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交錯するラブレター  作者: じりゅー@挿し絵は相関図
第一章 First Cross
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購入する用事

 俺は城津じょうつ照矢てるや

 ごく普通の一般男子高校生代表選手権で一位を取る自信があるくらい普通の男子高校生だ。そんなのねーけど。

 成績、人間関係、容姿、性格。どれを取っても普通過ぎて逆に目立ちそうなくらい普通なのである。特に目立たないけど。

 なのである、はずだと今この瞬間まで、いや、この瞬間も思っていた。


「どうしたテルテル、靴くらいさっさととれよ。」


 ケラケラと笑うこの男は俺の友達の一人、軽井かるいわたる

 悪い奴じゃあないんだが、どうも言動が軽いと言うかそんな節がある男だ。たまに無意識に無神経な発言をして場を凍らせることもあるので、コイツと誰かが会話しているときは気を抜けない。


「何回も言ってるけど、テルテルって呼ぶの止めてくれないか?」


 テルテル、というのは不本意ながらも俺のあだ名だ。

 テルテル坊主が元で付けた(勝手に)らしいが、俺としては吊るされそうなので嫌いだ。誰でも吊るされた男になんてなりたくないだろう。タロットの世界に帰りやがれ。


「いや、だってもう一分ぐらいは固まってたぜ?そりゃなんかあったのかと思うよな?」


「え? 一分も経ってたのか。」


 しばらく固まってしかるのちに唐突な自分語りをしていたら一分が経過していたらしい。

 俺は再度靴が、“靴だけ”が収まっているはずの靴箱を見る。

 そこには俺には縁が無いはずの物。唐突な自分語りの原因となる()()が間違いなく入っていた。

 ()()は靴の上に乗っかる形で置かれているので、靴を取る為には必然的にそれを持ってどかす必要がある。

 渉は幸いこちらを見ていない。サッとカバンに突っ込んでサッと靴を取り出せば何の問題も起きない。

 ()()を素早く仕舞う為にカバンのファスナーを音を立てないよう、ゆっくりと開けていく。

 …これなら問題無く()()()が入るな。

 俺は素早く靴箱に手を突っ込――


 ガン!


「いった!」


 ――めずに下駄箱の下の角に指をぶつける。

 下駄箱は不幸なことに金属製。ただ痛いだけでなく。


「どうした?大丈夫かテルテル。」


 派手に音を立てていた。

 心配してこちらを見る渉。俺の指を見ようとしたためか、音源を確認しようとしたためか、彼は自然と下駄箱を覗き込むように見る。

 それはつまり、靴箱の中を見られるということであり。


「……テルテル、その白い奴って…」


 ()()()を見られるということでもある。

 観念した俺は靴の上の()をゆっくり手に取り、渉に渡した。


「…多分。お前の想像通りだ。」


 渉は手渡された物を裏、表と何度もひっくり返し、光に当てて透かしたりしている。

 光に当てるの良いんだけど掲げるの止めてくれないかな。()()晒し物にすんの止めてくんない?


「お、お前…お前…これって…」


 笑顔を蒼白にした渉が震えた指で指したもの。


「中身はまだ見てない。もしかしたら別の奴と間違えられた可能性もある。

 でも多分それは…()()()()()の可能性が高いな。」







 俺はごく普通の男子高校生だ。

 顔は平凡、魅力と言えば普通な事だけ。

 そんな俺の靴箱の中にこんなものがある訳無いのだ。

 しかし、改めて靴の上にあった差出人が書いていない封筒の中身を見てみても内容は変わっていない。


「『放課後、屋上へ来てください。私の気持ちを伝えたいんです。』ね…」


 短くシンプルな内容だった。

 ラブレターと言ったらもっとこう超ロングでボリューミーな心情がつらつらと書かれていて、なんというか読み手の心をときめかせるようなイメージを勝手に持っていた訳だが…全くそんなの無い。ただ淡々と時間、集合場所、要件が書いてあるだけだ。修学旅行のしおりだってもっと色々書いてるぞ。


「て、照矢、それ、どうしたの?」


 ほんのりと赤い顔でラブレターを指差したのは皆寺みなでら佐那さな。幼稚園からの腐れ縁。要は幼馴染である。

 幼馴染ではあるのだが、互いに恋愛感情は無い。俺はともかく佐那はちょっと前に思いっきり大声で明言してたから間違いない。


「ああ、下駄箱にあったんだ。

 多分人違いかと思ったんだけど、俺の名前も書いてあるみたいなんだよ。」


 残念ながら(?)俺の下駄箱にあったのは間違いでは無かった。

 嬉しくはあるのだが、同時になんか非常に面倒なことを背負ったような気分になった。呼び出しに基本良いイメージを持っていないからだろうか。先生からの呼び出しとかってドキドキするよね。


「へ、へぇ~…

 でもさ、さすがに、その…人のラブレターを堂々と自分の机で読むってどうなの?

