3.教会の悲願、勇者の役目(2)
ファティス教会の本部は街の正門からそう遠くない場所にあった。
正式名称は【大聖堂】というらしい。汚れひとつ無い白亜の壁、特徴的な尖った屋根、窓には七色の硝子が用いられている。その外観はとても神秘的かつ壮大だった。
そして建物の上部には“翼の生えた剣”のような紋章が彫られている。この形になんとなく見覚えがあるような気がしたが、すぐには思い出せなかった。
見慣れない建物に圧倒されながらも扉まで進んでいく。
私の前を歩いていたカタリスの足が止まった。振り返った彼の顔からは先程までの薄い笑みは消え、真剣な表情そのものだった。
「この扉の先に教皇様がおられます。モモ様、貴女が知りたいことは全て教皇様から話して頂けるでしょう」
「わかりました」
私がコクリと頷くと、カタリスは扉の取っ手をしっかりと掴んで外側へと引いた。重そうな扉はゆっくりと左右に開かれ、カタリスと共に中へ入る。
外観も美しかったが、内装の造りは更に凝っていた。天井は床から三十メリル程の高さで、滑らかな質感の長椅子が道を挟んで綺麗に整列している。
染みひとつ無い赤い絨毯の上を歩き、更に前へと進んでいく。
目の前に広がるのは七色の硝子の窓。そこから差し込む日の光もまた色鮮やかな影を写している。そして、そんな光を浴びながらこちらに背を向けている人物が一人。
カタリスはその人物を視認すると、右手で左胸辺りを抑え、深く頭を下げた。
「エルベ様、今代の勇者モモ様をお連れしました」
エルベと呼ばれた人物が振り返る。
そこにいたのは純白の衣を纏った女性だった。人形のように端正な顔立ち、衣服に負けないぐらい白い肌。腰の高さまである長い銀髪は日の光を反射して煌めいている。
身長は私より少し高いくらいだ。おそらく百六十セリル程度。
華奢な身体だが身体が描く線は綺麗で、薄手の衣服のせいか少しだけ扇情的にも見える。
この人なら神の使いだと言われても信じてしまいそうだ。
首にはカタリスが身に付けていたものと同じ金の首飾り。それを見てようやく気がついた。首飾りの形と教会に彫られていた紋章が同じであることに。既視感の正体はそれだ。
「ご苦労でしたねカタリス。下がって良いですよ」
「承知致しました」
エルベが透き通った声で命じると、カタリスはもう一度深く頭を下げてから入ってきた方へと引き返していった。
教会内は静寂に包まれ、二人だけになる。エルベはカタリスと同じ所作でお淑やかにお辞儀をした。
「お初にお目にかかります、モモ様。私の名はエルベ。説明があったと思いますが、このファティス教会の教皇を務めている者です。以後お見知り置きを」
「こ、こんにちは……」
あまりにも丁寧な挨拶に少し萎縮してしまう。教皇は偉い人だと聞いていたので、もう少し高圧的な感じだと思っていた。
エルベは頭を下げたまま続ける。
「先に一つだけ謝罪をさせて下さい。つい数刻前、枢機卿カタリスの愚行を人づてに聞きました。なんでもモモ様のご両親に無礼を働いていたと……。彼に代わりお詫びします。申し訳ありません」
思いがけず真剣な謝罪されて困惑した私は慌ただしく手を振る。
「いえいえ、そんな気にしないでください! 悪いのはあの人ですし!」
実際その通りだ。カタリスの不手際はあくまで彼のものであり、エルベが頭を下げる必要はない。少なくとも初対面で他人の父親を眠らせるような者より、エルベは遥かにまともだった。
「カタリスには私の方から罰を課しておきます。お望みであればモモ様が直接手を下して頂いても構いません」
「え、遠慮しておきます……」
生憎と私にそういった趣味は無い。確かに彼のことはあまり良く思っていないが、今のところ両親はあの日の記憶を失った以外に特に異常は見当たらなかった。罰を課すというのなら彼よりも上の立場であるエルベに任せるべきだろう。
ひとまずその問題は捨て置き、私は意を決して本題を切り出す。
