伝染する思考
今年に入ってしばらく更新が無かったブクマ小説が更新されてて嬉しいです。
…あれ? もしかしてこれも?
「もう遅くなってきたな…今日はここまでにしないか?」
進んだ時計の針を見て、宿題に向かう四人に告げる。
カフェウェストから戻った後も勉強会は続いた。元々休憩のつもりで行ってたからな。
帰った後も休憩前と同じような感じで進み、今に至る。
「そうだな~…カワイコちゃんと一緒とは言っても勉強は疲れるからな~…」
「河合子? 誰?」
「……麗、今のは流石にわざとだよな?」
「………ちょっと今のはグサッと来ました。」
うちの麗がこんなに鈍感なわけがない。
うん、絶対わざとだな。間違いない。俺の経験則はそう語っている。渉カワイソス。
「あ、あはは…でも、そうだね。これ以上は広西さんと悠菜ちゃんの家族が心配するかも。一応男子の家に居る訳だからね。」
「そうね、パパに殺人なんてさせる訳にはいかないわ。」
おっかねーこと言うな麗。
「あー、でも案外心配はされないかも。」
「なんでだ?」
「私は兄さんも居たけどバーベキューした仲だし、れいちゃんはまあ…家族公認みたいなものだし。」
「おい、親父さんを忘れてないか? 他は知らないけど親父さんは絶対殺しに来るぞ。」
「これは私の勘なんだけど…実はれいちゃんのお父さん、城津君のことはある程度認めてるんじゃないかな。」
「え?」
あの頑固親父が俺を?
「城津君、自覚ないの?
評価されるだけの実績は残してるはずだよ。れいちゃんを二回も助けただけじゃなくてくみちゃんまで助けたんだから。」
「…ん? 麗、その件ってお前の親に伝わってるの?」
「………色々あって。」
色々ってなんやねん。
「…どこまで?」
「全部。」
「全部!? マジか…」
麗の性分上絶対黙ってるんだろうなと思っていただけに驚いた。
あと、なんか麗の家に行くのちょっと怖くなってきた。ご家族の反応が怖い。
「……おい、照矢。
くみちゃんって誰だ?」
「ん? お前知らなかったっけ。麗の妹だ。」
「妹さんだと!?」
「あ、言っとくけどアイツはもうゾッコンな相手居るから。お前じゃ絶対に勝てないから諦めろ。」
「なんだと!? やってみなきゃわかんねーだろ!」
「窮地に現れ麗の妹を颯爽と助けた地毛金髪の超絶イケメン。ついでにとんでもねー幸運を持ったラッキーボーイだ。
な? チャラ男モドキのお前には勝てないだろ?」
「レベルが違う…!」
「そもそも張り合える場所にすら立ってないだろ。紅美はお前のこと知らないんだしお前も今知ったんだから。」
「時間は関係無いんだよ!」
「お前に勝ち目が無い事は変わらないけどな。」
「ぐっ…うっ…せめて、せめてこの顔がイケメンだったなら…!」
「だったならそんな性格じゃなかっただろうな。」
「ちくしょおおおおおおお!!」
ライフがゼロになった時の敵キャラみたいな断末魔を残し、渉は崩れ落ちた。
「現実って厳しいな。」
「厳しいのは城津君じゃない?」
「あ、先輩じゃないっスか! 久しぶりっスね!」
お馴染みの幸運を発揮したのか、後輩のルークとばったり会った。
今は昨日の勉強会で忘れていったのであろう麗のペンを届けにいくところだ。心なしか滅茶苦茶目立つ位置にあった気がするけどまあ置いてあったのだから忘れてしまったのだろう。
連絡したら明日届けに来てほしいと返信された。普通こういう場合は麗が取りに来るんだろうに…こういうことには律儀だと思っていたのに、裏切られた気分だ。昨日アイツんち行きたくなくなったばっかりなのに。
「なんか久しぶりだな。
…お前、クマ出来てないか?」
「実はちょっと寝不足で…ハハハ…」
「なんかあったのか?」
いくら豪運を持っていても、悩みに無縁と言う訳ではない。
それは分かっているのだが、大抵の悩みは持ち前の運で何とかしてしまえそうなだけに内容が気になる。まあ、聞くべきことじゃないなら退くけど。
「…聞いてくれますか?」
「……深刻な事みたいだな。
場所を変えるか?」
ルークの様子を見て態度を変える。
少なくともこんな道端でする話では無さそうだ。
「はい、じゃあ付いて来てくださいっス。
…あ、そう言えば時間は大丈夫っスか?」
「大丈夫だ。」
届ける時間については指定されていなかったので、遅れてもさほど問題は無いだろう。
…これも運の為せる業か。恐るべし、ルークの豪運。
連れて来られたのはコーヒーチェーン店スターボックス。漫画だったら星箱とかって略されそうな名前だ。
星箱!
…どんな技だよ。技って言うかチーム名っぽいし。
ともあれ、カフェウェストじゃなくて良かった。アイツの幸運地雷回避機能まで付いてんのかな。
「それで、なんスけど…先輩。
その、振った事ってありますか? 女の子を。」
ルークはしばらく所在なくコーヒーが入ったコップをゆっくり回すように振っていたが、一度それを置いて話した。
「………」
「な、なんか複雑そうな顔っスね…」
「…お前が真面目に話してるのは分かる。
けどさ、ちょっと言い方っていうか話の切り出し方って言うか…なんだ。
お前の顔のせいで嫌味か何かにしか聞こえない。」
こちとら女子からの好意とは無縁の生活を送ってきたんじゃい。煽りか豪運イケメン。
…まあ、真剣なのは分かるんだけどさ。
「すんません! 全くそんな気は無かったんスけど…」
「いや、うん。俺の気にしすぎだから気にするな。
で、どうしたんだ?」
「実は今日、広西…あ、紅美と遊びに行くんスけど。」
「なるほど。」
もう分かった。
今日のお出かけで告られるかもしれないからうまい断り方教えてくれってことだな。
「まだ話の途中なんスけど。」
「いや、もう大体訊きたいことは分かった。大ヒントどころかほぼ答えみたいな質問のおかげでな。
それに関してはちゃんとお前の意思をちゃんと言え。付き合う気があっても無くてもそこは変わらない。
気落ちはするだろうけど一時的なものだ。変に期待させて引きずらせるよりかはよっぽど楽だと思うぞ。向こうもお前も。」
雲道先輩直伝のストレート理論。影響を受けすぎてる気がしないでもないけど間違ってはいないはずだ。
「…そっスね。」
「……逃げたいか?」
「ハイ、正直。
けど、それはやっちゃいけねーことっスよね。」
「ああ。
…お前がヤンデレストーカーになった紅美に付け回されたいって言うなら話は別だけどな。」
「それは流石に御免っスね。そうなった女子は例外なくおっかないんで。」
「……ん? もしや経験済み? ヤンデレなストーカーさんに追い回されたことあんの?」
「………秘密っス。」
絶対これあった奴の反応じゃん。
イケメンの陰に潜む闇の一端を垣間見て戦慄したが、その後も少し話をして緊張をほぐせたようだった。
コーヒー店を出た時には表情が晴れやかになっていたので、きっともう心配は要らないだろう。うまく相談に乗れたようで良かった。
後は無事に解決することを祈るばかりだ。




