判明する筆者
脳をまぞくに支配されてました。
シャ○悪(言いたかっただけ)。
「照矢君、今日も一緒に帰ろう。」
「お、おう…」
ここ数日、俺は麗の家に入り浸ってしまっている。
おかげで麗もこんな言い回しになり、最早嫉妬の視線も減少し始めてしまっている始末だ。気が楽だから良いけど順応早すぎじゃないのクラスメイト。
「……なあ照矢。ほんっとうに変なことはしてないんだよな?」
「なんもないって言ってるだろ。」
こんな質問をしてくるのは渉くらいだ。
最初の頃はクラスメイト全員が注目する中答え、麗にも証言を貰う羽目になっていたのだが…本当に何もないと信じてくれたのだろう。
…信じてくれたんだよな?
「………」
めっちゃ睨んでくる佐那を内心警戒しながら帰る支度を進める。なんかしてくることは無いけど、めっさおっかない。
…最近佐那からの当たりが妙に強い気がする。現在は主に視線が。
ここしばらくは夕食を作るどころか俺の家にも来なくなったし、態度もどことなく素っ気ない。
別に佐那は俺んちの夕食当番でもなんでもないから夕食とかは良いんだけど、素っ気ないのは寂しい。スルーはしないけど返答が短かったりとか反応が薄かったりとか。ちょいちょい不機嫌な感じになることもある。
あと、こんな感じでたまに睨んでくるのも怖い。俺何もしてないのに。
「…なあ、照矢。
たまにはさ…皆寺さんのことも気にかけてやってくれないか…?」
「!?」
渉の口からあり得ない台詞が飛び出してきた。
幻聴か? それとも夢か?
「なんだその顔。」
「お前…渉じゃないな。誰だ? 俺に近付いて何を企んでる。」
「本物だよ! なんだそんなシリアスな声で!
俺がそんなに女子を気に掛けるのが珍しいか!」
「いや、なんていうかお前は…
こういう時、女子に突撃して『落ち込んでるねぇ~! 僕と遊んで嫌なこと忘れない?』とか言って玉砕しそうなイメージがあった。」
「…流石にあそこまで深刻そうに悩んでたらそんなこと言わねーよ。っていうかどんな距離の女子に言うんだそれ。空元気でも出してほしい時くらいしか言わねーよ。」
「今じゃね?」
「今じゃねぇ!」
まああの雰囲気じゃそんなことしたら刺されても文句言えねーな。言葉のナイフとかで。
トゲトゲしいどころじゃねーもん。ハリセンボンとかウニとかが丸く見えるレベルだもん。ナイフどころか刀が飛んできそう。
「お前も分かるだろ、最近の皆寺さんおっかないんだよ! 見ててゾッとするくらい!
なんか知らんけど視線とか見るにお前が怒らせたっぽいだろ? しかもお前にも自覚無さそうだったし!
だからちゃんと話を聞いてやれ、そんで謝れ!」
「わ、分かったよ…なるべく早めにな。」
佐那が怒っている(?)理由は分からないが、とっとと聞いてとっとと解決しよう。きっかけはいくらでも作れるだろうし。
だが、それより今は麗だ。最近物凄く丸くなったけど、あんまり待たせると滅茶苦茶嫌味言われるような気がする。
今は杞憂に過ぎないと思うが、これまでの付き合い方のせいでそういうルーチンがあるような気がしているのだろう。恐らくよくない名残だが待たせすぎるのもよろしくないので急いで支度をして麗の元へ。
「待たせたな、行こう。」
「うん。」
そうして、今日も麗の家で放課後を過ごした。
やっていることと言えばゲームや宿題、更に言うなら紅美も時々乱入してくるのだが…
これはまあ、渉に変な勘繰りをされるのも仕方ないか。なんて考えながら帰宅した。
「………」
昨夜、佐那に連絡を取った。
とは言っても、話がしたいとSENNで送っただけだったが…
[放課後に学校の屋上に来てほしい]
と短い返答が返ってきた。
俺としてはチャットや電話で話すつもりだったので若干虚をつかれた形にはなったが、それで了承した。
とはいえ、謎だ。
仮に2人きりで話したいのならお互いの家でも良いはずだし、そちらの方が誰にも聞かれる心配はない。
親に聞かれたくない話なのか、なんて考えたがそうだとしても屋上を選んだ理由は謎だ。帰り道とか河川敷とかの方がよっぽど…全く人気が無い訳じゃないか。
考えても堂々巡り。無駄な思考は省くに限るとやや思考停止気味に屋上へ向かうことにした。
教室に佐那の姿は無かったので、きっと先に来ているのだろう。
屋上の扉を開けると、予想通りの人影が………
「……ん?」
一つじゃない。
佐那以外にも二人いる。
「…なんでお前らが居るんだ?」
麗と渉が真正面で向き合っていた。
意外な組み合わせだ。渉はともかく麗は渉が苦手だったはず…まあ、呼び出しをはねるほど嫌ってるわけでもないし、意外でもおかしくはないか。
「照矢君?」
「ちょうど来たか…」
驚く麗に対し、渉は俺が来ることを知っていたようだ。
俺は佐那に呼ばれてここに来たので佐那の前に立つ。これでニ対二の構図になった。
「来たね、照矢。
見ての通り、ここに呼んだのは照矢だけじゃないんだ。
っていうのも、これからする話に関係してるんだけど…」
佐那の話を聞きながらこのメンバーの共通点を洗い出し、話の推測を行う。
友人同士…と言うのなら、ここに明日木が居ないのはおかしい。それに渉は友好度的に若干浮いている。俺はともかく、佐那と渉の関係と言えば俺を介した友人の友人といった感じだったし、麗や明日木も同じような関係だ。しかも、佐那よりも付き合いが短いため距離が遠い。イツメンというには遠すぎる。
後で明日木も来るという様子でもない。既に話は本題に入りかけている。
この四人だけでどこかに出かけたとか何かをしたということも無いし、しても明日木が居たり渉が居なかったりした。
結論としてはやはり共通点が薄い。話の予測は出来ない。
「照矢は覚えてる? 夏休み前に手紙を貰ったこと。」
「手紙…? あ、手紙か。」
手紙なんて名詞を使われたから一瞬分からなかったが、思い返してラブレターのことだと理解した。
忘れる訳も無い。何故ならそれまでラブレターを貰った事なんて無かったし、麗と出会ったきっかけでもあったし…きっと一生忘れないだろう。記憶喪失にでもならない限り。
「広西さんもだったよね?」
「うん、そうだったけど…結局誰も来なかった。」
「……実はね、私と軽井君は2人に謝らなきゃいけないことがあるんだ。」
謝る?
