開放する本性
「……え?」
奈落の底に突き落とされたような気分だった。
今の完全にオッケーの流れだったじゃん? なんでダメなんだ? 俺が失敗系主人公だから? もしかして俺以外に好きな奴が…?
…いや、麗の気持ちに関しては知っている。
だって、聞いてしまったから。
忘れたことにしろと言われても無理だった。
『貴方が、照矢君が好きだから! 絶対に居なくなってほしくなかったの!』
彼女が俺を助けてくれた時に掛けてくれた、あの言葉を無かったことにはできなかった。
「…ふ、ふふ…」
「れ、麗…?」
「あはははははははは!」
分からない。
麗が今、どうして笑っているのか。
それも、妹の紅美や、悠菜のように明るく。
「…いえ、確かに今お付き合いは出来ないけど…私、照矢君の事は好き。それだけは間違いないしいつか付き合いたいと思ってる。」
「……??」
なら、尚更分からない。
どうして俺今断られたの?
「けど、今じゃない。
本当の私…いえ、生来の私は紅美や悠菜みたいな感じなの。学校とか、外ではあんな感じだけど…素っていうか、本質に近い部分では明るい…みたいな。」
「…今のはその一端ってことか?」
「ええ…昔色々あって、今みたいになったけど。
それは昔からの友達とか、家族以外には出来るだけ隠してた。
けど、照矢君には私のその部分のことも知ってほしかった。
私も、考えてみると照矢君の事あんまり知らないから…だから、お互いにいろんなことを知って、それから付き合いたい。
…さっき笑ったのは、前の紅美と同じことを言ってると思ったから。まさか紅美と被る…いえ、紅美に教えられるなんて、って。紅美も大きくなったなって考えたら、笑っちゃった。」
…そう言えば、ルークとデートした後の紅美も同じこと言ってたな。
もっとよく知り合ってから付き合いたい……って、それつまるところ…
「…じゃあなんだ? 俺、キープされてるって事?」
「………」
「て、照矢! この人絶対否定しようとしたけど否定できないことに気付いたって感じだよ!?」
否定材料は確かに見当たらないな。残念ながら。
あー、俺キープって言って女友達に牽制かけるみたいな悪女を好きになっちゃったのかー、ショックだわー。
「…何か変な事考えてない?」
「麗って結構悪女なんだなーって。人の告白を断って笑ってたしなーって。」
「ちょ、ちょっと! 告白の事で笑ったわけじゃないって言ったじゃない! 実は根に持ってる!?」
当たり前だ、こんなん一生ものだよ。子供や孫に語り継いでやるから覚悟しとけ。
「………広西さん、素はこんな感じなのか…ギャップでかっ。
けど、そっちの方が良い気がする。」
「それは照矢君に言われたかった!」
「俺も合ってると思うぞ?」
「遅い! 後出しで言われてもそんなに嬉しくない!」
「いや、本当だぞ? 無理してないっていうか、張り詰めてないっていうか、良い感じで緩んだって言うか…そういう雰囲気の麗も…す、好きだけどな。」
やばいこんな言葉尻にくっ付けた好きでもめっちゃ恥ずかしい。
君が好きだとか面と向かって平然と言える奴らどんな精神構造してんの?
「ええい! 失恋者二人の前で惚気るんじゃねえよ! 後はお二人で勝手にしろ!」
「あ、ちょっと! なんで私まで引っ張っていくの!?
とにかく、付き合ってないんだったら私にだってまだチャンスはあるんだからね! これで勝っただなんて思わないでよね!」
「もう勝負はついてるから!
泥棒猫にかすませる隙を与えるつもりも無いから、観念して新しい恋を探しなさい!」
渉は佐那を連れ、屋上を去って行った。
残されたのは俺と麗だけ。気を利かせるのは良いんだけどいきなり2人っきりにされても困る。
「え、えーと…とりあえず、お付き合いの話は無しって事か?」
「ええ、けどいずれ。
その時が来たら、私から告白するから。」
「…なかなかズルいことするな。お互いの気持ちが分かってる上で告白するなんて。
絶対成功するに決まってるだろ…俺の勇気を返せ。」
「照矢君も、私の気持ちを聞いてたじゃない。その上で告白した。違う?」
「そうだけどさ…お前は勇気を出したっていうより、勢いで言ったって感じだったし。」
「そこはお互い様、じゃ駄目?
照矢君もあの時の勢いで告白したんでしょ?」
「……確かにな。」
実際、渉と佐那の告白が無ければあの関係をダラダラと続けていたのだろう。
互いに互いを好きでありながら、そうと知っていながらずっと先に進めない、ただ停滞した関係を。
ある意味ではあの二人に感謝すべきなのかもしれない。
…素直に感謝したら、皮肉かと激昂されても文句は言えないが。
「案外、俺たちも似た者同士なのかもしれないな。
最初は水と油みたいな、正反対で交わることが無いみたいな感じかと思ってたけど。」
「私も、最初は照矢君が…いえ、一応気になってたのかもしれない。
嫌いではあったけど、ああして知り合ったわけだから、縁はあるのかもって。
だから貴方に頼ったり、感謝できたりしたのかも。」
頼る…ああ、最初のフードコートの時か。
懐かしいな、あの時は麗にくっついたナンパを追い払うために彼氏のフリをしてやったんだっけ…
それで渉と麗の妹に誤解されて、麗の家に誤解を払拭しに行って…
全てはそこから…いや、全てはこの屋上からだった。
「その後何度も貴方から助けられて…ありがたかったけど、当時は認めたくなかった。
照矢君と出会う前の私は何でも一人でしようとしてたし、助けを求めることを恥だと思うくらいだった。
そんな私が決定的なところで助けられて…良い意味でそういった無駄なプライドを壊せたんだと思う。」
決定的なところ…クズ彼氏の一件だろうか。
自分で言うのもなんだが、あの時は俺が手を貸さなければ麗は………
…嫌な想像はよそう。気分を悪くするだけだ。
「照矢君の事を好きになったのはその時からだった。
けど…なかなか素直になれなかった。
素直になれたのは照矢君が死ぬって強く思った、あの時だけだった。」
「………あの時は悪かったな。心配かけて。」
「それはもう良い、あの子を助けに行かなかった私も同罪だし、照矢君を責めるのは違う。
照矢君は私と同じように、あの子を助けようとしたんだから。
あんな気持ちを味わうのは、もうごめんだけど。」
麗が涙ぐんでいることに気付いた俺は、抱きしめようとしてためらい、肩に手を置いた。
「…大丈夫だ、俺は居なくならない。いなくなってたまるか。
広西麗がいるって言うのに。」
確たる決意を秘めた眼差しを向ける。
麗はこれまでになかった満面の笑顔を向けて飛びついてきた。
俺もそれに応えるように、彼女を優しく抱きしめた。
完結まで読んでいただき、ありがとうございました。
初投稿が二年前、ネタが切れたのが去年、失踪から帰ってきたのが半年前と、色々ありました。
書き始めた当初はネタが切れてもダラダラ書き続けられるだろうと甘い目算を立ててました。一作目はそれでまかり通ってしまったので…悪い実績ですね。
では、今度は現代異能…いや、別の短編に手を出すかも?
まあ何とも言えませんが、またいつか、新作を書こうと思っているのでその時に見に来て頂ければ幸いです。
それでは!




