密集する予定
佐那のストーカーの一件、彼氏先輩の一件、どちらも片付いて心が軽くなった。
更に、明日から夏休みともなればその気分は上昇気流に乗った様な有様。
「照矢! お前、夏休みいつ空いてる!?」
「何言ってんだおめぇ、夏休みだぞ!? ずっと空きっぱなしに決まってるだろうが!!」
「じゃあさじゃあさ、皆で海かプール行こうぜ! 俺、お前、皆寺さん、広西さんに、あとお前最近明日木とも仲良いよな!」
「女子ばっかじゃねーか! お前下心丸出しかよ!」
「獣で何が悪い! それが男だ!」
「全国の草食系男子に謝りやがれテメー!」
「「ハハハハハハ!」」
だから浮かれまくっていた。
重責からの解放、長き休みへの期待、浮かれるなと言う方が無理だ。
結果としてスーパーハイテンション。渉も夏休みパワーでハイテンションだ。
叫び声もはしゃぐように、笑い声はより大きく。
キャラ崩壊かとかちょっと耳に入ってきても気にしない。この高揚感の前にはどうでも良いことだ。
「…で、この提案、どう?」
「実現は無理だろうな。」
本気の質問っぽいので一気に冷静になる。考えるまでもなく却下されるだろう。
特に、麗は散々酷い罵倒を浴びせた挙句に断るに違いない。間違いないそれだけは。
「せ、せめて皆寺さんは…皆寺さんだけは! お前が頼めば来るだろ!?」
「あー、佐那に関しては俺が止めるわ。お前の魔の手から守るためにな。幼馴染として。」
「救いは…救いは無いのかっ…!」
少なくとも、欲望にまみれた今の渉には無いだろうな。
「照矢! 予定無いんだよね!?」
「そうだけど?」
自らの欲望か何かに打ちのめされている渉をほっといて終わりかけていた話に割り込んできたのは佐那。
「ならさならさ! 今度一緒に映画観に行かない!?
観たいのがあったんだけど、どうせ観に行くならって思って!」
「ああ、良いぞ。いつにする?」
「明日! 明後日からは部活が長くなるし、その次は週末なんだ。だから、明日で良い?」
早ぇ。
「了解。じゃ、映画デートとしゃれこむか。」
だが、それに対応できるのが夏休み。引いて言うなら帰宅部の力だ。
「…そ、そうだね。デートだね。」
帰ってきたのはぎこちない返答。引かれたか。
テンション上がってるからって言い慣れてないことは言うもんじゃないな。
「何時頃に」
「城津くーん! ちょっと来てー!」
廊下を見ると教室の前で明日木が手を振っていた。
あの、皆さんそんな非リアの敵みたいな目で見ないでください。俺ハーレム野郎でもなんでもないから。明日木さんには微塵もフラグ立てるようなことしてないから。
「……今日は割り込みが多いな。」
「…明日、部活が終わったら連絡するよ。午前だけだったはずだから、午後からになると思う。」
となると、3時頃の回になりそうだな。移動、昼食を考えると1時の回には間に合いそうにない。
それなら集合後に昼食、その後に時間があればブラブラ歩いて映画鑑賞をして終了という形になりそうだ。
「分かった。」
短いやり取りの後、教室を出て明日木に付いて行く。
その時の表情はさっき呼んでいた時のものとは違っていた。もしかして――
「――もしかして、この前の事を気にしてるのか?」
「……」
一瞬明日木の表情が変わる。
…図星か。どうも浮かない顔をしてると思った。
麗の彼氏の件の時、勘違いして一時的に的外れな恨みを抱いてしまった事を気にしているのだろう。
「事情を説明できなかった状況だったとはいえ、俺の立ち回り方にも問題はあったわけだし。あんまり気にしないでくれ。
それに、なんていうか…あの時はああ動いてくれたおかげで助かった。喧嘩別れしたってなればまさか向こうも付いて来るとは思わなかっただろうし、俺もそれをちょっと利用してたし…」
「…ありがと。
れいちゃんと私達を助けてくれたのも。」
「おう。」
どうも、明日木は麗に似て頑固者と言うか礼節を重んじると言うか…そういう一面もあるらしい。
類は友を呼ぶと言うが、どうもそれは真っ赤な嘘ではないようだ。
……俺や佐那もそうなのかな。渉は違うと思うけど。
その後は目的地である屋上に着くまで沈黙が続いた。気まずい雰囲気は和らいだが、完全に払拭は去れなかったからだろうか。
「それで、相談なんだけど…最近、れいちゃんの元気が無いんだ。」
「元気が無い?」
あのクズヤローに何かされてたのか?
チューも許さずにぶん殴ってやったはずなんだが…
「話を聞いてみたんだけど、くみちゃんの事みたいなんだ。」
「紅美の事?
まさか、間に合わなかったのか?」
あの時、クズの魔の手からルークが紅美を守っていたはずだ。
ルーク本人もバッチリ守ってやったと言っていたはずだし、クズの後輩も何とかしたと言っていたはずなんだが…
「いや、間に合ったんだけど…間に合ったから出来た問題っていうか…」
間に合ったから出来た問題?
