ドッペルゲンガー
こちらは百物語四十四話になります。
山ン本怪談百物語↓
https://ncode.syosetu.com/s8993f/
感想やご意見もお待ちしております!
就職がきっかけで、とあるマンションへ引っ越した時のお話です。
就職したばかりの私は、都内にある大きなマンションで1人暮らしをしていました。
家賃は特に高くもなく安くもなく、よくあるタイプのマンションでした。
事件が起きたのは、マンションに住み始めてから数ヶ月後のことです。
「お兄ちゃん、そっちのマンションに泊まっていい?」
大学生の妹が都内で行われるアイドルグループのライブイベントに参加したいらしく、数日間マンションに泊めてほしいと頼んできた。断る理由もなかったので、私は妹にマンションの合鍵を渡しました。
妹がマンションへ泊まりに来た日。私は残業を頼まれてしまい、その日は帰宅時間がかなり遅くなってしまいました。
「ただいま、遅くなってごめん。ちょっと残業が入っちゃって…」
マンションの部屋へ帰宅すると、部屋の中にいた妹が慌てた様子で私の元へ近づいてきました。
「本物?本物だよね?」
妹は混乱した様子で、何度も意味のわからないことを聞いてくる。
「何言ってんだ?本物だけど…」
妹は少しだけ落ち着きを取り戻すと、私に向かってとんでもないことを言い放った。
「ここ引っ越した方がいいよ!お兄ちゃんの『偽者』出るから!」
妹に聞いてみたところ、本物の私が帰宅する前にたくさんの「偽者」が妹の前に現れたらしい。
1人目は今日の昼前。部屋の鍵を開けて中に入った妹は、リビングでお菓子を食べながらテレビを見る私を見つけたらしい。妹が声をかけた瞬間、その私は何も言わずトイレへ向かい、そのまま中で消えてしまったらしい。
2人目は今日の夕方。偽者は何食わぬ顔でマンションの部屋に戻ると、妹に向かって「シャワーを浴びてくる」と言ったらしい。いつまでも出てこない私を心配した妹が浴室の中を覗いてみると、偽者は姿を消していた。
3人目は今から1時間ほど前のこと。会社から帰ってきた偽者は、妹と一緒に食事をしていたという。食事の途中でトイレへ向かった偽者は、再びそのまま姿を消してしまった…
「お兄ちゃん、これ絶対『ドッペルゲンガー』だよ!」
ドッペルゲンガー。自分にそっくりな分身が現れ、勝手に行動するという超常現象だ。精神を病んだことによる幻覚という人もいれば、一種の霊現象だという人もいる。
ドッペルゲンガーと本人が出会ってしまった場合、その人は死んでしまうという噂も存在する。
「いい加減なことを言うなよ。ライブ前だから興奮して、変な幻覚でも見たんじゃないか?」
私がそう言い放つと、妹は何かを思い出したらしく、すぐに浴室の方へ向かった。
「これ、お兄ちゃんのだよね…?」
浴室から妹が持ってきたものは、私が普段着ているスーツと下着でした。スーツには私がよく使うオーデコロンのニオイが染みついており、下着はなぜか少し温かくなっていました。
「おい、どうしてこれを…」
妹は何も言わないまま、黙って私の顔を見続けていました。
その後、私は転勤が決まるまでずっとそのマンションに住み続けました。妹が部屋へ遊びにくることはなくなりましたが、怪現象が起こることもありませんでした。ただ…
「あら、〇〇くん!忘れ物でもしたの?さっき会社へ行ったと思ってたのに…まだマンションに残っていたのね!」
マンションの大家さんが、たまに「私」を見ていたそうです。
皆さんも、偽者には注意してください…