白状する両者
最近一時以内に寝れない…
「………」
「………」
気まずい。
帰り道でなんか手を繋いでしまっていたこともあるが、2人きりになってしまったというのが大きい。
一度俺の家に戻り、支度を終えて麗の家に来た俺と麗はゲームの準備を進めていた。
麗の話によると、まだ紅美の夏休みは終わっていないので家に居るはずだったのだが…どうやらお出かけ中のようだった。
幸い麗のケータイに部屋とゲームを使っても良いと連絡してくれていたようなので、何もすることが無くただただ麗の部屋に居座るという惨事だけは免れた。ゲームに夢中になればこの気まずさも無くなるだろう。
「麗ってさ、やっぱりあんまゲームとかやらないのか? ゲームは紅美が持ってるっぽいし。」
昨日やってたソフトを準備しながら訊く。ちょっとでも雰囲気を柔らかくしたい。
「昔は紅美とやってたけど、本にハマってからは全くしなくなった。
紅美も他の友達と遊ぶようになってたし、相手には困らなかったみたい。
一ヶ月前に私が紅美に訓練を頼むまでの話だけど。」
「それだ。昨日も思ったんだけどさ、なんで訓練をしたんだ?」
「…前に照矢君と紅美がこのゲームをしてたから。
私もちょっとやってみたいって思った。」
「それにしたって一か月前って…俺と紅美が対戦したのってもっと前じゃなかったか?」
「…白状すれば良いんでしょう?
お察しの通り、貴方といい勝負をすれば気を引けるかと思ったの。」
「…お、おう。そうだったのか。」
ツッコまなきゃよかったとちょっと後悔。気まずい空気がもっと気まずくなってしまった。
「……けど、実はもう一つ理由があって。」
「理由?」
他に何があるか、想像がつかなかった。いや二つ目も想定外だけど。
「貴方に勝ちたかった。」
「え? いや、勝ちたいってお前…むしろ俺が麗に何一つ勝ててないと思うんだけど。」
「いえ、私は貴方に勝ててない。
正確に言うなら、貴方を上回れてない。
貴方が私にしたことと、私が貴方にしたことには大きすぎる差がある。
私は貴方に助けてもらってばかりで、恩を受け取るばっかりで、返すことも出来なかったから。自分に自信が持てなくなってた。
だから…何でもいいから上回って、自信を持ちたかった。
けど、今思えば虚しいだけね。助けてもらってるくせに勝手に打ちひしがれて、それで別の何かで勝とうとするんだから。
浅ましいにも程がある。そんなことをしてるなら恩を一つでも返さなきゃいけないのに。」
「………」
俺は大いに驚いていた。
以前の麗であれば聞けなかったであろう、彼女の弱々しい本音、そしてその姿。
自嘲するような笑みは、俺も見ていて心が痛んだ。
「そこまで深刻に考えなくても、良いと思うぞ?」
思わず、気休めを口にしてしまうほどに。
「恩を返したいって気持ちは分かる。けど、そんなに焦らなくても良いだろ。
もしお前が明日居なくなるとか、そう言うのだったらともかく…お前にも俺にも、まだまだ時間はあるだろ?
恩なんてゆっくり返していけばいいんだよ。
まあ、昨日死にかけた俺が言うことでもないかもしれないけどさ。
それに、俺もお前に助けてもらったじゃないか。俺は命まで助けたわけじゃないし、かなり人の手を頼ったから…お互い様って言えるかは分からないけど。」
「…じゃあ、これからお互いに恩を返していく?」
「そうだな、気長に。」
画面ではとっくにオープニングムービーが終わり、CPUの対戦の模様が映っていた。
ボタンを押して操作し、対戦モードに移行する。
「…そう言えば照矢君。」
「なんだ?」
「どうして、私を助けてくれたの?」
「………」
確か、以前は言いたくないと言っていたか。
本当の理由は話すのに勇気が必要だ。
「…そうだな、きちんと言わなきゃな。」
けど、話さない訳にはいかない。
麗と付き合っていく…というと変な意味にも聞こえるが、交友関係を築いていくのなら避けては通れない話題だろう。
それに、彼女はもう俺に弱音を見せてくれるまで信頼してくれている。隠し続けるのはその信頼を裏切るような気がした。
「愛依って奴は覚えてるか?」
「ええ、すごく。」
麗から黒いオーラがあふれ出るが、話を続ける。
「実はアイツ…中学の頃にいじめられてたんだ。」
「…え? そうなの?」
愛依が以前太っていて、それが原因でいじめられていた事と俺がすぐに彼女だと気付けなかったこと。
彼女がいじめられる現場を見て、情けなく逃げてしまった事。
それ以来彼女と話すことは無かったこと。
そして、彼女はその復讐のために痩せ、俺に接触してきていたこと。
全て、包み隠さず話した。
「だからさ、もし俺がすげー奴だって思ってるなら…考え直してくれ。」
「……いえ、その必要は無い。
理由はともかく、何度も私を助けてくれた。言いづらい過去を正直に言ってくれた。それで充分。」
「それと、さ。実は…それだけじゃ、ないと思うんだ。」
「どういうこと?」
「人ってさ、嫌いな奴以外には基本嫌な奴…っていうか、駄目な奴だって思われたくないだろ?
特に、尊敬してる人とか美人とかイケメンとかにはその傾向が強い訳だ。」
「……」
視線で続きを促された。
「つまりだな、その……
…俺、麗みたいな奴がタイプなのかもしれない。」
「え?
…え!?」
「実は、最初にお前を見た時ドキッとしたんだ…
この人から告白されるのかなってさ。お前がラブレターを出すのがもう少し遅かったら、コイツならオッケーしても良いかもって思ってたかもしれない…も、もしかしたらだけどな!?
ただそれは、内面を見てなかったからって言うか、外見しかわからなかったって言うのもあると思うけど…少なくとも、見た目は好きだったかもしれない。」
言いたいことがまとまらないが、やや支離滅裂になりかけながらも言いきれた。
伝えきれていない気もしたが、続く言葉も思い付かない。
「………」
麗も俺も部屋の壁を見始める。お互い相手はもちろんキャラの選択画面も全く見ていない。
顔を合わせたら赤くなってるのがバレてしまうだろう。麗はどうかは分からないが、無理に見たらぶん殴られても文句を言えないことくらいは分かる。俺が見に行けないんだけど。
「い、今は」
「あー! そう言えば俺ゲームしに来たんだった!
ほら、早く来いよ! お得意のキャラでも容赦なく落としてやるからな!」
「……分かった、本気出す。」
急いでキャラを選択し、麗も持ちキャラを選んだのを見るとやや食い気味に決定ボタンを押した。
その後は妙な空気になることなく、2人でゲームを楽しんだ。




