表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
交錯するラブレター  作者: じりゅー@挿し絵は相関図
第二章 Overlap Trouble
17/52

暴走する焦燥

 

「貴方、昨日家まで来たんでしょ?」


 朝のホームルーム前に麗に引っ張って行かれた先の第一声がこれである。

 夏とは言え、朝日が全面から当たる屋上はやや暑い。


「なんのことだ?」


 とりあえずとぼけてみる。

 ほぼ確信しているような口ぶりなので、無駄だとは思うが…まさかバレていたとは。


「とぼけても無駄。パパが家の近くに来てたって言ってたから、着けてきたのはバレバレ。

 どうせ、私の彼氏が気になったとかでしょうけど…」


 くそっ、あのパパさん(人でなし)チクってやがったのか…通りで妙に自信満々だと思った。

 …とにかく、ばれてるならしょうがない、白状するか…


「……ゴメン、確かに昨日はお前を着けてた。

 でも、それは」

「言い訳は聞きたくない。

 もう私に近付かないで。」


 そう言うと彼女は長い髪をたなびかせ、踵を返して歩き始めた。

 一瞬言い返しそうになったが、湧き上がる言葉をぐっと飲み込む。

 ………


「…彼氏とはうまくいってるみたいで安心したよ。

 じゃあな。」


 麗は一瞬チラリと振り返ったが、その顔に表情は無かった。

 俺は立ち去る麗をそのまま見送り、ホームルーム開始のチャイムが鳴るまで立ち尽くしていた。







「城津君! さなちゃん! 一緒にお昼食べよ!」


「うん、良いよ!」


 昨日の昼食で何があったのか、佐那と明日木の仲は初対面のマイナス値をひっくり返したように、いやそれ以上に良くなっていた。

 共通の話題でもあったのか、それとも明日木のフレンドリーさに当てられたか…ただ、女子と言うのは男以上に腹芸が上手いそうなので鵜呑みには出来ないか。表面上の仲良しごっこの可能性も否定しきれない。否定材料が見つからないから多分素だと思うけど。


「…城津君。昨日、どうだったの?」


「昨日? 何かあったっけ。」


「忘れたとは言わせないよ。貴方、れいちゃんにこっそりついてってたでしょ。」


「え!? 嘘!?」


 ……どうも、俺はコソコソするのが性分に合わないらしい。

 麗の父親と言い、明日木といい…なんでそんなに目敏いの? ちゃんと尾行対象の麗にはバレなかったけどさ。

 あ、そこ最終的にバレたとか言わない。親父っちの告げ口のせいだからノーカンノーカン。


「……まあ、あいつらが上手くいってるかどうかって不安でな。」


「え!? うまくいくも何も、昨日脅されてるって」

「驚かされたって!? まあ確かにあの広西さんが付き合ってるって聞いたらなー! びっくりするよなー!

 ……麗が脅されてるって件はトップシークレットだ。いつあのクソ彼氏が聞いてるか分からない。気を付けろ。」


「く、クソ彼氏…」


 今朝の一件でそれを思い知った俺が言うことではないと思うが。

 朝、麗と俺の会話をあの彼氏先輩が聞き耳を立てていたのだ。

 麗が制さなければ俺は彼氏先輩が麗を脅していることを知っていると馬鹿正直に明かし、その結果人質となっている紅美に危害が加えられていたかもしれないのだ。それに気付いた時は冷や汗をかいたものだ。