「それで私はどうしてここに呼ばれたんでしょうか? カタリスさんから話は聞いたんですけど、正直私が勇者だと言われてもよくわからなくて……」
「安心してください。今から全てを語りましょう。我々ファティス教会が何を目的とした機関なのか、そして勇者様のお役目がどのようなものなのかを」
そう言ってエルベは私の元へとゆっくり歩み寄ってきた。近くで見るとその容貌はより美しく、ふわりと揺れる銀色の髪はどこか幻想的だった。
「まず初めに一つだけ訊かせてください。モモ様、貴女は“魔物”という存在を目にしたことがありますか?」
「いえ、直接見たことは無いです。大人の人達は“この世のものとは思えない化け物”だって言ってましたけど、本当にそんなものがいるんですか?」
その問いかけにエルベはゆっくりと頷く。
「えぇ、実在します。彼らの姿形は様々ですが、その行動原理は極めて単純。根底にあるのは“人間の捕食”という欲だけです。
加えて魔物は非常に強い力を有しています。ただの人間では相手にすらなりません」
──私もただの人間なんだけどなぁ……
苦笑いしつつエルベの話の続きを聞く。
「およそ百年前の話です。ファティス教会が設立してまだ間もない頃、一人の修道女が託宣を受け取りました。
それは『祝福を与えられし勇者が魔物を滅ぼし、世界を救う』という神からのお告げでした。
神託は回数を重ねる毎に具体性を持ち始めました。年齢、性別、髪の色、住んでいる地域。
神を強く信仰している我々教会はその神託を信じ、それらの特徴に一致する人物を探し始めました。
そして長い月日を費やした末に、ついにその内容と一致する者を発見したのです。それが最初の勇者だといわれています」
エルベの言う「最初の勇者」という単語が少し引っかかった。実際、私が勇者に選ばれたということは勇者が唯一の存在ではなく、複数人いることを示している。
「最初の……ってことは、勇者さんは一人じゃなかったってことですよね?」
「はい。これまで選ばれた勇者様は総勢九十九名。貴方を含めればちょうど百名になります。
こうして神託によって選ばれた勇者様には神から大きな力を授かる資格がありました。それは【祝福】と呼ばれるものです。
祝福の内容は勇者様によってそれぞれ異なりました。万物を断ち切る剣もあれば、空を駆ける異能もあったと伝わっています。
どれも強大な力でした。人の身では到底敵わない魔物を一人で倒してしまえる程に」
人間では手も足も出ないという魔物。そんな存在をたった一人で倒すという勇者。
あまりにも壮大な話に付いていくのがやっとだった。
「近年では我々教会も神の力の一端を借り受け、【洗礼武装】という特別な武器を生み出すことに成功しました。それを持つ教徒ならば魔物とも最低限戦うことが出来るでしょう」
洗礼武装。カタリスが嵌めていたあの指輪のことだ。あれは人を一瞬で眠りにつかせ、記憶すら改竄してしまえる程に強力な代物だった。
確かにあの力があれば人ならざるものとも戦えるかもしれない。そう思うと少しだけ安心した。なにも戦えるのは勇者だけ、という訳ではないらしい。
しかしそんな私とは裏腹に、エルベはどこか悔しそうに目を伏せる。
「しかし洗礼武装は所詮、祝福の劣化に過ぎません。加えて大量に作り出すことも出来ない。
現に我々が討伐に成功した魔物の数は両手の指で数えられる程度。対して教会では毎年五十名を越える犠牲者が出ています」
「そんなに……」
血生臭い現実を突きつけられ、私は驚愕した。
知らなかった。いや、今まで私は知ろうとしていなかったのだと思う。魔物という実在する恐ろしい存在をどこか他人事のように捉え、私は平穏な日々を送ってきた。その裏側で沢山の人が死んでいるというのに。
「故に世界には祝福を扱うことの出来る勇者様が必要なのです。そして神託により選ばれた百人目の勇者、それが貴女でした。
