なくす事は重要よね。って言うか私お寿司嫌いじゃないんだけど」

「そうだよ、ねえちゃんクリスマスにとったおすしをはんぶんちかくくってたじゃん」

 オレはピザのほうがすきだったからべつにいいけど、ふみかねえちゃんもとつぜんへんなことをいうよなー、まあふみかねえちゃんならしかたないけど。


 ふみかねえちゃんはマンガが大すきで、よむだけじゃなくかくこともある。

 ねえちゃんはオレがマンガをよんでるとすぐ目をはなしなさいだのべんきょうもしなさいだのすぐあきてほうりだしちゃもったいないでしょいってくるからなかなかマンガをよめないオレにとって、ふみかねえちゃんのマンガはありがたいプレゼントだ。

 でもそのあとどこがよかったのかきちんとふみかねえちゃんにいいなさいっていってくるねえちゃんにはまいっちゃうけど。


「ねえ祐二くん、お酢って好き?うーんあんまり好きじゃないみたいだね、でもお酢をたくさんとるとね、体が柔らかくなるんだよ」

「あのねー、それだけじゃないでしょ。今度調べてみるけどさ、とりあえずちゃんといろいろ運動しなきゃ体を柔らかくするなんて無理よ」

「勝美~、そういうとこまずいと思うよ実際~。私や文香みたいな幼なじみならそれでいいかもしんないけどさ~」

「興味を持った事を調べようとして何が悪いの?」

「ってかねえちゃん、いいかげんにしてよ。オレたちをさー」

「ああごめんなさい祐二、悪い事をしちゃったわね。ほらほら早く帰るわよ」

「勝美、何があったの?もしかして祐二君この後また何か」

「何もないわよ。私たち一体何しに来たのかって事を思い出してね………」



 ねえちゃんはそこまでいうと、さっきまでずいぶんとたのしくおしゃべりしてたふみかねえちゃんやみくねえちゃんのいないほうをむきながらオレの手をにぎった。


「かつみおねえちゃん、どうしてそんなにこわそうなかおしてるのー」

「勝美ってさ、少しでも失敗するとすぐそんな顔になるよねー。正直小学生の時から全然変わってないよねー」


 どんなかおしてるんだろとおもってねえちゃんのかおを見たら、あまりにもくらいかおをしてたもんでおもわずうわってこえをあげちゃった。

 そしたらねえちゃんがきゅうにあはははっていいながらえがおになったけど、こわいのはかわんなかった。


「ちょっと祐二君~勝美にそんな事言っちゃダメでしょ~、ああほらまた落ち込んじゃう」

「落ち込んでないからー、アハハハハハ!!」


 ぼうよみってこういうことをいうんだなってオレはおもう。ねえちゃんはふみかねえちゃんのいうところのすこしのしっぱいをずっとひきずってて、かおだけえがおでこころはくらいまんま。

 ねえちゃん、オレにはわかるよ。


 ……あーあ、ねえちゃんかんぜんにだまっちゃった。だまっちゃうとねえちゃんはますますこわくなる。おもわず手をはなしたくなっちゃう、でもそうするとあぶないじゃないってどなられるからつかんでるけど、できればつかんでたくない。




「いい事祐二、姉さんは今度の四月から遠い学校に行く事になったの。もういつまでもあなたの面倒を見ていられる訳じゃないの。その前に言いたい事があるんだけど、祐二、あんたちゃんと朝一人で起きられる?それで着替えられる?そしてちゃんと宿題できる?」

 もうねえちゃんったら、いえにかえってくるなりすぐこれ。

 このいえから出ていってもうにどとかえってこないわけじゃないんだろ?いちいちオーバーすぎるよ。あのねー、オレは赤ちゃんじゃないってーの。

「っていうかそれってさー」

「それって何?」

「なんかねえちゃんじゃなくて、ママってかんじだよ」

「そうかもしれないわね、でも祐二。面倒を見てくれる人がいるって事はものすごーく幸せな事なの。うっとおしいとか思うかもしれないけど、後になってこの事がわかるからって信じてるから、私」

「だからさ、なんてかさ、そんなとこがママみたいだって、ねえちゃんってずるいよ」

「ずるいって何が?」

「ママのおしごとをとっちゃだめでしょ」


 そんなふうにねえちゃんがオレのママみたいなかんじじゃさ、ママのやく目ってなに?

 ねえちゃんママのぶんよこどりしちゃだめだよ。


「母さんはね、ちゃんと外でお仕事してお金を稼いで、それで掃除洗濯買い物料理とかをやってるのよ」

「そお?お金をかせいでるのはパパもおなじじゃん、それでねえちゃんはときどきりょうりをつくってくれるしかいものにもいってるし…ママのやくわりってそうじとせんたくだけなの?」

「おだてないでよ祐二、私の料理なんて母さんと比べたらまだまだよ。出来合いのおかずとかの味をちょっと変えただけだったり、十数分で出来たりするような安っぽいのしか作ってないんだから」


 オレはそんなことぜんぜんしらなかった、でもどっちにせようまいからいいじゃん。


「与えられた物にこれいいなと満足するだけじゃ人間ダメよ、これいいなと思わせる物を与えるのが人間の役目なの。その為にはしっかり足元を固めないといけないの。祐二はしっかりと、その足元を固めて立派な人間になる事から始めなきゃダメなの。だから私はそれができるかできないかものすごーく心配なの、わかった?」

「ねえちゃん、じぶんはどうなんだよ」

「私?私はもう今度の四月から高校生になるのよ、自分で何とかするわよ。それが私の役目って奴よ。祐二にもいつかきっとそんな時が来るんだから、心構えだけは整えておきなさいね」




 なんかねえちゃんってさー、じぶんのことほっといてオレのことばっかりでさ、なんていうかなにをしたいのかよくわかんない。ねえちゃん、大じょうぶかなあ。

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