5 お酒を飲むなら、利き酒ゲーム?
変異型の感染が拡大しているのに、人の心が追い付いていないようです。
お酒は、マナーを守って感染予防を徹底して飲む分には問題はないと思います。
おうちで飲むのではイヤな人が、家の外で、節度を持ってお酒を楽しめる方法があればいいのではないかと、お酒をちょっとだけ飲むゲームを考えました。
ぜひ、読んでみてください!
「いまヤバイのって、公園で若い人が集まってお酒飲む『路上飲み』、ってヤツらしいんだけど」
天平が言う。
「路上飲み? ん? 公園で? え? どういうこと?」
公園でお酒飲むって、まさか、お花見のときみたいに公園にお酒を持ちこんで飲んでるってことじゃないよね? えっと、クリスマスマーケットのときにホットワインの屋台が出るらしいけど、そんなお店でも出てるのかな? なんて思おうとしたら、そのまさかの方で――。
「警固公園とかで何人かで集まってその辺に座って缶ビールとか缶チューハイとか飲んでるらしいぞ?」
「え?」
「マスク外して大声で騒いでる人もいるみたいだし?」
「え?」
「飲んだ後の空き缶をそのまま置いて帰る人もいるみたいだし?」
「え⁈」
「ちょっとしたプチハロウィンみたいなカンジっぽさそうっていうか?」
「ええ⁉」
ナニソレ⁉ あり得なくない⁉
僕は耳を疑った。
ハロウィンと言えば、去年のハロウィン。マナーが悪い人が多いと問題になっていたため、新型コロナの感染を拡大させるんじゃないかと心配されていた渋谷より、福岡の警固公園やその周辺の方がマナーの悪い人が多かったんじゃないかという話を聞いて驚いたことを思い出す。
どこに住んでいる人であっても、お酒を飲む人のすべての人がマナーの悪い人っていうことではないんだろうけど……。
「それ……大丈夫なの?」
いろんな意味で。
そんなことしてたら感染してしまうかもしれないし、人に感染させてしまうかもしれないし、感染させるとしたら、それって友達に感染させてしまうかもしれないってことじゃないの? 一緒にお酒飲むくらいだから、友達、なんだよね? それとも、どこの誰かも知らない人と飲んでるってこと? どういうこと? 感染しないかどうかも怖いけど、感染させるかもしれない行動をとる心理も怖くない……⁉
ちょっと怒涛な勢いで混乱してしまう。
「お酒覚えるって、怖いな」
まじめな顔で天平が言う。
お酒を知らなければ、飲もうなんて思わないもんね……。
そっか、お酒を飲めちゃうからいけないんだ……。
なんて、お酒のせいにしようとしてハッとする。
「いやいやいや、お酒のせいみたいになっちゃってるよ? それは違うって」
お酒に問題があるわけじゃありません。
首をふる僕に、天平が、
「そりゃそうだ。飲んでる人の方の問題だもんな」
と苦笑する。
「そうだよ。――お酒飲むのが悪いってことじゃないと思うけど、その結果、マスク外したり大声で騒いだり、それだけじゃなく、空き缶を放置して帰っちゃうとか……あり得ない」
その空き缶、誰が片づけるんだろう?
自分の飲んだ缶は自分で片づければ何の問題もないのに。
なんで空き缶を放置して帰るなんてことができるんだろう――。
信じられない気持ちでいると――。
「お酒のせいじゃなくて、飲んでる人の問題だ、っていうのは、ホント、その通りだよな?」
と、天平がしみじみとした感じで言った。
「ん? その通りって?」
「路上飲みが増えたのって、夜営業のお店が時短営業になったりしたこともあるだろうけど、それだけじゃなくて。お客さんにお酒を出すのをやめてくれっていう自治体の要請、っていうのがあって。感染拡大を抑えるために、たくさんの飲食店がその要請に応じてお酒の提供をやめたから、それでお店でお酒飲めなくなったんで、だったら公園で飲めばいいやん、になったってことだと思うんだけど……?」
と天平が自分の見解を語る。
「そっか。そう言えばお酒を禁止するってなってるよね?」
僕にはお酒は関係ないし、うちはおじいちゃんやおばあちゃんもお酒ってほとんど飲まないので、ちょっと意識が薄かったかも?
