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人間界


 ――どさ!


「……」

 人気のない山に不法投棄されたゴミ袋のように落ちる感覚。軽い目まいを振り払う。


 人間界の城から約5キロ離れた所に虹色の井戸は隠されている。

 枯れ木や落ち葉、ボロボロのよしずなどが被せてあり、ちょっと見たくらいではその下に隠してある井戸に気付かない。

 設置を手掛けた私ですら隠した井戸を見つけられず何度も探し回ったほどだ。夜になるとさらに見つけるのが難しく、徹夜で探さなくてはならない。少しは目立つようにマーキングしておきたいが、人間共に見つかれば大変なことになるのでそれもできない。

 日は刻一刻と西へ傾いている。急がなくては……。



 一時間くらい歩くと、ようやく人間共の造った城へと辿り着いた。大きな門の両端で門番が二人、お腹をさすって心地良さそうに眠っているのを見ると、またもやガッカリする。


 魔王軍四天王の一人が城に来ているのだぞ――。これはもはや、敵襲なのだぞ――。

「ンガー、ゴゴlッ。……ンゴゴー、ゲップ―!」

 ――! 一瞬イビキが止まったぞ。睡眠時無呼吸症候群の診断をしてもらった方がいいと言いたいが、起きるとややこしいから言わない。

 大きな門の扉を静かに押し開けて中へと入った。普段の鍛錬で腕力にだけは自信がある。腕立てと腹筋を五十回ずつ毎日欠かさずに筋トレしているから、何十人も必要な鉄の門も片手で開けられる。

 ゴゴゴゴゴゴ……。

 大扉が開いても、まだ寝ていやがる……。


 城壁内の城下町ものんびりしたものだ。やはり皆、魔王様の魔法が効いてい腹一杯なのだろう。草むらで居眠りしていたり、ベンチで横になっていたりと……人やモンスターをダメにするための魔法としては、この上ない魔法なのかもしれない。


 どの店の店員もうたた寝している。これでは誰かに禁呪文の感想を聞くとこができないじゃないか。起こして騒ぎが大きくなるのも避けたい。この様子だと、国王も年寄りだから……絶対に玉座でうたた寝しているだろう。


 ……こんなに昼間から眠って……夜寝られなくても知らないぞ。


 とにかく宿屋へと向かった。宿屋ならせめてフロントのお姉さんくらいは起きているだろう。


「いらっしゃいませ」

「……すまない。客じゃない」

「なんだ、冷やかしですか」

「冷やかしではないのだが……。ところで腹一杯になった感想を聞いてもいいか」

「え? ひょっとして、これってあなたの仕業なの?」

 四天王にガン飛ばすとはいい度胸だ小娘よ――。

「違う! 私ではない! えーっと、誰だろうね。分かんないね。でさあ、腹一杯になると争う気力もなくなるのかなあ……人間って」

 フロントに片肘を置き、さり気なく人間のフリをして聞いてみる。

「争う気力というか、腹一杯で動きたくなくなるわ」

「ならば……やはり効果ありなのか……」

 動きたくなくなり争いごとが減るのなら……その過程はともかく目的は達成できている。


 だったら腹八分を腹十六分くらいにまで増やせば、さらに高い効果を望めるのかもしれない。


「お前は、何者だ――!」

 ――?

 急に後ろから声を掛けられて振り向くと、階段から下りてきた鎧兜を身に付けた男が剣を抜いて構えていた。

「あ、勇者様、こちらは以前からの常連客でございます」

「……勇者様だと?」

 この間、勇者は石になったばかりの筈なのに……もう新しい勇者が人間界にはいるというのか――。

 なんて勇者の安売りなんだ……。バナナかと問いただしたくなる。

 今どき、バナナの叩き売りなんか見たことがない。冷や汗が出る、古過ぎて。


「まさか、お前は魔族なのか!」

 ……頭ないんよ? どう見ても人間じゃないだろと言いたいぞ。

「いかにも。魔王軍四天王の一人、宵闇のデュラハンとは私の事だ」

「うちの常連客よ」

 常連客と言わないで。ちょくちょく来たけれど泊った覚えは一度もないから。

「というか、フロントのお姉さんは余計なことを言わずに下がっていなさい。怪我するかもしれないから」

「店を壊すなら外でやってよ」

「……はい」

 仕方ない。勇者と二人で宿の外へと出ることにした。今日の目的は破壊や殺戮ではないのだ。


 前の勇者よりも、さらに一回り小柄で弱そうだ。剣も安物だし先がプルプル震えている。百戦錬磨どころか……たぶん、スライムくらいしか倒したことがない構えだ――。

「魔族が城へ何をしに来た!」

 声が裏返っているぞ……。キンキン声が聞き苦しい。

「フッフッフ、バレたら仕方がない。我らの禁呪文の効果を確認しにきただけだ」

「禁呪文だと、ま、まさか、この食べてもいないのにお腹が一杯なのは、お前達魔族の仕業だったのか」

「魔王様の仕業だ――」

 魔族も同じように苦しんでいるんだ――。

 一個人の思い付きを魔族全員の仕業にしないでくれ――。


「感想を聞いたら大人しく帰ってやるから安心しろ」

 我らは魔族だ。悪者のフリをしなくては人間に舐められてしまう。

「魔族のくせに、デカい顔をして城下町を歩くな!」

「なんだと?」

 ――デカい顔だと? ひょっとして、顔が見えるのか?


 ひょっとして、私の顔は見えないだけで本当は付いているのか……。今まではさんざん「顔なし」と呼ばれたが、私にだけ見えず皆からは見えている……そんなカラクリだったのか?

 手で探ってみるが、やはり顔など付いていない。


 ――騙された。ガチでムカつく。


「グヌヌヌ、若き勇者め、魔王軍四天王のひとり、この宵闇のデュラハンを侮辱するとはいい度胸だ――」


 久しぶりに剣を抜いた。光り輝く白金の剣を――。


読んでいただきありがとうございます!


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[良い点] ……デュラハンさん……ww 舐められるから悪ぶってるんですか……ww かわいいです!ww
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