露呈する過去
更新速度が遅くなってるのはゲームのイベントのせいでしょうか。
それとも、TSでも男の娘でも女装でもないからモチベーションが上がらないのでしょうか。
と考える今日この頃。前作書いてるのが楽しかったのってそういう…
「はぁ~…お腹いっぱい…」
「たまには外で食べるのも良いね…」
明日木の兄が設営したテントの下にある長椅子に座っているのは左から、麗、明日木(妹)、佐那の三人だ。
主に佐那と明日木が話していて、麗はなんか黄昏れている。何考えてんだろアイツ。
「…すまないが、手を動かしてくれないか。俺だけでは忙しすぎる。」
「あ、すいません。」
明日木(兄)と俺はというと後片付けをしている。
この構図の理由としては女性陣がサボっている、というよりも食休みをする流れに逆らった明日木兄に俺が付いて行ったという感じだ。あいつら手伝えよ…と思って声を掛けようと思ったら明日木兄に止められて今に至る。
明日木兄は網やら炭やらの処理をしていて、俺は肉が入っていたトレー、使った紙皿や割り箸等のゴミを袋にまとめている。
それらが終われば器材の片づけだ。そっちは手伝ってくれるだろう。多分。
「…手を動かしながらでいい、少し話をしよう。」
「話?」
「男同士の話と言う奴だ。そこの三人が居ては話しづらいこともあるだろう?」
…そのために2人だけで片付けしようとしてたのか。
「率直に訊こう、君は誰を選ぶつもりだ?」
「選ぶ…?」
「…聞いた話では、あの三人とは仲が良いそうじゃないか。
妹は君に恋愛感情は持っていないと言っていたが、君自身は誰が良いんだ?」
「……俺は、誰かを選ぶなんて、贅沢な立場じゃないですよ。
佐那は俺をそういう目で見てないそうですし、麗はちょっと前までギスギスしてたくらいで、ちょっと前にようやく少し打ち解けたって感じですから。」
「俺が聞いているのは彼女達じゃなくて君自身の気持ちなんだがね。」
「……そんなの、分からないですよ。
確かに、三人とは仲良くやれてるとは思います。でも、それが恋愛か友情かなんて…」
「…そうか。
今は分からなくて良いかもしれないが、いずれ答えが必要になるだろう。
その時まで自分で見つけておくと良い。」
「…そうですね。」
正直、想像が付かなかった。
自分が誰かと付き合っている姿なんて。隣に心に決めた女性が居る未来なんて。
昔からの付き合いだった佐那を除外してしまえば、女の子との交友関係なんて皆無だったから。
その佐那もそんな気は無いと断言したので、単純に考えたことが無かったのだ。
「………」
「…片付け、俺がやっておくか?」
「いえ、いいです。もうすぐですし。」
再び止まっていた手を動かす。
と言っても、ゴミをまとめるだけなのですぐに終わった。もとよりそれほど散らかっていなかったので尚更だ。
「ゴミ袋はどちらへ?」
「それはこちらでやっておく。
それより、君にはアレを頼みたい。」
「アレ?」
差された指を辿ると一塊の集団があった。
4人の男が一人を取り囲んでいる。その一人はよく見えなかったが、チラリと長い黒髪が一瞬だけ見えたような気がした。
「大方、トイレか何かで一人になったところを狙われたのだろう。
早く助けに行かなくて良いのか? 大切な恋人候補が―――」
冗談を聞いている余裕なんて無かった。
想起した過去と後悔を振り払おうとするように、その一団に向かって走る。
「――なこと言わないでさーブッ!?」
握っていた拳が前に出たのは半分無意識だった。
激高は収まらない。焦燥も衝動も止まらなかった。
「てめぇら…消えろ…!」
こんなことをしても過去が変わる訳じゃないし、後悔も無くなるわけじゃない。
ただの憂さ晴らしに他ならない。それが分かっていても―――
「な、なんだコイツ…こわっ…」
「もしかしてコイツの彼氏か?」
「彼氏持ちだったか…行くぞ、お前ら!」
四人は拍子抜けするほどあっさり去って行った。
行き場の無い激情を深呼吸で鎮める。
「……ありがとう。」
「…礼はいらない。
今のは、麗を助ける為じゃなかったからな。」
囲まれていたのはやはり麗だった。
ただ、彼女の顔がどうにも見られなかった。どんな顔をしてるのか、分からないというのもあるが……
「でも、私は貴方に助けられたから。お礼くらい言わせてもらう。」
「……そうか。」
…やっぱり、律儀な奴だな。
溜飲が下がる。心は平静に戻った。
「じゃあ、戻るか。」
「…そうね。」
結局、麗がどんな表情をしていたのかは分からなかった。
だが、お互い心の中にモヤモヤした何かが残っていることだけは、分かっていた。
「なんですか? 話って。」
ゴミ、荷物を全て明日木兄の車に載せた後、少し話がしたいと呼び出しを受けた。
呼び出したのは明日木兄。用件がまるで想像出来ないのでやや怖い。
「一つ、訊いておきたい事があってな。
友人の兄となれば話す機会はまず無さそうだし、今のうちにな。」
「…なるほど。」
確かに、今日まで明日木に兄がいた事は知らなかったし、これまでも、これからも明日木の家に行くことはほぼ無いだろう。接点が薄いのは確かだ。
だが、肝心の内容はやはり分からない。
「…それで、訊いておきたいこととは?」
「妹の友人がナンパされていたとき、君の様子はおかしかった。」
「!」
まあ、気付かない訳無いか…
「いきなり殴ったのも疑問だ。仮に彼女が好きだとしても、あそこまで感情的になるのは不自然だ。
過去に何かあれば、話は別だがな。」
「………」
「話してはくれないか?