ただ――。
天平の話を聞いて、立ち飲み屋さん? みたいなとこのお客さんをテレビが取材してたのを思い出した。僕がテレビで見たのは数ある飲食店の中の一つにすぎないわけなんだけど――。
「お酒出してるお店の様子とか見てると、お酒をお客さんに飲ませないでほしいってなったのはわかる気がする。ちゃんとマスク会食式で何か食べたり飲んだりしてた人が、お酒を飲んでいるうちにマスク外したままおしゃべりに興じてしまってますね、とかそういうの、テレビでやってた……」
お酒も少しくらいなら酔わないでマスク会食できるんじゃないかと思うけど、少しで終えずにどんどん飲んでいるうちに、マスクしてしゃべらなきゃ、みたいなのがなくなっていっちゃうんだろうな、と思う。だけど――。
酔っぱらったらマスクしなくても大丈夫ですよ、にはならないよね? 手や物についたウィルスはアルコールで感染力を失わせることができるのに、アルコールを飲んでも体内のウィルスの感染力を失わせることができるわけじゃない。飛沫に混じりこんだウィルスの感染力を失わせることができるわけじゃない。
せっかくマスク会食してたとしても、途中からマスクするのやめちゃったら、感染が起きる危険性があると思う。変異型ならなお危ないはず。
「僕が見たときのは、お店の入り口あたりにテーブルを出してあって、そこに大人の人たちが立って何か飲んだり食べたりしてたんだけど、大きめのテーブルの端と端に座っているわけじゃなくて、かなり顔と顔が近かった気がする……」
一緒にいる人の中に新型コロナに感染している人がいなければなんの問題もないけど、もしも一人でも感染者がいたら……大丈夫だったのかな? あのときの人たち、と心配になる。
「路上飲みしてる人もそんなカンジみたいでさ?」
「そっか……」
「そこでなんだけど――」
「ん?」
「なんつーか、お酒を出さないでくれって話になってるのって、お酒を飲むのが悪いって言ってるんじゃなくて。お酒飲んでへべれけになって『新型コロナなんて知りませぇ―ん!』みたいになっちゃうのがマズいってことだと思うんだ」
天平がまじめな顔で言う。
お酒を飲むのが悪いんじゃなく、お酒を飲んでへべれけになるのがマズい。
つまり――。
「あ、それで、『お酒のせいじゃなく、飲んでる人の問題だっていうのはホントその通り』って言ったわけ?」
さっきの天平の発言を持ち出すと、
「そうそう」
天平がうなずく。
「お酒をやめてくれっていうのは、お酒たくさん飲むと免疫力が低下するらしいんで、そういう意味でもお酒は飲み過ぎないようにね! っていうのはあるんだろうけど」
と前置きしつつ、
「感染の拡大を抑えるために飲食店のお酒の提供をやめさせようとまでするほどお酒を飲ませないようにしようとしてるのって、お酒に酔っぱらい過ぎてしまうことで感染予防意識が緩んでしまうからだと思うんだよ?」
と念を押す。
「うん」
僕に異論はない。
「んで、ユーリがさっき言ってたような、店の表にテーブル出した屋外席とかでも、顔が近かったりすると感染しやすいと思うし?」
「うん」
「路上飲みなんかだとイスがないから座る場所が固定されないっていうか、自由に座れるから、地べたに隣り合って座ったりするんで、人と人との距離が近すぎると思うし? パーテーションもないし?」
「うん」
「屋外だったら換気がいいからいいだろうっつっても、人と人との距離が近かったらそのちょっとしかない距離を飛び交う飛沫を、横から吹き飛ばすだけの風がびゅーびゅー吹いてなきゃ意味ないやん?」
「うん。そうだよね?」
「空気ってよどむっつーか、とどまるっつーか、無風になるときとかもあるしさ? 花火んときに無風だったときとかマジすごいぞ?」
「え? 花火?」
どうすごいんだろう? 打ちあがった花火が風に飛ばされずに形が残り続けて長くキレイに見えてるとか? なんて思ったらまったくの逆で――。
「花火の煙が空に充満してなんにも見えなくなるからな!」
と天平。
「……え?」
何も見えない……?
「ドンドン音はするけど、そもそも夜だから空って暗いし。そこにそこはかとなく煙があるんだけど、花火の光なんてろくに見えないから! これ何? ってなるから!」
天平が力説する。
この力の入れ具合は実体験なんだろうな、と思いつつ聞いていると、
「あれは花火師さんがかわいそうだよ。雨天と同様に無風時も花火は延期にしてあげないとあんまりだよ……」
と嘆く。
「そ、そっか。確かに、花火自体が夜空に咲いてるとこ見てもらえないなんて、あんまりだよね。打ち上げた花火の形が思ってた通りの形じゃなかったとか、そういう失敗の方がまだ、人に見てもらえるだけいいよね?」
天平の見た風景は僕にはうまく想像できないので天平の嘆きはよくわからないんだけど、花火が見えずに音だけしかしないっていうのは花火職人さんも花火を見に来た人もがっかりだよね、と気の毒になる。それにしても、花火の煙を風が吹き飛ばすから次の花火がキレイに見えてるんだ、とそこにびっくりだ。
天平は、はぁ、とため息をついて、
「いや、マジでさ? そんなこともあるわけで。屋外だからって風が通ってるとは限らないし、風が通ってなかったらそれって換気がいいってことにはならないと思うわけ」
と渋い顔をする。
「そうだね、換気がいいって、風が通るか、ってことだよね? 空気が交換されるか、ってことだよね?」
「うんうん」
「屋外なら壁とか仕切りがないから空気を閉じこめなさそうなんで、ウィルスを充満させそうにないから安心していいような気になってたかも? だけど、そういうことじゃなくて――」
「うんうん。っつかむしろ、仕切りがないせいで風の通り道ができないことあるよな?」
「それでも、広場に一人なら大声出しても飛沫が空中に拡散していくと思うけど。人と人の距離が近かったら、飛沫が空中に拡散する前に相手に届いちゃうよね?」
「そう思う。だから、屋外だから換気がいいってわけじゃなくて。大事なのは人と人の距離をちゃんとあけとくこと! だろ?」
「うん。そうだね」
僕は深くうなずく。
そして思いつく。
「あのさ、空気の入れ換えをするのが大事ってことは、お店の中の方が換気システムがしっかりしてて感染しにくかったりしないのかな……?」
僕が言うと、天平が「せやろ!」とすかさず反応する。
「換気をしっかりしてるお店でお酒を飲む方がまだいいんじゃないかって思うよな? 人の目もあるから少しは飲み過ぎを注意しあおうってなりそうな気もするし……路上でお酒飲むよりは?」
「……そんな気がするよね?」
「それに、お酒自体が悪いんじゃなくて、飲み過ぎがダメってことだと思うわけで!」
「――わけで?」
「要は、お酒を飲み過ぎない程度に飲食店で飲むようにすれば、それでいいんじゃないかと思ったりするんだけど……?」
と、天平はコレが言いたかったらしい。
こうやって語るということは――。
「何か考えが?」
僕がうながすと、
「『利き酒ゲーム』ってどうかな?」
と天平が言い出した。
「ききざけゲーム? ききざけって……利き酒? お酒の味見っていうか、そういうのの利き酒?」
それをゲームに?
