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交錯するラブレター  作者: じりゅー@挿し絵は相関図
第二章 Overlap Trouble
18/52

錯綜する思惑

おひさです。後書きに次章予告入れたので許してくだ詞亜。

「本当か?」


「嘘じゃない。私だって嫌だった。」


 隣に居る彼女――広西麗に真偽を問う。内容は昨日のストーカーの件について。

 ストーカーは一時期麗と付き合っていると噂になった城津照矢。

 俺が付き合ったから(彼氏が出来たから)ってストーキングとは…見苦しい奴だ。

 だが、俺はそんな彼に対して優越感すら感じている。恐らく彼は麗に気が合ったんだろうが、こうして奪ってやったんだ。

 上手くやってるか心配だったって、笑える冗談まで言って…本当は麗が欲しかったくせに。

 まあ、今日は別のストーカー(子猫ちゃん)が来てるみたいだが…

 少し先にある物陰をチラっと見る。麗はそれに気付いていない。

 情報は既に伝わって(リークして)いる。あの二人が尾行してくることも、城津が来ないことも、全て城津のクラスにいる後輩から聞いた。

 あの二人の片方は麗の友人だったはずだ。もう片方はその友人か?

 まあ、麗の妹を盾にすれば2人も何もできなくなるだろう。そして、麗共々…美少女の友人も美少女。美少女には美少女が集まるらしい。華になって良いことだ。

 何かするようなら、即座に後輩に連絡を入れて麗の妹を襲わせるだけだ。麗やその友人たちが絶望する様を見るのも一興だろうな。


「ククッ…」


 おっと、笑いが漏れてしまった。


「何? いきなり笑いだして。

 気持ち悪い。」


 ……このアマ、絶対後で泣かす。






「脅されてるって言うのに、相変わらずだね…」


「あの人のそういう所、ホント凄いと思う…」


 れいちゃんの豪胆とも言える態度にさなちゃんもびっくりしている。

 あれが人質を取られた人の態度だとは思えない。もうちょっと危機感を持っても良いはずなんだけど…れいちゃんらしいっていうかなんて言うか…


「それにしても、彼氏の人あんまり何もしてこないみたいだね。一緒に歩いてるだけで。」


「そういえばそうだね。」


 彼はれいちゃんにデートを強要しているはずなのに、腕を組むどころか手をつなぐことすらしない。

 …もしかして、実はシャイとか?

 無いか。シャイな人が強迫なんてするわけない。

 なんて、考えていた時だった。

 彼は突然れいちゃんの手を掴んで、素早く通りかかっていた公園に入る。

 公園に入った彼は公衆トイレの影に入り、私達の死角に入った。


「…追いかけるよ。」


「分かってるよ。」


 当然、私達も移動する。

 しかし、トイレの角に差し掛かった瞬間彼が飛び出してきて――


「追いかけっこは終わりにしないかい? 子猫ちゃんたち。」


 ――私達の前に立ち塞がった。








「……チクショー…」


 ルーク()は缶ジュースを片手に公園のベンチに座っていた。

 休み時間をフル活用して学校中を駆け回って、広西紅美について訊いて回ったことにより彼女の学校がどこかを掴むことは出来た。

 ただ、放課後。ホームルームが終わるとすぐにその学校に行ったものの彼女は既に帰っていた。

 そこで得られた情報は部活には所属していない事、行きつけの店は無く、その日その日で違う帰り道を通ったり、気分で寄り道したり…と、その程度だった。

 彼女の気まぐれさが憎らしい。そう思うのは散々学校の周りを捜し回ったというのにそれらしき人物が見つけられなかったせいだろう。


(……やっぱ止めようか…いや、照矢先輩に探し出すって言っちまったし…)


 照矢先輩には感謝している。

 もし、あの時先輩が俺の努力を認めてくれなかったら…俺はその内なけなしの努力も止め、運にばかり頼る人間になっていただろう。

 その末路に破滅が見えても、愚直にその道を進んでいくことしかできない人間に…


(…もっとも、そう思うのは俺の勘だけど。)


