到来する既視感
「次、どうする?」
「そっすね…あんまり荷物抱えて歩き回るのもキツいだろうし、帰るのありじゃないかと。俺は別に用事ないし。」
「…そうだね。」
ルークの正論気味な提案を聞いた紅美は寂しげな返事を返す。まだまだ遊び足りない、というかルークと一緒に居たいのだろう。
「……」
「気の利いた提案を出すまで長い。」
それを察して思案するルークにすかさずツッコむ麗。
麗の辛口にももう慣れてきてしまった。って言うかいちゃもんを付けるタイミングが分かってきてしまった。粗出したらすぐつっこむんだもんコイツ。
英語話したら欧米か、みたいな感じ。古い? でも良いよね。
今度はヤツのツッコミに合わせてみるか、しめしめ。
「あ~、その、実はちょっと本屋行きたいんで行っても?」
「! 良いよ!」
「「遅い。」」
「絶対そう言うと思った。」
「……その顔嫌い。」
言い方が顔面否定。狙ったんだろうけど辛い。
麗は一度向けた不機嫌そうな顔を戻し、再度2人の観察を行う。
「どういう本? 良かったら私も探すよ!」
「漫画なんスけど、最近タイトルが長ったらしいのばっかじゃないっすか? 絵を見れば分かると思うんすけどねー、ちょっと覚えてられないんすよねー。」
あの目は確実に全部タイトル覚えてるけど教えるの恥ずかしいから言いたくないって奴の目だな。
あんまり趣味をオープンにしたくないタイプが良くする目だ。あとえっちい漫画だから女子に教えたくないみたいな場合の目。そんな奴見た事ねーけど。
「質問に対して不明瞭な返答。不誠実。」
麗のマイナスポイントも順調に溜まっている。それは良いけどコイツそんなもん溜めてどうすんだろ。
実は野郎の人となりを見る為に今日尾行してましたーなんて白状したら嫌われそうなもんだけど。流石に姉でもそこまでは許されないんじゃないんですかね?
「ちょっと時間がかかりそうなんで、そっちはそっちで本見てていいっすよ。」
「そう? ならテキトーに見てよっかな…」
「その間荷物持っとくか?」
「あー…なら私が近くで荷物見て待ってるよ。確か近くにベンチあったよね?」
「おぉ、助かる。じゃあ頼む。」
「女の子に気遣わせるなんて何様のつもり?」
「お前は女の特権を過信しすぎだ。
夫婦に限らず、円満の秘訣って結局のところ持ちつ持たれつだぞ。」
「そうなの?」
「ああ。」
まあテキトーだけど。
でも的外れではないだろう。完璧すぎるとパートナーすら必要なくなる、というか隣に誰かいても足手まといになってしまうのだから。もうアイツ一人で良いんじゃないかなって感じのアレ。
つまるところ世の中何事もバランスが大事。均衡を保てなくなったものは崩れ去るのが運命なのだ。
…高1の俺が言っても説得力皆無だろうからそこまでは言わんけど。ついでに嘘とも言わない。正しければ嘘って言ったらそれが嘘になるんだからな。ややこしや。
「すぐ戻るからな!」
「はーい!」
なんてテキトーに世の中の真理を突いていると、2人が分かれる。
「割れたぞ、どうする?」
「あんな男はどうでも良いから紅美を見て、心配だから。」
どうでも良いって…ルークの人となりを見に来たんじゃないのかお前。
「見て、紅美のあの寂しそうな顔。放っておけないでしょ?」
妹離れ出来てないなコイツ…確かにちょっと寂しそうな顔はしてるけどさ。
でもルークも多分すぐ戻ってくるだろうし要らぬ心配だろう。
「おーい! 広西さーん!」
呼び声は紅美と同年代くらいの男のものだった。麗が一瞬嫌そうな顔で反応したのは見なかったことにしておこう。ソイツが見てるのが紅美って気付いて分かったみたいだけど。しゃーないしゃーない。
「偶然だね、こんなところで会うなんて。運命って奴かな?」
「う、うん、運命は分かんないけど、そうだね。」
いってぇ…何が運命だ。
紅美ドン引きじゃねーか。気取りおってからに、中二病かよ…中坊だったわ。
……待てよ? なんか既視感があるような…あ、初期ルークじゃん初期ルーク。最初は佐那に対してこんな感じだったわ。本人見てたらどう思うかなアレ。
「…私、あの手の輩嫌い。」
だろうな。
「…そう言えば、紅美から聞いたことがある。
