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5 ガリウム

 数日後の午後、以前マリーが刺客を捕まえた庭園のガセボにまた、マリーは公爵と二人でいた。


 本日はアフタヌーンティーを準備。

 ケーキスタンドには、サンドイッチ、スコーン、フルーツケーキなどを少量ずつのせてある。

 フルーツケーキとは、数種類のドライフルーツとナッツ、香辛料などを入れて焼いたケーキにお酒を塗ったもの。お酒を塗ることをフィーディングと言うが、一週間に一度フィーディングして一カ月寝かして置いたものだ。

 ウェディングケーキの代わりに、出席できなかった人に振る舞われるケーキとしてこの国では知られている。

 おもてなしとしても最高のケーキ。


 塩気のあるものから頂くのがマナーだけど、二人しかいないし、私はいつものメイド服。

 カップに紅茶をいれ、話を聞きながらお菓子をつまむ。


「ガリウムのお陰で上手く事が運び、騎士団から礼を言われた」

「騎士団ですか? 騎士団ということは、やはり追っていた事件があったのですね」


 何も知らされていない。

 騎士団が動くようなこと、とは何だろう?


「そうだな。第二騎士団長とは旧知の仲で、その部下の一人がアダムだ。追っていた事件は魔術絡みだったから、手伝いをさせられたんだ」

「ガリウムはどう役にたったのでしょうか? やはりドカ~ンとどこかのお屋敷を破壊するのに使ったり、こっそりある盗賊の一味のアジトにでも潜入するのに使ったのでしょうか?」


 非常に気になるところだ。思わず拳を握りながら前のめりで聞いてしまった。


「ニトログリセリンではあるまいし、爆発はないだろう。よく考えろ」

「あ、そうでした。あはは」


 笑ってごまかす。

 公爵さま、眉間にしわが寄ってますよー、と心の中だけで呟く。


 騎士が使ったと言うことで、過激なアクションシーンを思い描いていたが、そういえばガリウムの爆発は聞いたことがないや。

 公爵はため息を吐きながらも、説明してくれた。 


「騎士団が追っていた一味がいたそうだが、なかなか尻尾を掴めずにいた。つながる人物をようやく見つけて、ガリウムの性質変化を、魔法だと相手に思わせた。アダムに魔術の才能があると勝手に相手が勘違いしてくれ、自分たちの悪事にアダムを欲しがったんだ。そのおかげで悪事の証拠を手に入れることができた。お前に指摘されたことも参考にさせてもらったそうだ」


 ガリウムが融けることかな。もしくはガリウムの他金属への浸食を知らなければ魔法だと勘違いするのかもしれないが、物によっては浸食時間が必要だ。アダムなら話も上手そうだから、話術で時間稼ぎをしたに違いない。そのための薄い金属も用意できたのだろう。


「私が指摘したこととは何でしょう?」

「お前にすら変身を見破られるとはアダムも情けないってことだ。平民の服はもちろん、背中を丸めて歩いたりと気を付けてはいたようだが、好みの食事すら貴族とは違うからな。後は匂いだが、これはアダムが臭いのを嫌がり、相手に合わせた風にこざっぱりとしてます体で装ったそうだ」


 アダムは外でわざわざ着替えていた。気になるのは、なぜ工場まで行ったのだろうってこと。


「気づいたことが役立ったのは幸いです。一つ分からないことがあるのですが」

「何だ?」

「アダムはお屋敷でご主人様と話せる機会があったのに、なぜ工場にまで出かけていたのですか?」

「出入りしていた画家が一味の下っ端でもあったんだ。画家は本職でもあるが、金持ちの屋敷に入って見取り図を作成したりといった盗賊の下請けをしていた人物だ。画家に取り入ってアダムは一味に接近した。ま、画家が抜けていて助かったがな」

「お酒の匂いをさせてることもありましたからね。朝から酔っぱらっていては頭が働かなかったのでしょうね。その画家も掴まったのですよね? 同じ屋敷にいるのに、工場まで出かけないといかず、お二人ともわざわざ大変でしたね」


