思案する関係
お久です。
小説と漫画の更新を追いかける毎日…
今日は…何も無い素晴らしい日だ。
二連続映画とか、唐突なバーベキューとか、そんなイベントは起きない。
あるのは宿題の山と一人用の娯楽…孤独の苦楽だ。
宿題をちょいちょい進めて、気が浮ついたら娯楽に勤しむ。
気付いたら宿題の事なんて忘れてて、日が暮れてからようやく思い出す…そんな一日があってもいい。そういうのも悪くはないものだ。
…毎日それが続かなければ。宿題は終わらせなきゃダメだし。
毎日毎日イベントとか、そんな過密スケジュールはごめんだ。今日は、もしなんかあっても断ろう―――
―――その十分後。
「なんか起きないかなぁ…」
その決心もすぐに無くなった。
普段ならもっと集中力が持っていたはずだが、長すぎる休みの期間が宿題への飽きをより早く呼び寄せたのだ。
まだ大丈夫、まだ大丈夫、危険な考え方だとは分かっていても抜け出せない。多くの学生を休み終盤の宿題地獄に陥れてきた思考は、やはり強力だった。
棚の漫画に手が伸びる。
テレビの前に置かれたゲームをふと見てしまう。
「………」
あまりにも多い誘惑。
それらを断ち切って宿題をするためには…
「……外に出るか。」
誘惑から遠ざかる、これが一番の策だろう。
家から出て宿題をするにしても、場所は限られる。
この前のカフェは店員に目を付けられてそうだし、ファミレスとかだと煩雑すぎるし…
…学校の図書室にでも行くか。あそこなら静かだし近い。
わざわざ夏休みに出勤する図書委員会の方々に感謝しながら宿題を進めるとしよう。
うん、進んだ進んだ。
夏休みなのにわざわざ学校の図書室に足を運ぶ物好き(図書委員以外)はおらず、心地よい沈黙のおかげで宿題がかなりはかどった。
しかし驚いた、気付いたら2、3時間も経っていた。
もう昼時だ。
宿題は進んだ。腹は減った。
となれば、もうここに居続ける必要は無い。飯だ飯。
「……あつっ。」
今年は冷暑だとか言われているが、少し気温が低いだけでそれでも暑いものは暑い。
暑さ対策として用意した濡れタオルは予想以上の効力を発揮し、体温をかなり冷やしてくれている。頬が火照ればすぐに冷やせるのも良い。
じじくさいかもしれないが、それは先人に立証されている知恵であるという証拠でもある。そう考えればそう悪いものではない。むしろすごくいい。
「城津!? お前、部活に入ってなかったんじゃないのか!?」
「熱中症の先輩!?」
「その呼び方は止めろ!」
当時は割とシャレにならない状態だったが、今はネタとして言える。時の流れってすごいね。
どうやら雲道先輩は部活だったらしく、体育着の半袖短パン姿だ。
「冗談ですよ、部活ですか?」
「ああ、もう帰るところだ。
城津はなんでここに居るんだ?」
「ちょっと図書室で宿題を。部屋だと気が散って進まなかったので。
俺は今からどこかで食べて行こうかと思ってるんですが、先輩もどうです?」
「この格好でか?
せめて一度帰って着替える時間をくれ。」
「良いですよ、食べて待ってますから。」
「そこは食べないで待っててくれよ…一緒に行く意味無いだろ。」
「先輩が食べてるところが見られます。」
「……何が面白いんだそれ?」
…通じないか。
「いっぱい食べる君が好き~」
「本当になんだお前は!?」
でもめげない。そして通じない。
冗談はさておき、しばらく先輩を待った後マックス!というファストフード店へ昼食に。
「………」
頼んだセットを持って先に席を取っていた先輩に合流する時、周囲の座席を見回してみる。
……今日は居ないな。
安心してハンバーガーの包みを開け、ジュースを飲む。
「…なんだ、着くなりきょろきょろと。何を探してるんだ?」
探してるというより警戒してるって感じだけどな。
「ちょっと最近偶然が続きまして…今日は無いみたいですけど。」
「偶然?」
食事をしながら会話を続ける。
「愛依っていう女子とよく会うんですよ。
カフェに行ってもバーベキューに行っても出くわすので、もしかしたら今回もかと…」
「ちょっと前の皆寺みたいな心配してるな…
なんだ、その愛依って奴も超ラッキーなのか?」
「違うはずなんですけど…」
「……偶然会うと?」
「ストーカーも疑ったんですが、毎回来るわけじゃないみたいですね。
まあ、彼女が俺にストーキングを働くようなことは無いとは思いますが。」
「何故そう思う?」
「接点の薄さですね。
だって、本を取る時にちょっと手が触れただけの相手にそんなことしますか?
