不承する代償
「ここが俺の部屋だ。テキトーな場所に座ってくれ。」
招集をかけた翌日、勉強会には五人全員集まった。
麗もそうだが、明日木も何か用事があったら来ないかなーとか考えていて、最悪三人で勉強会を行うことも覚悟していたのでちょっと安心した。
渉? 女絡みなら来るに決まってるだろ。誘う前から分かってたわ。
…流石にそれは偏見か。
「へぇ…結構片付いてるのね。」
麗が意外そうに呟いた。男子の部屋は、なんて偏見は分からないでもないがちょっと癪に障る。
「まあな。
あ、引き出しとか開けるのは勘弁な。汚いから。」
「…とか言いつつ、もしかして見せづらいものでも入れてるんじゃないの~?」
「ねーよ。」
「え? 無いのか?」
「ねーよ!」
茶化す明日木に意外そうな声を上げる渉。人の部屋をなんだと思ってやがる。
…あ、年頃の男子の部屋か。俺だって渉の部屋に来たら同じリアクションをとるだろうな。人の事言えねーや。
「そうだよ。
引き出しはせいぜいボールペンとかはさみとかが散らばってるだけだし、タンスは服とか下着とかだけ。ベッドの下はホコリで汚いけど、何も無いんだから。」
「なんで知ってるのさなちゃん。」
「…皆寺さん、別に照矢のことを監視してるとかじゃないよな?」
「まあ、何回か部屋に入れてるし…幼馴染だからな。
全く気にしないって訳じゃないけど、別にそういうところを見られてもあんまり気にしない。」
軽く引いてる2人にフォローを入れる。
…実は一回だけ偶然拾った雑誌を見つけられたことがある。そういう雑誌ってなんか捨てられてることあるよね。
拾ったって言うか捨てようと思ってたけど道中捨てられなくて家に持ってきただけだ。公園にゴミ箱があればあんなことには…
その後のことはあまり思い出したくないし、わざわざ言いふらすようなことでもないから言わないけど。
「それより、早く宿題やるぞ。
その大きめのテーブル使ってくれ。席は自由で良い。」
部屋の中央の少し大きめのテーブルは家にあった物だ。今回の勉強会で使えそうだったのでかーちゃんの許可を得て借りてきた。
「じゃあ、私は軽井君の隣ね! 初めましてだから色々話してみたいし!」
軽井…? あ、渉の事か。いっつも名前で呼んでたから苗字忘れてた。
佐那も俺に釣られて名前で呼んでるので、尚更苗字を聞く機会が無い。
「お、俺の…? よ、よろしく。」
チャラ男属性どこ行った渉。
自称でもチャラ男でしかも女好きだろ。しっかりしろ。
「それなら、私は照矢の隣に…」
と、佐那は俺の隣に。俺は渉の向かい側だ。
「………」
麗は無言で横に。ちょうど明日木と俺の間だ。
どうも以前会った時に渉に苦手意識を持ってしまったらしい。麗はああいう騒々しい奴は苦手そうだしな…
そこは相性の問題だろう。
「席も決まったことだし、各自進めよう。」
号令的なのを出した後、俺も皆も宿題を開く。
…やはりと言うべきか、渉がページをめくった箇所が浅い。明日木はそれよりは進んでいるようだったが、それでも俺より少ないように見えた。
俺も俺で結構しっかりやってるしな。
「へー、皆結構やってるんだな…照矢は裏切り者だったか。」
「裏切ってねーよ。むしろある意味裏切ってるのはお前だろ。教師を。」
「っせーな真面目野郎。女子ならポイント高いけど男だと堅苦しいくてポイント低いんだよ。」
「誠実じゃない男もポイント低いと思うけどな。どう思う?」
「結局男はイケメンでも低評価が付きやすくて、美人は高評価付きやすいんだよ。」
「女子を前に赤裸々すぎないか? ぶっちゃけるには人数多いと思」
「黙って宿題して。集中できない。」
「「はい。」」
麗の正論に俺も渉も黙る。
軽口のたたき合いなんて確かに勉強中にやるもんじゃないか。反省反省。
「あ、ここマジで分からない。教えて明日木さん。」
「はいはーい…あ、これはえっと…」
「悠菜、教えるの上手くないでしょう。ここは私に任せて。
…ここ基礎問題じゃない。これできないとこのページの最後にある応用が解けないけど?」