 指が長いからか優雅に見える所作で飲んでいたカップを口から離し、頷く公爵。

 元からのん兵衛だったのか、誰かの指示でのん兵衛にさせられていたのかは分からないけど、アダムの変装が見破られなくて良かった。


「工場は領地内にあって近いし、俺は魔法陣で移動できるからな」

「だから、急に現れたのですね!」

「Ⅲ建物の事務所には結界を張っていて、何者かの侵入があればすぐ気づける。お前が侵入したから隠し部屋に飛んだんだ」

「隠し扉、あったのですね! 冗談でいったのに……。さすがは用意周到ですね」


 やはり隠し扉があったんだ。

 勘が鈍くなったのかと、訓練を増やさなければと思っていたところだった。ただ、勘を磨く訓練というのがすぐには思いつかなくてまだできていなかったのである。

 一度ドレスを着た後は、フローラたちに「筋肉をつけすぎない!」と言われることもあり、あまり多くの訓練ができていない。

 

「礼は何がいいと言われているが、欲しいものはあるか?」

「公爵様からのプロポーズ――あ、いえ、冗談ですっ。ホンの出来心でした。ないです! 全く、全然ほしいものなんてありませんっ!」


 目つき、こわっ。

 思わず背筋がシャキーンと伸びた。冗談を言うのも疲れるよ。本音だけど。


「前回の舞踏会でのドレスは借り物だと言っていただろう。どうせ欲しいものなんてないだろうと思ってはいた。これは俺からのプレゼントだ」


 公爵は話しながらぼんっと魔法を使って目の前に大きな箱を出した。最後のほうが箱が急に現れたせいでちゃんと聞き取れなかったけれど、大きな箱に気がとられる。

 騎士団からのお礼らしい。早速手を伸ばす。


「わぁ! お礼の品が届いてたのですか?」

「いや、これは俺――」

「すごい! 奇麗なドレス!」


 リボンは形だけのもので、蓋を開けると見るからに高級そうなドレスが現れる。

 興奮してドレスを持ち上げる。手触りの良さが伝わる。

 にこにこして公爵を見ると、ため息をついて言われる。


「今度また舞踏会の護衛を任せるからこれを着て出席したまえ」

「はい、分かりまし……わぁ、お揃いの靴まである!」

「マリーでも喜ぶんだな」

「えへへ。そりゃぁ、私も一応令嬢で――」

「令嬢はえへへとは笑わないし『そりゃぁ』なんて言葉も使わない」


 そう言い放つと、席を立って行ってしまった。

 あちゃ。怒らせたかな?

 だって、反則ですよ。


 まりーって名前を呼ぶ声がお前っていう時とは違って優しい声音でドキッてしたんだもん。焦ったんだ。たぶん、顔は真っ赤だろから、ここで少し涼んでから仕事に戻ろう。

 ドレスの生地はサラサラとしていて、どう見ても高級シルクだし、こんな高そうなものを下さるなんて騎士団は金持ちなのかな?

 騎士……あれ……、何かうっかりしたような…………


 あああああああ!

 肝心なフローラたちの行く末を聞き忘れた!

 しまったぁ。何と言ってフローラに謝ろう。アダムについて公爵から聞いてくると言って来たのになぁと頭を抱える。

 アダムのことを実は騎士だと言っていいのか、フローラに出会う前に、聞きにいかねば!

 すくっと立ち上がる。



 フローラに会わないようにと祈りながら職場に戻ると、玄関の方がとても騒がしい。

 途中、ゴードンに会って、「その箱はどうしたんだ?」と聞かれた。口元が心なしかニヤニヤしているように見える。


「ちょっと手伝ったことがあって、騎士団からのお礼の品だと、ドレスを頂いたの」


 と答えたのだけど、目を見開き衝撃を受けたような表情?

 騎士に戻るとでも思ったのかな。


「少し助言して必要な品物を準備してあげただけよ。騎士団に入るわけじゃないから、安心して」


 そうフォローした。

 何か言いたそうにしていたが、フローラに見つかってはいけないので、先を急ぐ。


 部屋にお礼の品を置いてから、まだ騒いでいる二階にある玄関のほうを一階の庭から廻って見上げる。

 そこにいたのは、大きな花束に埋もれているフローラらしきメイドの姿と正装のアダム。

 どうやらアダムは公爵にちゃんと許可をもらっていたのだろう。

 フローラにプロポーズに来たらしい。なぁんだ。

 自分がうっかりしたのを公爵のせいにして、公爵がちゃんと教えてくれないと思ったけど、アダムがここに来てるってことは、きっと家からもフローラの実家に釣書は出したのだろう。


 ちゃんとハッピーエンドだね。

 フローラおめでとう。そう思いながらそぉっと足音を立てないようにしてきた道を戻るマリーであった。

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