1.はじめまして
「彼がお前の婚約者になるヘリネス家のご子息アーサーだ」
執務室に強制連行されたわたくしに、お父様が嬉々として言う。が、わたくしもアーサー様の表情には笑顔が無い。
正直わたくしはこの婚約を受け入れたくありません。わたくしの家は公爵家、侯爵家である彼の家より格が上。断れませんかねぇ……。
「お前ももう20歳を超えているからな、売れ残りに婿を探すのは大変だったぞ」
はーい。そこの外野(お父様)うるさい。説明は後にしてとりあえずアーサー様にご挨拶をしなければ。
「はじめまして。わたくしシャルロッテ=ロンリーヌと申します。まだ至らぬ点も多々ございますが貴台の婚約者として精進していきたいと思っております」
よし。完璧。淑女の礼も笑顔も挨拶も。これでも公爵家の一人娘やり続けて20年、表情筋が職務放棄しがちで感情の起伏が少ないわたくしでもこれぐらいはできます。
「はじめまして。私はアーサーです。貴方の様な美しい女性が婚約者となり嬉しい限りです」
アーサー様も笑顔で返してきた……200%偽物の笑顔だけどな!!そりゃそうだよな!!あんたの1番美しいと思ってるのは義姉だもんな!!
なんて考えていると両者本心を隠したままの顔合わせが終了した。わたくしはそそくさと自室に戻りベッドにダイブする。そして枕に顔を押し付け腹に力を入れる。
「あぁぁぁぁぁ遂に私にも面倒ごとがまわってきたぁぁぁぁ!!!たらすならちゃんと最後まで責任取れよ転生悪役令嬢様よぉぉぉぉ!!!!私はモブライフを満喫してたのにぃぃぃぃ!!!」
叫んだら大分スッキリしました。では頭にクエスチョンマークが浮かんでいるであろう皆様に少し説明いたしましょう。
みなさんが予想されている通りわたくしは乙女ゲームに転生した少し爵位の高いモブ令嬢です。ゲームでは顔を描かれないタイプのあれですよ。しかも名前と攻略キャラをにわかに聞いただけのゲームに転生してしまったので、美形な攻略キャラやヒロインを眺めて貴族としての生を全うしようと思っていたのです。
出来れば恋愛結婚をして、素晴らしい家庭を築きたかったのですが、無理であれば相手の殿方に愛人を作っていただき跡取りを生んでもらい、わたくしは悠々自適ライフを過ごすはずでしたの!!まぁその計画はヒロイン様と転生悪役令嬢様の所為で崩れてしまったのですが。