「お願いします助けてください。」
「…照矢君、教科書貸して。出来ればノートも。」
「わかった、ちょっと待て。」
一度席を立ち、机の上の棚からノートと教科書を取り出して渡す。
「……照矢君、字汚い。」
「借りといて文句言うなよ。読めなくはないだろ。」
「…一応は。」
自分の字はお世辞にも綺麗な字だと言えないとは思っていたが、はっきり言われるとそれはそれで思うところはある。
「でも、最低限板書は取ってるみたいだから助かる。ありがと。」
「…おう。」
貶された後だと微妙な気分になるが、礼は受け取っておく。
そして勉強に戻る。
「…………佐那、ヘルプ。」
…と思ったら応用問題で躓いた。
「何?」
「ここ分からん。途中までは分かるんだけどさ。」
「ああ、これ…照矢はどこまで分かるの?」
「えっと―――」
「……」
と、こういった具合で各々宿題を進めていく。
時折教える為に手が止まってしまう佐那と麗には悪いが、その甲斐あってか俺も渉も、明日木も順調に進んでいる。
「…提案なんだけどさ、ちょっと休憩しない?」
しばらくして、渉がそんな申し出をしてきた。
いくら友人と一緒とは言え、ずっと勉強していれば息も詰まる。
誰も渉の提案に異論はなさそうだった。俺も賛成だ。
「そうだな、休憩しよう。」
「よっしゃー!
せっかくだしお茶しない? 良い店知ってるから。」
ナンパみたいなことを…
でも、外出するというのは気分転換に良いかもしれない。
さて、賛成意見は…なさそうだな。表情から察するに。
「良い店? どこ?」
「それは行ってのお楽しみ、どうする?」
「軽井君の奢りなら良いかな?」
「えっ…い、いや、大丈夫だ。金なら余分に持って来てる。全員のコーヒー代くらい大丈夫さ、ハハハ…
…照矢、ちょっとでいいから金だして。」
かっこつけすぎたらしい。代償が俺に来るのはとても不服だ。
「俺の分は自分で払うからそれで。」
小声のヘルプを小声ではねのける。俺は生憎そんなに都合の良い男じゃない。
すると、渉は女性陣に背を向けて俺をひっつかんで引っ張り込んだ。内緒話の姿勢だ。
「あ!? 当たり前だろ! 野郎に奢るなんて誰が言った!
どっかの誰かさんと違って独り身で寂しいんだよ俺は! だからここいらで縁作っときたいんだよ! そんくらい察しろ!」
「お前が非リアだろうがお前の友人がリア充だろうが関係無いな。自分の発言くらい自分で責任を取って見せろ。
じゃなきゃ男が廃るぞかっこ悪いぞ。」
「オメーのことだよハーレム野郎! ちょっと韻踏みやがって!」
「…男らしさって言うのは、そういう細かい部分でも出てくるんじゃないか?
一見して分からない部分だからこそ、しっかりしなきゃいけないこともあるんじゃないか?」
「止めろ俺を洗脳するんじゃねぇ! ちょっとそうかもとか思ってないんだからな!」
「ほーらほーら、今のお前すっげーかっこ悪いぞ~?」
「あああああ! ムカつく! 止めろ!」
「ムカつくって自分にかぁ~? ほーれほーれ。」
自分でも思う。こんな友達嫌だ。
「Teeeeeeeeeeeeeeeruuuuuuuuuuuuuuuuuuyaaaaaaaaaaaaaa!!」
煽りすぎて渉が暴走してしまった。
ただしめっちゃ静かに。女性陣にばれないように。
「いたたたたたた! お前アイアンクローは止めろ!
分かった、分かったから! 流石にやりすぎたって思ってるから! 一人分くらいは出してやるから!」
「aa?」
「わ、分かった、2人分。2人分でどうだ?」」
「aaa?」
「わーったよ三人分こっそり奢ってやるから!
ただ、自分の分だけは払えよな! カモフラージュの意味も込めて!」
「…よし、いいだろう。」
怒りを静めた渉はとても清々しい表情で許しを下した。ぜってー日頃の憂さ晴らし入ってただろ今の。
「頭蓋骨にヒビ入ったかも…」
「冗談言えるくらいなら大丈夫だな。行くぞ。」
話し合いが終わるまで待っていた女性陣を引き連れ、渉は行く。
俺は解放された頭をさすりながら、財布を持って四人に付いて行った。




