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交錯するラブレター  作者: じりゅー@挿し絵は相関図
第一章 First Cross
7/52

継続する拡大

ストックをっ…!出しきったっ…!

 

「中学校の時、広西って子がいたじゃない?」


「ああ、別のクラスにそんな人が居たらしいね。なんでも綺麗な人ってクラスの男子が良く言ってたけど。

 それが?」


「広西さん、彼氏が出来たんだって! 広西さんの高校ではその話題でもちきりだって、浦美うらみが言ってた!」


 麗と俺の噂は更なる拡大を見せていた。

 通学中に他校生の話のタネにされているのを聞くとは…


「で、お相手は?」


「分からないの、普通の人らしいんだけど…えーと、確か…りょうつ…テルテル坊主みたいな名前だったんだけど…」


 城津照矢だよ。俺はかんきちでもテルテル坊主でもない。

 なんだろう、訂正したいけどしたらしたで色々めんどくさいことになりそうだから訂正できない。めっさむずがゆい。

 その場に居たらもっとむずがゆい思いをしそうなので早足でその場を去る。

 早足の甲斐あってか学校には少し早く着いた。


「うわ…」


 麗と校門の前でばったり会う。麗は露骨に顔をしかめているが、俺も多分似たような表情になっているだろう。


「…おはよう。」


 ずっと顔をしかめて見つめ合うのも嫌なのであいさつで打開を試みる。


「……おはよう。」


 挨拶を一つ返すと、そそくさと校門に。


「あ、例のカップルだぜ。」


「お互いに恥ずかしがってるのか? 初々しい奴らめ…爆発しやがれ。もちろん男の方だけ。」


 くっそ、俺をピンポイントにディスりやがって。

 しかもお互いに恥ずかしがってるだと? あんな奴と話すのに緊張も恥も無いわ。


「お、喧嘩か? いいぞそのまま別れやがれ。」


 黒い笑みを顔に貼り付けて話しかけてきたのは渉だった。


「嫉妬と怨念にまみれた良い笑顔だな。そもそも付き合ってないから安心しろ。」


「黙ってろ二股野郎。昨日は皆寺さんと帰ってたのを知らなかったとでも思うのか?」


「なんだと!?」


 渉の言葉でまた周りの野郎どもが騒ぎ出した。

 余計なことを…火に油どころか火薬までつぎ込みやがった。


「あいつ…前から爆発して欲しかったが、まさかこんなに最低な奴だったなんて…惨たらしい死に方をした後に爆発しやがれ!」


 あの見知らぬ誰かさん(モブ野郎)なんてことを願ってやがる。死体蹴りってレベルじゃねーぞ。証拠隠滅してんじゃねえ。


「佐那とは幼馴染だってことは知ってるだろ!?

 恋人云々を抜きにしても一緒に帰るくらい良いじゃねーか! 家が近所だから帰る時間が被っただけで一緒に帰ることになるし!」


「ああ!?

 お前それ自慢か!? 自慢なのかお前!?

 ちょっと家の立地条件が良いからって調子乗ってんじゃねーぞ!」


「乗ってねーよ! しょーがないだろって言いたいだけだ!」


「あ、照矢。先に来てたんだね。

 またカレー、いつか作ってあげるから。じゃあ、急いでるから先に行くね!」


 サブリミナル佐那。爆弾だけ置いて去っていく。置き逃げすんじゃねぇ。


「…お前、佐那さんが何を作ったって?」


「カレーだ。

 腹減ったって言ったら作ってくれた。」


「お、お前! それ、胃袋掴みに来てるやつじゃないのか!?」


「胃袋を?

 …ってーと何か? 佐那は俺のことが好きだと?

 いや、それはねーよ。だってこの前大声で『照矢の事なんて好きじゃないから!』って言ってたし。」


「照れ隠しじゃねーの? ってーか、そうじゃなかったとしても佐那さんの手料理とか羨ましすぎるわ。爆発して治って爆発してを繰り返して来いお前。」


「なんで俺渉の嫉妬の為に何度も死に続けなきゃいけないの?

 嫌に決まってるだろ。って言うか出来ねーよ。」


「俺の嫉妬は俺だけの物じゃないんだ!

 そこらに居る野郎とか、ここに居ない野郎共の想いを背負って俺が裁こうとしてるだけなんだ!」


「野郎の嫉妬見苦しい。」


「あー! テメー俺達の想いをなんて酷い踏みにじり方をするんだ!