 でも、そうとしか思えなかった。

 だから照矢先輩は裏切りたくないし、見捨てられたくない。

 先輩が俺が好きな女の想い人でも。

 グイッと缶を呷るが、その中身は一滴、雀の涙程度しか垂れてこない。


「そろそろ行くとすっか…」


 空になっていた缶を真正面にあったメッシュタイプのゴミ捨て箱に投げ捨てる。

 その投擲は箱の淵を捉えた。







 俺はじっと、木の影から一人の少女を監視していた。

 教室を出てから、この公園に至るまでずっと。昨日も、一昨日もずっとずっと見ていた。

 俺の目から見ても可愛いと思う。正直可愛らしい見た目、活発な性格、共に好みだ。

 少女を見る時、いつもガラケーを握りしめている。

 それは先輩からの連絡を待っているから。ゴーサインが今にも欲しいから。

 先輩が制していなければ、もっと早くに飛び出して彼女に襲いたい。

 …その瞬間が待ち遠しい。

 広西麗、早く先輩の機嫌を損ねろ。

 (お前)の手で、(彼女)を―――


 カンッ!


「す、スミマセン! わざとじゃないんス!」


 飛んできた缶を頭にぶつけ、遅れて投げたのであろう男が謝った。

 睨みながら振り返ると、そこには金髪の男が居た。






「駄目じゃないか、人のデートをコソコソ付け回すなんて。」


 トイレの裏から飛び出してきた先輩を見た瞬間、血の気が引いた。

 理由はともかく、尾行したという行為自体の罪悪感も手伝ってか、バレてしまったという事実は想像していた以上にショックを受けた。


「…私達はれいちゃんが心配だから来ました。

 先輩、確か過去に何回も女の子と付き合ってるんですよね。その中には先輩との関係を切っていない女の子も居ると聞きました。

 何股してるか分からない男の人に、私の親友は渡せないと思います。だから付けさせていただきました。」


 対して、悠菜ちゃんは毅然としている。

 まるで自分の行いが正しいと信じて疑ってないように。いや、事実そう思ってるに違いない。

 自分の正義を叩きつけている、そんな表情に見えた。


「…どこで調べたのかは知らないけど、それは嘘だ。確かに何人も女の子と付き合ってきたのは事実だけど、今は麗一筋だ。」


「噂を聞いて、先輩が付き合ってた女の子達に直接聞きに行きました。裏はちゃんととれましたよ。

 確かに何人かの女の子とは別れてますが、まだ別れてないと答えた女の子はいっぱいいましたよ。」


 先輩はごまかしてるけど、それが嘘だってことは苛立ってるとしか思えない表情で分かる。

 つまるところ、悠菜ちゃんの情報は確かだってことだ。


「………テメェ…麗! お前がコイツに指示したのか!?」


「いえ、貴方の素性なんて興味無いから。

 …悠菜、この件には関わらないように言ったはずだけど。」


「私にそれが出来ると思ってた?」


「………」


 広西さんの無言はこの問いに対する否定も同然だった。

 友達として、悠菜ちゃんの性格をよく知ってるらしい。


「テメェらグルだったってことかよ…!

 オイお前等! こっちには人質が居るってことは忘れてねぇだろうな!?」


 怒り、優越、嗜虐、それらの感情がこもった顔でケータイをちらつかせる先輩。

 これには流石の広西さんも青ざめ、悠菜ちゃんも表情が強張る。


「舐めた真似しやがって…! テメェらには一回自分の立場ってモンを思い知らせなきゃならないみたいだな!」


 先輩は素早く操作を終えると、それを耳に当てる。

 まさか、電話の相手は―――


「止め…」


「…俺だ。

 ……そうだ、良いぞ。広西紅美はお前の好きにしろ。」


「……」


 ――――本当に、終わった。

 何もできなかった。ただ、運命の流れる様をただ眺めるように、見ていることしか。


「お前達のせいだからな。

 お前達が余計なことをしなければ、麗の妹には何もしなかったんだからな。」


「………」


「ゴメン、れいちゃん…

 私が、余計な事しちゃったから…城津君にも、言われてたのに…」


「……」


 2人にも打開策は無い。

 あの表情は演技なんかで出来るものじゃない。本当の本当に、もう駄目な時のそれだ。

 当然、ただついてきただけの私にはこんな状況をどうにかする方法なんて無い。もう、どうしようも…


「悲惨だな、お前の妹。

 こんな姉と、その友人を持ったせいで人生滅茶苦茶にされるんだからな。

 まあ、お前にも同じ末路を与えてやるよ。姉妹仲良く堕ちていきな。」


「………」


「そうだな…今日は俺だけど、明日からは俺の後輩に可愛がらせてやるよ。最近褒美も何もやれねぇで、不満も溜まってる頃だろうからな。俺なんかよりよっぽどひでープレイさせられるかもな。」


