武勲の翼
-IV-
ショーマはビルバム将軍と【東の国】を訪れました。
国境を越えてから立ち寄る町は賑わい活気があります。
怪物も少なく【中央の国】よりも目に見えて平和だとわかります。
東の王は、前の竜帝の弟君をビルバム将軍が連れて来てくれたことを歓迎しました。
「かならずや私が暴君プータックを倒し、正統な竜帝の座をあなたに取り戻すことを誓いましょう」
東の王アズナリュームはそう言って、弟君の前で膝をつきます。
その様子を見ていたショーマはアズナリュームのカリスマ性に圧倒されました。気品はあるものの弱々しい外見の弟君よりも、アズナリュームのほうが頭を下げていてさえも貫禄がありました。
竜神がショーマに囁きました。
「あれは魔王ではないな」
ショーマは少し安心しました。たくさんの兵士たちに守られたアズナリュームと戦わないといけないことには、ならなかったからです。
ビルバム将軍は東の王に仕えることになりました。
ショーマも、しばらくは将軍と戦うことにしました。あてもなく魔王を探すよりも、どこかの国で働いて情報を集めたほうが賢いと考えたからです。
【東の国】は目下のところ【南の国】と戦争をしていました。
「プータックと争うには、まず南を叩いてからだ」
アズナリュームは彼の父親が王をしていた時代に【南の国】によって奪われていた領地の大半を取り戻していました。
東の王は戦争の天才と言われ、そのせいであの男は英雄か魔王かと噂をされているのです。
「ビルバム将軍には期待している」
アズナリュームは将軍に難攻不落と言われる【南の国】の砦カーベローゼンを攻め落とすよう命令しました。
「王は我々を試しているようだ。ショーマ、手伝ってくれるか」
ショーマは成長した幼竜の背に乗り、空からカーベローゼンの砦に乗り込むことで、砦を陥落させるきっかけをつくりました。
その活躍によってショーマは竜騎士と呼ばれるようになります。
難攻不落の砦を守りの要としていた【南の国】はそこから畳み掛けるように領地を削り取れていきます。
ビルバム将軍とショーマは快進撃の中心にいました。
特に最大の決戦とされたノイアム河の戦いで、ショーマは敵の勇将ガニラノを一騎討ちのすえに破りました。
昼に始まったショーマとガニラノの戦いは日没近くまで続き、それはまさに死闘でした。
やがて南の王は降参し【東と南の国】はアズナリュームのもとに併合されます。ビルバム将軍は【南の国】の半分近くを領地として与えられました。
ですがこれを不快に感じる者たちがいました。
【東の国】に古くから仕えていたアズナリュームの配下の将軍らです。彼らはビルバム将軍のみならず、能力主義で部下を選ぶアズナリュームのことも嫌っていました。
新しい領地での暮らしが軌道に乗りはじめた頃、ビルバム将軍はお城に呼び出されました。
「竜騎士ショーマよ、マルティリアとともに留守を頼む」
将軍は少数をおともに従えてお城に出発しました。
数日ののちにショーマのもとに驚くべき報せが届きます。
ビルバム将軍が、アズナリューム王暗殺の咎めで捕縛され処刑されたというのでした。