そう言えば利き酒って、なんていうお酒か知らされずにお酒を飲んで、そのお酒の名前、えっと銘柄、を当てる競技会みたいなのはあったような……?
だったら、利き酒ゲームっていうのはお店で出されたお酒の名前を当てるゲームなんだろうかと思っていると――。
「お店の人がなんのお酒か言わずにお酒を出して、それをお客さんが飲んで、なんていう名前のお酒か当てる、っていうのだと、お客さんがお酒の名前を言わなきゃいけなくなるやん?」
と天平が、自分が考案したゲームの説明を始める。
「うん?」
「そしたら、しゃべっちゃうから。マスクしてても声を出すのはできるだけやめたがいいと思うんで」
「じゃあ、名前を書く?」
「書くっていうのも考えたんだけど、お酒の名前とか難しい漢字使ってたりして、書くのちょっと…‥ってなりそうな気がするんだよな?」
「そっか。『獺祭』とか……書けない以前に知らないと読めないもんね?」
獺祭はおいしいと評判の日本酒の銘柄で、テレビで紹介されているのを見たことがあったんだけど、漢字のあまりの難しさが印象深かったお酒だ。書けと言われても書けないし、読み方だって忘れてしまったら二度と読めなさそうだ。
「獺祭は書ききらんよな? もちろん、ひらがなとかカタカナで書くって手もあるけど……」
「うん」
書くという手はある。
けれど天平は――。
「その場合、お店がお客さんに何か書くものを渡すのか、お客さんが自分でノートやペンを用意してきてそれに書くのか、それかお客さんがスマホとかに答えを打ち込んでそれを見せるのか……どうするんだ? ってなる」
「あ、そっか……」
「そんで、書いたら書いたで、書いたものをお店の人が確認したりするときにどうするかっていう問題がある」
「ん? 確認するときっていうと……お客さんが書いたものをお店の人がのぞき込んだり、あるいはお客さんが書いたものをお客さんからお店の人が預かって確認したりするってなると……お店の人とお客さんの距離が近くなるかもしれないよね? それに、人のものを別の人が触ったりするのはあんまりやらない方がいいと思うし……?」
「人との接触機会が増えてしまうんじゃないかとか考えちゃうと、ちょっとどうかな? ってなるやん?」
「うん」
それじゃあ?
「そこで、『組香』風のゲームにしたらどうかと思って」
「クミコウフウ?」
僕が脳内で漢字に変換できずにいると、
「『組香』っつーのは、『組み合わせ』の『組』に『お線香』とかの『香』って書くんだけど」
と天平が漢字に直してくれる。
それから、
「代表的なのは『源氏香』っていうので――オレはそれくらいしか知らんけど――」
と言う。
「ん? ゲンジコウ……?」
『組香』っていうのの一種みたいだから、ゲンジコウのコウは『香』かな? と当たりをつけると、
「『源氏物語』っていう平安時代の小説の『源氏』に『線香』の『香』で『源氏香』」
と天平が教えてくれる。
源氏香、でいいのかな……?
源氏物語はうちのおばあちゃんが好きだから名前くらいは知ってるけど、それ以外では平安貴族の話らしいってことくらいしか知らないんだよね。
それで組香とか源氏香ってなんだろう? 平安貴族に関係してるのかな? と考えていると、天平が語り始めた。
「ほら、『茶道』とか、ん? 『茶道』? さどうかちゃどうかわからんけど要は『お茶』、とか『華道』、とかあるけど。そういう礼儀作法盛りこんだ系の習い事で、香りの道って書いて『香道』っていう日本流のアロマの楽しみ方、みたいなのがあるらしくてさ?」
「香道? アロマ……?」
「そ。香道の場合はアロマオイルやアロマキャンドル使うんじゃなくて、香木っていう香りのする木のチップを、超ちっちゃくした火鉢みたいな灰のつまった容れ物で、埋火? っつーのか、こう、炎がボウボウなるんじゃなくジワジワしたカンジで燃やすと、チップからいいにおいがしてくるんで、その香りを嗅いで楽しむ、みたいな? なんかそういうのがあるらしくって」
「ふぅん?」
茶道や華道は知ってるけど、香道っていうのもあるんだ? とびっくり。
天平のお母さんの女友達というのがいろいろ物知りというか、情報量が多いみたいで。天平はお母さんの女友達にかわいがられているので、お母さんの友達の知識が天平の知識には反映されている。香道もたぶんお母さんの友達から仕入れたんだろうな、と思う。
天平は考え考え香道について自分なりの説明を続ける。
「香木をチップの状態からもっと香りが出やすく加工していったのがお線香とかお香のコーンとかってことだと思うんだけど……ま、とにかく、香道っていうのがあって、香道の中に利き酒みたいなカンジで香りを嗅ぎ分けるゲームみたいなのがあるらしくってな?」
「香りを嗅ぎ分ける?」
「細かいことはわからんけど、どの香木のチップを燃やしたかにおいだけで当てる、みたいな?」
「あ、じゃあ、ホントに利き酒みたいだね?」
「そうそう。そんで、その嗅ぎ分けるゲームに『源氏香』って言われてるゲームがあるらしくって」
「あ、源氏香ってお香のゲームの一種なんだ?」
「そゆコト。そのゲームの仕方っつーのが、神経衰弱みたいなやり方で、五種類のチップを一種類につき五回分ずつ用意して。んで、それを混ぜて、その中から五個選んで、一個ずつミニ火鉢みたいので燃やしてにおいを嗅いでく」
「においを?」
「そ。におい嗅いだ人は次の人にミニ火鉢を渡してその人がにおいを嗅いだらまた次の人に渡して……って感じでみんなで回し嗅いでくっつーか?」
「ふぅん?」
「そんで、五個分を順に嗅いでった後、五個のうち同じ種類の木の香りがあったか、あったとしたら何回目のと何回目のが同じだったか当てましょう、っていうのらしいんだ」
と天平が説明する。
えっと、五種類のチップで一つにつき五回分というと、二十五個の木のチップが用意されてるってことで、その中から適当にとった五個のうち、同じ木のチップのがあったかどうかをにおいだけで当てる……ってこと?