「………」


「そろそろ、お前の妹は泣いてる頃か。お前も同じように泣かせてやるよ。」


「……」


 広西さんにはもう、睨み返す気力すら無い。

 顔を上げられて、彼の唇が迫って来ても抵抗する気配すら無い。

 私も悠菜ちゃんも、それを見てることしか―――――







 今日は静かな公園を通って帰ろう。

 朝、ふとそう思った広西紅美()はとても穏やかな気持ちでそれを実行している。

 皆でワイワイ、というのも良いけど、たまには一人でぼんやりしながら帰るのも良いものだ。その為に友達からのお誘いをわざわざ断った甲斐もある。

 埋め合わせ、どうしようかな。今度何か奢ってあげようかな。


「兄貴! もしかして、やっちまって良いんすか!?

 そっすかぁ…! じゃあ、遠慮なくやっちまいますよ!」


 そんなことを考えていると、近くから男の人の声がした。

 せっかく良い気持ちで散歩…下校してたのに。騒がしい人だ。


「広西紅美! 逃げろーーーーーー!!」


 ……え? 私?

 声がした方向を振り返ると、金髪の王子様みたいな男の子が何故か空き缶を手に走って来ていた。

 その後ろには怖くて気持ち悪い顔をした大きな男の人がケータイを握りしめたまま走って来ていた。

 平和を享受するかのような気分は一瞬で壊されて、体中から警報が鳴るような緊急事態に見舞われる。


「早く走れ! アイツに捕まったら不味いっスよ!」


 追いかけてくる男は言われなくても分かるくらいに恐ろしかった。

 私は王子様みたいな男の子に手を引かれて走る。

 引っ張られる腕が痛い。けど、これくらい早く走らないとあの人に追いつかれる。

 いや、こんなに早く走っても…


「その女を置いて行けええええええええええ!」


 恐い。

 嫌だ、捕まりたくない。置いて行かないで。

 あの人の言葉に反するように言葉が浮かんでくる。

 異常な状況に涙も流れてくる。


「置いて行ける訳ねーっスよ!!

 テメーなんかに広西紅美は指一本触れさせねえ!どっか行け!!」


 ………かっこいい…!

 男らしく言い切った王子様は、より強く私の腕を握る。

 それに答えるように、私も彼の腕を強く握り返した。


「どっか行くのは、てめえだああああああああああああああ!!」


 男の人は、更に恐い顔になる。

 けど、さっきより恐くない。

 だって私にはこの人が付いてくれてる。

 ずっと憧れていた、白馬の王子様よりもずっとかっこいい、この人がいるから。


「…くそっ、このままじゃ追い付かれる…何か、何か無いんスか…!?」


 支えてあげたい、そんな気持ちが浮かび上がった瞬間。

 私の目に、一本の木が映った。


「…あの木! 見て!」


「木!? 木がどうしたって……

 …なるほど、やっぱり俺は運が良いみたいっスね!」


 彼は振り返って、片手に持った空き缶を投擲する。


「どこ狙ってんだ!? 俺はこっちだ!」


 ただし、狙いは追って来てる人じゃない。

 さっき目に留まった一本の木。更に言えば、その枝につり下がったもの。

 空き缶は見事、その物体に直撃した。


 ブブブブブブ…


「ん? なんだ?」


 追って来てる人もここで異変に気付いた。

 けたたましい羽音。聞く者が聞けば震えあがるであろう恐ろしい存在がそこにいると言う証明。


「あぁ!?」


 その一匹一匹は小さいものの、それに比例しない強さを持っている。

 それは…


「…とっさに蜂の巣を見つけるって、スゲー目を持ってるっスね。」


 蜂だ。

 空き缶を蜂の巣に当てたことにより、蜂を騒がせた。

 そして、蜂は自らの巣を守るために巣に近い人間の方を襲う。蜂の巣を突いた人間よりも蜂の巣の傍に居た人間の方が刺されたという事例もあるくらいだ。

 つまり、私達よりも――


「うわああああああああああああ!!止めろ!止めてくれえええええええええ!!」


 ――巣に近い男の人を襲う。


「…一応、救急車呼んどいた方が良さそうっスね。あの集りようじゃ無事じゃすまなそうっスから。」


 彼の近くに男の人が持っていたケータイ電話が転がってきた。振り回してすっぽ抜けたのだろう。


「……でも、その前に…」


 彼が持っているケータイを覗き込むと、何故か着信履歴を見ていた。

 その一番上の番号を選択して通話する。救急車よりも大事な事なの?







