ジュピター ジュピター
「無事、木星に到着したな」
「そうっすね。かなり時間がかかったすねー」
「いやいや、これでも昔に比べたら早く着くようになったんだぞ」
二人はロケットから降りると、そこには1匹の年老いたウサギが2つ足で立っていた。
「おお、来てくださいましたか」
「あなたは?」
「私はこの町の長を務めているものです」
「それでは今回、我々に依頼をしてくださったというのは」
「はい、私です」
ウサギの長は深々とお辞儀をした。
「では、早速その場所へとご案内いたします」
飛び跳ねて進むウサギの長を先頭に、隊長と部下は歩みを進めた。町を抜け森を抜け、たどり着いたのは洞窟だった。
「とても静かな町ですね」
「ええ、みんなひっそりと暮らしております」
「それにしても、こんな所まで来るなんて、なんだか探検みたいっすねー」
「何のんきなこと言ってるんだ」
さらに奥へと進んでいくと、先頭にいたウサギの長が足を止めた。
「着きました。こちらをみてください」
二人は言う通りに、懐中電灯が照らす壁に目を向けた。
「傷がついてているようですね」
「ええ、依頼というのは、この傷についての調査なのです」
「つまり、どいうことっすか?」
「この傷の意味を我々は知りたいのです!」
ウサギの長は「よろしくお願いします」と言い残して、洞窟から出ていった。
「どうするんすか?
「依頼は依頼だ。調査を始めようか」
「はいはーい」
二人は、早速調査を始めた。
「ええと、この傷1、2、……5本あるっすね」
「奥まで伸びているな」
「これ、ただの動物の爪痕じゃないっすか?」
「それにしては、きれいに5本の線が残ってるだろう」
「そうっすよねー」
隊長が5本の傷を注意深く観察すると、あるものを見つけた。
「お、これは……」
「どうしたっすか?」
「規則正しく、丸の記号が線の上や線と線の間にあるな」
部下が隊長の見ている部分に移動して、同じ記号を見始めた。
「本当っすね。しかも、ヒョロヒョロっと伸びてるっすよねー。なんか、おたまじゃくしみたいっす」
「今、何て言った?」
「へ?」
隊長はニヤリと笑っていた。
「おお、調査隊の皆さん。随分と遅い時間まで。お疲れさまでした」
「ああ、あるものを取りに地球に一度帰ったのでね。それに、わかりましたよ。あの傷の正体が」
「本当ですか! では、食事をとりながらお話をお聞かせください」
暖炉が燃える美しい部屋に、二人は通された。
「この料理、おいしいっすね!」
「おい、行儀が悪いぞ。素敵な音楽も台無しだ」
「いやはや、喜んでいただきとても嬉しいです。それで、お聞かせくださいますか?」
「ええ、それでは」
隊長はゴホン、と軽く喉を鳴らしてから言った。
「あれは、楽譜です」
ウサギの長は一瞬目を丸くさせ、
「が、『ガクフ』とは一体何なのでしょうか?」
と戸惑ったように言葉を発した。
「し、知らないんすか!? この星に音楽はないんすか?」
「え、ええ。この星には音楽というものがないものですから」
「そうだったのですね。この星に来てからの違和感の正体も分かりました」
「そういえば、町が静かだったのって……そういうことっすか!」
「ああ。きっとそうだろう」
二人の会話を聞いて、ウサギの長は困ったような表情をしていた。
「そ、それで、その『ガクフ』というものは、これからどのように使えばいいのですか?
部下は「フッフッフー」と笑いながら、
「これを持ってくるために地球に帰ったんすよ!」
と自慢げに道具をウサギの長に見せつけた。
「こ、これは?」
「地球では『鍵盤ハーモニカ』と呼ばれる、楽器というものっす!」
「ケンバンハーモニカ? ガッキ?」
「楽器とは、楽譜の内容を教えてくれるものです」
隊長が混乱するウサギの長にやさしく教えた。
「じゃあ、早速演奏するっすねー」
ド ド ソ ソ ラ ラ ソ ファ ファ ミ ミ レ レ ド
ソ ソ ファ ファ ミ ミ レ ソ ソ ファ ファ ミ ミ レ
ド ド ソ ソ ラ ラ ソ ファ ファ ミ ミ レ レ ド
「どうでしたか、隊長?」
「おう。完璧だ」
二人がウサギの長を見ると、つぶらな瞳がウルウルとしていた。
「と、とてもキレイです! なんて素敵なおとなんでしょうか!」
「よかったら、これ使ってくださいっす」
「この星の音楽の発展に活用してください」
「い、いいのですか? あ、ありがとうございます!」
二人は鍵盤ハーモニカをウサギの長に手渡した。ウサギの長は今まで一番高く飛び跳ねた。
帰りのロケットの中。
「なんで音楽のない町に楽譜が隠されていたんすかね?」
「さあな。昔、人間が木星に来た時の遊び心じゃないか?」
「その曲が『きらきら星』っていうのも、かわいいっすよねー」
「その曲を選んだ理由は、なんとなく分かるけどな」
「え! 教えてくださいよ、隊長!」
隊長は簡単に微笑んで、宇宙の景色に目をやった。
「ねえ~隊長~教えてくださいよ~」
読んでいただき、ありがとうございました。