というと――。
「もしかしたら奇跡的に五個のうち五個とも同じ木のチップになることもある、ってこと?」
「そういう場合もあるし、逆に、五個全部バラバラってこともある」
「一個目と三個目が同じだけど、残りは全部バラバラとか」
「一個目と五個目が一緒で、二個目と三個目と四個目が一緒とか」
「一個目だけ違ってて、残りが全部同じとか? いろんなパターンがあるってことか。――へぇ、おもしろそうだね?」
「だろ?」
天平が満足そうに笑う。
それから、
「源氏香はどれとどれが同じだったかを紙に記号を書いて解答するらしいんだけど、その記号が特徴的で、着物の柄になったりもしてて。その記号が暗号っぽくて、意味がわかるとおもしれぇなと思うんだけど」
「ふぅん?」
「記号はともかく、ゲームの仕方がさ、おもしろいと思って」
と語る。
「そうだね、おもしろいやり方だとは思うけど……それを日本酒でやりたいわけ?」
日本酒を五種類選んで、その五種類をグラスか何か五個ずつに注いでいって、それをシャッフルして飲んでいくってこと? え? 源氏香はみんなでミニ火鉢を回して嗅いでいくってことだけど、日本酒は? グラスを回し飲みしてくってこと? 回し飲みは感染リスクが高くて無理なんじゃ? と、混乱してしまう。
天平は僕が引っかかったところを解消するアイディアを用意していて、
「そのまんまやろうとしたらうまくないんで、そこはちょっとアレンジして、って思ってる」
と前置きすると、
「まずは、お酒は五種類も用意して飲んでたら飲み過ぎるかもしれないんで、そのお店にあるお酒の中からお店の人が三種類を選ぶことにする」
「うん」
「んで、お酒はおちょこにちょこっとずつ」
「あ、そっか、おちょこか」
おちょこの方が日本酒! って感じがするし、お酒の量もちょっとになる。
「おちょこ、いいだろ? 三種類のお酒をおちょこ一杯ずつ合計三杯用意したら、それをお口直しのお冷と一緒にお客さんに出す」
「いっぺんに?」
「そ。いっぺんに出す」
「うん」
「そんで、お客さんは、右からでも左からでも真ん中からでもどこからでもいいんで、お酒を飲んでいく」
「うん」
「そんで、三杯を飲み終わったら、お店の人が次の一杯を出す。んでこの四杯目が、最初に出した三杯の中のうちのどれかと同じお酒を入れたヤツになってて、最初の三杯のうちどのおちょこのお酒が四杯目のお酒と同じお酒だったかを当てる!」
どうだ! と自信ありげな顔で天平が言い切る。
「四杯目と同じのを当てるんだ? 三杯のうち、右端のと左端のが同じだったとか、三杯全部ちがうお酒だったとか……三杯の中に同じお酒が混じってるかもしれないのでそれを当てるってことじゃなくて」
源氏香のやり方っぽくやるならそういうのかと思ったんだけど、そうじゃなかったらしい。
「そのやり方も考えたけど、三杯しか飲まないのに、同じお酒を混ぜたり混ぜなかったりするんじゃおもしろくないかな? って。それより、違う種類のお酒を三杯っていうのは決めてあって、四杯目をその三つのうちのどれかと同じにするといいかな? って」
「なるほど」
「もっと難しくするなら、四杯目が最初の三杯目のどれかと同じのかもしれないし、最初の三杯に入ってなかったお酒かもしれない、ってする」
「四杯目は最初の三杯と違うお酒が出て来るかもしないってこと? それって、答えの幅が広がるね? 最初の三杯の中のどれかとは同じだったら、この味がいちばん近いかな? ってあてずっぽうできるけど、最初の三杯と同じじゃないかもしれなかったら、ハッキリこれと同じ、っていうのがなかったら迷いそう……」
「な? 難しくなるよな?」
「うん」
「初級レベルの人には味の違いがハッキリわかりやすい三杯を用意するけど、上級者にはちょっと飲んだくらいじゃ味の違いがわかりにくいの三杯にするとか、お客さんによって利き酒の難しさのレベルを分けてお酒を提供するようにしたら、自分にあったレベルでゲームに参加できてよさそうじゃないか?」
「そうだね。お酒の味ってどんな感じなのかわからないけど、テレビのCMとか見てるとお酒も辛口とか甘口とかあるみたいだから……辛口と甘口とその間くらいのお酒にすると違いがわかりやすいと思うけど、同じような甘口のお酒だけで味を比べるのとじゃ、難しさが違うよね?」
「うんうん。そーゆートコで難易度を出せると思うんだ」
「うん」
「そんで、ゲームでは合計でおちょこ四杯もお酒を飲むことになるから、一杯ずつはホントにほんのちょっとずつにしとく。そしたら味も分かりにくくなって難しくなっておもしろいんやない?」
「お酒の量をあんまり飲めない状況を逆手に取るんだ? 味がわからなくなってもうちょっと飲んで味を確かめたいって思っても、もちろん、おかわりはできないんだよね?」
「当然。飲ませないためのゲームだから」
そう言い切って、天平は少し意地悪そうな顔をする。
「あ。それで、解答の仕方はどうするわけ? 答えって口で言うんでもないし、書くんでもないんだよね?」
そもそも、そこが大事だよねって話だったのを思い出す。
天平にはちゃんと考えがあったらしく、
「それはさ、四杯目のおちょこを、四杯目と同じお酒が入ってたと思うおちょこに重ねたらいいと思って。最初の三杯のうち、こいつと同じだ、って思ったおちょこに、四杯目のおちょこを重ねる!」
と得意げに答えた。
「そっか。それなら一目瞭然だね」
「せやろ?」
ドヤ顔の天平。
だけど――。
「ん? けど、その場合、どれもおんなじおちょこ使ってたら、見分けがつかなくなるよね? お客さんが右端のおちょこを左端においちゃったりすると、お店の人もこんがらがるよね? どれが正解かわかんなくなるんじゃ?」