そのくせ、妙に馴れ馴れしいっていうか…そういう節があるんですよね。」
「……なるほど。
つまり、一目惚れかスーパーロマンチストかのどっちかだな!」
一目惚れ説と彼女の心はきっとメルヘンでできていた説。
…一目惚れは無いだろう。確かに俺モテ期来てるっぽいけどちょっと触れるだけで惚れさせるとかそんなのがある訳無い。どんな特殊能力だ。
メルヘンは…ちょっと否定できない。アイツの情報が少なすぎて否定できる材料が無い。
それと、どうでもいいがふと思ってしまった事が一つ。
「……先輩って、結構恋愛脳?」
「ち、違うぞ!? お前の浮ついた噂ばっかり聞いてるからそう思ってしまっただけだからな!?」
「それは…それはちょっとまあそうですね。失礼しました。」
確かに俺もちょっと悪いです。はい。
ほとんどは渉が悪い。アイツいっつも最悪のタイミングで来て誤解しやがって。あと麗にもちょっと責はあるんだからな。誤解されそうなことばっかりしやがって。
っていうか俺の責ある? ある。うん、ごめん。
「そ、それよりだ。
城津はそんなに愛依って奴に付きまとわれるのが嫌なのか? 可愛くないとか?」
「……」
一度、食事の手を止めて思案する。
「そうじゃないんですけど…向こうががっつきすぎるせいで俺が引き気味になってるって感じです。
それも、接点薄いころからって言うのがどうも…おかげで苦手意識が出来るっていうか。別に嫌いではないですし、顔も可愛い方だとは思うんですけど。」
「なら素直に喜んでも良いんじゃないのか?」
「先輩だって、いくらイケメンでも初対面の奴に馴れ馴れしくされたら嫌じゃないですか?」
「それはそうだが…でも、男はそういうものじゃないのか? 可愛い女を見たらデレデレしてるイメージしかないんだが。」
「その偏見はどっかに捨てちゃってください。男だって警戒位しますよ。」
「…そうか。」
…とはいえ、先輩の言い分には少し心が頷いてしまった。
可愛い女子と関われる、と言うのは男として悪い事ではない。
この状況を楽しんでも良いのではないか、という思考がちらっとでも出てきたことは確かだ。
まあ、だからといって愛依に心を許すって程でもないけど。何かしらの形で俺を利用して来るんじゃないかという疑念は捨てきらないでおく。
大人は汚い、というが、それは純粋な心のままでは生きていけないから。自身を守るために穢れた心を理解し、知らぬ間に染まってしまうからだろう。
穢れること自体に罪は無いのだ。きっと。
「…では、何故愛依は城津に馴れ馴れしいんだろうな。」
「わからないです。」
それがわかれば変な気苦労はしない。
「やっぱりロマンチストなのか? 頭メルヘンなのか?」
「さあ?
後、後者は暴言です。絶対に本人には言わないでくださいね。」
「え? お、おう…」
意味までは分かってなさそうだがこれで面と向かって言うことは無いだろう。
っていうかそもそも対面しないだろうけど。
「もしくは、実は知り合いだったとか、知り合いに似てるから間違えてたとか…」
「知り合いじゃないですよ。先輩だってちょっとした知り合いでもイケメンなら覚えてますよね?」
「なんでさっきから例えがイケメンなんだ? もしかして城津、愛依の顔がタイプなのか?」
「そう言う訳では…あ、いえ、別に顔は良いと思うんですが。
それを言ったら佐那や麗もそうですし、先輩だって負けてないですし。」
「わ、私がか!?」
「そうですよ、自覚無いみたいですけど。」
どれだけ中学の時散々男ども(特に陸上部)からわめきたてられたと思ってる。俺が狙ってたのにとかフラグ立てに行きやがったなとか俺に助けさせろとか色々言われてんだよ。
先輩を助けたことを後悔するつもりは無いが、あればかりはどうにかならないかと思ったものだ。
尤も、先輩と俺がそんな仲になる訳でもなく、俺も先輩もそういう関係にはならないと明言したため騒動はすぐに収ま…りませんでした。先輩が顔真っ赤にして否定したせいで。
でも、そのあたりは時間がなんとかしてくれた。時間先生頼りになりまっせ。
「先輩はもっと自信を持って良いと思いますよ。
顔もですけど、部活ではいい成績って聞きましたし、勉強……の方は分かりませんけどまあとにかくすごい人なんですから。」
「おだてるにしてももっと根拠を出せ…」
とは言いつつも顔が赤いしややにやけてる。典型的な隠そうとしてるけど実は嬉しい時の表情だ。
「とにかく、アイツのことが全く分からないんですよ。
だから避けたくて、苦手意識を持ってしまっているのかも…」
「そうか…
…じゃあ、今度会った時にもっと愛依と話して来い。」
「え?」
「知らないから嫌なんだろ?
もっと話をして、もっとお互いを知って、友達になれば何度会っても嬉しくなるさ。
愛依にはその気があるみたいだし、お前からも歩み寄ればいい友達になれるんじゃないか?」
……なるほど。
実践してみるのも悪くないか。良い奴にしろ悪い奴にしろ知るのは悪い事じゃない。
本当にただの良い奴なら、その時は―――
「もしかして、そこのお前を見ている奴が愛依か?」
「え。」
いやいや、そんなまさか。
こんな所まで来るわけないだろ。そもそもそんなに偶然が続くわけが―――
「照矢君、その人は?」
―――振り返れば、奴が居た。