ここまではお分かり頂けたでしょうか?」
ごちゃごちゃとした頭の中を整理する。
要約するとこうだ。魔物を倒すためには勇者が必要であり、勇者は神託によって選ばれる。
教会の教徒達にも戦う手段はあるが、勇者のそれには遠く及ばない。難しい用語は多かったが、聞いてみれば至極単純な話だった。
だが幾つか疑問はある。そもそも百人という数は多過ぎないだろうか。それだけの勇者がいるなら、今頃村や街に一人ずつ勇者が配置されていてもおかしくないはずだ。
だが少なくとも私の故郷である村には勇者と思しき人物は存在しなかった。果たして九十人以上いるはずの彼らは今どこで何をしているのだろう。
そんな疑問をエルベに問う。
「はい、なんとなくわかりました。えっと、でも私を入れたら百人もいるんですよね。他の勇者さん達は今もどこかで戦ってるんですか?」
エルベは戸惑ったように間を開ける。
その表情はどこか苦痛を堪えているようだった。やがて覚悟を決めたのか、エルベは重たい口を開く。
「……いません。今代の勇者は貴女だけです、モモ様」
「えっ……?」
「歴代の勇者九十九名、その全てが死亡、または消息を断ちました。故に我々教会が頼れるのは貴女ただ一人だけなのです」
辺りが静寂に包まれる。
衝撃の事実を伝えられ、私はただ呆然と立ち尽くす他なかった。
つまり百人というのは現存の人数ではなく、百代目という意味だったのだ。
そこでようやく悟った。お父さんがカタリスを襲ってまで私を逃そうとした理由が。勇者という役職を与えられ、死地へと赴く娘を親が止めない訳がない。
エルベはもう一度深く頭を下げて懇願する。
「どうかお願い致します。祝福を授かり、我々をお救いください。勇者モモ様」
「そんな、急に言われても……」
弱々しく掠れた声が口から漏れていく。
勇者になれ。つまりそれは死んでくださいと言われているようなものだった。
事実としてこの百年で九十を越える勇者が死んでいる。ちょうど一年に一人が亡くなっている計算だ。
祝福という強力な力が与えられて尚魔物に敗北しているというのに、剣も握ったことのない農家の娘に何が出来るというのだろう。
──無理だよ、そんなの。世界のために命を懸ける。そんな大役、私に務まる訳ない。
「無理にとは言いません。今から私は目を瞑ります。その間に貴女がどこかへ行ってしまっても私はおそらく気がつかないでしょう。
……ですが貴女が戦ってくださらなければ、今よりもっと多くの死者が出ます。それは覆しようのない未来です」
卑怯な言い方だと思った。だがエルベはそれを承知の上で頭を下げている。血が出るくらい唇を強く噛み締めながら。
瞼を閉じたエルベを見て、心が揺らぐ。
──帰らなきゃ。
本能がそう叫んでいる。
魔物が消えるのが先か。自分が倒れるのが先か。違う、これはもはや賭けですらない。
どれだけ強い力を貰ったとしても、遅かれ早かれ勇者は死ぬ。たった一人で魔物を滅ぼしきるなんて不可能だと歴史が証明している。小鳥が嵐の海に身を投じるようなものだ。
私は重たい脚を持ち上げ、後退りした。
──これでいいんだ。このまま村に帰って全部忘れちゃえば……
エルベがくれた最後の機会を無駄にしてはいけない。そう思い一歩、また一歩と退がる。
分厚い絨毯の感触が今はとても不快だ。雨でぬかるんだ地面のようにも思えた。
そんなことを思ったせいか、ふと一つの思い出が頭を過ぎる。
草に覆われた丘の上。雨に降られた一人の少女と二人の大人が木の下で雨宿りをしている。間違いない、あれは私と両親だ。
少女の背丈は百セリルにも満たない。おそらくこれは私がまだ五歳で、野原を駆け回り汚れて帰ってくるのが当たり前だった頃の光景だ。
お母さんはそんな泥だらけの少女の頭を優しく撫でる。
「またこんなに汚れて……男の子達と喧嘩でもしたんでしょう?」
「だって『お前はちっこいから木なんか登れない』ってバカにされたんだもん!」