 大方、麗が俺を引っ張っているところを見て付けて来ていたのだろう。少なくとも昨日俺が尾行していたことはバレてしまったはずだ。

 …抜け目のない奴だ。


「…昨日は、アイツが麗の家に行ってた。

 麗の家族に彼氏面して、それで満足したのかすぐ出てったよ。」


「「……」」


 明日木も佐那も表情に険が出る。静かに怒りを燃やしているようだ。


「…それで、今日も行くの? だったら私も付いて行くよ?」


「わ、私も!」


「……」


 麗にはああ言われたが、確かに今日も尾行は続けるつもりだった。

 ルークのこともあるが、もし尾行を辞めて麗に何かあってしまったら―――

 ―――麗本人はもちろん、麗の家族にも悪い。麗の家族には返そうと思っていた恩がある。俺自身も後悔することは間違いないだろう。

 しかし、明日木や佐那を連れて行くのは難しい。付いて行く気配が増えればバレやすくなるだろうし、もしそうなったら本当に紅美に被害が及びかねない。

 ……それに、麗と彼氏先輩には昨日の尾行がバレてしまっている。警戒を強めるのは当然だろう。


「…いや、今日は止めておく。

 麗の親父さんがチクったせいで麗とアイツには昨日の尾行はバレたわけだし、今日は警戒を強めるだろうからな。」


「え? バレたの?」


「ああ。

 多分今日知ったことだろうし、麗が一芝居うってくれたおかげで俺とグルじゃないって思ってくれてるだろうからこの件のせいで麗の妹に危害が及ぶことは無いと思うけどな。」


「……でも、今日何かあったらどうするの?」


「…………まあ、アレだ。

 どうも外堀から埋めるつもりっぽいし、そうそう手出しはしないだろ…」


「脅してるのに?」


「……分かってるけどさ。連続で尾行してんのバレたらグルかもって疑われて紅美になんかあるかもしれないだろ。

 麗の奴、それこそ落ち込むよ。アイツ妹のことかなり大切みたいだし…それこそ、自分を犠牲にするほど。

 だから、俺のせいでそんなことになってほしくないし、俺だって紅美には何かあってほしく」

「もう何も言わないで。」


 必死に頭を回転させて、尾行することの何が悪いかを考えながら語っている途中で明日木に止められた。


「さっきから言い訳ばっかり…それでもれいちゃんが大事だって思ってないの?」


 険が増えた明日木の表情に一瞬気圧される。

 が、持ち直して冷静に意見を言う。


「思ってるさ、でも、今日は時期が悪い。ここは一旦引いて」

「引いたら手遅れになるかもしれないんじゃない!

 …良いよ、私一人でも行くから。」


「おい待て、そんなことしても」

「要は城津君が連続で尾行しなきゃ良いんじゃないの?

 なら、私が代わりに尾行して何が悪いの?」


 悪いに決まってる。最悪麗もろともと言うことも考えられる。

 俺だって紅美を人質に取られたら何もできない。明日木もそれは変わらないはずだ。


「一回冷静になれ、向こうには人質が居るんだぞ。軽率に動くのは危険だ。」


「危険だから何!? 何もしなくてもれいちゃんが危ないんじゃない!」


「…何を焦ってるんだ、明日木。尾行自体がそもそも危ないんだよ。」


「バレなきゃいいんでしょ!」


「バレずに守るなんて出来るのか?」


「どうにかしてするしかないんだよ!」


 …駄目だ、完全に冷静さを欠いている。聞く耳すら持っていない。


「………好きにしろ。

 でも、俺はお前と行く気は無いからな。」


「私だって願い下げなんだから。」


 ……仕方ない。明日木もまとめて尾行するか。

 尾行対象(面倒)が増えたなぁ…

 ルークのことも不確定だって言うのに、明日木の暴走まで見張らなきゃならないとか…

 心配事がどんどんたまっていく。胃に穴が開きそうだ。


「……照矢、私はどうすれば良いと思う?」


「佐那は…

 …絶対明日木に付いて行くなよ。」


「……」


 釈然としないみたいな顔しないで。尾行対象(面倒)更に増やすの止めて。







「行ったよ、私達も行こっ。」


「う、うん。」


 …どうしてこうなった。

 俺の視線の先には2人の少女。

 2人の少女の先には一組のカップル。

 放課後。結局俺は麗と彼氏先輩+それを尾行する明日木と佐那を尾行することになってしまった。

 勘弁してつかあさい。


「けど、良いの? 照矢はああ言ってたけど…」


「知らないよ、あんな卑怯者の言葉なんて。

 自分が責任を負いたくないからって逃げた、弱虫じゃない。」


 ……陰口をまともに喰らって精神的なダメージを受ける。

 2人を尾行しているという後ろめたさも手伝ってか、そのダメージは大きい。再起不能になりそう。


「照矢を悪く言わないで!

 照矢はそんな人じゃない…多分、何か考えがあって…それに、昼に言ってたこともデタラメじゃないし…」


 流石幼馴染の佐那様。俺のことをよく理解してらっしゃる。

 …俺に尾行されてることには気付いてないみたいだけど。


「た、確かにそうかもしれないけど…でも、れいちゃんに何かあったらそれこそ城津君も…」


 ……ゴメン、その心配無いんだわ。だって最初から尾行する気だったし。

 あれ、なんかだんだん申し訳なくなってきた。俺ここに居て良いのかな。本当に尾行を放棄して帰った方が良いんじゃないかな。


「あ、そっち行ったよ!」


「あ。

 ありがと、ちょっと見失っちゃってた。」


 2人は更に進んでいく。

 しかし、あの二人…麗と彼氏先輩はどこに向かってるんだ?

 見た限り駅ではなさそうだし、もしかして彼氏先輩の家か?

 もしそうなら連れ込まれた時点でアウトだと思って良いだろう。その時は――

 ――待て。

 ルークの奴、もう紅美を見つけただろうか。

 放課後から30分近くは経っている。そう簡単に1人の女子生徒を見つけるのは至難の業だろう。同じ学校かどうか、それすら分からないのだから。

 もしまだ見つけてなくて、それで助けに入ってしまった場合は――


「……」


 嫌な想像しかできない自分に、祈ることしかできない状況に腹が立つ。

 が、他にどうすることも出来ないので俺はカップルと2人の友人の尾行を続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