一蹴される名案
愛依の復讐の方法は、簡単に言えば“俺を惚れさせて自分の正体を明かし、絶交する”だったらしい。
それが成功していれば俺は大きなショックを受け、トラウマを大きくこじ開けられていただろう。過去に向き合うことすらできなくなっていたかもしれない。
それを聞いても、俺は愛依のことを憎めなかった。そうなることはもう無いし、むしろ憎まれるべきは自分だからだ。
計画が頓挫し、必要が無くなった以上これからはもう彼女がストーキングすることはないし、過度に近づこうとすることも無いだろう。
…と、思っていたのだが。
「おはよ! 偶然だね城津君!」
以前のように学校で宿題を進めようと家を出て一秒、愛依が待ち構えていたように声をかけてきた。
過去のことは水に流してくれていたと思っていたのだが…
「…お前、やっぱり恨んでるのか?」
「やだな~、その事は許すって言ったじゃない!
今日は本当にたまたま、偶然このあたりを通りがかっただけだよ!」
明らかに待ち構えてたとしか考えられないタイミングで話しかけられたんですけど。偶然って辞書で引いて来やがれ。
「…えっと、実は…ちょっと前までの習慣が染み付いちゃってたみたいで…気が付いたらこの辺をうろうろしてたって言うだけで…別に、ストーカーでもなんでもないからね!」
胡乱気な視線を受けて必死に自己弁護し始めた。だとしても習慣でストーキングされるなんてたまったもんじゃない。
「…その習慣さっさと撤廃しろ。
今回は多目に見るけど、次は無いからな。」
「うん!」
よし、ストーカーは去った。
じゃ、俺は学校行くか…
「………」
「……」
………
「…なんで着いてくんの?」
「せっかくだから城津君が何をしに行くのか、見ようかと思って。何しに行くの?」
俺憎まれてなかったっけ? おっかしーなー? 変だなー?
なんで憎んでた相手と一緒に居ようとすんの? 水に流すって言っても好感度が反転するわけじゃあるまいて…
…まさか、まだまだ恨み残留中? 許すってのは口先だけ?
……一応、気を付けて接することにしよう。触らぬ神に祟りなし。気分を損ねなければきっとなにもされないだろう。
「はっ! 学校へ宿題をしに参ります。恐らく、見ていても面白いものではないかと。」
「何その態度。
怪しいよ、その荷物を見せて!」
しまった、態度を急に変えたから機嫌が…戻せ戻せ。
「ほい。」
「あれ? あっさり…
あ、ホントだ。」
バッグに入っているのは宿題と筆記用具、それと財布にスマホくらいだ。
特に寄り道は予定していなかったので、簡単な持ち物となっている。それを見た彼女は納得して荷物を俺に返した。
「城津君って結構真面目なんだね…
私も一緒にやろうかな、宿題。」
「愛依もやるのか?
じゃあ、俺先に行ってるから…」
「あー、でもこの後用事あったんだった…お勉強会はまたの機会だね。
“SENN”で友人登録しよ?」
“SENN”。
主に友人間の連絡によく用いられ、人によっては電話やメールよりもよく使う。グループ機能なんかもあって、無料通話も出来るポピュラーなSNSサービスだ。佐那は友人登録してる。実は麗や明日木ともバーベキューの時に登録していた。
「そう言えば連絡先すら交換してなかったな…いつも居るから失念してたけど。
まあ、ストーキングを辞めるなら必要か…」
「城津君、冗談キツい。」
本気で皮肉ってやりましたが。
ササッと連絡先を交換した後、彼女は去って行った。どうも少し急ぎの用事だったらしい。
孤独の勉強会in the学校を終えた俺は、特に寄り道することもなく帰っていた。
雲道先輩は一日中部活らしいので会っていない。ちょっと遠目から手を振った程度だ。
「しつこいですよ! もう止めてください!」
「いーじゃんいーじゃん、一緒にいこーよ!」
通学路の途中にあるコンビニからそんな声が聞こえた。
何事かと思い見てみると、ガラの悪そうな青年に言い寄られている女の子の姿が見えた。
黒髪、ロング、綺麗系…どこかの誰かさんを思い出す容姿だが、もちろん別人だ。そもそも、麗があんなチンピラ相手に敬語で、しかもこんな大声を出して逃げようとするのはおかしい。もしも彼女なら冷たくあしらって罵詈雑言のマシンガンをくらわせているだろう。
「止めて! 放して!」
「いーからいーから、付いて来いって!」
とうとう腕を掴んで強引に引っ張り始めた。
車のドアを開けて彼女を引きずり込もうとしている。完全に犯罪だ。
「おい! 何やってんだ!」
まさかナンパから犯罪に発展するとは思っていなかったので慌ててチンピラを止めに行った。
少し遠い。間に合うかどうか…!
「…チッ。」
俺を見るなり、チンピラは女の子を放して車に乗ってどこかへ行った。
やけにあっさり退いたな…あのまま連れ去ることも難しくなかったはずなのに。
「あの!
助けてくれて、ありがとう…ございます。」
車が走り去っていった方向を見ていると、先程の女の子が話しかけてきた。
女の子女の子とさっきから言って(?)いるが、歳は俺に近い。恐らく同い年だろう。
「ああ、気を付けろよ。さっきみたいな輩、いつ出てきてもおかしくないからな。」
「はい。
あの…もし、良ければなんですが…なにかお礼、させてくれませんか?」
「お礼…って言われてもな…」
別にお礼目当てで助けたわけじゃないしなぁ…
渉辺りなら『ウヒヒお付き合いしてくださ~い!』とか言って玉砕するんだろうが俺はそんなキャラじゃない。そういや最近渉見てないな。帰省でもしてるのだろうか。
…おっと、お礼だったな。
お礼お礼…ん~…ちょっとした形だけでも良いんだけどな…あ、そうだ。
「…じゃあ、ガムでもおごってくれ。」
俺のニーズに応える上に安価。我ながら名案だ。
「え…それじゃ足りませんよ。」
「足りないも何も、今俺が欲しいものを貰うんだ。お礼なんてそれで充分だろ。」
「……それじゃ私の気が収まらないんです。
遠慮しなくても良いんですよ?」
「そうは言っても…」
別にしてほしい事とか無いし…
「…じゃあ分かりました、ちょっとケータイ貸してください。」
「ああ、はいよ。」
ポケットから取り出したケータイを渡し、画面を開くと彼女は硬直した。
「どうした?」
「すいません、ロック解いてください…」
…ロック解除して渡せば良かった。
0を4回押してもう一度手渡す。セキュリティも何もないけど押すの楽だから初期設定のままにしてるんだよね。
一応変なことをしていないかどうかと思い画面を覗くと、SENNを開いていた。彼女も自分のケータイを取り出している。
「……ありがとうございました!
では、何か要望があったらメッセージを送ってください! こちらもなにか用意が出来たら送るので!」
何かなにかな言葉を残し、彼女は去って行った。
……最近俺女子と知り合い過ぎじゃない? 現実味返して。