確か同い年の男の子達に背丈の低さを揶揄われたのだ。少女は実に不満そうにプイッと顔を背けた。
子供特有の意地を張り、反省の色など少しも見せない。かつての私は怒りやすく泣きやすい、そんな手のかかる子供だった。
「だからって暴力を振るっちゃ駄目。殴った方も殴られた方も痛いのよ?」
いつもは優しいお母さんだが、暴力に対しては特に厳しかった。ジーッと向けられるその視線の前では少女の抵抗も長くは続かず、次第に目元が潤み始める。彼女が自分の非を認めるまでそう時間はかからなかった。
「ごめんなさい……」
素直に謝るとお母さんは暖かい手で私の頭を撫でてくれた。それが余計に自分の愚かさを実感させ、強く後悔したのを今でもよく覚えている。
「モモ、あなたは優しい娘に育ってね。困っている人がいたら手を差し伸べてあげられる、そんな人に」
そう言って微笑むお母さん。その隣でお父さんが「ハハッ!」と豪快に笑った。
「大丈夫さ。なんせ俺とお前の子なんだ。きっと強くて逞しい人間に育つさ!」
お母さんと違い、大きな手でぐしゃぐしゃと頭を撫でてくるお父さん。そんな二人の間に挟まれていた少女はいつの間にか泣き止み、満面の笑みを浮かべている。
「うん、わたしいい子になる!」
小さな私は無邪気にそう言い放っていた。
遠い昔、両親と交わした他愛もない約束が今になって蘇ってきた。懐かしい記憶に思わず逃げかけていた足が止まる。
思い出した。私はこの日を境に強くて優しい娘になろうと誓ったのだ。それからは喧嘩なんて一度もしていないし、村で困っている人を見かけたら自分から声をかけるようになった。
やがて周りの人達からは頼りにされるようになった。沢山褒めてもらえるようになった。何より皆が喜んでくれるのが嬉しかった。
誰かの幸せのために頑張れる、私はそんな自分が好きだ。そして今の自分の姿はそんな理想像とは遠くかけ離れていた。
──違う、よね。
逃げていい。客観的に見てもこれは正しい選択のはずだ。誰だって死ぬのは怖い。私だってその例に漏れない。
だが両親の顔を思い出す度に胸が疼く。私がこうして幸せな日々を送っている間にも、沢山の人が死んでいた。中には親を亡くした子供達だっていたかもしれない。
そしてそんな悪夢はこれから先も続く。少なくとも勇者が剣を取らなければ、この状況は更に悪化していくだろう。
──こんな時、私が望んだ「強くて優しい娘」ならどうするのかな……
そう思った時、脳裏に浮かんだ答えは一つだった。情けない自分を殺すべく拳を強く握る。全ては私の好きな私でいるために。
深く息を吸い込み、私は絨毯を強く踏み締めて一歩前に出た。
──お父さん、お母さん、馬鹿な娘でごめんなさい。でも私は後悔したくないから。二人が望んでくれた私でいたいから。だから……
その先を口にすればもう二度と引き返せない。農家の娘モモとしての人生はここで幕を下ろすだろう。
壇上に広がっているのは終わりのない地獄だ。希望もなく、未来もない。自ら降りることなど許されない真っ暗な舞台が私という主役を待っている。
私は覚悟を決めて口を開いた。
「……やります」
立ち尽くしていたエルベがゆっくりと瞼を持ち上げた。私はそのまま心の内を曝け出す。
「正直に言っちゃうと怖いです。そもそも魔物なんて会ったことないですし、剣を振ったこともないですし。……でも、それはきっと私にしか出来ないことだから」
本音を全て吐き出したおかげか、少しだけ肩が軽くなった。エルベの宝石のような瞳を真っ直ぐに見つめながら決意を表す。
「だから勇者になります。私が魔物を全部倒して、皆を守ります」
「本当に、よろしいのですね?」
その問いかけに強く頷き返す。私の胸にもう迷いは無かった。
「勇敢なる少女、モモ様に改めて敬意を」
そう言ってエルベは胸に手を当て頭を下げた。先程カタリスも同じようなお辞儀をしていたので、これは教会では意味のある所作なのかもしれない。