テレビで酒蔵開きなんかのニュースがあるときに、底に青い輪っかが描かれた白いおちょこでお酒の試飲をしていることがあったのを思い出す。お酒の色が理想とするキレイな色になってるかどうかがわかりやすいようにそういうおちょこを使ってるようなことを言ってたと思うので、利き酒ゲームでもそういうおちょこを使うのかな? って、ふいに気になった。
だけど天平はそんな厳密に考えていなかったらしく、
「おちょこは四個とも色とか形が違うのにした方が区別がついていいと思ってた。それだとおちょこによってお酒の色とか違って見えるだろうし、味覚や嗅覚もおちょこの色や形にちょっと影響を受けることがあるかもしれないけど……まあ、ゲームだからさ?」
とあっさり。
「まあ、ゲームだからね?」
それもそうかと納得していると、天平はさらに、
「難易度の高いレベルの利き酒ゲームに挑戦するときだけ利き酒用のおちょこ使うとかすればいいんじゃないか? んで、そんときは、おちょこに番号を書いたシール貼るとかしとけば?」
と、またまたあっさり。
「なるほど」
それで問題解決。
となると――。
このやり方ならお酒をちょっとずつしか飲まないから、酔っぱらって正体をなくすということにはなりにくそうだな、と思ったんだけど、あれ? ホントにそうかな? と何かが引っかかる。
なんだろう? と考えて――。
「あ」
ある可能性に気づいて、思わず声をあげてしまった。
「ん? どうかした?」
天平に聞かれ、思いついたことを口にする。
「利き酒ゲームって、お酒のおかわりをさせないっていうだけじゃなく、利き酒ゲーム自体のおかわりをさせないようなルール作りをしておかないとマズくない? 一回のゲームでは飲み過ぎにならなくても、何回もゲームしてるうちに酔っぱらっちゃったら、意味ないよね?」
利き酒ゲームは一回だけならおちょこにちょこっとずつを四杯しか飲まない計算だけど。一度挑戦した人がまた挑戦したらおちょこ八杯飲むことになるし、その人がまた挑戦したら十二杯飲むことになるし……。
ワンゲームで飲むお酒の量は少なくても、何ゲームもやっていたらお酒をたくさん飲んでしまって、結局、お酒に酔っぱらって感染予防意識が低くなってしまう人が出てきてしまうんじゃないかな? それじゃダメだよね……?
その点は天平も気になっていたらしく、
「そこはそうなんだよな? だから、オレ、読書レースみたいなことができたらどうかな? って思ったんだけど」
と言い出した。
「読書レース?」
「ほら、読書週間ってあるやん?」
「うん。本を読みましょうっていうヤツだよね?」
「そうそう。ふつうは読書週間だけど、うちの学校の場合、図書の先生が読書月間っていうのを決めて、図書室独自のイベントもやってんの」
「へぇ。読書月間イベント?」
「そう。エントリーシートが図書室の前の廊下の壁に張り出されるんで、参加したい人が何年何組っていうのと名前をそのシートに書きこむとエントリーしました、ってことになるんで。エントリーした人は、読書月間中に本を借りて読んだら、一冊につき丸いシールを一枚もらえるんで――」
「あ、そのシールをエントリーシートの自分の名前のとこに貼っていくってこと?」
本を読んだらシールがもらえるってことは、そういうことだよね? と閃いて聞くと、
「そゆコト」
と天平がうなずく。天平はさらに、
「そうやって、本を読んだ分、自分の列にシールを貼ってって。参加者はミニ賞状がもらえるし、一番シールが多かった人はミニトロフィーがもらえるよ、っていうイベントなんだけど」
と、天平の学校の読書レースについて説明した。
自分がどれくらい本を読んだか、他の子はどれくらい読んだか、シールの数で一目でわかるようになっているということなので――。
「本を読むのが好きな子は張り切っちゃうね」
と言うと、
「まぁな? ホントは、ふだん読まない子に読んでもらおうっていう狙いらしいんだけど。本読みばっかりエントリーしてくるらしい」
天平が苦笑する。
レース形式になることで自分もがんばっていっぱい本読んでトロフィーもらおうってなる子もいるかもしれないけど……ふだん本を読んでる子の方が、よし! 他の子よりいっぱい読むぞ! って燃えそうだよね……?
「まあ、それはそれでいいレースになるよね?」
「そうなんだけど。――と、読書レースの話はこれくらいで」
「うん?」
ここからがさっきの話の続きらしい。
「利き酒ゲームもそういうレース式でやったらどうかと思って」
「え? 利き酒ゲームを?」
「そう。利き酒ゲームは一日に一回しかできないってことにする。そんで、その一日に一回しかできないっていうのは、同じ店では一回しかできないってことじゃなく、どこの店でゲームやってもそれは一回やったことになるから、それ以上その日は利き酒ゲームできない、ってことにすんの」
とキッパリ。
「そっか、よその店でもやれないようにしなきゃ意味がないよね……?」
お店をハシゴする、っていうのかな? 何軒もお店を回ってお酒を飲むようなことしてたら、それこそ、『へべれけ』さんを育ててしまう。それはマズい。
「こっちの店で一回ゲームやって、別の店で同じ日にまたゲームやりました、ってなると、一日に二回もやれてしまうし、さらに別の店でゲームしたら、一日に三回もやることになるし、そうやってお店を変えることでゲームの回数を重ねることができてしまったら、ダメだよな?」
「うん」
「そこで――」
「そこで?」
「利き酒ゲームをする前はアルコールのチェックをすることにする」
「アルコールチェック……?」
と聞いてハッとする。
「あ、飲酒運転とかのチェックに使う機械があるよね? 呼気にアルコールが含まれてないか調べるとかって……」
確か、アルコール検知器、じゃなかったっけ?