城津照矢の過去に何があったのか。」
「…言いませんよ。言いたくないですから。」
「何故?」
「……聞かれたら、軽蔑されるから。」
「軽蔑しない…と言い切ることは出来ないが。
少なくとも、俺は誰にも話す気は無い。そもそも、俺と君の接点は薄い。そんな相手なら、別に軽蔑されても良いじゃないか。」
「じゃあ、どうしてそんなどうでも良い相手のことを知りたがるんですか?」
「接点が薄いとは言ったが、どうでも良いわけではない。
君は妹の友人だからな。つながりが無いと言う訳でもない。今回のように会うことだって、もしかしたらあるかもしれない。
それに…純粋に気になるというのもある。というかほとんどがそれだ。」
「俗っぽいことを…」
「俺だって人間だ。悩みもすれば考えもするし、気になることくらいある。
…教えてはくれないか?」
「……」
彼に教える必要はどこにもない。
理由はずっと、俺の記憶の中にしまっておくことが出来る。
だが―――
「…俺は、最低なことをしました。
それで、小さな縁を…一つ、無くしたんです。」
―――同時に、共感を求めてしまう自分も居る。
だからだろう、考えも無しに口を滑らせてしまったのは。
一瞬驚き、止まった口は再び動き始める。
「あれは、中学に入学して二か月も経たない頃でした。
よく登校中に会う、同学年の生徒が居たんです。」
下がる心のストッパー。それを押しのけて動く口。その摩擦で痛む胸。
「そいつはクラスこそ違ったんですが、ちょっとしたきっかけで話すようになって…次第に、仲良くなっていったんです。
友人と言うには浅い関係だったかもしれませんが…それでも、会うたびに話す程度の仲になった頃でした。
空き教室が騒がしかったので、覗いてみたら…そいつが、何人かに取り囲まれて虐められてたんです。」
「……」
「助けるべきだって、思ってたはずなんです。
でも、その時の俺は……そいつを見捨てて逃げました。
それからというもの、登校中にアイツと会うことはなくなりました。学校ですれ違うことすら、ありませんでした。
麗が囲まれてた時、それを思い出して。
八つ当たりだって分かってても、殴ってしまったんです。
情けない話ですよね…」
「………」
表情を変えずに聞く明日木の兄が、この時ばかりは恐ろしかった。
何を考えているのか、次に何をするつもりなのか、全く想像がつかないからだ。
「……君が――」
口を開いた。
俺の耳は彼の一言一句を聞くことに集中する。
「――その生徒を助けなかったのは、確かに悪いことだ。
同じ事を話せば、君に憤る人間もいるだろうな。俺も思う所が無いと言えば嘘になる。
ただし、君はその行いを今も悔いている。後悔を今に活かし、広西麗を助けている。
今回の事だけではなく、以前にも二回、彼女を助けたのだろう?
それも今の話が関係しているのだろう?」
「…そう、かもしれないです。」
「なら、君はマシな人間だ。
その後悔を喉元を過ぎた熱さのように忘れる人間よりも、後悔を今に活かせず、悔やみ続けている人間よりもな。
だから、その後悔を忘れるな。今に活かし続けろ。
君が見捨てた生徒の為にはならないかもしれないが…気休めくらいには出来るだろう?」
「…そうですね。」
励まし、と言うには少し不器用かもしれない。
でも、元気は出た。今の俺にはそれで充分だった。




