確約する覚悟
「なんスか先輩、そんなにコソコソして…
あ!もしかしてあの人追っかけてたんスか!? 皆寺先輩というお方がありながら!」
ルークに声を掛けられる前に俺が注視していた方向を見た彼は、俺が麗の尾行をしていたことを察してしまったらしい。
「ち、違うぞ! 今回は訳ありなんだよ!」
「訳!? 彼氏持ちの女の子を追いかけまわす訳ってなんスか!?」
「ああ分かったよ! 説明してやるからちょっと落ち着け!」
遠目に尾行していたのが功を奏したのか、ルークが気を遣ってボソボソと話してくれていたからか麗達は気付いていないようだった。
それを確認した俺は2人を視界に留めたまま事情を話す。
…っていうか、ルークの奴俺と佐那が付き合ってるって誤解してるんだな。ほぼ佐那が匂わせぶりな行動取ったからだろうけど。
…俺も強く否定しなかったしなぁ。そっちの方が都合よかったし。
「―――だから、やましい事があって尾行してるわけじゃないんだ。分かったか?」
「はぁ…なるほど。流石照矢先輩。身内ならどんだけ薄い関係でも気にかけてあげられるんスね。」
どうやら納得してくれたらしい。
「いや、なんか耳に入ってきたって言うか…交友関係が狭いから手出しができるって言うか…」
「照矢先輩は良い人っスよ。もっと自信もって下せえ。
しっかし、広西…どっかで聞いたような気ィするんスよね~…」
「…移動するぞ、そろそろ見えなくなる。」
「あ、待ってくださいよ!」
塀に囲まれた道を曲がる2人。それを追って曲がった塀まで進む。
消えていた、なんてこともなく2人は相変わらず並んで歩いている。手は乱雑に掴まれたままだった。
「あの女の人、広西って言うんスよね。妹さんの名前って分かるっスか?」
「広西紅美だ。
…まさか、狙おうってんじゃないだろうな?」
「いや、俺結構純情派なんで。皆寺先輩一筋っスよ。」
「こないだフラれてただろ。」
「そ、それは言わないお約束っすよ…」
「で、どうなんだ? 知ってるのか?」
「いや…ちょっと思い出せないっスね。でも、確か俺と同じクラスには居なかったと思うんスけど…」
「……そうか。」
まあ、さすがにそんな偶然あるわけないか。
たまたま知り合った後輩が、紅美と同じ学校で。かつ同じクラスだなんて。
……ルークのラッキー具合を見ているとありえなくも無いような気もしてくるが、残念ながら無いものは無い。ルークをボディガードにするのは無理か…
「それにしても、どこに行くんスかね。駅に2人で入って行きましたけど。」
「本当にな…」
未成年が入れないはずの場所を思い浮かべてしまうのは決して俺がエロいからではなく、脅しているという状況がそうさせているのだと思いたい。
俺はセクハラ系のモブでは無いのだ。なんか騒ぎをちょっと離れたところで見てる系のモブのはずだ。
「追いかけるっスか?」
「もちろんだ。」
2人にばれないように切符を購入し、一つ隣の車両に乗る。
少し混んではいるが、同じ車両に乗っては恐らくばれてしまう。とは言え更に一つ隣となってしまえばみえなくなってしまうだろう。
「……まさかな。」
「なんスか。一人で納得して。」
「いや、ちょっと前に麗の家に行ったことがあるんだが」
「先輩!? いくら何でもそれはアウトじゃないっスか!?