アルコールチェックと聞いて、機械に息を吐きかけたり、息を吹きこんだりして、その息にアルコールが混ざっていないか、要は、酔っぱらっていないかを調べられる機械があったことを思い出した。
飲酒運転もなかなか絶滅しない犯罪だけど、なくならないね、では済まない問題だから、対策が取られてて。車道でおかしな動きをしている車を見かけた警察は、その車を止めて運転手がお酒を飲んでいないかアルコールを検知する機械で調べているはず。飲酒運転を未然に発見できずに事故を起こしてしまった場合、ニュースで「基準値を超えるアルコールを検出しました」と言われるのも、機械で運転手の息を調べてのことで――聞くたびに「どうしてお酒飲んで運転なんてするんだろう?」と胸が痛くなる。
アルコールの検知器はいろんなタイプのものがあるようで、前の日にお酒をいっぱい飲んだ人が、次の日にお酒が身体に残ってないか、車を運転しても大丈夫かどうか調べられるように、市販もされているみたいだし。タクシーやバスの運転手さんが機械に息を吐いてアルコールチェックしてから運転の仕事に行くところがテレビで紹介されていたのを見たこともある。
天平も同じことを考えていたようで、
「うん。そういう機械があるよな? だからそういうの使って、利き酒ゲームに参加するときは、まずは参加希望者のアルコールチェックをしてもらうことにすんの」
と説明する。
「そんで、その日にアルコール飲んでいない人だったら利き酒ゲームができるってことにしとけば、一日に飲むお酒の量は利き酒ゲームのおちょこ四杯に限定されるやん?」
天平の考えたルールに、それなら何度もゲームやって飲み過ぎることはなさそうだと思いながら――。
「アルコール調べる機械って、息を吹きかけたりするから、飛沫が飛ぶよね? それだと、同じアルコール検知器をお客さんが使い回すことで、新型コロナの感染を広げてしまう心配がないかな?」
という点が気になった。
天平はすぐさま、
「誰かが使ったらすぐに検知器をアルコールティッシュとかで消毒すればいいんじゃないか?」
と言い放ち、あっ、と短い声を上げた。
「アルコール検知器をアルコール消毒したらマズいんかな?」
ふとした疑問。
「それは……どうだろう?」
機械自体はアルコールで消毒しても問題ないと思うし、アルコールはすぐに気化すると思うので、アルコールが機械に残り続けるってことはないと思うから、アルコール消毒したことでアルコールのチェックに誤作動が起きるようなことはなさそうに思うんだけど……どんなもんだろう?
「ええと、コロナに感染しないか心配な人は、マイアルコールチェック機を持参して調べてもらえるといいと思うけど……」
誰でもアルコール検知器を持ってるわけじゃないだろうからな、と天平の歯切れが悪い。
「んんと、感染が起きないようにアルコールのチェックができるならアルコールのチェックをしてからにすることにして。感染リスクを考えるなら、基本的にはお店の人が見た感じで酔っぱらってなさそうだったらゲームに参加できることにしておいて、酔っぱらってそうだったときだけ、感染が起きないように注意しながらアルコールの検査をすることにする。それで、調べてみてアルコールが基準値以下だったら参加できる、っていうことにしておけばいいんじゃないかな?」
と、この話をまとめる。
「そうだな。うん。そういうことでよろしく」
と天平も納得したところで、
「それで? えっと、利き酒ゲームをレース形式にするって言ってたのは?」
この話が途中だったのを思い出し、追及する。
天平は、そう言えばその話だったとすぐに反応し、
「利き酒ゲームは一日に一回しかできないけど、一回ごとに正解者に何か賞品や特典がもらえるってコトにはしないで、一カ月間でいちばん当てた人が賞品か特典がもらえる、っていうシステムにしたら、盛り上がるかなー? って思って」
と説明した。
天平は、盛り上がるかなー? なんて言っているけど、それ以前に気になる。
「できるだけ人との接触がないほうが感染を拡大させずに済むと思うんだけど、わざわざ、一カ月間、人がお酒飲みに通ってきそうな取り組みをしようってこと?」
それは感染を抑えようという動きに逆行しているんじゃないかと思うと、天平の考えが理解できない。
すると天平は、
「家にいる人がわざわざお酒飲むために電車とかに乗ってお店のある都会まで出てくる、みたいなのはちょっとどうかとは思うんだけど」
「うん。そうだね、それはどうかと思うよね?」
「それはどうかと思うけど、例えば。仕事しに来てる人が仕事帰りにちょっとお店によってゲームだけしてサッと帰るとか? あと、家にいる人が近所のお店にちょっと顔出してゲームだけしてサッと帰るとか? そういうことするくらいなら、大丈夫そうかな? って」
と語った。
「ゲームだけして帰るならいいだろうって?」
利き酒ゲームは基本的にしゃべらないでやれるので、ぎゅうぎゅうに座らずに人との距離をあけて座って、さっとゲームだけして帰る分にはそこまで感染リスクが高そうには思わないけど……。それにしたって、なんでわざわざ一か月のレース式にしようなんて思ったんだろう? そこのとこは今の話じゃわからない。
天平は落ち着いていて、レース式のおすすめポイントを挙げていく。
「お酒が売れないとお酒造ってるとこがキツイかな? って思うので、お酒の消費に繋がればいいな、っていうのがひとつ」
「うん」
「お店の人がどのお酒をお客さんに出すかを決めるから、人気のあるお酒だけが売れるってことにならなくて、いろんなお酒が消費されて、いろんなお酒の救済になるんじゃないか? って思う」
