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交錯するラブレター  作者: じりゅー@挿し絵は相関図
第二章 Overlap Trouble
14/52

変調する運命

男の娘ものの短編書いたりマイブームがどっか行ったりして一か月以上空いてしまいました。申し訳ありません。

 ゲームは進む。

 序盤こそスペア、ストライクが出たものの中盤は7本とか6本とかそんな成績だった。別に俺たちはプロではないので、仕方ないのだが…

 ルークの7球目はストライク、8球目はスペア。

 俺の7球目はストライク、8球目は4本。ここにきて手元が狂ってしまった。


「流れはこっちに来たんじゃないスか? 先輩。」


「ちょっと手が滑っただけだ、それくらいじゃ俺のペースは乱せないぞ。

 もしかしたら、お前が持ってるって言う運のおかげかもな。」


「俺の運は他人ひとの不調を呼んだことは無いっスよ。

 だから先輩のミスは先輩自身がしたミスなんスよ。人のせいにしないでもらいたいっスね。」


「そりゃ悪かったな…次、投げろよ。」


「へいへい、これでも俺はスポーツマンシップって奴くらい持ってるっスからね。

 正々堂々、ズルい手を使って勝っても嬉しくないし、そんなんで皆寺先輩を取りたくないっスから。」


「見上げた根性だな…」


「あざっス。まあ、敵に褒められてもあんまり嬉しくないっスけど。」


 そう言って彼はレーンの前に立ち、助走をつけて投げる。

 ボールは残りのピンをなぎ倒した。


「…よしっ! スペア!」


 スコアボードの升が更に一つ埋まる。

 点数はルークの方がリードしている。巻き上げは不可能ではないが少し難しそうだ。結構ギリギリの戦いになっている。


「照矢、頑張って。」


 佐那の表情は変わらない。

 俺のことを信じている。逆転できると思っている。


「もちろんだ。」


 それに応えないわけには行かない。

 残り僅かとなっていた瓶コーラを空になるまで煽り、ボールを持ってレーンの前に立つ。

 ピンは既に立っている。出来るだけ多くピンを倒せるコース…真ん中を一直線に見定め、振りかぶる。


「………」


 小さな砲丸がピンを荒らし、残ったのは2本。

 配置はスプリット。奇しくもルークと同じ配置だった。


「先輩。それ、倒せるんスか?」


「……見てな。」


 二つのピンの位置、ボールの進路に集中。

 最適な進路を予想、それを実現する最適な投げ方をはじき出す。

 ――勝利の方程式はここにそろった。


「…!」


 体の動きを完全に制御し、理想通りの投げ方を実行。球は理想通りのコースを通る。


 カッカコーン!


 そして、結果もまた理想通り。

 スコアボードに三角形が表示される。


「流れが、なんだって?」


「…マジすか。

 でも、点差ではこっちが勝ってるっスよ!」


「いくら途中で勝ってても、最終的な点数で負けてれば負けなんだからな。」


 10球目が勝負所だ。


「分かってるっスよ!

 先輩こそ、降参するなら今の内っス! 絶望的な点差を見て、心が折れる前にね!」


 ルークの放った球が全てのピンをなぎ倒す。

 一投目、ストライク。


「どうしますか先輩!? もう諦めますかぁ!?」


 二投目、4本。

 三投目は0だったが、ここからひっくり返すのは厳しそうだ。


「……諦める訳あるかよ。」


 不可能じゃない。

 それだけで諦めない理由には充分なりえる。

 例えどんなに高く険しい壁でも、超える理由になる。


「先輩、クールなタイプだと思ってたんスけど結構熱いタイプなんスか?

