騎士への道
-III-
ユートが魔法戦士として訓練を始めたのは、ショーマが【東の国】に入ってしばらくした頃でした。
崖から落ちた傷が癒え、言葉もわからない土地に慣れるまでには月日が必要だったのです。
賢者ラスコーニから魔法を教わり、戦いの訓練は【中央の国】の兵士を育成する施設で行われました。
「この若者は才能がある」
ユートは、ロジェーム将軍という人の目にとまりました。
国の中の平和を守る治安維持の仕事をしている将軍の下で、ユートは懸命に働きました。
悪党とはいえ時に人間を手にかけなくてはいけない戦いに優しいユートの心は痛みましたが、何かあったときに自分がホノカを守れるようになっていなくてはいけないと勇気を振り絞って頑張ったのです。
やがてロジェーム将軍はユートを新しく任命する三人の騎士の一人に選びました。
一緒に騎士になったアディルとニーブンは由緒正しい家柄の生まれで、特にニーブンは別の世界から来たユートが騎士になれたことが面白くありませんでした。
憎しみが抑えきれず一度はユートを罠に嵌めて陥れようとしたニーブンでしたが、かえって自分が掘った墓穴に落ちるようなことになりかけたところをユートに救われ、それからはお互いを頼もしい仲間と認めるようになりました。
三人の若き騎士は悪名高い商人ダジンと死霊術師デリュンバークの陰謀を突き止め阻止したことで大変な人気者となりました。
お城でお祝いのパーティーが開かれユートたちは勲章を貰いました。
舞踏会でのこと、ユートに恋をした貴族の令嬢がおりました。名前をシスフィーネといいます。
貴族の娘たちにとって別の世界の若者であるユートはどことなく不思議な魅力があるように見えましたから興味をもつ者は多かったのですが、なかでもシスフィーネは特別で、外見よりも彼の誠実な人柄に惹かれたのでした。
恋い焦がれたシスフィーネはある日、ユートが暮らしている賢者ラスコーニのお屋敷を訪ねました。
ユートは居なかったのですが、シスフィーネはホノカと出会いました。
二人はとても仲良くなりました。
賢者ラスコーニから、ユートと違って戦う才能がなくて危険だと外に出してもらえないホノカには、この世界で初めてできた友人でした。
「ユート様が御令嬢がたに見向きもされない理由がよくわかりましたわ。だってこんなに素敵な恋人がおられるのですから」
シスフィーネの言葉に、ホノカは驚きます。
「私はユートの恋人じゃないよ?」
ホノカはユートが本当の恋人であるショーマを見つけるために頑張ってくれていること。二人が親友同士であることを教えました。
「まあ。そうでしたの。でしたら、私はユート様のことを諦めなくてもよろしいのでしょうか」
「シスフィーネさんみたいな人だったら私、ユートとのこと応援するね。彼がいるときにまた来てくれると嬉しいな」
ユートの気持ちを知らないホノカは、シスフィーネにそんなことを約束してしまうのでした。