 少なくとも、私がそれ書いてた人だったら嫌だな~…なんて。」


「…確かにそうだな。」


 書き手からすれば自身の心をさらけ出されているような、ある意味では晒し首以上に嫌な思いをしているかもしれない。

 そう考えた俺は手紙を封筒にしまい、バッグにちょっと丁寧に入れる。

 他人の気持ちみたいなもんだしな。内容は水以上にあっさりしてるけど。


「そう言う訳だから、今日の放課後は一緒に帰れない。悪いな。」


「え? 行くの?」


「ああ、そりゃまあ…

 差出人の名前が無いって言うのはちょっと不気味だけどさ。

 せっかくくれたわけだし、どんな人かは気になるからな。それに…」


「それに?」


「…いや、なんでもない。」


「え~!? そこまで言ったなら全部言ってよ! 吊るすよ!?」


「吊るす!?」


 確実に渉の影響を受けているとしか思えない発言を聞いてしまった俺は後方右斜め後ろ(…?)の渉を睨む。

 前を見ていた渉は瞬時に俺の視線に気づき、『え!?俺なにかした!?』と言っているような目をこちらに向けた。

 それを無視して俺は佐那に向き直る。


「とにかく、俺は行くから。

 あ、そうだ。渉にも言っとかないと。」


 丁度良くこちらを見てうろたえていたので、無駄に良い笑顔で渉の席に寄る。


「お、おい! 俺が何したって言うんだよ!」


「いや? お前何言ってんの?」


「だってさっき…」


「それより、俺放課後に用事できちゃったんで先帰っていーよ。」


「……放課後?

 もしかして、あのラブレターの?」


「ああ。」


「…マジで?」


「マジで。」


「…分かった。

 実は俺も用事あったし…勝手に帰ってるわ。」


「おう、帰れ帰れ。今すぐでも良いんだぞ?」


「放課後用事あるって言ってんだろ!」


「…なんだ、用事って学校でなのか?てっきり、お前のねーちゃんにお前の金で買い物押し付けられたとかだと思ってたんだけど。」


「そうだよ!

 ねーちゃんの方はちが…くないけどそうじゃねーよ!」


「マジで押し付けられてたのか…」


「俺の金ってとこまで大正解だよコンチクショー!」


 …コイツの扱い、ちょっとは優しくしとくか。

 その態度が一日も持つかわかんねーけど。






 時は過ぎて放課後。


「ね、ねえ。本当に行くの?」


「ああ、行くけど?」


 何故か佐那が俺の肩を掴んで立ち上がるのを妨害していた。

 なんだコイツ。


「止めた方が良いんじゃない? 差出人の名前も無いんでしょ?」


「ああ、無いよ。」


「もしかしたら、すっごいブサイクかもしれないし、男だったりするかもしれないよ?」


「その時は振れば終わりだろ。」


「そうじゃなくても、突然取り囲まれて金出せとか、何も言わずに集団リンチとか…」


「…それは無いと思うぞ。」


「どうして?」


「ああ。このラブレターの字に見覚えがあるんだよ。さっき言おうとしてたのはそれだ。

 どこで見たかとか、誰の字だったかとかは忘れたけどな…だから、知り合いの可能性が高い。恨みを買ってる知り合いに心当たりは無いから、多分安全…のはずだ。」


「へ、へぇ~…」


「あ、そうだ。ついでだしお前も見に来るか?

 気になるだろ?腐れ縁としては。」


「はぇ?!

 い、行かないよ!今日用事あるから…」


 …佐那の奴、今日はな~んか様子おかしいな。

 妙にどもってるし、表情もどこか慌ててるって感じがする。

 暑いわけでもないのに顔は赤いし、何回か不自然に視線を逸らしている…


「……佐那。お前…」


「な、何?」


「…今日は早く帰って休め。急いでるんだろ?」


 つまるところ、何かわかんないけど急いでいるに違いない。


「今日はこれくらいで勘弁してやるよ!放さないのお前だけど!

 ……ん?なんで急いでるのに俺放さないの?」


「ご、ごめんね!急いでるからまた明日!」


 ピューっとく佐那ー。

 見事に生徒をターンしながら避けて素早く出ていく。流石元バスケ部。かっこいい。


「あ、俺ももう行くわ…」


 渉も教室からそそくさと出て行く。まるで用事のバーゲンセールだな…


「……俺も行くか。」


 かくいう俺も大きな用事を購入してしまった身。時間は多分あんまり残ってない。

 2人に倣って教室を出た俺は屋上へと足を運んだ。

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