 そういうの、嫌いじゃないっスけど…敵に回すとここまでウザいんスねぇ~…」


 ルークが何か言ったが、半分以上は耳に入っていない。というか理解に使用する思考のリソースを割いていない。

 ボーリングはいわば修正ゲーム。

 前の投げ方の何が悪かったのかを考え、それを改善してよりよい成績を収めるゲームだ。

 その割には一投目でいきなりストライクを取ってしまったが…まあ、これまでの努力の成果ってことで。

 9投目の一回目、あの時はやや右にずれてしまっていた。

 もう少し左にずれていればストライクも難しくなかったはずだ。なので今回は少し左めに…


「おお!」


 背後から佐那の歓声があがる。

 一回目はストライク。続く二度目も同じように。


「……まぐれもここまで続くもんなんスね。」


 二回目もストライク。

 三回目。ここが勝負だ。


「……」


 ズレというのはどうしても出る時は出てしまうものだ。

 さっきは一回目の感覚が鮮明に残っていたが、それが少なからず薄れてる三回目は細かいズレがほぼ確実に生じる。

 …運に任せるって言うのはあんまりやりたくないんだよな。

 増してや相手は豪運の持ち主。相手に影響しないとは言ってもそんな相手と運勝負なんてしたくはない。

 でも、それしか勝てる方法が無いなら。

 それで幼馴染を救えるのなら。

 これまでの、これからの運を使ってでも成し遂げるしかない。


「………」


 ボールを構えたまま目を閉じ、瞑想を始める。

 過度な昂りは粗を生む。

 冷たく、静かな心構えでいれば無駄の無い動作が出来るようになる。


「………」


 ゆっくりと目を開け、心を無にして振りかぶる。

 …ここだ。

 ボールはレーンの中央に向かって直進する。

 次々と倒れていくピン。消えるボール。降りてくるバー。

 そして、スコアボードに表示されたのは――


「……嘘だろ?」


 ――ストライクの記号。

 表示された点数が大きいのは俺だった。つまり。


「照矢の勝ちだね!」


「ああ!」


 歓喜する佐那、愕然とするルーク。

 佐那による衝撃付きの抱擁を受け止めながら、俺も心の底から勝利を喜ぶ。

 かなりギリギリの戦いだった。最後の一投が少しでもずれていたら負けていただろう。

 険しい道をたどり切った達成感に浸る。佐那を抱き返してしまったのはその高揚感のせいだろう。


「………俺の負けっスね。」


 ルークの声は憔悴しきっていた。

 それを訊いた俺は佐那を引きはがし、ルークに向き直った。

 決して恥ずかしかったとか見せつけてるみたいで悪い気がしたとかそう言う訳ではない。


「…ルーク。

 お前、運だけだと思ってたけど…そうじゃなかったみたいだな。」


「……え?」


「お前、ボールを投げる時ピンを見ないで、レーンの三角形…スパットって言うんだっけ? それを見てたよな。

 俺もそうしてるんだけど、ああするとボールが狙った場所を通りやすくなっていい点が取れやすくなるって知ってたんだろ?

 それはただの運で出来る事じゃない。ボーリングを研究してるからこそ出来たことだ。だからボーリングに自信があったんだろ?」


「……」


「お前は運だけの男じゃなかった、って言いたかったんだけど…違うか?」


「……スゲーっスね、先輩。

 そんなこと言った奴なんて誰も居なかったっスよ。

 どいつもこいつも、俺を運だけの奴だって見下してるやつばっかで…いくら努力しても、全部運のおかげにされてばっかりで俺も運しか無い男なんじゃないかって思い始めてたんス。

 でも、先輩のおかげでちょっとは自分に自信が持てました。」


 …運が良いってのも、そうなってくると考え物だな。

 どうあっても世の中苦労からは逃げられないらしい。上手く出来てるとつくづく思う。神様もうちょっとミスってくれても良かったんじゃないかな。


「…約束でしたね。もう皆寺先輩には近付かないっス。皆寺先輩、今まで迷惑かけちまってスミマセンでした。

 でも、照矢先輩。今度またボーリングで勝負しませんか? 賭けとか無しで、気楽に。

 あ、そこにある卓球もしたいっスね。今からどっスか?」


「だ、駄目だよ! 照矢は私とデートしてたんだから!」


 あの…買い物じゃなかったんですか? これデートだったの? 初耳なんだけど。

 あ、これあれっすね。男女が一組出掛ければデートって言うガバガバな判定ですね。分かってますともさ。


「あ、そっスか…

 じゃ、俺はお邪魔みたいなんで、帰りますね…じゃあ、さいなら。」


 そそくさと帰るルーク君。

 残された俺はこの後、佐那との買い物を再開するのだが――

 ――この時の俺は知らなかった。

 この日からというもの、朝、放課後と会うようになってしまうのが佐那から俺に代わってしまうことを。

 それを知らない俺は、連絡先も交換してないし、もう彼と会うことは無いだろうな。等と呑気に考えていた。







 月曜日なんて無ければいいのに。

 そう考える輩は物凄く沢山居そうだが、実際に無くなったら次に恨まれるのは火曜日だろうなとどうでも良いことを考えながらコンビニ弁当を食べる。

 今日はシャケ弁だ。選定理由はなんとなく。

 渉は別の友人と食べに行ってるので、ボッチ飯…ではなく。


「一緒に食べるなら、照矢の分も作ってくればよかったかな?」


 佐那と食べている。

 悩みが解決したからか、弁当が美味いからかは分からないが良い笑顔だ。


「いや、流石にそれは悪いから止めとく。」


「私は気にしないけど?」


「いや、俺の心に…

 あと、教室で食べるの止めないか? 移動しようぜ移動。食べづらい。」


 俺の隣の席の本来の持ち主は食堂に行っているのだろう。戻ってくる気配は無い。

 佐那はその席を一時的に占拠し、その机と俺の机をくっつけて昼食を取っているのだが…


「アイツ…マジで二股野郎だったのか。」


「最低だな、男の風上にも置けねーや。」


「…じゃあ俺、広西さん取っちゃおうかな。皆寺さんには悪いけど犠牲になってもらうか…」


「ふざけんなテメェ。皆寺さんは俺のだ。」


「どっちもお前らのもんじゃねーぞ。黙って俺と一緒に血涙流そうぜ。それが男の友情だろ?」


 …居心地が最悪である。

 これなら女性用の下着売り場の方がまだ過ごしやすいだろう。視線と言う針のむしろの中に居るよりかは自分との戦いの方が……向こうも視線が突き刺さるじゃん。駄目じゃん。


「でも、まだ食べかけだし…」


「良いだろ、食べられなくなるわけじゃないんだしさ。

 ちょっと人気の無いところに行くだけだ。」


「ひ、人気の無いところ!?」


 飯食うだけなんだからそんなに騒がんでも…心配しなくても手は出さんよ。


「おい聞いたか!?」


「ああ、城津のヤローが皆寺さんを人気の無いところに連れてってやりたい放題なんだろ!?」


 ……ああ、うん、これは俺が悪かったな。多分。黙って連れてきゃよかった。


「…飯食うだけだからな。」


「う、うん…」


 念は押しておく。

 さて、そうこう言ってる間に佐那も弁当をしまったし、そろそろ移動――


「城津君城津君! 大変だよ!」


 ――したかったんだけどな。


「明日木?」


「その人、この前の…明日木って言うの? 照矢とどんな関係なの?」


「どんな関係…ん~…友達の友達…に近い何か。」


「それより、聞いてよ聞いて!

 れいちゃん、この前言ってた先輩と付き合うって!」


 ………え?

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