演算する予測
「城津さんはこういう映画、好きなんですか?」
映画館内。既に観賞の準備は万端で、いつでも始めやがれ状態である。
しかしそれまでやや時間があるので、俺の隣に座る真杜から暇潰しと思われる質問が飛んできた。
今回見るのは恋愛ものの映画だ。嘘を言っても仕方ないし、正直に答えることにする。
「とりたてて好きって訳じゃないけど、嫌いではないな。あんまり観ないけど、誘われたら行くって感じだ。」
自発的に行かないくせにあんまりとか言ったのは今から観る映画をちょっと前に麗と観に来たからだ。
真杜に二度目だとは伝えていない。気を使わせそうだし。
それで、その麗はと言うと。
「………」
不服そうな顔で3席後ろから俺と真杜さんを見ていた。
今日は映画館が混雑しており、三人隣り合って観賞できる席は残ってなかったからだ。
何が気に入らないのか時折睨んでくる。特に俺を。席離れたのは俺悪くないのに…
……あれ? ちょっと麗さん。その紙コップもう飲み終わったんですか? なんで緩やかに大きく振ってるんですか?
しかも的俺じゃない? その先に俺はいるぞ?
投球練習は家のゴミ箱でやっててくれ。
「その、広西さん、残念でしたね。一人だけ離れてしまって…」
さっきから後ろの麗をジロジロ見てたからか、真杜は話題を変えた。気にしてると思われたらしい。
「そうだけど、しょうがないだろ。まさか隣の奴に席譲ってくれなんて言えないし…」
「そうですね…」
切羽詰まった状況というわけではないので、わざわざそんなことを頼むのは気が引ける。
麗には大人しく我慢してもらうしかない。願わくば逆恨みと理不尽はやめてほしいところだ。
「あ、もうすぐ始まるんじゃないですか?」
「……そうだな。」
ケータイで時間を確認してみると確かに上映時間が迫っていた。
その後は普通に映画鑑賞をした。二度目ではあったが、まあまあ楽しめたと思う。
「……」
「……」
「……なにか、話しませんか?」
「なにかって言われても…」
映画の後、昼食を挟む間もなく服選びを済ませに来た。
なんか話せって言われても俺は女子の服なんか詳しくないし、仮に口出しでもすれば麗からうるさいの一言をもらって会話終了だろう。だからなんも言えねえ。
「一応、訊いてあげる。
これとこれ、どっちがいいと思う?」
真杜に言われて渋々といった感じだが、二つの服を手にとって訪ねる麗。
「あの…なんで私なんですか?」
ただし真杜に。
アンタ今日会ったばっかりじゃないの? なに故俺より信頼寄せ寄せなの?
「照矢君にファッションセンスがあるかどうかなんて自信無いから。
無理に訊いても困らせるだけじゃない?」
ムッと来る言い方ではあるが、ごもっともなので何も言い返せない。
今日着て来た服に関しても、流石に部屋着と言うこともないがそこまで気合いが入ってる服装とは言えない。俺がファッションに気合いなんて入れても空回りするだけってことは俺が一番理解してるつもりだ。
変なのを着て行くより無難なのを選んだ方が恥をかかないで済む。まあそこまで変な服持ってないけど。選んだのは全部かーちゃんです。
「そうかもしれませんが…
今みたいに、二択で好きな方を訊くって感じで良いんじゃないですか?」
「…そうね。せっかく一緒に来たんだし、一応訊いてあげる。ある程度照矢君のセンスが混ざったチョイスじゃないと悠菜とママにバレかねないし。
そう言う訳だから、これとこれ、どっちが好き?」
ふむ、俺が選んだのと逆の方を買うところまでは読めた。
ハッハッハ、俺はこれでもお前の事をちゃんと理解してるんだぞ? いくら言い訳っぽく言っても無駄だ。
「俺はこっちが良いかな。」
という訳で良いと思った奴の逆を選ぶ。
お前の天邪鬼程度見越せぬ俺ではないわ。ひれ伏せ。ハッハッハ!
「…わかった、こっちにする。」
ハッハッハあーれー?
なん…だと…くっ、やるではないか。我が対麗事象予測演算機を破るとは。
貴様に予測不能者の称号をくれてやろうではないか…これで満足か、持ってけドロボー!
…あ、選ばなかった方を戻した。マジで買いに行くやつだこれ。ストップストップ。
「あ、ちょっと待て。よくよく考えたらそっちよりもう一つの方が良いような気がしてきた。シンキングアゲイン。」
「…照矢君って、優柔不断?」
「…そ、そうかもな。」
「「………」」
視線冷たい。
でも、服を取り替えて買いに行く辺り…なんというか、うまく言えないけど麗っぽい。いや本人なんだけど。
「城津さん、二言はカッコ悪いですよ…」
「ああ、分かってる。分かってるんだ。分かってるんだけど…
なんというか、つい意地悪なことを…」
「本当に考え直した訳じゃなかったんですね…」
「麗には言わないでくれよ?」
「さあて、どうしましょうか?」
真杜の表情を見て、“小悪魔スマイル”という言葉が浮かぶ。
マジで言わないでほしいんだけどな、仕返しされたり気があるのかとかからかわれたりしそうだし。
「そう言えば、真杜さんは見ないのか?」
「え?」
「服だよ。もし遠慮してるなら見てて良いぞ?」
「……え?」
気遣ったつもりだったが、余計なお世話だったらしい。
女子というのはこういう場所に来てしまったら例え金や買う気が無くても見に行ってしまうものだと思っていたが、どうも真杜さんは違うらしい。偏見だったか。
「えっと、あ、そう言うことですか!
そう言えば、もう服がな…あ、別に無いって訳じゃないんですけど、ちょっとした事故でタンスの中身が調味料で全滅して…」
「何をどうしたらそんな事故起きるんだよ…」
余程のドジっ子でもそうはならんだろ。いや、なってしまってるならなってしまったんだろうな…
「色々と偶然が重なって…
それで、一つだけお願いがあるんですが。」
「お願い?」
洗濯か? 染み抜きの知識なんてねーぞ。ググれと?
「せっかく一緒に来たんですし、服を選んでくれませんか?」
………無茶振りだったか。
洗濯の方が簡単だった。ファッションセンスはググれないんだ…




