苦悩
こんな経験はないだろうか……。
近所の子供が持っているトレーディングカードが超レアなカードで、年甲斐もなくなんとかしてそのカードを穏便に手に入れたいと思ったことを……。
――どんな手段を使ったとしても、手に入れようと思ったことを――!
目の前の新勇者が身に付けているのは、まさにその超レアな、女子用鎧――ちっぱいサイズ!
「貴様、この期に及んで卑怯だぞ!」
「何が卑怯だ!」
何が何でも卑怯なものは卑怯だ――。
「最初は何食わぬ顔で嫌な勇者キャラを演じておきながら、最後のどんでん返しで実は女勇者でした~って! そのキャラ設定が卑怯なのだ!」
読者から人気全部かっさらおうとしているのが見え透いている――! 冷や汗が出る――!
「言っている意味が分からない!」
「どいつもこいつも勇者は卑怯者揃いだなあ。あー、いやだいやだ。仕方がない……」
片膝を付いて……優しく囁く。
「その、身に付けている鎧を私によこしなさい。そうすれば魔王様に取り入って、貴様は最強の勇者として最高の待遇を死ぬまで受けられるよう進言してあげよう。この、宵闇のデュラハンが」
「……」
悪い条件ではなかろう。もはや戦いとは戦場で剣を交えるだけが戦いではないのだ。陰謀と野次罵声が飛び交う情報戦なのだ――。
「さあ、どうする。こんなチャンス、滅多にないんだから」
欲しがれ! さあ、早くう!
「……キャラが変っていないか?」
「貴様ほどではないわっ」
――そりゃあ、キャラも変るさ。さっきまでは一ミリグラムの価値も無いと思っていた新勇者が着ている鎧が……女子用鎧だったのだから――!
魔王城内の自室にコレクションで女子用鎧を飾っているのは……内緒だ。
毎日有機溶剤をウエスに染み込ませて磨いたり擦ったり擦り付けたりしているのは内緒だ。
「ローションは有機溶剤じゃない――」
「ひょっとして、変態なのか」
――はうっ!
「……顔がないだけだ。変態ではない」
「……」
真剣に考える女勇者。兜で顔があまりよく見えないが、可愛いのかもしれない。
だが、そっちはどうでもいい。興味があるのは女子用鎧だけなのだ――。私は人を外見で判断する派なのだ――! ごめん。
「その白金の剣と交換なら……いいぞ」
「はい」
剣を差し出した。
「本気か?」
「……」
グヌヌヌヌ……。
「がハハハハ、冗談に決まっているではないか。この剣は、私の命よりも大切な白金の剣。そう易々と渡せる訳がなかろう」
魔王様に唯一傷を付けられる白金製の武器なのだ。
「さっき、差し出したじゃん」
「差し出してなどおらぬわ! あー危ない危ない。すっかり勇者の手口に騙されるところだった。相変わらず卑劣な手段ばかり使いやがって……」
「……」
……剣を鞘へと仕舞って立ち上がった。泣きそうだ。ああ、なんだか泣けてくる。
今、背中から切られれば、百均のカッターナイフでも真っ二つにされるかもしれないぞ……。
「また会おう、勇者よ」
「……なんか、嫌だなあ……」
露骨に嫌われたが、
「それでいい」
トボトボと立ち去った。
次合う時は、必ずその女子用鎧を奪い取り、部屋のコレクションに加えてくれるわ――。
なにかいい作戦を考えよう……次に会う時までに。
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