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小夜と悪魔とオーバーラップ

作者: みかげ

それは、夏休みが終わりを迎え新学期になる前日……夏休み最終日のことだ。


用があって学校に来た私は今、不思議な雰囲気の人と対峙している。


「霊。この女、強い力を感じる。絶対やべぇやつだ……なあ、学校来るのやめないか?」


「何言ってるんですか、グラメット。私に転校初日から不登校になれと?」


私の目の前で、銀髪の転校生──霊と呼ばれた少女が、空中に浮かんでいる謎の生き物──グラメットと会話していた。

霊は気にしていないようだが、グラメットと呼ばれた生物は私のことを警戒している。


「交戦する気はないから安心してくれ。確かに私には不思議な力がある。そこのグラメットとやらが見えるようにな」


グラメットの方を見つつそう言うと二人とも目を真ん丸にした。


「お前、俺が見えてるのか!?」

「グラメットが見えるんですか!?」


「まあ、色々あってな。幽霊、精霊、妖怪、妖精といった非物質的なものに干渉できるんだ」


そう告げるとグラメットは霊の後ろに隠れた。


「……?」


不思議な奴だな、と思っていると霊が申し訳なさそうに口を開く。


「グラメットはその……冗談と思われるかもしれませんが、悪魔なんです」


「悪魔?……ああ、なるほど。これが原因か」


私は無意識化で発動する能力の一つ《聖結界》を自発的に解除した。


悪魔や悪霊などの存在に恐怖心を植え付ける半径五十メートルほどの球形結界であり、普段は自動展開されている。


「あんたナニモンだ?上級悪魔である俺すら弱体化する結界が使えるのは何なんだ?魔王でも倒すのか」


「魔王は三回ほど倒した。だけど今の私はただの高校生であり、これが私だ」


「……なあ霊、こいつが何言ってるか分かるか?」


「わかりますよー、そのくらい。魔王を三回倒したただの高校生ってことです」


「お前に聞いた俺が馬鹿だった」


なんなんだ、この人たち。


「……俺たちは明日からここに通うことになるんだが、こいつの安全確保が必須なんだ。悪いがお前がどういうやつなのか、教えてもらえないか?」


ふわふわと浮いているグラメットが私の前まで飛んできてそう告げてくる。


「わかった。……ただ内容が内容だから、場所を変えよう」




「うわあ!小夜ちんが銀髪ゴスロリ美少女ちゃんをおうちに連れ込んでる!」


「おい桃音、人聞きの悪いことを言うな。単に自己紹介をしようってだけなんだが」


自分の暮らしている学生寮へと彼女たちを案内したら、同じ寮で暮らしている佐倉桃音に見つかった。


「でもなんでわざわざ寮に?」


「ん」


 私は指先でくるっと丸を描き、そのまま指で「10」と「9」を示す。「魔法関連」という暗号だ。


「あーね、了解。みんなにも伝えとくね」


「任せた」


短くやり取りを済ませて,桃音は客間を出ていった。


「さて、待たせてすまない。改めて自己紹介させていただこう。私の名前は泣森小夜だ」


「初めましてですね。灰神楽霊と言います。以後お見知りおきください」


「おれはグラメット。上級悪魔だ」


「まず私たちの話をしましょう」


「私は小さな頃、悪魔の抗争に不運にも巻き込まれてけがをしました。それがきっかけでグラメットは私と行動を共にするようになりました。以降私は悪魔に憑かれております。グラメットを殺そうとする悪魔たちが来たりするので、見える人には特に警戒しているんです」


なるほど。私を警戒したのはそういうことか。


「事情は理解した。では次は私のことを話そう」


私は自分の話をした。小さな頃に見た流星がきっかけでオーバーラップという魔法を得たこと。異世界を渡り歩けること。また、そのスキルなどは累積されていくことなどを話した。


「なるほど、スキルね……結界が張れたのはそういうことか。そして魔王を三回倒したってのも、異世界を旅していたのであれば頷ける」


「にしてもとんでもない修羅場をくぐってきたんですね……だから大人びて見えるんですかね」


どうやら彼女たちは納得してくれたようだ。


「ま、そういうことだ。この世界でも魔物はたまに発生するから、それらを倒す以外の目的でこの力を使うことは殆どないから安心してくれ」


「助かります。ただ……厚かましいことですが、私たちの敵【悪魔】が来た場合は、事情を聴取するなどしてくださると非常に助かります」


そうか、この子達は安全を確保するために私の素性を知りたがっていたんだったな。失念していた。


「承知した。そうだな……グラメット以外の悪魔にだけ有効な聖結界を張っておくことにする」




数日後の朝。あの日連絡先を交換した灰神楽霊からメールが来ていた。


『悪魔に襲われましたが、聖結界で弱体化していたため対処が非常に楽でした』


どうやら私の張り直した結界が役に立っていたようだ。

律儀に連絡をよこすあたり彼女の性格がにじみ出ている。

メールの文面を眺めていると、後ろから声をかけられた。


「それ、こないだのゴスロリちゃん?結局どういう話だったの?」


「ざっくり言えば三冬と似たような感じだよ」


「あー、妖精とかそういう見えないものが見える子?」


「そういうことだ。彼女の場合は妖精ではなく悪魔だったけどな」


桃音はうへー、と変な表情をして出ていった。


私が町全体に張った固定結界により町中の悪魔、悪霊が弱体化し、

悪霊による悪さが減った町が幾分か平和になっていたらしいのだが、

この時の私には知る由もなかったのだった。

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