「そっか」
「それから、飲食店の売上になればいいな? っていうのもひとつ」
「うん」
「だから、利き酒ゲームだけしていくっていうんじゃなくて。ゲームするために立ちよって、ゲームしたら、ついでにおつまみとか適当にみつくろってもらって、テイクアウトして帰ってもらえたらいいな~、って思って」
「っていうと、ゲーム目当てに立ちよったついでに、そのお店の料理もテイクアウトしてもらうようにしたい、ってこと?」
「そゆコト。だから、なんなら最初っから料理も利き酒ゲームとセットにしといて。料理だけお土産に持って帰ってもらう、ってしとく。――けど、できればもっとたくさん料理を注文して持って帰ってね♡ みたいな?」
「うんうん」
「で、料理を持ち帰って、ふつうに晩ごはんとして食べてもいいし。さっき言ったみたいにさらにお酒を飲むなら、そのおつまみとして食べるっていうのでもいいと思うし」
「うん」
「家に帰ってからテイクアウトしたおつまみと缶ビールで晩酌、みたいな? 飲み足りない分をおうち飲みしてもらうといいんじゃないかな? って」
「そうだね」
「そんで、利き酒ゲームのレースの賞品も、テイクアウト料理の割引券何千円分とかにするやん?」
「あ、賞品って割引券?」
「優勝賞金十万円! とかしちゃうと、やっぱり参加者の本気度とか真剣味が変わっちゃいそうっていうか? ゲームの厳正さとか公平さとかにうるさくなりそうだけど」
「そうだね、十万円もらえなかった人は、もらえた人に対して、お店の人があの人に対して甘かったからあの人が勝てたんじゃないの? って、もめごとに発展しちゃいかねないよね?」
「けど、そんなに高額じゃない割引券とかだとそこまでうるさくなんないかな? って」
「なるほど」
「そうやって、飲食店の料理が売れるように、っていうのを盛りこみつつ、お酒飲みたい人の飲みたいを叶えるっていうことで――」
「うん」
「お酒つよい人はゲームのおちょこ四杯じゃ物足りないかもしんないけど、だからってそれ以上そのお店や他のお店で飲んでしまうとのんべぇになっちゃってよくないと思うんで。けど、家で飲む分には別にいいわけやん?」
「それはそうかも……」
お店じゃなく家で飲むにしても飲み過ぎはよくないと思うけど、それはまた別の話だろう。
「なので、ゲームのお酒じゃ飲み足りない人は、続きはおうちで飲んで下さいってことで。んで、家でさらにお酒飲む人も飲まなくていい人も、できれば何かお土産に料理をテイクアウトしてってくれるといいよね、っていうとこが大事なとこで」
「うん」
「で、ここまでは、利き酒ゲームにするといいと思うとこで、こっからが、レース式にする意味なんだけど――」
「うん」
「別にレース式ってことにしなくてもいいかもしんないけど。利き酒ゲームをレースにすると――」
と天平が話をためる。
いよいよ本題だ。
「レースにすると――?」
話をうながすと、
「あっちの店こっちの店って行かずに、同じ店に通って飲むようになると思うんで。お店の利用者が固定されて、クラスターが起きたりしたときの感染者や濃厚接触者の管理がしやすいかな? って」
と天平は言った。
あっちの店こっちの店って行かずに、同じ店に通う……?
ピンと来ない僕に、天平が解説を始める。
「ここで利き酒ゲームのレースについて整理しとくけど。利き酒ゲームは、利き酒ゲームをすればポイントがつくわけじゃなく、利き酒をちゃんと当てることでポイントがつくのな?」
「うん?」
「そんで、獲得したポイント数の多い人が賞品をもらえる。けど、レースは店ごとにやるから。例えばAっていう店でゲームして獲得したポイントはAっていう店で自分のポイントとして加算されるけど、Bっていう店でゲームして獲得したポイントは、Bっていう店で自分のポイントとして加算されることになる」
「ん? それじゃあ、たとえば、えっと酒……酒井さん。酒井さんが三日連続でAでゲームして、三日とも正解したら、Aで三ポイント自分のポイントが入るけど。その次の日にBでゲームして正解したら、Bに一ポイント自分のポイントが入る、ってことだよね?」
「そうなる」
「けど、四日連続でAでゲームして、四日とも正解したら、Aでのポイントは四ポイント入ることになる、わけだよね?」
「そう。そうなるわけだ」
「その場合、酒井さんがAで三ポイント、Bで一ポイント獲得したときに、酒田さんがAで三ポイント獲得していた場合は酒井さんと酒田さんがAでは同じ成績になるけど。酒井さんがAで四ポイント獲得して、酒田さんがAで三ポイント獲得していた場合は、酒井さんがAでは単独トップになる、ってこと――?」
「そゆコト! だから、いろんな店でゲームやってポイントを分散しちゃうより、分散にならないように同じ店でゲームに挑戦した方が、他の参加者よりポイントを多く獲得できて、勝ちに繋がりやすいってわけ」
天平がちょっと得意げな顔をする。
つまり、あっちのお店、こっちのお店と、利用するお店を変えちゃうとポイントが分散してしまってレースの成績悪くなってしまうので。あっちこっち行かないようになるかな? ということらしい。
「そっか、それで……」
それでレース式なんて言い出したんだ、と納得。
天平は、
「まあ、お酒飲みたい人は家で飲むのがいちばん感染リスクは少なくて済むだろうからそうしてくれた方がいいと思うんだけど。家じゃないとこで飲みたい! って人が、感染防止策を取らずにお店や路上でお酒を飲んでへべれけになっちゃうよりかは、感染リスクの少ない飲み方でお酒を飲める場所を用意して飲んでってもらうようにした方が、感染を拡大させずに済ませられるんじゃないかな? って思うんだよな?」
