解説する事情
「……夢じゃないんだよな?」
「ああ。昨日までのことも、今日のことも、紛れもなく現実だ。」
昨日襲ってきたはずの高壁守の様子だが、襲うどころか突っかかってくる雰囲気すらない。あのメッセージは本当だったらしい。
送られてきたメッセージの内容を思い返す。
[昨日はすまなかった。
これから事情の説明と謝りに行く。]
なにがなんだか、さっぱりわからなかった。
仲良くなったと思ったら、突然裏切られて、襲われて。
その翌日には謝りに来る、だ。いっそ全部夢だったと言われた方が納得する。
…少なくとも今は。
彼の言う事情。その内容によっては…
「順を追って説明する。
事の始まりは―――」
―――事の始まりは、ある男の呼びかけだった。
学校の近くを通りかかった時、いきなり声を掛けられたんだ。
『――もう一度確認する。怪物美女はお前のことであってるんだな?』
怪物美女?
…認めたくないけど、俺の異名だ。
化け物みたいな身体能力と、美しい美貌からその名がつけられたとか。
自分で美しいとか言っちゃうんだ。
うるせーな! 俺だって認めたくないし言いたくないに決まってるだろ!
…戻すぞ。
『…俺に何の用だ?』
この時色々会話したけど、カットだ。
全部俺の神経を逆なでする美辞麗句だったからな。
それ美辞麗句って言う?
『いい加減にしろ。用が無いなら帰るぞ。』
『まあ待てよ、ここからが本題だ。
…お前の彼女…津瑠って言ったか? なかなか可愛いじゃないか。』
え!? お前、彼女いんの!?
居るよ。悪いか。
悪くないんだけど…ただ純粋にびっくりしたって言うか…
…戻すぞ。
『お前、津瑠に何をした?』
『ある場所に監禁している。何、閉じ込めてるだけだ。他には何もしてないし、食事もちゃんと出している。
返してほしかったら、こちらの要求を呑んでほしい。』
おいおい、ガチ犯罪じゃないか。
…そうだな、元凶さん。
……あれ? 地味に俺恨まれてる?
どうかな…まあ、悪いのは津瑠を監禁してたアイツだってことくらい分かってるさ。
…恨んでないとは言ってくれないんだな。
『……もし、要求を呑まなかったら?』
『その時は彼女さんが…』
『………内容は、なんだ?』
で、ここでお前の写真が見せられた。
『この男を地獄に叩き落してやりたい。
作戦は―――』
ここは要約で済ませよう。
アイツの作戦は、俺を女装させて城津に惚れさせる。
その後頃合いを見計らって俺が男だとバラし、ボコボコにして別れを告げる。で、トラウマを植え付けるのが目的だったらしい。
最初に会った時、俺が車に連れて行かれそうになってただろ?
それがコイツの仲間で、城津を見かけたらササッと撤退するって寸法だったんだ。
で、それが理由で俺がお前に惚れたって言う設定…にしてたらしい。
ああ、通りでやけにあっさり下がったと思った…
俺もあそこまでお粗末だとは思わなかった。正直バレるんじゃないかってひやひやしたよ。
……お前、実は楽しんでなかった?
んな訳あるか!
お前に惚れる演技、マジで吐きそうだったんだからな!
よく分からない男に対して惚れた演技をするんだぞ! ちょっとは想像してからものを言え!
……それは…同情する。
あと、マジですんません…失言でした。確かにキモいです。
分かれば良い。
…それに、こんな顔だから本気で勘違いされて、マジで惚れられたらどうしようとかそういう心配もあったしな…
自意識過剰って言いきれないのが痛いな。
俺も痛い。心が。
あー、で、どこまで話したっけ?
設定まで。
ああ、じゃあ半分くらいは終わったようなものだな。
で、それからはアイツの指示通り映画行って………待て。アイツどんだけ痺れ切らしてたんだ。会って二日で作戦決行とか嘘だろ。
そいつら、監視とかしてたのか?
あー、そう言えばそんなことも言ってたな。
俺に関しては津瑠を捜しに行かないかどうかってのを見る為にほぼ四六時中監視してたらしい。流石に家までは入らなかったけどな。
俺と居る時もか?
そりゃ、そうだろうな。
…なるほど。
おい、なんだ一人で納得して。どういうことなんだ?
…憎い相手がハーレムしてるところなんて見てみろ。殺意が抑えられない。
それでか。
だとしても短絡的な…お前ハーレムしてるって自覚あんの?
はたから見ればそんな感じかなーとは思ってる。
まあ、そんな事全くないんだけど。
………
なんだ目は。お前だってハーレムメンバーに見せかけて全く違う奴の一人じゃないか。他のやつらもそうなんだよ。
…………はぁ。
なんだそのため息。
でー、お前にネタばらしした後なんだけどー。
やる気なっ。
実は、お前をいたぶるように指示はされたけど追いかけまわせなんてさっぱり言われてなかったんだよ。
え? じゃあ俺走り損?
高壁のストレス発散に一役買わせただけ?
いやいや、そこが俺の作戦だったんだよ。
いたぶると見せかけて、お前を走らせながら津瑠を捜してたんだよ。
捜すって…どうやって?
昨日言ったろ? 俺は気配を探ることが出来るって。
個人個人で気配が違うって訳じゃないけど…気配で感情を読み取れるんだよ。
例えば、今お前は物凄く真偽を疑ってる。でも、コイツならやりかねないなって肯定気味だ。あ、ほぼ確信に変わったな。
…そこまで来たら読心術じゃねーの?
感情を読み取ってるだけだ。近いかもしれないけどちょっと違う。
とにかく、津瑠の監禁場所が街中ってことは当たりが付いてた。だからお前を走らせて、追いかけるふりをしながらそこら中の気配を探って極度に怯えてる気配を探ったんだ。
少なくとも、監禁なんてされてたらまともな精神状態じゃいられないからな。
「はー……で、その彼女さんは見つかったのか?」
「ああ、うまくいった。
で、ついでに監視してたけど追いつくのに精一杯でバテてた黒幕どもを警察にお任せして翌日って感じだ。
録音も以上だな。結構早い段階から流してなかったけど。」
一通り事情を説明した高壁はスマホの録音アプリを閉じる。
警察に提出するために黒幕との会話を録音していたらしい。その録音データは既にコピーした物を提出してるとか。しっかりしてるな。
「事情説明とかは良いのか?」
「俺は一通り終わったし…あんまり思い出させないであげてくださいって言って、津瑠は帰したしな。
後は………ん?」
高壁は突然黙り込み、何かを考え始める。
「どうした?」
「……なあ、アイツらの目的ってお前への復讐なんだよな?」
「お前、自分でそう言ってただろ。」
「城津は事情聴取の話って聞いてないのか?」
「………」
「照矢! アンタ何したの!? 警察の人がアンタに話があるって…!」
…………おうふ…あらぬ誤解が。
ちなみに彼が破壊したコンクリートブロックは彼が自腹で購入した物です。
「自分で買って自分で壊したのか?」
「その場に力を示せるものが無かったらうまく怯えてくれないかなーと思って。」




