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6 好きな色はアイスブルー

 部屋へ戻り、しわにならないようにドレスを出してクローゼットに入れる。

 靴を出そうとして、もう一つケースがあるのに気づいた。

 手に取り開ける。中にあったのは――


 大きなブルーの宝石がついた首飾りと耳飾りのセット。

 サファイアよりも薄い青の光を放っているが、煌きが眩しい。


「ブルーダイヤモンド?」


 呟いた自分に驚く。まさか。そんなわけない。

 ただ、その煌きが様々な色彩を見せるのだ。ごく薄い水色からグリーンの色も混じるような複雑でいてうっとりする色の変化の洪水。そして煌きはダイヤモンドの輝きに似て。

 これだけの大きさのブルーダイヤモンドなんて、初めて見た。

 二十カラット近くありそうな大粒のブルーダイヤモンドを中心に、小さなダイヤが纏われ、まるで倍の大きさに見える輝きを誇っているのだ。

 四十カラットを超える「呪いのブルーダイヤ」の噂は聞いたことがあるけれど、あれはインクルージョンでやや不鮮明のはず。


 耳飾りの方だって、粒の大きさからブルーの色味までまるで最初からツインだったように揃っている。

 ブルーダイヤモンドはダイヤモンドが形成されるとき不純物が混じったもので、イエローなどもあるが特にブルーは珍しい。地中にホウ素は滅多に存在しないが、ホウ素があってこそ、ブルーの輝きを放つから。


 それくらい珍しいブルーダイヤモンド。

 ブルーローズも薔薇には青の色素自体存在しないけれど、それでも毎年その開発には多くの資金がこの国では投入されている。青というのは人々を魅了してやまない色らしい。

 手の中にある薄い青のアイスブルーを見ていると、公爵の目の色を思い出した。


「聞きに行かないと」


 私はセットになったジュエリーを大事に抱えて執務室へ向かった。



 コンコンコン


「入れ」


 誰か聞かれなかった。私は重厚な扉を開けると、公爵に真っすぐ向かった。


「ご主人様、ジュエリーが入っていました」

「……それで?」

「ブルーダイヤモンドに見えるのです。サファイアの輝きとは違うので。どちらにしろ高価であることには変わりないのですが。これはいくらなんでも、騎士団から頂けません」

「君があの工場に興味を持っていたようだったから、贈っただけだ」

「え? 工場ですか? あの工場は宝石加工場だったのでしょうか。……え? 贈ったとは、まさかご主人様が私に、ではないですよね?」


 そういえば、鉱山があるとは誰かに聞いたことがあったような。


「ブルーダイヤモンドが希少なことは知っているようだが、最近は作り出せるんだよ。ダイヤモンドに色を付ければ、ブルーダイヤモンドになる。ブラウン系に着色すると濃い青になり、無色のダイヤに着色するとアイスブルーの輝きを放つんだ」

「初めて聞きました」

「天然と謳っていても、少し加工されたものもあるのだと覚えておくといい」

「はい。為になります……って、ダイヤなんですね! これ!」


 私は手元のジュエリーを見つめる。

 青が珍しいからと色付けしたとしても、この大きさのダイヤは高価だろう。


「まだ試作品の段階だ。ここまで大きなものに着色したのは初めてだったが、奇麗なアイスブルーになっただろう?」


 同じ色の瞳がこちらを見ている。他の人には冷たく見えるアイスブルーらしいが、私には手にあるジュエリーと同じように私を魅了する色彩だ。

 でも、元がダイヤなら二十カラット近い無色のダイヤがどれほどの価値を持つのか考えるのも恐ろしい。ツインのブルーダイヤだって、どれ程の価値があるだろうか。


「このような高価なもの、頂けません! 私が工場に興味を持ったのは、アダムが怪しそうだから公爵に危機があったらいけないと思ったからであって、宝石の着色をしている工場だなんて、今の今まで知りませんでしたし」   

「でも、もう服に合わせて作成してしまったんだが」

「それでもダメです!」


 私はずいっとジュエリーを公爵に差し出し、机の上に置いて踵を返す。

 これ以上話をしているとその色の美しさに惑わされてしまいそうで。

 卑怯だ。私の大好きな瞳の色と同じ宝石で。

 ブルーダイヤモンドのブルーが、公爵の名前ブルータスの愛称のようではないか。

 そんな宝石を身につけてみたい、そうは思うけど値段が頭の中で大きな比重を占めていた。


 扉に向かう私の腕が取られ、バランスを崩してよろめく。

 よろめいた体を支えてくれたのは、崩した原因の公爵。

 ち、近いよ?

 アイスブルーの瞳で見下ろしながら言う言葉は。


「俺のパートナーとして出席する舞踏会にジュエリーもなしでは俺が陰口を叩かれる。もらうのが嫌なら貸してやるからこれを付けて出ろ。俺の鉱山で採れた石に加工も工場でしたから、元手もかかってない。ちなみに、他のジュエリーではあのドレスにはここまで似合わないぞ。せいぜい奇麗に着飾ってそのダイヤを宣伝するように」


 それだけ言うと、私の手に宝石の箱を押し付けて、扉を開けてくれた。

 見下ろす目線は、ここから出て行けという事らしい。

 貸してくれるなら、もらうわけじゃないから、いいかなと回らない頭で考えながら、追い出されるようにして執務室を後にした。


 部屋に戻り、気づく。しまった。こんな高価なものをしまっておく金庫もないよ?

 メイドの部屋にまさかダイヤがあるとは思わないかな?


 私はドレスと靴、ジュエリーを見くらべながら、確かにブルーグラデーション色に彩られた最高品質のドレスに合うのは、このジュエリーだなと見て思うのだった。

 何しろ、ジュエリーなど公爵から貰った虹色魔石の指輪しかないのだから。

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