と思いを語る。
「抑えこむことで反発されて余計に危険なことされるより、発散する場所、ガス抜きする場所があって、リスクが少ない状態でお酒飲まなきゃいられないっていう気持ちを晴らしてもらうようにした方がいいんじゃないか、ってことだね?」
「そっちのがよさそうな気ィすんだよな?」
「お店屋さんやお酒屋さんの売上にもなるしね?」
「なるしな?」
「うん」
天平がレース式にしたらどうかと言った意味がわかって、僕的にはスッキリ。
だけど、天平の利き酒ゲームのおすすめポイントはまだあったらしく――。
「レース式で、一日に一回しかゲームできないから、できるだけ毎日お店に通ってゲームした方が勝ちやすそうに思うけど。利き酒に正解しなきゃ得点にならないから、結局は、お店でゲームをする回数が少なくても正解が多い人の方が勝つと思うんで。毎日通う人の方が有利とも限らない、みたいなとこが、利き酒ゲームのいいとこかな? って」
と語る。
それからさらに、
「ただお酒飲むだけより、レースとかゲームとかがあると、気分が盛り上がりやすいと思うんで、ちょっと飲んで帰るだけのさみしさが減るんじゃないかって思ったのと。ゲームって形にすることで、ダラダラ飲み続けずに切り上げやすくなるかな? っていうのもあって」
「うん」
「どうしても飲みたい! っていう人が、気持ちを落ち着けるのに、利き酒ゲームのレースをやるってやったら、いいんじゃないかな? って思ったわけ」
と話をした。
「要は、へべれけさんにならないようになることが大事、なんだもんね?」
「――だと思う!」
天平が力強く言い切る。
「絶対にお酒を飲ませない、っていうのじゃなく。お酒は飲んでもいいけど飲み過ぎないようにさせるっていう取り組みができたら、その方が、感染の拡大を抑えこめるかもしれないよね……?」
お酒を飲むのはのどが渇いているからというわけじゃなく、お酒を飲んで酔っ払うことが気持ちがいいってことなんだろうな? というのがあるわけで。
僕にはその辺がわからないけど、お酒を飲むのをがまんするのは大変みたい。
だから、お酒を飲むのを禁じるより、楽しく飲めて、それでいて感染の危険が少なくすむような仕掛けがあればいいんじゃないか、ということだ。
「ただ、路上飲みしてる人は、お酒飲みたいっていうより、家で一人でいるのがイヤなんだと思うから。お酒を飲む場所を作るっていうより、やっぱ、光のパレードみたいなことやるようにした方がいいんじゃないかと思うけどな?」
天平がボソボソッという。
光のパレード――。
「そっか。――そうかもね……?」
僕は天平を見、天平も僕を見る。
僕たちはうなずきあった。
光のパレードも天平の考えだ。
前に、感染が拡大して自粛を求められても、夜、集まってお酒飲んで騒いでる人がテレビで取り上げられていたときに、
「オレもわかるけど……夜に家に一人でいるのって、この世界に一人っきりになった気がして怖くなることあるからさ? こんなコロナの感染が起きてる中で夜一人っきりでいたら、頭おかしくなりそうになる人とかいてもおかしくないって思うんだよな? だから、いっそ夜を一人で過ごさなくていいようにできんかな?」
そう言って天平が考え出したのが光のパレードだった。
例えば、自治体が指定した公園とかにマスクして集まって、ろうそくの代わりにLEDライトを手に持って、集まった人間で一定の間隔あけて列を作って、公園の中をゆったり歩いて光のパレードをするというものだ。
ついでに、そのときに、経済的に困窮してる人に食品ロスとか利用した食べ物や日用品が入った支援袋を配ったり、パレードの集合場所にお酒を売るブースみたいなの作って、飲みたい人は一杯だけお金払って飲めるようにして、一人ワンドリンクだけ飲めることにしておくと、お酒を飲み過ぎてグダグダになる人が出ないだろうと、このときも、「お酒を飲んじゃダメとは言わないけど、飲み過ぎないようにしてもらおう」作戦を考えていた。
ホットコーヒーやホットミルクも売ってあるといいと言って。
一人ひとりが距離をとって列を作って黙って歩く分には感染リスクは低いんじゃないかと思うし。何より、人と一緒にいられることで心が落ち着く。そして、歩くことでほどよく疲れたら、家に帰ったときにすんなり眠れやすそうだというのが、天平の光のパレードのおすすめポイントだ。
お酒を飲んで騒いで空き缶を放置していくなんてあり得ないと思ったけど。そうしてしまう気持ちは天平が言ったような、孤独に押し潰されそうな不安や恐怖なのかもしれない。
もしもそうなら――。
光のパレードができたらいいのかもしれない。
心が潰れてしまわないように。
光のパレードの光が、明るい方へ導いてくれるかもしれないから――。 つづく
読んでいただいてありがとうございました。
変異型の感染力が強いようなので、本当に感染を拡大させないことが大事だと思います。
今回のお話を書き出したときはまだ緊急事態宣言の対象に福岡が入る前だったので、そういう設定で書いてあります。
福岡の路上飲みに関しては、警固公園は封鎖されることになったようですが、その代わりに他の場所で感染を拡大させるような飲み方をする人が出ないようにと願っています。
次はこのお話の続きで、デパートの営業について書くか、心樹医・空ソラシリーズの続きになるか、どちらかだと思います。
読んでみてください!