 覚えておけ! 何人もの刺客がお前に差し向けられるぞ! お前はそれを乗り越えられるかな!?」


「差し向けるな。」


 …まあ、こうして口では色々行ってくる奴だが…

 決して悪い奴ではないのだ。俺の他の友達は皆麗とのスキャンダルを聞いて離れていったというのに、渉だけは今もこうして友達でいてくれている。

 だからこうしてコイツの軽口に付き合ってやれるのだ。渉が居なければ俺はスキャンダルのせいでボッチになっていただろう。

 …麗の方はどうなのだろうか。

 友達が居なさそうな性格をしているが、アイツは数少ない友達をスキャンダルのせいで失って―――

 ―――ねーな。俺別にイケメンじゃないし。むしろ、友人なら祝福してくれるだろう。多分、そういう友人はアイツにも居るはずだ。

 麗は決して悪い奴じゃないから。

 きっと、内面を見てくれる友人の一人や二人は……


「くそっ! お前ちょっとポジション代われ!」


「出来ねーよ!」


 …渉の奴、マジで僻みだけで突っかかってるわけじゃないんだよな?

 ちょっと自信無くなってきた。






 昼休みのことだった。

 払拭しきれない疑惑のせいで悪くなった居心地には今日も耐えられず、屋上で昼食を済ませた帰りに麗を見た。

 麗の前には三人の女子がいて、麗含め全員険悪な雰囲気を醸し出していた。


「…どうしたんだ?」


 麗に話しかけると、例の前に居た三人の女子が俺を見てその場を去った。


「余計な事しないで。」


「余計も何も…ちょっと様子がおかしかったから見に来ただけなんだけど。

 どうしたんだ? あの三人とは仲が悪いのか?」


「私の問題だから、貴方には関係無い。赤の他人の貴方にはね。」


「そう言われてもな…俺、お前の…お前の事、すげー気になるんだよ。」


 危うく『お前の家族に頼まれて』とか言う所だった。

 そんなことを言ったところで彼女が素直に話してくれる訳が無いし、それどころかただでさえ不機嫌なのに怒らせてしまいそうだ。こういう時は俺自身が心配してるように見せた方が良い。俺自身心配ではあったし。


「…何? 新手の告白?」


「いや…なんでそうなる。

 まあ、嫌われてるとは言え一応知り合いだし…言うて俺もお前程麗を嫌ってる訳じゃないからな。」


「………分からない人。

 でも、やっぱり教えない。これは私の問題だから。」


 結構強情な奴だな。

 でも、本人が話してくれないなら仕方がない。俺は傍観者になるだけだ。


「引き止めて悪かったな。

 でも、ことが大きくなりそうならそうなる前に友達か家族に相談することをお勧めする。俺でも良いぞ。」


 多分聞いてくれないであろうが事務的なアドバイスをしてその場を去る。

 まあ、ちょっと仲が悪いくらいでそうそう大事になるとは思わないけどな。






「…広西さんが三人の女子に?」


「ああ、何か知らないか?」


 傍観者になろうと思ったのだが、やっぱり気になるものは気になって仕方ない。

 女子の情報網が広い(決めつけ)渉なら何か知ってるかもしれないと思い、放課後一緒に帰って聞きこみを始めていた。


「あー…確かに、何人かの女子と仲が悪いって噂を聞いたことがあるな。

 確か名前は…浦美さんと面美つらみさんと根田美ねたみさんだな。広西さんと同じクラスだったと思う。」


 ビンゴ、名前まで出てきた。

 楽しいビンゴ!


「なんでも、陰湿なイタズラをされてるって噂があるらしい。確かに、広西さんはあまり同性に好かれるような性格はしてないんだけど…容姿と相まってってところだろーな。女子ってこういうトコホントこえーよな。」


「そうかもな…」


 女子同士の虐めは精神的に責めることに重点を置く、という話は聞いたことがある。

 故に男のそれよりも辛いとか。尤も女子にいじめられたことなんてないから分からないが。


「…なんだ? 彼女の心配か?