告白されて振ったけど、それが無かったみたいにガンガン話しかけてくる迷惑野郎が居るって。」
「迷惑野郎。」
紅美はそこまで言わない。姉と違ってもっと素直で良い子のはずだ。
「………」
あれ? 俺も紅美信仰し始めてる…? やっべ、麗の信仰が移ったかも。信仰の進行、なんつってうわさむっねーわ。秒どころか刹那で否定できる寒さだわ。
とにかく、迷惑野郎については紅美が悪いわけじゃないけど振った身ではあるから気まずいわな。
でも向こうからグイグイ来て困っておられると。ん~、押して駄目なら押して見ろって感じか。絶対悪化するわ。止めとけ。
諦めない精神は悪くないとは思うが、ちょっと引いて距離を置いてみてはどうか。あくまで諦めないで。そこ重要な。
と言っても紅美さんもう好きな奴いるしなぁ…早々に諦めて欲しいものだ。
「ねえ、せっかくだし一緒に行かない?」
「え…でも、私一緒に来てる人が居るし…」
「ちょっとくらい良いじゃん、なんなら一緒でも良いし。」
「けど……」
彼と2人きりになりたい。けど、それは自分のわがままだ。
話しかけられて困っているのは自分のせい。というか、自分が困っていると思い込んでいるせい。この人は悪くない。
…って感じかな。紅美レベルのいい子だとこれくらい考えるだろう。麗なら問答無用で突っぱねるだろうけど。
……ん~…俺やっぱり麗から絶大な影響を受けてるな…その内カウンセリングしてもらおう。麗以外に。
ああやばい。紅美のなんていうか悪いっていうか心が汚れたって言うかそういう部分見たくない。っていうか認めたくない。ヤバい重症だ助けて姉以外なら誰でも良いから。
「照矢君、あの男蹴散らしに行こう。」
「早まるな。」
俺は正気に戻った。もっと発狂している姉のおかげで。
あれよりはマシだな。あれよりは。
「お待たせ~…ん? 広西、そいつは知り合いか?」
ルークナーイス! ちょうどいいタイミングだなこの超絶イケメン! かっけーぜ!
「あ、ルーク君!」
「え…男?」
「ああ、そっすよ。
で、一緒でも良いとかなんとか言ってたけど、どうなんスか? 俺はよく知りもしないお前と一緒になんか歩きたくないんスけどね~?」
まさかルーク、本音を言いずらいであろう紅美の意思を汲んでごく自然に自分から奴に断ったのか…!?
いやまあ俺もあんな状況だったら嫌だけど。お断りルートまっしぐらだけど。なんか過信しちゃったよ。
「…お前か、広西さんに近付いてる悪い虫は。」
「ちっ、違うもん!
ルーク君が私に近付いてるんじゃなくて、私がルーク君に近付いてるんだもん!」
「広西さん、貴方はこの男の顔に騙されてます。こういう顔が良い奴っていうのは、大体中身はクズなんです。」
「ルーク君の事を悪く言わないで!
私はルーク君に助けてもらったんだから。見た目なんて関係なしに、好きなんだから!」
「……」
おい少年照れるんじゃねぇ。いつかの純情派宣言どうした。
いやまあ佐那の奴全くなびきそうにないから諦めた方が良さそうだけど。佐那好きな奴いるみたいなこと言ってたし。
あと佐那とルーク付き合うのなんかやだ。テメェなんか紅美とくっついちまえ。面倒な先輩ですまない。
「…そういうことだから、引き下がってくれないっすか?
これ以上ははっきり言って邪魔っス。どっか行け。」
「……覚えてろ。」
捨て台詞を吐き捨てた男はルークを憎々し気に睨みながら去って行った。
「ゴメンな広西、俺が離れたばっかりに…」
「ううん、良いの! だってまた助けてくれたんだから!」
「…ほぼ広西の功績じゃないっスか?」
「私だけだったら断り切れてなかったもん、ありがと、ルーク君!」
「……はい。」
あの照れ顔クラスの女子に売ったらいくらになるかな。
ルークの奴今女子にすげー需要ありそうな顔してやがる。マジで写真撮っとこうかな?
いや撮らんけど。尾行して男の写真撮る男とかってレッテル間違っても貼られたくない。オイラおにゃのこが好きでゴワス。う~んキャラの暴走列車。
「………来るのが、遅…紅美を、助け…でも、結局紅美が…」
麗のジャッジがご乱心中だ。ルークが居なかったら断り切れなかったというのは事実なのだと認めているからだろう。俺もそー思う。