流石に先輩でも、純情派の俺としては見逃せないっスよ!!」
「ま、待て。何も無かったから。っていうか俺が彼氏って誤解されてたのを解きに行ってただけだから。」
「どうやったら彼氏とかって誤解されるんスか!?」
「あー、えっと…」
この後、俺はルークに麗と出会ったきっかけから今に至る関係まで全て説明させられた。
それが終わる頃、2人が降りたことを確認した俺とルークは同じように降りていく。
「はぁ~…先輩、ちょっとかっこ悪いっスね。なんで敵を褒めてるんスか。」
「うるせえな、自分でも思ってたよそんな事…」
「あと、先輩まだ女居るんスか? そろそろ敵認定しても良いっスよね?」
「別にそんな関係じゃねぇよ! 麗はああだし、雲道先輩はそんな気無いって言ってるし…」
「…なんか今の、昨今の鈍感な主人公みたいっスね。一発殴っていいっスか?」
「止めろ!」
「あ、なんか2人とも家に入っていったっスよ?」
「え?」
ルークが指をさした一軒の家。
そこには見覚えがあった。
「……ここ、麗の家だ。」
「は?」
慌ててドアの前に行き、聞き耳を立てる。
『…そう言う訳なので、これからよろしくお願いします。』
『え、ええ…』
聞こえたのは彼氏先輩と麗の母親の声。
どうやら彼氏として自己紹介でもしているらしい。脅してつき合わせているだけだというのに、と思うと腸が煮えくり返りそうだ。
『じゃあ、今日はこれで。』
あ、やばい。来る。
俺と一緒に聞き耳を立てていたルークにもその声は聞こえていたらしく、俺が合図するとすぐに近くの物陰に隠れる。
幸い隠れる場所が近くにあったため、彼氏先輩がドアを開ける頃には2人とも彼の死角に入れた。
「…気に入らねぇっスね。」
「ああ、脅されて何も言えないところに付け込んで外堀を埋めようなんてな…」
今日手を出さなかったのは、脅しているが故の余裕と言ったところだろうか。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか?」
「「……はい?」」
彼氏先輩は俺たちに気付かず帰って行ったはずだ。
ならばこの声の主は誰か。少なくともルークには聞き覚えが無いだろう。
だが俺は知っている。
「………漫画の話なんであんまり気にしないで下さいよ、麗のパパさん。」
この親父さんのことを。
「おっと、そうだったか。
それより、確か君の家は反対側だったはずじゃないか? 何故ここに居る?」
………
「たまたま近くに用事があって…えっと…」
「あ、こっちのコンビニでしか売ってないおつまみがあってですね! それを調達しようと来た次第っス! あ、もちろんジュースのおつまみっスよ?」
ナイスカバールーク!
でもその言い訳通じる?コンビニの品ぞろえとかあんま変わんなくね?
「……なるほど。確かに、コンビニの品ぞろえも店舗によって違うものだ。
俺も気に入ったツマミがあまり売っていなくて困っているよ…」
お、説得成功っぽい。
じゃあ、今日はこのままおさらばして…
「じゃあ、そう言うことで今日は…」
「まあ待て、最近紅美がゲームの相手としてお前を欲しがっている。ゲームの相手としてな。せっかくここまで来たんだ。ちょっと相手してやってくれないか。ただし手は出すなよ。」
おさらばさせてくださいよ。
ああ、前来た時に紅美と無駄にいい勝負したのが仇になった。
「いや、今日はちょっとこの後もコイツと約束があるんで…」
「え、あ、そうでしたね。じゃあ、そういうことなんで。」
「そうか。じゃあ、今度来てゲームの相手を頼むぞ。
…あと、君。似合ってるかもしれないが、髪は染めない方が禿げないらしいぞ。」
「地毛っすよ!」
ゲームのゲームのってやたら強調して来る親父さんが去っていく。
「……あばよ人でなし。」
「え? 人でなし?」
「いや、ちょっと言ってみたくなったから言っただけだ。気にするな。」
「そっスか。
…それより、なんで今親父さんに相談しなかったんスか? そしたらあの人何とかするんじゃないんスか?」
「………多分、親じゃなんともできない。」
娘が脅されている。娘が危険な目に遭っている。
親としてはそんな状況なら知りたいだろうし、何とかしてあげたいと思うだろう。
でも、恐らく…その結果は両親の心を痛めるだけだ。
麗も紅美も学生。流石に親と言えど学校までは付いて行けない。
父親は仕事があるし、母親は家事があるだろう。
教師に言っても、その目には届かない場所もある。
紅美は誰に狙われているのかさえ分からないのだ。
そんな状況で麗の方を助けようとしても紅美が危険だ。
「……だから、やっぱり俺たちが何とかするしかないんだよ。
麗は俺が守るとして、紅美の方がなんとか出来ればな…」
「………分かったっスよ先輩。
俺、絶対広西紅美を見つけます。そんで、守ってやりますよ。
だから、先輩は広西麗って人を守ってやってください。」
「そうは言っても…お前は紅美がどこの学校に居るかすら分からないんだろ? それなのに麗を守るって言っても…」
「俺は明日、広西紅美をなんとしてでも見つけます。先輩は遠慮しないで広西麗を守ってください。」
強い眼差し。
ルークの覚悟が宿ったそれは、まるで俺の臆病を打ち抜いたようにすら感じる。
根拠は無いが、コイツならやってくれる。
そう思わせる何かが、感じ取れた。
「………じゃあ、お前の覚悟に掛けてみるか。」
「任してください! 後生の運使ってでも見つけ出してやるっスよ!」
…心強い味方を手に入れたものだ。
俺は決意した。明日、ルークを信じてなんとしてでも麗を守ることを。地を這うことになっても、敵にしがみついてでも守ってやる。