そんなことを考えていると、エルベは銀の髪を揺らしながら私の目の前まで近づいてきた。僅か1メリル手前の距離でピタリと停止する。
「ではモモ様、今から貴女に【祝福】を授けます」
「い、今からですか!? そんないきなり授けちゃって大丈夫なものなんですか? 私まだ心の準備が……」
「問題ありません。それに祝福の内容がわからなければ今後の計画も立てられませんから。何事も早いに越したことはありません」
そう言ってエルベはニコリと微笑む。どうやら彼女の方は準備万端らしい。
私が深呼吸して心を落ち着かせている間に、エルベは祝福の具体的な仕組みについて補足する。
「祝福には大きく分けて二つの種類が存在しています。我々教会はそれらを『武装系』、『異能系』と呼称してきました。
武装系は文字通り武器や防具として顕現するもの。異能系は勇者様の身体に宿る特殊な技能だと思って頂ければ」
「な、なるほど……」
武装系はエルベの話の中にも出てきた「万物を断ち切る剣」のようなものだろう。純粋な攻撃力だけならこちらに軍配が上がりそうだが。
──う〜ん、でも私、農具しか持ったことないし……
何せ私は農家の娘だ。腕力になら少しだけ自信があるが、急に武器を手渡されてもすぐさま扱いなすのは不可能だろう。
対する異能系は「空を駆ける力」があったとも言っていた。攻撃力は皆無だが、こちらの方が汎用性に優れているようにも思える。何より鳥のように羽ばたけたら、さぞ気持ち良いことだろう。
──私も空を飛べる力だったらいいなぁ
だが話を聞いている限り、祝福の内容を自分で選ぶことは出来なさそうだ。せめて扱いやすく爽快感のある祝福であることを祈る。
「では目を瞑って、肩の力を抜いてください」
言われた通りに瞼を閉じ、身体の緊張を解く。あとはなるようにしかなるまい。暗くなった世界の中、エルベの透き通った声だけが耳に届いた。
「──我は巫女。神の導きを信じ、神の指先となりし者。
我、戦の女神ファティスに乞い願う。
今こそその御業の一端を杯より零し、勇ましき者に道を拓くための力を授けたまえ」
まるで神に語りかけるような不思議な言葉。
エルベがそれを唱え終えると、大聖堂は再び静寂に包まれた。
「無事に終わりましたよ。どうでしょう、身体に違和感などはありませんか?」
ゆっくりと目を開ける。今頃私の身体は光に包まれて目に見える変化が起こっている……と思っていたのだが、驚くほど何も変わっていなかった。
身体が成長した訳でもなく、五感が鋭くなった訳でもない。
試しに強く念じてみたり、手を握ったり開いたりしてみるが、依然として何かが起こる気配はなかった。
「いえ、特に変わったところは無いみたいです……」
「もしかすると発現までに時間を要するのかもしれませんね……。しばらく様子を見るとしましょう」
ガックリと項垂れる私を意に介さず、エルベは冷静な分析を続ける。
その後も身体を触ってみたり、足踏みしてみたり色々試してみたが結果は変わらず、私に授けられたはずの祝福は不明瞭のままだった。
一通り現状を確認し終えたエルベが口を開く。
「内容は不明ですが、祝福の儀は確かに成功しました。しかしモモ様、貴女はまだ戦い方も知らぬ少女です。例え祝福があろうともそれは変わりません。
故にしっかりと肉体を鍛え、武器の使い方を学んで頂く必要があります。早速明日からは訓練を始めましょう。具体的な内容は担当の者からお伝えしますね」
流石はエルベ。行動が恐ろしく早い。とは言えあまり悠長にもしていられないのは承知の上だ。今や勇者と呼べる存在は私だけなのだから。
一刻も早く魔物と戦えるようになるためにも精進しなくては。
「が、頑張ります……!」
こうして私は世界の命運を背負うことになった。百人目の勇者として全ての魔物を滅ぼし人々を救うという、とても大きな使命を。