知らない間に何かされてたのだろうか…なんて、考えたのは一秒にも満たない僅かな時間だけだった。
麗も同じことを思い至った様子だ。表情で分かる。
「察しがついたみたいだけど、ちゃんと言うよ。
実は2人のラブレターは……私達が、出したんだ。」
「俺が広西さんに、皆寺さんが照矢にな。」
「………」
理解した。
俺が佐那に対して、大きな思い違いをしていたことを。
最近の渉が、俺と麗の距離感に不満を持っていた理由を。
そして、最近の佐那の態度の理由も。
「…どうして、あの時来なかったの?」
それを訊いた麗の態度は、どこか毅然としているようだった。
必要以上に張り詰めているような、そんな感じすらする。
「…まさか、告白の場所とタイミングが軽井君と被るなんて思ってなかったんだ。
来てみたら屋上のドアの前に軽井君が居て、屋上には照矢と広西さんが居て…
それで、軽井君と事情を説明しあってたら、なんだか行き辛くなってきて…2人で行こうと思って行ってみたら、もう2人ともいなかったんだよね…ゴメンね、待たせちゃって。」
「本当に悪かった、被ったとしてもすぐ行くべきだった。」
結構な時間迷ってたな。一時間以上待ってたぞ。
あの時は滅茶苦茶気まずくて辛かったな…
「…気持ちは分かる。
確かにあの時は告白だなんて雰囲気じゃなかったし、出て行くだけでも勇気が必要。本人だけなら覚悟の上でしょうけど赤の他人にまでその気持ちが伝わるのは辛い。
それでも踏み切れ、なんて言うつもりは無い。」
…え? 今麗の奴慰めたの? 嘘だろ?
てっきりボロクソに言いまくると思ってたのに……麗の認識を本格的に変えた方が良さそうだな。
きっと彼女もあの時から変わったのだろう。そのきっかけが俺…っていうとこそばゆい物はあるけど。
…自意識過剰か? そうでもないか。
「それで、貴方達はそれを話すためだけに私と照矢君をここに呼んだの?」
「違うよ。
あの時に出来なかった告白を、やり直しに来た。」
……もうとっくに告白してるようなもんじゃねーか。
あとは俺たちの答え待ち? えちょっと待って心の準備が…
………
「…照矢。」
「広西さん…」
示し合わせたわけではないだろうが、同時だった。
「「……」」
こちらも全く同じ面持ち。無言で耳を傾ける。何を言われるか、分かっていても緊張は拭いきれない。
「ずっと前から…ずっと好きでした。」
「一目見た時から、好きだった。」
「私と、」
「俺と、」
「「付き合ってください!」」
「………」
自分の気持ちに素直になれ。
俺は、俺自身がどうしたいか。どう思っているか。正直に考えて答えろ。
「…ゴメン、佐那。
俺…実は、好きな奴がいるんだ。」
そんな思考が、停滞していた思考と口を動かした。
俺も変わった。麗と出会い、色々なことがあって、色々な困難を乗り越えて。
今の雲道先輩に似通った思考も、きっとその賜物だ。
あの日、あの時に同じ言葉をかけられていたら確実に答えは違っていた。
戸惑って、佐那を傷つけたくないからという理由で告白を受け…きっと、近いうちに彼女を傷つけていただろう。
困難に、好きな人に出会うまでの、俺だったら。
そんな確信があった。
「ごめんなさい、私は好きな人が居るから付き合えない。」
隣の麗も、きっと同じ答えは言わなかっただろう。
了承は確実にしなかっただろうが、たった一言、短く断ってこの場を去っていたはずだ。
しかし、彼女はまだ去る様子を見せない。
そして、俺も。
「……」
麗に体を向けると、彼女も俺を向いていた。
ここで言わずして、いつ言うか。
「れ、麗。」
「…はい。」
佐那も渉も勇気を出したんだ。俺が引っ込んじゃ駄目だろ。
思考から逃げ道を奪い、重い口をこじ開ける。
「俺、麗の事が好きだ。付き合ってください。」
……言った。
言ってやった。言ってしまった。
後に退く段階は踏み越えた。今俺が取るべき行動はもう無い。待つだけだ。
「………」
麗は目を閉じ、沈黙する。
…一秒一秒をこんなに長く感じたことがあっただろうか。
いつ彼女の口が開くのか、待ち遠しくて仕方ない。
落ち着け。落ち着くんだ。
時は流れる。いくら待ち遠しい時間でも、待てば必ず流れ去りその瞬間は訪れる。
そう自分に言い聞かせてただ待った。
「城津君。」
ついにその瞬間が来た。
ざわつく心を押さえつけ、一言一句を聞き逃さぬよう耳を傾ける。
そして、俺の耳は。
「…だ~め!」
信じられない一言を捉えた。




