紅の戴冠
-VIII-
王になることを提案された次の日、ショーマはマルティリアの部屋に呼ばれました。
「心配をかけたわね。もう大丈夫よ」
ビルバム将軍の死後、室内にこもったきりになっていたマルティリアは、ショーマには以前よりも痩せて小さく見えました。
「マルティリア、俺は──」
「聞いたわよ。ショーマなら王様をやってもいいんじゃないの。それに私、あんたと……け、け、けっこん、してやってもいいんだから!」
マルティリアはショーマの返事を待たずに、彼に木の剣を投げ渡しました。
「か、体がなまっているのよねっ! 運動相手になりなさいよ!」
ショーマがまともに構えるよりも前からマルティリアは打ちかかってきます。ですが、かつてはあんなにも太刀打ちできなかった彼女の剣をショーマはいつの間にか見切っていることに気づきました。
「ショーマは……ほんとに強くなったわ!」
マルティリアはそうは言いながらも弱っていたとは思えない動きでした。
二人はしばらく剣を打ち合います。それは言葉よりも雄弁に互いの信頼を語り合うかのような濃密な時間でした。命の奪い合いではない剣をマルティリアと交えるショーマは、そこに得がたい確かな絆を感じたのです。
ショーマは彼女がいつしか大切な人になっていたのだと気づきました。
そんな二人の様子をこっそりと覗いていた老騎士ジェムホフは、お城の人々に自分が見たことを「お二人とも、なかなか激しかった。誰も邪魔しちゃいかん」と伝えました。
おかげで皆、色々と誤解しました。
なかには「あの二人の子供ならきっと元気で強い子が生まれるに違いない」などと言い出す者までおりました。
「マルティリア、聞いてほしいんだ」
さわやかな汗を流したあと、ショーマは話を始めました。
「俺には好きな女の子がいたんだ。だけどあいつを、俺は守りきることができなかった」
ホノカのこと、ユートのことを、マルティリアに伝えました。
また自分は竜神に力を授かり、魔王を探して戦うという約束を交わしていることも。
「竜神は、南の王になることは魔王に対抗するにはいいことだなんて言ってるけどな」
「なればいいじゃない。私がやるより、あんたがやればいいと思うし」
「マルティリアがそう言うなら、ビルバムのおっさんも許してくれるかな。でも、俺、魔王と戦って勝てるかどうかわからないからさ、結婚は待ってもらいたんだ」
ショーマは、魔王を倒せればきっとマルティリアのことを守りきれる自信になると。でも、倒せないことだって考えられる。結婚をするのはすべてが終わってからにしたいと伝えたのでした。
マルティリアは、彼女らしい言葉を使いショーマの考えを受け入れました。
あくる日、【南の国】の王城で戴冠の儀式が行われました。
真の竜帝にのみ可能とされる能力で、王である証【輝ける瞳】を授ける儀式です。
「おおっ、ショーマの両目が紅に強く輝いたぞ!」
ジェムホフが叫び、その場にいた者はショーマに南の王になったことの証【紅き輝ける瞳】が宿ったことを目撃いたしました。
こうして弟君はご自身が本物の竜帝であることを示され、ショーマは【南の王】となったのです。