ますますわからん。
「…その、くみちゃん、好きになっちゃったみたいなの。
くみちゃんを助けた、ルークって人を。」
「………え?」
え? マジで? あのルークに?
あの時何があったんだ? 確かに危ないところを助けたわけだし恩は感じてるかもしれないけどえっえっえ?
「それで、最近くみちゃんが最近妙にニヤニヤして、たまにボーっとして…
れいちゃんと家族に対して、今までになくそっけなくなったっていうか、あんまり話してくれなくなったみたいで…」
………なるほど。
あの姉妹相互信仰だったからな。その片割れが別方向に向いたせいで一方通行になって私の妹がーみたいな感じになってるんだな。分かったわかった。
……
「……で、俺に何をしろと?」
「れいちゃんを元気づけてくれない?」
「どうやって?」
「どこかに一緒に出掛けてあげて!」
「それなら明日木で良いだろ。俺は断られかねないし…」
「絶対断らないから!」
「俺、麗とはあんまり反りが合わないし…励ますどころか喧嘩別れするのがオチだと思うけど。」
「大丈夫だよ! きっと…」
ちょっと自信ないんじゃねーか。
「……もう!
実は明日、城津君が一緒に映画観に行きたいって言ってたってれいちゃんに話してるから! 2人で行って来て! れいちゃん来るって言ってたから!」
「おいお前俺の予定を勝手にプランニングするな! 俺のマネージャーかお前は!
っていうか、明日って言ったら佐那と映画観に行くことになってるんだけど!?」
「どうにかしてよそんなの!」
「そんな無茶苦茶な!」
くそっ、こうなったら麗に全部明日木が言ったデタラメだって説明して断るしかない。
「あ、そうそう、れいちゃん映画に行くって聞いてすごくウキウキしてたから。断ったらまたしょんぼり生活が始まるんじゃない?」
「お前俺の考え読んでたの?」
友人…と呼んで良いのかは分からないが、麗を落ち込ませるのは避けたい。
断った時にボロクソ言われそうというのもあるが、一時とは言え気分を回復させることが出来るなら――
――あれ?
なんで麗の奴、俺と出かけるのにウキウキしてんの?
よっぽど映画が楽しみって言っても、俺が付いて来るって聞いたら顔をしかめて『それは嫌、一人で行く。』なんて言うだろうに。
……ははーん、明日木の奴嘘ついてるな?
「……鈍感。」
「何か言ったか?」
「…難聴。」
「だから何言ってんだ?」
「なんでもない。
それは良いから、行ってあげてよ。れいちゃんの為だと思って、ね?
さなちゃんは午前はダメなんでしょ? だったられいちゃんとは午前中に行って、午後からはさなちゃんと行ってくると良いよ。」
明日の予定だけパンパンじゃねーか。バランス悪っ。ヤジロベーの片腕に重りでも括り付けたようなアンバランスさだ。
「……まあ、(俺に拒否権が無いことが)分かった。
どんな映画なんだ?」
「恋愛!」
「堪忍。」
「駄目!」
「オゥ…」
テンポのいい会話で絶望。麗と恋愛とかマジで勘弁してくれ…
…麗もよく俺と行く気になったな。まさかマジで惚れた?
…いや、ねーな。
「そう言うことだから、後はお二人で話し合って!」
「え?」
お二人で?
もしや、いや絶対そうだと思い屋上の扉を見る。
「……照矢君。」
「麗。」
扉から出て来ていた麗の表情はいつも通りに見えた。
だが、それは顔に出ていないだけで心の中ではどんよりと暗い気持ちが滞留しているのだろう。
あれだけ溺愛していた妹がどこの馬の骨とも知らぬ男にとられそうになってるんだからな。
「明日木から話は聞いてるな?」
「聞いてる。
明日の映画、楽しみにしてるから。」
……んん?
あれ? 俺の耳バグったのかな。楽しみとか言ってたような…
「……何その顔。
もしかして、貴方と映画に行くのが楽しみだって言ってると思ったの? 楽しみなのは映画だけだから。」
「あ、いつもの麗だ。」
ああ良かった。麗も俺の耳も正常だったようだ。
「素直になれない?」
「何のこと?」
「……れいちゃんのそういう所、可愛くないよ。」
「可愛くなくていい。媚びるつもりは無い。」
…あの、たった三人しかいないのに俺ほったらかして小声で緊急会議開くの止めてくれません? 疎外感パないんスけど。
「…集合時間を決めよう! 明日の午後は用事があるから午前中で頼む!」
「そっちから頼んで来たのに用事がある日にしたの? 無計画ね…」
俺が決めたんじゃねーよ。
って言えたらなぁ、明日木ぃ…
「じゃあ、9時の回を観るから8時半に映画館集合。それでいい?」
「ああ、それで頼む。で、映画館は近場の――」
簡単なミーティングを終え、教室に戻って朝礼、移動して終業式。
一学期の最終日は流れるように終わった。
「照矢、読書感想文の本決めたの?」
「……あ。」
と思ったら完全に終わってなかった。