 麗の顔に彼氏先輩の唇が迫る。

 紅美のことはもちろん心配だが、麗がこんな男に唇を奪われたとなれば、きっと紅美は…いや、あのクズ以外は皆悲しむだろう。

 そんなことをさせる訳には行かない。

 足を踏み出して大きく息を吸い込んだ瞬間、ケータイが鳴った。

 それは俺のではないし、そこで俯いていた三人の物でもない。


「なんだ? こんな良い時に…ん? アイツ…」


 電話を取ったのは彼氏先輩。

 怪訝な顔をして受け取った彼は、次の瞬間目を見開いた。


「誰だテメェ! 俺の後輩はどうした!?

 …あぁ!? ふざけんな!! んな嘘信じるわけねえだろ!!」


 誰だ? 後輩をどうした?

 嘘? 信じる訳が無い?

 ………なるほど。やってくれたって訳か。

 全てを察した俺は止めていた足を動かす。


「そこまでだ、クズ野郎!」


「ブッ!?」


 彼氏先輩をぶん殴り、ケータイを強奪する。


「約束、守ってくれたみたいだな。ルーク。」


『はいっス! 広西紅美はバッチリ守ってやりましたよ!

 後輩とかいう奴も、なんとかのしてやりやした!!』


「よくやった。

 これだけ貢献すれば佐那も許してくれるだろう。ついでに何か奢ってやるよ、先輩らしく。」


『ありゃーっす!

 じゃ、そっちは頼んますよ!』


「おう!」


 通話を切り、ケータイを転がっていた彼氏先輩の傍に投げる。


「…聞いてたか? 皆。

 広西紅美は解放された、もうこんな奴の言うことなんて聞く必要は無い。」


「え? 照矢? なんで照矢が居るの? だって今日は尾行しないんじゃないの?」


 佐那は混乱している。

 佐那どころか、明日木も俺が来ないって本気で思ってたみたいだしな。俺の登場は青天の霹靂なのだろう。


「……止めるように言ったのに。」


 麗は…紅美の解放が嬉しいのだろう。目を合わせてくれない。


「……城津君。あの…ゴメン。

 城津君はれいちゃんの妹のことまで考えてたのに、私は…」


「謝るのは、完全に解決してからにしてくれないか。

 ぶっちゃけここからは俺もノープランだ。」


 正直、まさか今日紅美に手を出してくるとは思っていなかった。

 強硬手段も当分先と見ていた先にこれだ。本気でどうすれば良いのか分からない。


「……とりあえず、交番まで連れていくか? 一応、少年法に守られてるとはいえ脅迫罪が適応されるかもしれないし…コイツの後輩も、未遂とはいえ強姦しようとしてたくらいだしな…それを指示したコイツにも処罰は与えられるだろ。」


 俺の腕力に頼るのも悪い案ではないが、ここは法の力でねじ伏せた方が良い。

 最悪俺が法に裁かれかねない。傷害事件だとか何とかで。

 一発殴ったからもう遅いか? 一応正当防衛が適応されることを祈るしかないか…まあ、コイツも強姦未遂だし、(被害者)の口添えがあれば適応されるだろう。

 …少年法がある程度守るだろうけど。


「そう、ね…その…

 …ありがとう、照矢、君…」


「!」


 ………呼んだ。俺の名前を。

 下の名前で呼んだのは、俺が麗を下の名前で呼んでいるからなのか、それとも――


「……ああ!」


 ――どっちでもいいか。

 とにかく、この騒動は解決したのだ。

 今は大団円にたどり着けた。それで良いじゃないか。






「城津君は、なんでれいちゃんを助けるの?」


「照矢君、その女の子は…?」


「俺、もしかしてモテ期!?」


「広西さん、本当にそれで良いの?」


「復讐の時は近いぞ…城津照矢!」


「今度は…助けてくれたね。」


次章『Meet again』


※構想段階の台詞です。実際の台詞とは異なる場合があります。

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