新勇者との決闘
「そ、その剣はまさか、――白金の剣。まさかお前は、『顏なし』のデュラハンなのか」
ガクッとなる。膝から力が抜けたようにガクッとなる――!
「遅いわ! 今更気付いても遅いわ! っていうか、さっき俺それ言ったよね? 怒らせておいて今頃気付いても遅いのだ。しかも「顔なし」とはなんだ――。せめて宵闇のデュラハンと呼べば命だけは助けてやったものを~!」
「顔なし」と言えば、皆アレを想像するから呼ばないでって、以前から言ってるよね――!
「吟遊詩人が言っていた通りだ。本当に顔が無いなんて。いったいどうやって喋っているのだ」
それは、こっちが聞きたいぞ――。答えられないことを安直に聞くのは失礼だぞ――! 火に油を注ぎまくっているぞ――新勇者よ!
今日一日の骨折り損のくたびれ儲けを……晴らさせてもらうぞ!
「お喋りはおしまいだ。命懸けで掛かってくるがいい」
「てやー!」
……いやいや、今から切り掛かりますよって言っているようなものだぞ。
振り下ろす剣をサッとかわすと勇者は大きく体勢を崩し、そこを横から足でボンッ蹴ると、どてっと倒れてしまった。なんたるダメっぷり……。白金の剣を抜くまでもなかった。少し後悔している。
なんか……剣を自慢したかっただけみたいで、ちょっと恥ずかしい。白金てプラチナだし。
倒れた勇者は腰をさすりながら性懲りもなくまた立ち上がった。……弱い。村人よりも弱いのではないだろうか……。
「人間の勇者など、所詮はこの程度か……」
「なんだと……」
人間ごときが一生かかって剣の道を極めたとしてもたかが知れている。我ら魔族の寿命は長く、日々の鍛錬も半端なものではない。
「前の勇者も酷かったが、お前はもっと弱いぞ。それでよく勇者の称号を得たものだ」
たくさん国王に貢ぎ物でも送ったのだろう。
「――前の勇者を、知っているのか!」
知っているが……ひょっとして、「それは僕の兄さんだー!」とか言い出すとややこしいなあ。……勇者の家系図とか家庭事情とかって、本当にどうでもよすぎて聞きたくもない。
「ああ、知っている。……先週の日曜日くらいに宅急便で国王宛てに送り届けた筈だ」
……前の勇者は魔王様の婚礼の儀を邪魔したから、カッチカチの石像にされたまま魔宅急便で送り返した。運送費が高くついたが着払いだと受取り拒否されそうで仕方なく送料はこちらもちとしたのだ……。
「あんなチャラいゲスな勇者を目指していては駄目だ」
「黙れ! チャラいとはなんだ!」
「軽薄。安っぽい。チャラチャラしている。そして不真面目」
「……」
ここはマジで言わせてもらおう。人間界ではどれほど崇拝されていたかは知らないが、あんな勇者は駄目だ。色々と――。
「教えてやろう。あの勇者はマジでチャラかった。魔王軍四天王の一人、この宵闇のデュラハンを目の前にしてもベッドで横になってポテチを食べてシーツで手を拭いているダメっぷりだぞ」
「嘘つけ」
「嘘なものか。嘘をついてどうする。さらには作戦が卑怯だ。酒で相手を酔わせたりそそのかせたり、魔族ならまだしも勇者が卑怯な作戦を立てて魔王様を倒そうとするなど言語道断。勇者は勇ましい者と書くのだ。勝つために手段を選ばないのは愚か者のやることだ」
「黙れ!」
「さらには魔王を倒してハーレム作るのが夢だったのだ。真の勇者なら、そんなことを絶対に口にしてはならない」
思うだけに止めなくてはならない――。
「黙れと言っているだろ!」
また剣で切りかかってくるが……遅い。よいしょよいしょとクワやスキで畑を耕すような動きだ。そもそもクワはともかく、スキってなんだ……? 実際に使っているところを見たことがない。平スコや剣スコのような物なのだろうか……。スキって名前は好きなのかもしれない。ウケル~!
剣をヒョイっとかわしてまたドンと蹴ってやると、無様にも顔から地面に突っ伏した。
「グワッ」
「貴様は……くれぐれも愚者にはなるなとだけ言っておこう」
倒れながらこちらを向く勇者の顔に剣先を向ける。勝敗は決した。
「く、ま、負けだ。殺すがいい!」
「勘違いするな。貴様など殺す価値もない。こんなに弱い勇者を切れば、他の四天王や魔王様に吹き出してゲラゲラ笑われてしまう」
馬鹿にされてしまうだろう。爆笑されてしまう。
「……くそー」
剣を鞘に収めた。
この勇者にも見どころはない。返り血が付けば、それを落とすのも面倒だ……。夜にシャワーを浴びてゴシゴシ擦らなくてはならない。
「青年よ命は大事にするがいい。死にたくなければ……勇者になどなるな」
「わたしは女だ!」
……なに?
なんだその急な、なろうにあるある発言は――。冷や汗が出る。
「ならば、貴様が身に付けている鎧は……まさか」
女子用鎧――!
しかも男と間違えるほどの胸小さめサイズ――!
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