 付き合ってないとか言ってるくせに、随分と気にかけてるじゃないか。」


「そりゃ気にもするさ。

 知らない仲じゃないし、別に嫌ってる訳でもない。向こうは嫌ってるっぽいけど。

 それでもいじめられてるかもしれないと思ったら、実際のところどうなのかは気になるし、見逃したらと思うと気が休まらない。」


「…お前、ドライな奴だと思ってたけど意外と良い奴なんだなー」


「意外とってなんだ意外とって。

 お前はどうなんだよお前は。」


「気になるに決まってるだろ!? あんな綺麗な奴が酷い目に遭ってるかもしれないんなら助けてやりたいさ!

 それに、助けたらなんかお礼してくれるかもしれないし…それを足掛かりに」

「ぶれてなくて安心した。」


 純粋に良い奴にはなれないのかと思うが、同時に渉はこういう奴なんだと納得する。

 美少女相手には打算が働く。女好き…というか渉のさがだろう。


「でも、あんまり深く調べようとして肝心の広西さんに嫌われるのも嫌だし、俺も嫌われるようなことしたくないし…」


「どんな方法で調べるんだお前…」


「そりゃ、び…聞き込みとか色々あるんだけどさー、周りの人物に訊くにしても、探りまわられるっていうのは良い気がしないだろ?」


「…聞き込み以外の方法は?」


「それは秘密って奴で。」


「……犯罪だけはするなよ。」


「してねーって!」


 怪しいものだ。尾行とか言いかけてたし。


「とにかく、お前もどうにかしたいと思ってるのか?」


「あぁ、だから浦美さんと面美さんと根田美さんについても色々調べたんだけど…

 まだスリーサイズとか体重とかの情報は」

「警察は110だよな?」


「ジョークだよジョーク!

 勘弁してくれよ~…三人が嫌ってる原因とか、解決方法につながる情報が集まらないんだ。」


「…じゃあ、知ってる情報だけ教えてくれ。」


「えっと、三人は所謂仲良しグループだな。休み時間とか放課後、ついでに部活の時も三人で居るらしい。」


「部活は一緒なのか?」


「ああ、全員陸上部だったはずだ。

 …あ、そうだ。そう言えばあの三人…テルテル、お前が告白されたのって先週の金曜日だよな?」


「そうだけど…何かあったのか?」


「その日、放課後に屋上の方に行ってたのを見たんだよ。

 あの三人は来なかったのか?」


「え? そうなのか?

 いや、来てなかったけど…あとテルテルは止めろ、吊るすぞ。」


「おー恐っ。

 そうなのか…でも、確か照矢が屋上に行った後に向かうのを見たんだよ。」


「……なんでそんなの見てんの?」


「そ、それはまあ企業秘密で…」


「お前が直に見たのか?」


「そ、そうは言ってないだろ。」


「言っただろ、『見たんだよ』って。」


「まあそんなことはどうでも良いじゃないか! 重要な情報の一つなんだからさ!」


 確かに、言われて見れば重要な情報なのかもしれない。

 その三人のうちの誰かが、あの時来なかったラブレターの差出人である可能性が出てきたのだから。

 俺に送ったのか、それとも麗をからかう為に送ったのか…どちらか分からないが、三人の内の誰か、もしくは全員が関わっている可能性は否定できない。


「とにかく、その美美美三人衆は調べておく必要がありそうだな…」


「美美美三人衆? すごいセンスだなお前。

 美トリオとかで…ごろ悪いな。美美美三人衆で良いよ。」


「…と言う訳で渉。尾行でも聞き込みでもなんでもいいから三人の事を調べてくれ。」


「俺頼りか~い!」


「俺に女子の調査のためのメソッド的な奴はないからな…

 こういうのはプロに任せた方が確実で安全だ。」


「安全ってお前が手を下さないからだよな!?被害が俺にしかこないからだよな!?」


「いや、別にそう言う訳じゃないんだが…俺が調べる時よりは安全に調べられるだろ?

 だから頼む。今度麗に友人として紹介するから。三人の事を調べたという功績があれば、簡単に近付きやすくなるはずだ。」


「…その言葉、忘れんなよ?」


「もちろんだ。」


 実質ノーリスクなので問題無い。

 それに、友達が増えれば麗の親御さんもきっと喜んでくれるだろう。俺と麗は三人の情報が得られるし、渉は麗と知り合える。麗の家族は麗の友達が増えて喜ぶ。皆ハッピーでウィンウィンウィンウィンだ。

 仕込みは終わった。後は渉の働き次第だ。

 ついでに麗に今の話を全部伝えておくか。

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